短編3
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【みつめる】
友人の部屋に本を借りにやってきた私。
おおきな本棚の前でどれにしようかと悩んでいたら、部屋の主であるブラッドが隣りにやってきた。
おすすめの本をいくつか取り出してくれる彼。
いつもはだるだるなブラッドだけれど、本を選んでいる時の彼はわりとしゃんとしている。
私は本を選んでいる時のブラッドの横顔が結構好きだ。
いつもそういうきりっとした顔をしていればいいのに。
こっそりとそう思いながらブラッドを盗み見ていたら、彼がふっと私を見た。
「……お嬢さん、言いたいことがあるならはっきりと言ってほしいのだがね」
顔をしかめながらブラッドが私にそう言った。
しかめた顔をしていても、この人はなんだか優雅だなぁ。
そう思いながら、私は無言のままひたすら彼の顔を見つめる。
「……」
「……」
居心地悪そうに視線を無理やり私から逸らすブラッド。
それをひたすら見つめる私。
「……」
「……」
あー、やっぱりブラッドってこういう風に見つめられるのが好きじゃないんだなー。
意外と動揺してる感じがおもしろいなー。
なんだか楽しくなってきた私は、じぃっと彼を見つめ続ける。
「名無しさん……、いい加減にしてくれ。なんなんだ」
ブラッドはさっきよりもやや強い口調でそう言って私を見据えた。
あ、ちょっといらっとしてるんだろうなぁ。
そう感じたので、私は口を開く。
「なんでもないの。見てただけ」
私の言葉は予想外だったらしい。
彼は一瞬動きを止めた。
数秒間私をじぃっと見つめると、大きくため息をつく。
「新たな嫌がらせだな、名無しさん」
ブラッドは私に本を数冊どすんと持たせながらそう言った。
新たなっていうか、これまでブラッドに嫌がらせなんてしたことないけど。
「嫌がらせじゃないよー。見惚れてました」
持たされた本を抱きかかえて答えると、ブラッドはジト目で私を見る。
「……よく言う」
呆れたようにブラッドは私から視線を逸らす。
どうやら本気に受け取ってはいないらしい。
私としては半分本気なんだけど。
「ブラッドは見つめられるのが嫌なんだね。慣れてそうなのに」
そう言いながら、ふふっと思わず笑ってしまった。
すると、彼は呆れたようにため息をついてから私を見る。
「恋人ならともかく、この距離で私をじろじろと見る人間はそういないよ、お嬢さん」
すぐ隣に立つブラッドがそう言った。
確かにそうかもしれない。
彼は泣く子も黙る帽子屋ファミリーのボスだ。
普通の人は遠巻きに眺めるだけだろう。
目が合ったら撃たれるんじゃないか、と思っている人も少なからずいそうだ。
そこまで考えた私ははっと気づいてブラッドから距離をとる。
「あ、ごめんね、恋人が嫌がるよね」
誰だか知らないけどごめんなさい。別にブラッドがどうとかこうとかではなかったんだけど、うっかり見つめてしまいました。
「恋人なんて今はいない」
私が離れた分の距離をとくに詰めることもなく、ブラッドはあっさりと言った。
「ふぅん、そうなんだ。意外~」
ん?
ということは、もしかすると恋人でもないのにこの距離でブラッドを見ている私って結構ラッキーなのかもしれない。
彼の端正な顔を見ながらのんきに考えていたら、ブラッドとばっちり目が合った。
……ほんとに顔だけはいいよね。何が問題なんだろう?性格?
うーむと首をひねっていたら、ブラッドが楽しそうな笑みを向ける。
「名無しさん、せっかくだからもっとそばに来てもいいぞ」
先ほどの距離を詰めながら彼は私を引き寄せる。
肩に腕をまわされ、ブラッドの顔がぐんと近くなった。
「君は特別だ、名無しさん」
目の前で妖艶に笑うブラッドは、やっぱりものすごく端正な顔をしていて、私は息を飲んだ。
深い色の目に見つめられて、抱きかかえた本を持つ手に力が入る。
「名無しさんこそ見つめられるのは苦手なようだね」
彼は口元に笑みを浮かべながら、思考が停止している私にそう言った。
これは、なんだか変な空気になってきたような気が……
「怯えなくても悪いようにはしないよ、お嬢さん」
ブラッドは更に顔を寄せてくる。
ドキドキしすぎてなにをする気なのだと言うことすらできない。
逃げようのない状況に頭が真っ白になる。
瞳を伏せたブラッドの長いまつ毛を見た瞬間、私の体がぱっと動いた。
「!?」
驚いたらしいブラッドが息を飲むのがわかった。
私は持っていた本を壁のようにして、ブラッドの顔の前に差し出していたのだ。
「……ご、ごめん。ブラッド」
赤いハードカバーの本の向こう側のブラッドに声をかける。
彼の表情は見えないけれど、私の肩を掴む彼の手が先ほどよりも重く感じた。
「これはあんまりじゃないか、名無しさん?」
静かな調子でそう言いながら、ブラッドは私が差し出した赤い本を掴んで下におろす。
苦笑とも、怒りともとれるような、何とも言えない顔をしているブラッド。
「そちらから誘っておいてこんな仕打ちを受けるとは思わなかったよ」
「は!? 誘うって……」
思わぬ言葉に驚いていると、ブラッドはじろりと私を睨んできた。
「あんなに見つめてきたんだ。誘いじゃないならなんなんだ」
「ただ見てただけだよ!」
「その気がないのに見てたとでもいうのか。納得いかないな」
大袈裟なため息をついて見せるブラッドに、私は「なに言ってるんだこの人」という思いでいっぱいになる。
「見てたから誘っているとは限らないでしょう。即物的すぎるよブラッド!」
「当り前だろう、男と女なんだ」
「!?」
お、男と女!?
