キャロットガール
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【やさしさの形】
あの日、どうやって時計塔に帰って来たのかよく覚えていない。
どうやってエリオットと別れてきたのかもわからない。
ただ気づいた時には布団にくるまっていた。
ユリウスが何か声をかけて来た気もするけれど、適当に返事をした。
エリオットがマフィアだったことも、なんだかケンカみたいになってしまったことも、突然キスをされたことも、全てが嘘みたいで現実感がない。
でも心はすごく重たくて、あれから数時間帯が経ったはずなのに、あの時のことばかりぐるぐると考えてはため息をついている。
何に悩んでいるのかもよくわからなくなってきた。
そして、今日も私は何をするでもなくぼんやりとしていた。
「はぁ……」
無意識のうちに出たため息だったけれど、どうやらさっきから何度目かのものだったらしい。
仕事をしていたユリウスからついにこう言われてしまった。
「名無しさん。お前さっきからなんなんだ。こっちまで気が滅入るからため息ばかりつくのはやめろ。落ち込むなら私のいない場所で落ち込んで来い」
さすがユリウス、という言葉。
でも彼の言う通りだと思った。
仕事をしている時はものすごく集中する彼が気になるほどなのだ。
きっと相当鬱陶しかったのだろう。
「……ごめん」
私は謝ると屋上に行くことにした。
「じゃあ、とりあえず上に行ってきます」
そう伝えてふらふらとドアに向かう私。
するとユリウスが「おい」と声をかける。
ゆっくりと振り返ると、眼鏡をかけた彼は怪訝な顔をして私を見ていた。
「何かあったのか?」
「え?」
「この間から様子がおかしい。お前がおかしいのはいつものことだが、普段うるさい奴が急に大人しくなると気味が悪い」
言い方はかなり毒混じりだったけれど、彼なりに心配してくれているらしい。
まっすぐに見つめてくる彼の瞳は、私の話を待っているようだった。
一気に気が緩んでしまった私。
「……エリオットってマフィアだったんだね」
「!」
「全然知らなかったからびっくりしちゃって、なんだかすごく変な関係になったというか、ぎこちなくなったというか……」
「あいつに何かされたのか?」
そう聞いてくるユリウスの目は真剣だった。
「別に……そういうことじゃなくて……」
口ごもりつつも否定する私を、ユリウスは疑いの目で見ている。
「私、マフィアなんて嫌だなって思ってたでしょ? でもエリオットはいい人だと思ってたから、全然信じられなくて……私、見る目がないね」
そう言ってまたため息をついてしまった。
するとユリウスも小さく息を吐いた。
「本当にな。名無しさんは見る目がない」
ずばりと言うなぁと思いつつも、やっぱりユリウスらしい言葉。
彼は眼鏡を外し、目のあたりを指で押さえながら続けた。
「ただのマフィアならまだしも、よりによってエリオット=マーチだからな」
「よりによって?」
どういう意味かと彼を見ると、ユリウスは黙り込んだ。どうやら答える気はないらしい。
「お前が奴とどうなろうが私には関係ないが、面倒事だけは持ち込まないでくれ」
「面倒事?」
あぁ、今まさに面倒事(というか恋愛相談になるのかしら?)を持ち込んでしまっている。
しかし、そういう意味ではなかったらしい。
「私はあいつに恨まれているからな。これ以上変な言いがかりをつけられたら迷惑だ」
「仲直りはできないの?」
ユリウスもエリオットも好きだから、2人が険悪な雰囲気だなんて悲しい。
しかしユリウスは私の言葉に顔をしかめた。
「仲直り?」
そう言って鼻で笑う。
「そういうことじゃない」
それ以上は何も言わないユリウスに、私も何も聞けなかった。
「とにかく、悩むなら私の見えない所で悩んでくれ。悩んだところであいつがマフィアなのは変わらないがな」
「!」
「お前は奴がマフィアだということを気にしているんだろう? 嫌なら拒否すればいいだけのことだ」
ずばりと核心を突かれたような気がした。
私は自分が何を問題にしていたのかもわからなくなりかけていたのに。
「この国の奴らは皆おかしい。マフィアに限らず、すぐに撃ったり切ったりする。城だろうが遊園地だろうがそれは変わらないぞ。
撃ったり切ったりするのが嫌だというなら、この世界の人間はお前には合わない。さっさと元の世界に帰ればいい」
「うわ、容赦ないね、ユリウス。合理的すぎるよ」
「一緒にぐだぐだ悩みたいなら他をあたってくれ」
本当にユリウスはぶれないなぁ。
それを言われると元も子もない、ということをバシッと言う。
でも彼の言葉はつまり、マフィアだとかそういうのはこの世界に限って言えばどうでもいい、という意味に思えた。
「ありがとう。なんだか少し気持ちが楽になった気がする」
「別に本当のことを言っただけだ」
「うん。だからありがとう」
「……ふん」
彼は眼鏡をかけなおすと、そのまま時計の修理を始めてしまった。
容赦ないくせに、ものすごく合理的に物事をを考えるくせに、こういう所はすごく不器用で憎めない。
「ちょっと上に行ってくるね」
さっきよりも明るい気持ちで屋上に上がることができそうだ。
「悲観して身投げなんてするなよ。迷惑だ」
視線を手元に落としたまま言うユリウス。
