真夏のティーパーティー!その2
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【あなたに花を4】
会合期間が終わり、私の日常が戻ってきた。
役持ち達はそれぞれの場所へと帰って行き、クローバーの塔は静かになる。
突然私の部屋にブラッド=デュプレがやってきたあの日が、まるで嘘のようだ。
あの日、私たちはお茶を飲みながら他愛のない話をして終わった。
というよりも、何を話したかなんて全然覚えていない。緊張してたことだけを鮮明に覚えている。
彼が綺麗に咲かせてくれたチューリップは、今も見事に咲き誇っている。
会合中に私を見かけると必ず声をかけて来たブラッド=デュプレ。
会わなくなると、こんなにも日々がつまらなくなるものかと驚いてしまう。
彼に会わない日常に慣れるまで時間がかかりそうだった。
有名人で私には縁のない別世界の人、なんて思って見ていたはずなのに、いつの間にか彼は私の手の届く場所にやって来た。
そして、あっさりと彼の世界へと戻って行った。
おかげで私はすごく変な気持ち。困っている。
そんなある日、街を歩いていたら、帽子屋ファミリーが歩いてきたのが見えた。
人々が一斉に道をあけ、遠目に彼らを眺める。
初めて彼らを見た時と同じように、私も人々に紛れて帽子屋ファミリーを眺めた。
あの双子の少年とウサギのお兄さん、そして数名の人々を引きつれ、ブラッド=デュプレがゆっくりと歩いてくる。
会合が終わって以来なので、久しぶりに見る彼らだった。
「ブラッド様よ」
「帽子屋さん……」
相変わらず女の人が憧れの混じった目でブラッド=デュプレを見ているのを感じる。
しかし、当の本人はそんな視線など気にした様子もなく、だるだると歩いていた。
わざとらしいくらいのだるだるっぷりになんだかおかしくなってしまう。
というか、もしかしたらわざとそう振舞っているのかもしれない。
彼が意外と普通に笑うことも、紅茶に関しては小うるさかったりすることも、私はもう知っているから。
なんだか不思議な気持ちで彼が歩いているのをぼんやりと見ていた。
ブラッド=デュプレは大勢の人から遠巻きに見られながら、私の横を通り過ぎていく。
「……はぁ」
バケツをひっくり返すこともなくただ静かに見守る私に、彼は気づく様子もなかった。
やっぱりそうだよね。少し話をしたくらいで仲良くなったつもりになっちゃったけど、彼にとっては大した出会いでもなかったんだ。
なんだかちょっとがっかりして、帽子屋ファミリーに背を向けると、私はクローバーの塔へと歩き出す。
花屋の前を通り過ぎようとした時だった。
「名無しさんさん?」
「え?」
いきなり呼び止められてびっくりしていると、花屋のお姉さんが私を見ていた。
「ご注文のお花届いてますよ」
お姉さんはそう言ってニコリと微笑んだ。
「注文って……私お花を注文した覚えは……」
何のことだかさっぱりわからずに答えると、彼女は言った。
「お花は新鮮なものがいいんです。そろそろ新しいお花に替えた方がいいとおっしゃってましたよ」
その言葉に反応する私をよそに、お姉さんは大きなチューリップの花束を差し出してきた。
「うちのボスからです」
「!」
びっくりしすぎて言葉出ない。
ブラッド=デュプレから花束をもらうことも、お姉さんがマフィアの一員だということも全部びっくりだ。
「拒絶されても渡せとのことですので、受け取ってくださいね」
そう言いながら、彼女は私に花束を抱えさせる。
たくさんの赤いチューリップが目の前で揺れ、私は胸がいっぱいになる。
私のことをまだ彼が気にかけてくれていたのかと思うと、嬉しくて仕方がない。
「……あの、お姉さん。これ、少しの間預かっていてもらえます? ちゃんと受け取るんで」
「はい?」
「ちょっと用事があるんです。用事が済んだら取りに来ます」
私は道を歩いていたブラッドを思い出す。
あのだるだる歩きならまだ間に合う。
「バラください。ブラッド=デュプレが好きそうなバラを」
私がそう言うと、お姉さんはびっくりしたように目を丸くしたけれど、すぐに微笑んだ。
「わかりました」
お姉さんはすぐに赤いバラの花束を作りにかかる。
それを待っている間、私の心はもうブラッド=デュプレの背中を追っていた。
今ならまだ間に合う。
走って行けば追いつく。
遠い世界の人だと思っていたけれど、きっと追いつける。
声をかけてくれたり、チューリップを綺麗に咲かせてくれたり、色々なことをしてもらった。
たとえ気まぐれだとしても、色々気にかけてもらえて嬉しかった。
