キャロットガール
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【7.互いの素性】
帽子屋屋敷からダッシュで逃げてきた私は、時計塔に戻る気にもなれず、公園のベンチにまた一人座っていた。
夕日を浴びてそびえたつ時計塔はなんだか綺麗だった。
「……まさかエリオットがマフィアだったなんて」
でも、今にして思えば納得がいく。
彼が仕事でこの辺りに来ると言っていたことも、マフィアが最近いないなぁと思った時にはエリオットに会えなかったことも。
そして、ユリウスとエースが「にんじん好きの人」と私が会うことに良い顔をしなかったことも。
2人はきっと全部気づいていたのだろう。
「……あの時、時計塔に発砲してきたのがつまりエリオットってこと???」
信じられない。
あんなににんじん好きで、あんな風に明るく笑う彼がマフィアだなんて。
マフィアは最低だと思う。
でも、エリオットを最低だと思ったことはない。
むしろ彼に会いたいと思う自分がいたのだ。
それに知らなかったとはいえ、帽子屋屋敷の人々はけっこういい人達だったように思う。
ブラッドは紅茶のことを丁寧に教えてくれたし、双子の少年たちはすごく明るくて懐いてくれた。
彼らがあの帽子屋ファミリーだなんてやっぱり信じられない。
「……どうしよう。もう会いたくないなんて思えないよ」
彼らがそんなに危険な人達だなんて思えないのだ。
どうしたらいいんだろう?
もう会わない方がいいのかな?
ユリウスもエースも心配してくれているんだし、迷惑をかけたくない。
頭を押さえてため息をついた時だった。
「名無しさん!」
叫ぶように名前を呼ばれて、はっと顔を上げる。
エリオットが息を切らせてやってくるのが見えた。
その姿を見て、私はびくりと固まる。
さっき彼がここに現れた時とは違う意味で鼓動が跳ねた。
「エリオット……なんで?」
立ち上がる私。
エリオットは私の前までやってくると、大きく息を吸い込んで呼吸を整えた。
そして、まっすぐに私を見る。
「名無しさん、あんた時計塔に滞在してるのか?」
「え?」
「ブラッドは名無しさんが時計塔にいるんじゃないかって言うんだ。あんた、この近くに住んでるって言ってたよな? それってまさか本当に時計塔なのか?」
これまで見たことのないような厳しい表情でエリオットがそう言った。
「うん……そうだよ。私は時計塔に今滞在していて、ユリウスのお世話になっているの」
「!!」
ユリウスの名前を出した瞬間にエリオットの顔色が変わった。
その様子に「ユリウスを仕留める」という発言をさきほどエリオットがしていたことを思い出す私。
2人の間に何かあったのかもしれない。自分の失言に気づいたけれど、もう遅い。
エリオットがぐっと私の腕を掴んだ。
その力に怯む私だったけれど、彼は構わずにこう続けた。
「あんた、時計屋と一緒に住んでるっていうのか?」
「住まわせてもらっているの。行くところがどこにもなかったし、私が無理に頼み込んだの」
エリオットの迫力に怖くなったけれど、私は彼を見つめ返してはっきりと言った。
私の意志であの場所にいるのだ。ユリウスに迷惑はかけられない。
私がユリウスに頼み込んだということをしっかりと言っておいた方がいい。そう思ったのだ。
エリオットはしばらく私を見つめていた。
そして、「あー!!もうマジかよ!!」と言いながら頭をかきむしる。
「名無しさん、あんた騙されてるんだぜ? あいつは最悪な奴なんだ!!」
エリオットにそう言われて、私はむっとしてしまった。
「どうして? ユリウスはいい人だよ。仕事ばっかりで無愛想だけど、本当は優しいんだよ」
「だから騙されてるんだって! 人のことなんて考えもしない最低な奴だ!」
「どうしてそんなこと言うの? エリオットはいつも優しいのに、どうしてユリウスにそんな酷いこと言うの?」
「名無しさんこそなんであんな奴をかばうんだよ! 俺はあいつを絶対に許さねぇ」
エリオットは拳を握りしめて静かにそう言った。
その様子になにも言えなくなってしまう。
一体どうしてエリオットはここまでユリウスを嫌っているんだろう?