「しません!」
思わず笑いながらそう答えると、私は部屋を出た。
あの日、どうやって時計塔に帰って来たのかよく覚えていない。
どうやってエリオットと別れてきたのかもわからない。
ただ気づいた時には布団にくるまっていた。
ユリウスが何か声をかけて来た気もするけれど、適当に返事をした。
エリオットがマフィアだったことも、なんだかケンカみたいになってしまったことも、突然キスをされたことも、全てが嘘みたいで現実感がない。
でも心はすごく重たくて、あれから数時間帯が経ったはずなのに、あの時のことばかりぐるぐると考えてはため息をついている。
何に悩んでいるのかもよくわからなくなってきた。
そして、今日も私は何をするでもなくぼんやりとしていた。
「はぁ……」
無意識のうちに出たため息だったけれど、どうやらさっきから何度目かのものだったらしい。
仕事をしていたユリウスからついにこう言われてしまった。
「名無しさん。お前さっきからなんなんだ。こっちまで気が滅入るからため息ばかりつくのはやめろ。落ち込むなら私のいない場所で落ち込んで来い」
さすがユリウス、という言葉。
でも彼の言う通りだと思った。
仕事をしている時はものすごく集中する彼が気になるほどなのだ。
きっと相当鬱陶しかったのだろう。
「……ごめん」
私は謝ると屋上に行くことにした。
「じゃあ、とりあえず上に行ってきます」
そう伝えてふらふらとドアに向かう私。
するとユリウスが「おい」と声をかける。
ゆっくりと振り返ると、眼鏡をかけた彼は怪訝な顔をして私を見ていた。
「何かあったのか?」
「え?」
「この間から様子がおかしい。お前がおかしいのはいつものことだが、普段うるさい奴が急に大人しくなると気味が悪い」
言い方はかなり毒混じりだったけれど、彼なりに心配してくれているらしい。
まっすぐに見つめてくる彼の瞳は、私の話を待っているようだった。
一気に気が緩んでしまった私。
「……エリオットってマフィアだったんだね」
「!」
「全然知らなかったからびっくりしちゃって、なんだかすごく変な関係になったというか、ぎこちなくなったというか……」
「あいつに何かされたのか?」
そう聞いてくるユリウスの目は真剣だった。
「別に……そういうことじゃなくて……」
口ごもりつつも否定する私を、ユリウスは疑いの目で見ている。
「私、マフィアなんて嫌だなって思ってたでしょ? でもエリオットはいい人だと思ってたから、全然信じられなくて……私、見る目がないね」
そう言ってまたため息をついてしまった。
するとユリウスも小さく息を吐いた。
「本当にな。名無しさんは見る目がない」
ずばりと言うなぁと思いつつも、やっぱりユリウスらしい言葉。
彼は眼鏡を外し、目のあたりを指で押さえながら続けた。
「ただのマフィアならまだしも、よりによってエリオット=マーチだからな」
「よりによって?」
どういう意味かと彼を見ると、ユリウスは黙り込んだ。どうやら答える気はないらしい。
「お前が奴とどうなろうが私には関係ないが、面倒事だけは持ち込まないでくれ」
「面倒事?」
あぁ、今まさに面倒事(というか恋愛相談になるのかしら?)を持ち込んでしまっている。
しかし、そういう意味ではなかったらしい。
「私はあいつに恨まれているからな。これ以上変な言いがかりをつけられたら迷惑だ」
「仲直りはできないの?」
ユリウスもエリオットも好きだから、2人が険悪な雰囲気だなんて悲しい。
しかしユリウスは私の言葉に顔をしかめた。
「仲直り?」
そう言って鼻で笑う。
「そういうことじゃない」
それ以上は何も言わないユリウスに、私も何も聞けなかった。
「とにかく、悩むなら私の見えない所で悩んでくれ。悩んだところであいつがマフィアなのは変わらないがな」
「!」
「お前は奴がマフィアだということを気にしているんだろう? 嫌なら拒否すればいいだけのことだ」
ずばりと核心を突かれたような気がした。
私は自分が何を問題にしていたのかもわからなくなりかけていたのに。
「この国の奴らは皆おかしい。マフィアに限らず、すぐに撃ったり切ったりする。城だろうが遊園地だろうがそれは変わらないぞ。
撃ったり切ったりするのが嫌だというなら、この世界の人間はお前には合わない。さっさと元の世界に帰ればいい」
「うわ、容赦ないね、ユリウス。合理的すぎるよ」
「一緒にぐだぐだ悩みたいなら他をあたってくれ」
本当にユリウスはぶれないなぁ。
それを言われると元も子もない、ということをバシッと言う。
でも彼の言葉はつまり、マフィアだとかそういうのはこの世界に限って言えばどうでもいい、という意味に思えた。
「ありがとう。なんだか少し気持ちが楽になった気がする」
「別に本当のことを言っただけだ」
「うん。だからありがとう」
「……ふん」
彼は眼鏡をかけなおすと、そのまま時計の修理を始めてしまった。
容赦ないくせに、ものすごく合理的に物事をを考えるくせに、こういう所はすごく不器用で憎めない。
「ちょっと上に行ってくるね」
さっきよりも明るい気持ちで屋上に上がることができそうだ。
「悲観して身投げなんてするなよ。迷惑だ」
視線を手元に落としたまま言うユリウス。
「しません!」
思わず笑いながらそう答えると、私は部屋を出た。