短編2
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【髪の毛】
ある夜の時計塔。
「すんごいな、これは」
「名無しさん、女がそんな言い方をするんじゃない」
「……失礼しました」
眉間にしわを寄せるユリウスに謝っておきつつ、あぁ、この人は『女性』に夢を抱いているタイプかもしれない、なんて思ってみたりする。
その割に私なんかを選んでしまっている辺り、現実をしっかりと見ているタイプでもあるなぁと思う。
「で? なにがそんなに『すんごい』んだ?」
「ユリウスの髪の毛。うるっうるのツヤッツヤ! ちょっと触ってみてもいい?」
「断る」
「え~、つれない返事だなぁ」
そう言いつつ私は遠慮なくユリウスの髪の毛に触れてみた。
そしてその手触りに驚愕した。
「わ!? なにこれ!?」
「おい名無しさん、私は今断ったんだぞ。触るな」
呆れたような非難の声がしたけれど、そんなのは無視する。
大人で、しかも男性でこんな髪の毛とかありえるの?
さらさらすぎて、頬ずりしたいくらい気持ちいいんですけど!(本気で怒られるからしないけど)
「ユリウス、なに食べてんの?」
「お前と同じものだ」
「だよねぇ。むしろ私のがモリモリ食べてるよねぇ」
彼はろくに寝てないし、珈琲ばっかり飲んでるし、日の光も浴びてないし、運動だってたぶんしていない。
不健康極まりない生活をしているユリウスなのに、どうしてこんなにも髪の毛がきれいなんですか!?
確かゲームのアリスも、ユリウスの髪の毛を褒めまくっていた気がする。
「そうか、紫外線だ! 引きこもってばかりだから紫外線から髪を守ることができるんだ」
「それは嫌味か」
はっとして息を飲んだ私に、ユリウスはジト目でにらんできたが、どうやら私の相手をするのも時間の無駄だと思ったらしい。
さっさと時計の修理を始めた。
「なんで髪の毛伸ばしてるの? 長いのが好きなの? あ、単に切るのが面倒とか、切りに行く時間がないとか?」
ユリウスの背後に座った私は、彼の髪の毛を梳きながら思ったことを口に出す。
しかし、彼は全く反応せずひたすら時計を修理している。
私はユリウスが何も言わないのをいいことに、彼の髪の毛を三つ編みにしてみたり、枝毛を探してみたりする。
「短髪ユリウスってどうだろうなぁ。結構いい気もするけど……でも長いからこそのユリウスだよね。長い方がこう根暗感があるっていうかさ」
あ、これ一応褒め言葉ねと言うと、ユリウスはそこで手を止めてものすごーく深いため息をついた。
怒っちゃったかな?とその後姿を見ていると、彼は私を睨みつけてから、工具を持った手で自分の髪の毛を掴む。そしてそのまま自分の肩にかけて前へと持って行ってしまった。
……彼なりの反抗らしい。無言の抵抗。
「ちぇっ。ケチ」
思わずつぶやくが、完全に無視された。
「髪の毛くらい触ったっていいのにさ」
とぶつぶつ文句を言っていると、彼はやっと振り返って私を見た。
「お前はさっきからぶつぶつとうるさい奴だな。人の髪の毛なんてどうだっていいだろう」
ユリウスは至極まともな意見を述べた。
「そうかもしれないけど、気になるんだもん。触りたいんだもん」
「エースかお前は。気になるから触るだなんてどう考えても理性的じゃないぞ」
「それってエースに失礼だよね」
「じゃあお前はエースが常に理性的な行動を取っているとでもいうのか?」
「……そうだね。エースはちょっとアレだよね」
笑顔でやりたい放題のエースを思い出して、私はユリウスに同意する。
「とにかく名無しさんが理性を持ち合わせていると言うなら、仕事中の人間の髪の毛など触るな」
「えー、ケチ。ユリウスの髪の毛は私の理性を揺さぶるんだよー」
だって、すっごい綺麗なんだもん。
と言ったらものすごく変な顔をされた。
そしてユリウスは深いため息をつく。
「はぁ……」
「……な、なんですか?」
「お前が何を考えているんだか、全然わからない」
「え、なんでよ?」
「どんな誘い文句なんだ、それは」
「さ、誘い文句?」
そんなすごいことを言っているつもりなんてまるでないのですが。
「……こっちがその気になったらどうするんだ」
「はい?」
思わぬ言葉に首を傾げると、彼はくるりと椅子を回して私を振り返った。
そして、手を伸ばすと私の髪の毛に触れる。
びっくりする私をユリウスはじっと見つめる。
「ゆ、ユリウス?」
彼は私の髪の毛を優しく梳く。
ドキドキして仕方ない私だったけれど、頭をなでられているような感覚になんとなく安心する。
「名無しさん」
不意に名前を呼ばれて、彼を見る。
ユリウスは静かに言った。
「髪の毛に触れるというのは、特別なことだと思わないか?」
「……そうかもしれない」
触れるのも触れられるのも、ものすごくドキドキする。
もっと触れたくなるし、もっと近づきたくなる。
今さらながらユリウスの言っている意味が分かった。
「だから困るんだ。私は今仕事をしている」
子どもに言い聞かせるようにそう言ったユリウス。
優しいこの人を、私は困らせたくなってしまう。悪い癖だとわかっているけれど。
「でも、どうせ終わりのない仕事なんでしょう?」
そう言って彼の手に触れる。
すると彼は一瞬驚いたような表情をしたけれど、すぐにふっと笑った。
「……本当に困った奴だな」
彼はそう言って私の手を取ると、そっと私を引き寄せた。
ある夜の時計塔。
「すんごいな、これは」
「名無しさん、女がそんな言い方をするんじゃない」
「……失礼しました」
眉間にしわを寄せるユリウスに謝っておきつつ、あぁ、この人は『女性』に夢を抱いているタイプかもしれない、なんて思ってみたりする。
その割に私なんかを選んでしまっている辺り、現実をしっかりと見ているタイプでもあるなぁと思う。
「で? なにがそんなに『すんごい』んだ?」
「ユリウスの髪の毛。うるっうるのツヤッツヤ! ちょっと触ってみてもいい?」
「断る」
「え~、つれない返事だなぁ」
そう言いつつ私は遠慮なくユリウスの髪の毛に触れてみた。
そしてその手触りに驚愕した。
「わ!? なにこれ!?」
「おい名無しさん、私は今断ったんだぞ。触るな」
呆れたような非難の声がしたけれど、そんなのは無視する。
大人で、しかも男性でこんな髪の毛とかありえるの?
