短編2

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余所者で普通の女の子が夢主です
夢主のお名前は?

  【安全な遊び】


森を歩いていたら、赤と青の少年たちを発見。
座り込んで何かをしている彼らは、ものすごーく何かに熱中しているらしい。
きっとロクなことはしていない。
そう思いつつも私は声をかけた。

「何してるの?」

あまりにも熱中している彼らに、私は挨拶もなしでいきなり疑問をぶつけた。
彼らは、ぱっと顔を上げて私を見ると嬉しそうに笑う。

「あ! 名無しさんだー!」

そういうが早いか、彼らは私に飛びついてきた。

「……お、重い重い!!」

しりもちをついてしまい押しのけようとするが、彼らはそりゃもう素晴らしい力で離れない。
ぎゅうぎゅう抱きついてくる2人は、すごく嬉しそうな声だ。

「まさかこんな所で名無しさんに会えるなんて思わなかったよ」
「うんうん、今日はいい日だね。僕らね、今すっごく楽しいことしてたんだよ」
「楽しいこと?」

私が聞き返すと、ディーとダムは顔を見合わせてすっと私から離れた。
そして誇らしげにこの言葉。

「僕たちね、絵をかいていたんだよ」
「絵? ってお絵かきってこと?」
「やだなぁ名無しさん、お絵かきなんて子供っぽい言い方。絵を描いていたんだよ」

いつもは子どもだ子どもだとアピールするくせにね、と思いつつ黙っておいた。
見ると確かにスケッチブックが転がっている。
珍しく健全な遊びをしていたらしい。

「ほんとに絵を描いてたんだ?」
「楽しいよ! 名無しさんも描く?」
「いや、私絵は描けないからいいよ。それよりもあなた達の絵を見てみたい」

双子は嬉しそうにうなずくと、スケッチブックを手渡してきた。
私はそれを受け取ると、表紙を見つめる。ごく普通のスケッチブック。

「危険じゃない遊びもできるんだねー」
「そりゃそうだよ。僕たち、いい子だもん」

どんな絵を描くんだろうこの子たち。
まぁ、どんな絵でも物騒な遊びよりは全然いい。
そう思いながらページを開いて私は愕然とした。

「……な、なに? これは」
「ん? 何って絵だよ。絵!」
「そうそう。まぁ、設計図と言った方がいいかもしれないけどね」
「設計図……って一応聞くけど、何の?」

その絵を見て予想はついたが、念のため尋ねてみた。

「落とし穴」

あぁ、やっぱり。
すっごく嬉しそうに答えたディー。ダムもにこにこしている。

「……落とし穴」

彼らの言葉を繰り返し、私はごくりと息を飲んだ。
設計図と言った方がいい、と言った彼らの言葉通りそれは落とし穴の設計図だった。
横からみた図、とでもいえばいいのだろうか?
一番下がギザギザになっていて、他にも何かとがった棒やらよくわからないものがたくさん描き込まれている。
『小型ナイフ30本』とか『ギロチンみたいなもの3つ』とか
物騒な言葉が矢印で落とし穴に付け足されてもいる。(そんな情報知りたくもない)

「どう? 我ながら、なかなか上手くかけたんじゃないかなと思うんだけど」
「うんうん、すごく上手くかけているよ兄弟。でも、ここの角度をもっと広げるとよくなると思うな」
「え? あ、そうかもしれないね。じゃあ修正しよう」

私の横から彼らはあーだこーだと意見を交わしていた。
名無しさん、ちょっと描きなおすから貸して。
ディーがそう言って私の手からスケッチブックを持っていこうとした。
私はそれを反射的に振り切る。

「だめ」
「え?」
「こんな危ない物描いちゃだめ!」
「え? 危なくないよ。設計図だもん」
「そうだよ。設計図だよ。ただ描いているだけ」
「どうせ、その設計図を基に穴を掘るんでしょ?」
「掘らないよ。設計図通りになんて」
「そうそう。掘ってるうちに、もっといいアイディアが浮かぶもんね」
「なお悪い!」

スケッチブックを抱える私に、双子は不思議そうな顔をする。

「なんでそんなに怒るの、名無しさん?」
「危ないから」
「えぇ? 危なくないよ」
「誰かが痛い思いをするのは危ないことなの」
「遊びに痛みはつきものだよ、名無しさん
「そうだよそうだよ」
「……かなり危険な思考よ、それ」