「名無しさんがあいつと一緒にいると思うと、余計に腹が立つ」
彼はそう言って、まっすぐに私を見据えた。
「名無しさん。屋敷に来いよ。あんな奴と一緒にいることなんてない」
「な、何言ってるの?なんでそうなるの?」
「俺があんたを気に入ってて、ユリウスの奴のことは嫌ってる。だからだ」
きっぱりと言い切ったエリオットに顔をしかめてしまった。
「おかしいでしょ。そんなの」
「おかしくなんてねぇよ。名無しさんがあいつのそばにいるなんて絶対に嫌だ」
「マフィアの屋敷になんて行けないよ」
「……なるほどね。だからあんた逃げるように帰ったわけだ」
エリオットはうなずきながらそう言った。
「マフィアだとわかったから、急によそよそしくなったのか」
「……エリオットのこと、いい人だと思ってたの。今でもマフィアだなんて信じられないくらいに」
言い訳に聞こえてしまうかもしれないけど、私は素直にそう言った。
すると、彼はふっと笑う。
「いい人、ね。残念だけど、俺はいい人なんかじゃねぇよ」
不敵な笑みを浮かべたエリオットは低い声でそう言って、今度はそっと私の腕を掴んだ。
どきりとしつつ、私は彼の手を振り払う。
「知らない!そんなこと言わないでよ。私はユリウスじゃなくて、エリオットに騙された気分だよ」
「騙してたつもりなんてねぇよ」
彼はぽつりとそう言った。
「俺だって騙された気分だぜ」
思わず彼を見つめる。
「あんたがユリウスの奴といるなんて、すげーショック」
……そんな傷ついた顔をしないでほしい。
彼の耳もほんの少し垂れ下がっている。
まるで私が悪いみたいじゃない。
「……私だって、エリオットがマフィアだったなんてすごいショック」
独り言のようにつぶやいたけれど、彼には聞こえていたらしく私を見つめてきた。
その視線にどうしようもない気分になり、彼から目を逸らしながらこう言った。
「優しいくせに……なんでよりによってマフィアなの」
自分の言葉になんだか泣きそうになる。
エリオットはそんな私の頬に手を伸ばした。
「名無しさん……」
「マフィアなんてだめだよ」
「……ごめんな」
エリオットにそう言われて、私はどうしていいのかよくわからなくなってしまった。
すると彼はふわりと私を抱きしめる。
「!」
「名無しさんがマフィアを嫌いでも、俺は今の自分を変えるつもりはねぇ。ブラッドに恩もある。だから悪いけど、こればっかりは譲れねぇよ」
彼の胸から直接声が響いてくる距離にドキドキしたけれど、言われているのは甘い話ではない。
「うん。でもね、私もユリウスにはすごくお世話になってるし、今の生活は大切にしたいの。譲れないよ」
優柔不断な私でもこればかりは譲れない。答えは決まっている。
エリオットも大切だけど、ユリウスのことも別の意味ですごく大切なのだ。
「なるほどね……お互いに今の現状を譲るつもりはねぇってことだな」
「……そうだね」
彼は私を抱きしめたままため息をついた。
もう会わない方がいい。
きっとそうなる。そう言われる。
せっかく近づけたと思ったのに。
このまま彼のことを好きになると思ったのに。
「名無しさん……俺あきらめの悪い方なんだ」
「え?」
「しかも、手に入れないと気が済まないタイプ」
何を言っているんだろうと思って彼を見上げると、ばちりと目が合った。
いつもみたいな優しい目でも、さっきみたいに怖い目でもない。
ただそっと見つめてくる目。でも、ものすごくどきりとした。
「エリオット?」
思わず声をかけると、彼は小さく笑った。
「手に入れないと気が済まないし、そのためなら手段は選ばない。あんたの嫌いなマフィアだからな」
エリオットはそっと私に顔を寄せる。
近づく距離にうまく反応できない。
「俺は譲る気ないから、覚悟しとけよ」
そう言って、彼は私にキスをした。
帽子屋屋敷からダッシュで逃げてきた私は、時計塔に戻る気にもなれず、公園のベンチにまた一人座っていた。