そんな所まで発展しちゃうの!? ただ眺めてただけで!?
唖然とする私に、ブラッドは不満そうな顔を向ける。
「名無しさん、君は何もわかってないな」
そう言って彼は私の手から本を取り上げる。
「男女のきっかけなんて単純なものだよ。見つめたっていいし、触れたっていい。なんだっていいんだ」
「……そうかもしれないけど、私達別に恋人でもなんでもないでしょ」
見つめあったからって、友達にキスをしようとするなんておかしいよね?
「それじゃあ恋人になるきっかけを今から作ろうか」
彼はそう言いながら、再度私に顔を寄せる。
さっきよりも真剣な眼差しに、私の鼓動はどくどくとものすごい勢いで跳ねている。
本を取り上げられたのでガードすることもできない。
「見つめてくれる程度には私を気に入ってくれているんだろう? それなら問題はないはずだよ」
ドキドキしすぎて反論もできず、動くこともできない。
ブラッドはそんな私を見てくすりと笑うと、そっとキスをした。
恋人になるためにキスをするなんて、順序がおかしい。めちゃくちゃだ。
そう思っているのに拒否できないのは、めちゃくちゃなことを言っているはずの彼のキスが優しいせいだ。
友人の部屋に本を借りにやってきた私。
おおきな本棚の前でどれにしようかと悩んでいたら、部屋の主であるブラッドが隣りにやってきた。
おすすめの本をいくつか取り出してくれる彼。
いつもはだるだるなブラッドだけれど、本を選んでいる時の彼はわりとしゃんとしている。
私は本を選んでいる時のブラッドの横顔が結構好きだ。
いつもそういうきりっとした顔をしていればいいのに。
こっそりとそう思いながらブラッドを盗み見ていたら、彼がふっと私を見た。
「……お嬢さん、言いたいことがあるならはっきりと言ってほしいのだがね」
顔をしかめながらブラッドが私にそう言った。
しかめた顔をしていても、この人はなんだか優雅だなぁ。
そう思いながら、私は無言のままひたすら彼の顔を見つめる。
「……」
「……」
居心地悪そうに視線を無理やり私から逸らすブラッド。
それをひたすら見つめる私。
「……」
「……」
あー、やっぱりブラッドってこういう風に見つめられるのが好きじゃないんだなー。
意外と動揺してる感じがおもしろいなー。
なんだか楽しくなってきた私は、じぃっと彼を見つめ続ける。
「名無しさん……、いい加減にしてくれ。なんなんだ」
ブラッドはさっきよりもやや強い口調でそう言って私を見据えた。
あ、ちょっといらっとしてるんだろうなぁ。
そう感じたので、私は口を開く。
「なんでもないの。見てただけ」
私の言葉は予想外だったらしい。
彼は一瞬動きを止めた。
数秒間私をじぃっと見つめると、大きくため息をつく。
「新たな嫌がらせだな、名無しさん」
ブラッドは私に本を数冊どすんと持たせながらそう言った。
新たなっていうか、これまでブラッドに嫌がらせなんてしたことないけど。
「嫌がらせじゃないよー。見惚れてました」
持たされた本を抱きかかえて答えると、ブラッドはジト目で私を見る。
「……よく言う」
呆れたようにブラッドは私から視線を逸らす。
どうやら本気に受け取ってはいないらしい。
私としては半分本気なんだけど。
「ブラッドは見つめられるのが嫌なんだね。慣れてそうなのに」
そう言いながら、ふふっと思わず笑ってしまった。
すると、彼は呆れたようにため息をついてから私を見る。
「恋人ならともかく、この距離で私をじろじろと見る人間はそういないよ、お嬢さん」
すぐ隣に立つブラッドがそう言った。
確かにそうかもしれない。
彼は泣く子も黙る帽子屋ファミリーのボスだ。
普通の人は遠巻きに眺めるだけだろう。
目が合ったら撃たれるんじゃないか、と思っている人も少なからずいそうだ。
そこまで考えた私ははっと気づいてブラッドから距離をとる。
「あ、ごめんね、恋人が嫌がるよね」
誰だか知らないけどごめんなさい。別にブラッドがどうとかこうとかではなかったんだけど、うっかり見つめてしまいました。
「恋人なんて今はいない」
私が離れた分の距離をとくに詰めることもなく、ブラッドはあっさりと言った。
「ふぅん、そうなんだ。意外~」
ん?