もう何をいっても無駄、というくらい通じない。
仕方ない。こういう世界なんだもん。
でも、嫌なものは嫌だ。
どう言えば伝わるんだろうと困っていると、ダムが口を開いた。

「じゃあ、危なくない遊びってどんな遊び?」
「うーん……」

この子たちの場合、おいかけっこですら命がけにできてしまう。
絵を描いたって危険な思想を垂れ流しているし……。
なにかいい遊びはないものか。

「じゃんけんとか、トランプとか?」
「じゃんけん……」
「トランプ……」

ディーとダムは私の言葉を反芻する。

「トランプは今持ってないね、兄弟」
「うん、持ってない」
「じゃあじゃんけんして遊ぼうか」
「そうしよう」

わ! 本気!?

「ね? 名無しさんもしよう!」
「え、うん。いいけど……10秒で終わる遊びだよね」

言いだしっぺながら戸惑う私。

「10秒じゃ終わらないよ」
「うん、ずっと楽しめる遊びだよね」
「え……そう?」

知らなった。この子たちじゃんけん好きなんだ?
そう思った時、ディーがどこからか木刀のようなものを取り出した。

「じゃんけんで勝ったら相手を叩いていいんだよね?」
「そうだよ、負けたらガードするんだ」

そっちかー!!

「いや、私そういう痛いのヤダ!」

頭をかち割る気ですか!?

「えぇ? 名無しさんってば本当に痛みに弱いんだね」
「ボリスが言ってたけど、痛みって度を越えると気持ち良くなるんだって」
「そんなの知らないし、知りたくもないわ」
「しかたないなぁ。じゃあ名無しさんには特別ルールを採用してあげようか、兄弟?」
「そうだね、名無しさんは僕らと違ってかよわいからね」
「いや、あなた達がちょっとおかしいんでしょ」

私はかよわくはない。彼らが超人的すぎるのだ。
そんなツッコミをしていたので、ディーとダムがにやりと笑ったことに全く気がつかなかった。

名無しさんが負けたら、口をガードしてね」
「くち?」
「僕らが勝ったら名無しさんにキスするから」
「はぁ!?」

何言ってんのこの子たち!

「僕、絶対勝ちたいな!」
「僕も僕も。あ、でも負けるのも悪くないかも?」
「確かに勝っても負けても良いことしかないね。じゃあ僕と名無しさんの勝負から始めていい?」
「えー!? ずるいよ兄弟! 僕が先!」

わいわい言い出す双子に、頭が真っ白の私。
えーと……とりあえず逃げる? 逃げとくか!?
そう思って順番でもめている彼らから、そっと距離を取ろうとした。

名無しさん、どこいくの?」
「これから一緒に遊ぶんだよ?」

いつの間にかディーとダムが私の腕を両側から掴んでいた。
こんなの相手じゃ絶対に無理!!

「私、そんな勝負しないからね!?」

2人を振り切ってそう宣言する私に、きょとんとする少年たち。

「なんで? 安全だよ? 痛くないよ?」
「むしろ嬉しいし、気持ちいいと思うけど」
「~~~~っ!?」

この子たち……!!(たぶん、保護責任者が悪いんだ!)
私はへんてこな帽子をかぶった男を思い浮かべて、唇をかみしめる。

「じゃ、じゃあ私審判になるから」
名無しさん、じゃんけんに審判なんていらないよ」
「そうだよ」
「う……!」

単純明快すぎる遊びのひとつであるじゃんけんを、この時ほど恨んだことはない。

「じゃ、じゃあせめて口じゃなくてほっぺをガードってことでも……」
「うん、いいよ。僕らは名無しさんの唇にキスしたいから意味ないと思うけど」
「むしろラッキーかもね」
「……前言撤回します。私が勝ったらゲーム終了ってことにしようね」

私の精一杯の逃げ道はこれしかなかった。
しかし、双子のやる気を引き出しただけだったらしい。

「よーし! それなら絶対に勝つぞー!」
「僕も!!どんな手を使っても勝とう!」
「……絶対に負けない……!!」

命がけではないけれど、何かとても大切なものをかける遊びになるのは間違いない。
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