さらさらすぎて、頬ずりしたいくらい気持ちいいんですけど!(本気で怒られるからしないけど)
「ユリウス、なに食べてんの?」
「お前と同じものだ」
「だよねぇ。むしろ私のがモリモリ食べてるよねぇ」
彼はろくに寝てないし、珈琲ばっかり飲んでるし、日の光も浴びてないし、運動だってたぶんしていない。
不健康極まりない生活をしているユリウスなのに、どうしてこんなにも髪の毛がきれいなんですか!?
確かゲームのアリスも、ユリウスの髪の毛を褒めまくっていた気がする。
「そうか、紫外線だ! 引きこもってばかりだから紫外線から髪を守ることができるんだ」
「それは嫌味か」
はっとして息を飲んだ私に、ユリウスはジト目でにらんできたが、どうやら私の相手をするのも時間の無駄だと思ったらしい。
さっさと時計の修理を始めた。
「なんで髪の毛伸ばしてるの? 長いのが好きなの? あ、単に切るのが面倒とか、切りに行く時間がないとか?」
ユリウスの背後に座った私は、彼の髪の毛を梳きながら思ったことを口に出す。
しかし、彼は全く反応せずひたすら時計を修理している。
私はユリウスが何も言わないのをいいことに、彼の髪の毛を三つ編みにしてみたり、枝毛を探してみたりする。
「短髪ユリウスってどうだろうなぁ。結構いい気もするけど……でも長いからこそのユリウスだよね。長い方がこう根暗感があるっていうかさ」
あ、これ一応褒め言葉ねと言うと、ユリウスはそこで手を止めてものすごーく深いため息をついた。
怒っちゃったかな?とその後姿を見ていると、彼は私を睨みつけてから、工具を持った手で自分の髪の毛を掴む。そしてそのまま自分の肩にかけて前へと持って行ってしまった。
……彼なりの反抗らしい。無言の抵抗。
「ちぇっ。ケチ」
思わずつぶやくが、完全に無視された。
「髪の毛くらい触ったっていいのにさ」
とぶつぶつ文句を言っていると、彼はやっと振り返って私を見た。
「お前はさっきからぶつぶつとうるさい奴だな。人の髪の毛なんてどうだっていいだろう」
ユリウスは至極まともな意見を述べた。
「そうかもしれないけど、気になるんだもん。触りたいんだもん」
「エースかお前は。気になるから触るだなんてどう考えても理性的じゃないぞ」
「それってエースに失礼だよね」
「じゃあお前はエースが常に理性的な行動を取っているとでもいうのか?」
「……そうだね。エースはちょっとアレだよね」
笑顔でやりたい放題のエースを思い出して、私はユリウスに同意する。
「とにかく名無しさんが理性を持ち合わせていると言うなら、仕事中の人間の髪の毛など触るな」
「えー、ケチ。ユリウスの髪の毛は私の理性を揺さぶるんだよー」
だって、すっごい綺麗なんだもん。
と言ったらものすごく変な顔をされた。
そしてユリウスは深いため息をつく。
「はぁ……」
「……な、なんですか?」
「お前が何を考えているんだか、全然わからない」
「え、なんでよ?」
「どんな誘い文句なんだ、それは」
「さ、誘い文句?」
そんなすごいことを言っているつもりなんてまるでないのですが。
「……こっちがその気になったらどうするんだ」
「はい?」
思わぬ言葉に首を傾げると、彼はくるりと椅子を回して私を振り返った。
そして、手を伸ばすと私の髪の毛に触れる。
びっくりする私をユリウスはじっと見つめる。
「ゆ、ユリウス?」
彼は私の髪の毛を優しく梳く。
ドキドキして仕方ない私だったけれど、頭をなでられているような感覚になんとなく安心する。
「名無しさん」
不意に名前を呼ばれて、彼を見る。
ユリウスは静かに言った。
「髪の毛に触れるというのは、特別なことだと思わないか?」
「……そうかもしれない」
触れるのも触れられるのも、ものすごくドキドキする。
もっと触れたくなるし、もっと近づきたくなる。
今さらながらユリウスの言っている意味が分かった。
「だから困るんだ。私は今仕事をしている」
子どもに言い聞かせるようにそう言ったユリウス。
優しいこの人を、私は困らせたくなってしまう。悪い癖だとわかっているけれど。
「でも、どうせ終わりのない仕事なんでしょう?」
そう言って彼の手に触れる。
すると彼は一瞬驚いたような表情をしたけれど、すぐにふっと笑った。
「……本当に困った奴だな」
彼はそう言って私の手を取ると、そっと私を引き寄せた。