ということは、もしかすると恋人でもないのにこの距離でブラッドを見ている私って結構ラッキーなのかもしれない。
彼の端正な顔を見ながらのんきに考えていたら、ブラッドとばっちり目が合った。
……ほんとに顔だけはいいよね。何が問題なんだろう?性格?
うーむと首をひねっていたら、ブラッドが楽しそうな笑みを向ける。
「名無しさん、せっかくだからもっとそばに来てもいいぞ」
先ほどの距離を詰めながら彼は私を引き寄せる。
肩に腕をまわされ、ブラッドの顔がぐんと近くなった。
「君は特別だ、名無しさん」
目の前で妖艶に笑うブラッドは、やっぱりものすごく端正な顔をしていて、私は息を飲んだ。
深い色の目に見つめられて、抱きかかえた本を持つ手に力が入る。
「名無しさんこそ見つめられるのは苦手なようだね」
彼は口元に笑みを浮かべながら、思考が停止している私にそう言った。
これは、なんだか変な空気になってきたような気が……
「怯えなくても悪いようにはしないよ、お嬢さん」
ブラッドは更に顔を寄せてくる。
ドキドキしすぎてなにをする気なのだと言うことすらできない。
逃げようのない状況に頭が真っ白になる。
瞳を伏せたブラッドの長いまつ毛を見た瞬間、私の体がぱっと動いた。
「!?」
驚いたらしいブラッドが息を飲むのがわかった。
私は持っていた本を壁のようにして、ブラッドの顔の前に差し出していたのだ。
「……ご、ごめん。ブラッド」
赤いハードカバーの本の向こう側のブラッドに声をかける。
彼の表情は見えないけれど、私の肩を掴む彼の手が先ほどよりも重く感じた。
「これはあんまりじゃないか、名無しさん?」
静かな調子でそう言いながら、ブラッドは私が差し出した赤い本を掴んで下におろす。
苦笑とも、怒りともとれるような、何とも言えない顔をしているブラッド。
「そちらから誘っておいてこんな仕打ちを受けるとは思わなかったよ」
「は!? 誘うって……」
思わぬ言葉に驚いていると、ブラッドはじろりと私を睨んできた。
「あんなに見つめてきたんだ。誘いじゃないならなんなんだ」
「ただ見てただけだよ!」
「その気がないのに見てたとでもいうのか。納得いかないな」
大袈裟なため息をついて見せるブラッドに、私は「なに言ってるんだこの人」という思いでいっぱいになる。
「見てたから誘っているとは限らないでしょう。即物的すぎるよブラッド!」
「当り前だろう、男と女なんだ」
「!?」
お、男と女!?
そんな所まで発展しちゃうの!? ただ眺めてただけで!?
唖然とする私に、ブラッドは不満そうな顔を向ける。
「名無しさん、君は何もわかってないな」
そう言って彼は私の手から本を取り上げる。
「男女のきっかけなんて単純なものだよ。見つめたっていいし、触れたっていい。なんだっていいんだ」
「……そうかもしれないけど、私達別に恋人でもなんでもないでしょ」
見つめあったからって、友達にキスをしようとするなんておかしいよね?
「それじゃあ恋人になるきっかけを今から作ろうか」
彼はそう言いながら、再度私に顔を寄せる。
さっきよりも真剣な眼差しに、私の鼓動はどくどくとものすごい勢いで跳ねている。
本を取り上げられたのでガードすることもできない。
「見つめてくれる程度には私を気に入ってくれているんだろう? それなら問題はないはずだよ」
ドキドキしすぎて反論もできず、動くこともできない。
ブラッドはそんな私を見てくすりと笑うと、そっとキスをした。
恋人になるためにキスをするなんて、順序がおかしい。めちゃくちゃだ。
そう思っているのに拒否できないのは、めちゃくちゃなことを言っているはずの彼のキスが優しいせいだ。
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