夕日を浴びてそびえたつ時計塔はなんだか綺麗だった。
「……まさかエリオットがマフィアだったなんて」
でも、今にして思えば納得がいく。
彼が仕事でこの辺りに来ると言っていたことも、マフィアが最近いないなぁと思った時にはエリオットに会えなかったことも。
そして、ユリウスとエースが「にんじん好きの人」と私が会うことに良い顔をしなかったことも。
2人はきっと全部気づいていたのだろう。
「……あの時、時計塔に発砲してきたのがつまりエリオットってこと???」
信じられない。
あんなににんじん好きで、あんな風に明るく笑う彼がマフィアだなんて。
マフィアは最低だと思う。
でも、エリオットを最低だと思ったことはない。
むしろ彼に会いたいと思う自分がいたのだ。
それに知らなかったとはいえ、帽子屋屋敷の人々はけっこういい人達だったように思う。
ブラッドは紅茶のことを丁寧に教えてくれたし、双子の少年たちはすごく明るくて懐いてくれた。
彼らがあの帽子屋ファミリーだなんてやっぱり信じられない。
「……どうしよう。もう会いたくないなんて思えないよ」
彼らがそんなに危険な人達だなんて思えないのだ。
どうしたらいいんだろう?
もう会わない方がいいのかな?
ユリウスもエースも心配してくれているんだし、迷惑をかけたくない。
頭を押さえてため息をついた時だった。
「名無しさん!」
叫ぶように名前を呼ばれて、はっと顔を上げる。
エリオットが息を切らせてやってくるのが見えた。
その姿を見て、私はびくりと固まる。
さっき彼がここに現れた時とは違う意味で鼓動が跳ねた。
「エリオット……なんで?」
立ち上がる私。
エリオットは私の前までやってくると、大きく息を吸い込んで呼吸を整えた。
そして、まっすぐに私を見る。
「名無しさん、あんた時計塔に滞在してるのか?」
「え?」
「ブラッドは名無しさんが時計塔にいるんじゃないかって言うんだ。あんた、この近くに住んでるって言ってたよな? それってまさか本当に時計塔なのか?」
これまで見たことのないような厳しい表情でエリオットがそう言った。
「うん……そうだよ。私は時計塔に今滞在していて、ユリウスのお世話になっているの」
「!!」
ユリウスの名前を出した瞬間にエリオットの顔色が変わった。
その様子に「ユリウスを仕留める」という発言をさきほどエリオットがしていたことを思い出す私。
2人の間に何かあったのかもしれない。自分の失言に気づいたけれど、もう遅い。
エリオットがぐっと私の腕を掴んだ。
その力に怯む私だったけれど、彼は構わずにこう続けた。
「あんた、時計屋と一緒に住んでるっていうのか?」
「住まわせてもらっているの。行くところがどこにもなかったし、私が無理に頼み込んだの」
エリオットの迫力に怖くなったけれど、私は彼を見つめ返してはっきりと言った。
私の意志であの場所にいるのだ。ユリウスに迷惑はかけられない。
私がユリウスに頼み込んだということをしっかりと言っておいた方がいい。そう思ったのだ。
エリオットはしばらく私を見つめていた。
そして、「あー!!もうマジかよ!!」と言いながら頭をかきむしる。
「名無しさん、あんた騙されてるんだぜ? あいつは最悪な奴なんだ!!」
エリオットにそう言われて、私はむっとしてしまった。
「どうして? ユリウスはいい人だよ。仕事ばっかりで無愛想だけど、本当は優しいんだよ」
「だから騙されてるんだって! 人のことなんて考えもしない最低な奴だ!」
「どうしてそんなこと言うの? エリオットはいつも優しいのに、どうしてユリウスにそんな酷いこと言うの?」
「名無しさんこそなんであんな奴をかばうんだよ! 俺はあいつを絶対に許さねぇ」
エリオットは拳を握りしめて静かにそう言った。
その様子になにも言えなくなってしまう。
一体どうしてエリオットはここまでユリウスを嫌っているんだろう?
「名無しさんがあいつと一緒にいると思うと、余計に腹が立つ」
彼はそう言って、まっすぐに私を見据えた。
「名無しさん。屋敷に来いよ。あんな奴と一緒にいることなんてない」
「な、何言ってるの?なんでそうなるの?」
「俺があんたを気に入ってて、ユリウスの奴のことは嫌ってる。だからだ」
きっぱりと言い切ったエリオットに顔をしかめてしまった。
「おかしいでしょ。そんなの」
「おかしくなんてねぇよ。名無しさんがあいつのそばにいるなんて絶対に嫌だ」
「マフィアの屋敷になんて行けないよ」
「……なるほどね。だからあんた逃げるように帰ったわけだ」
エリオットはうなずきながらそう言った。
「マフィアだとわかったから、急によそよそしくなったのか」
「……エリオットのこと、いい人だと思ってたの。今でもマフィアだなんて信じられないくらいに」
言い訳に聞こえてしまうかもしれないけど、私は素直にそう言った。
すると、彼はふっと笑う。
「いい人、ね。残念だけど、俺はいい人なんかじゃねぇよ」
不敵な笑みを浮かべたエリオットは低い声でそう言って、今度はそっと私の腕を掴んだ。
どきりとしつつ、私は彼の手を振り払う。
「知らない!そんなこと言わないでよ。私はユリウスじゃなくて、エリオットに騙された気分だよ」
「騙してたつもりなんてねぇよ」
彼はぽつりとそう言った。
「俺だって騙された気分だぜ」
思わず彼を見つめる。
「あんたがユリウスの奴といるなんて、すげーショック」
……そんな傷ついた顔をしないでほしい。
彼の耳もほんの少し垂れ下がっている。
まるで私が悪いみたいじゃない。
「……私だって、エリオットがマフィアだったなんてすごいショック」
独り言のようにつぶやいたけれど、彼には聞こえていたらしく私を見つめてきた。
その視線にどうしようもない気分になり、彼から目を逸らしながらこう言った。
「優しいくせに……なんでよりによってマフィアなの」
自分の言葉になんだか泣きそうになる。
エリオットはそんな私の頬に手を伸ばした。
「名無しさん……」
「マフィアなんてだめだよ」
「……ごめんな」
エリオットにそう言われて、私はどうしていいのかよくわからなくなってしまった。
すると彼はふわりと私を抱きしめる。
「!」
「名無しさんがマフィアを嫌いでも、俺は今の自分を変えるつもりはねぇ。ブラッドに恩もある。だから悪いけど、こればっかりは譲れねぇよ」
彼の胸から直接声が響いてくる距離にドキドキしたけれど、言われているのは甘い話ではない。
「うん。でもね、私もユリウスにはすごくお世話になってるし、今の生活は大切にしたいの。譲れないよ」
優柔不断な私でもこればかりは譲れない。答えは決まっている。
エリオットも大切だけど、ユリウスのことも別の意味ですごく大切なのだ。
「なるほどね……お互いに今の現状を譲るつもりはねぇってことだな」
「……そうだね」
彼は私を抱きしめたままため息をついた。
もう会わない方がいい。
きっとそうなる。そう言われる。
せっかく近づけたと思ったのに。
このまま彼のことを好きになると思ったのに。
「名無しさん……俺あきらめの悪い方なんだ」
「え?」
「しかも、手に入れないと気が済まないタイプ」
何を言っているんだろうと思って彼を見上げると、ばちりと目が合った。
いつもみたいな優しい目でも、さっきみたいに怖い目でもない。
ただそっと見つめてくる目。でも、ものすごくどきりとした。
「エリオット?」
思わず声をかけると、彼は小さく笑った。
「手に入れないと気が済まないし、そのためなら手段は選ばない。あんたの嫌いなマフィアだからな」
エリオットはそっと私に顔を寄せる。
近づく距離にうまく反応できない。
「俺は譲る気ないから、覚悟しとけよ」
そう言って、彼は私にキスをした。