それなのに、私はその気持ちを全く彼に伝えないまま、終わらせようとしてしまった。
勝手に遠い人だからとあきらめてしまった。
感謝の気持ちは伝えた方がいいに決まってる。
私はバラの花束を受け取ると、元来た道を走り出す。
帽子屋ファミリーはすでに見えなくなっていたけれど、人だかりの感じから、まだそう遠くには行っていないようだった。
ブラッド=デュプレに伝えたい気持ちが「ありがとう」だけなのかはわからないけれど、とにかく彼に会いたい。
会ってこの花束を届けよう。
その時に自分の気持ちがはっきりとわかるような気がする。
そう考えると花を贈るということは、ものすごく特別な気がした。
でも、
だからこそ、今すぐに届けたい。
あなたに花を。
会合期間が終わり、私の日常が戻ってきた。
役持ち達はそれぞれの場所へと帰って行き、クローバーの塔は静かになる。
突然私の部屋にブラッド=デュプレがやってきたあの日が、まるで嘘のようだ。
あの日、私たちはお茶を飲みながら他愛のない話をして終わった。
というよりも、何を話したかなんて全然覚えていない。緊張してたことだけを鮮明に覚えている。
彼が綺麗に咲かせてくれたチューリップは、今も見事に咲き誇っている。
会合中に私を見かけると必ず声をかけて来たブラッド=デュプレ。
会わなくなると、こんなにも日々がつまらなくなるものかと驚いてしまう。
彼に会わない日常に慣れるまで時間がかかりそうだった。
有名人で私には縁のない別世界の人、なんて思って見ていたはずなのに、いつの間にか彼は私の手の届く場所にやって来た。
そして、あっさりと彼の世界へと戻って行った。
おかげで私はすごく変な気持ち。困っている。
そんなある日、街を歩いていたら、帽子屋ファミリーが歩いてきたのが見えた。
人々が一斉に道をあけ、遠目に彼らを眺める。
初めて彼らを見た時と同じように、私も人々に紛れて帽子屋ファミリーを眺めた。
あの双子の少年とウサギのお兄さん、そして数名の人々を引きつれ、ブラッド=デュプレがゆっくりと歩いてくる。
会合が終わって以来なので、久しぶりに見る彼らだった。
「ブラッド様よ」
「帽子屋さん……」
相変わらず女の人が憧れの混じった目でブラッド=デュプレを見ているのを感じる。
しかし、当の本人はそんな視線など気にした様子もなく、だるだると歩いていた。
わざとらしいくらいのだるだるっぷりになんだかおかしくなってしまう。
というか、もしかしたらわざとそう振舞っているのかもしれない。
彼が意外と普通に笑うことも、紅茶に関しては小うるさかったりすることも、私はもう知っているから。
なんだか不思議な気持ちで彼が歩いているのをぼんやりと見ていた。
ブラッド=デュプレは大勢の人から遠巻きに見られながら、私の横を通り過ぎていく。
「……はぁ」
バケツをひっくり返すこともなくただ静かに見守る私に、彼は気づく様子もなかった。
やっぱりそうだよね。少し話をしたくらいで仲良くなったつもりになっちゃったけど、彼にとっては大した出会いでもなかったんだ。
なんだかちょっとがっかりして、帽子屋ファミリーに背を向けると、私はクローバーの塔へと歩き出す。
花屋の前を通り過ぎようとした時だった。
「名無しさんさん?」
「え?」
いきなり呼び止められてびっくりしていると、花屋のお姉さんが私を見ていた。
「ご注文のお花届いてますよ」
お姉さんはそう言ってニコリと微笑んだ。
「注文って……私お花を注文した覚えは……」
何のことだかさっぱりわからずに答えると、彼女は言った。
「お花は新鮮なものがいいんです。そろそろ新しいお花に替えた方がいいとおっしゃってましたよ」
その言葉に反応する私をよそに、お姉さんは大きなチューリップの花束を差し出してきた。
「うちのボスからです」
「!」
びっくりしすぎて言葉出ない。
ブラッド=デュプレから花束をもらうことも、お姉さんがマフィアの一員だということも全部びっくりだ。
「拒絶されても渡せとのことですので、受け取ってくださいね」
そう言いながら、彼女は私に花束を抱えさせる。
たくさんの赤いチューリップが目の前で揺れ、私は胸がいっぱいになる。
私のことをまだ彼が気にかけてくれていたのかと思うと、嬉しくて仕方がない。
「……あの、お姉さん。これ、少しの間預かっていてもらえます? ちゃんと受け取るんで」
「はい?」
「ちょっと用事があるんです。用事が済んだら取りに来ます」
私は道を歩いていたブラッドを思い出す。
あのだるだる歩きならまだ間に合う。
「バラください。ブラッド=デュプレが好きそうなバラを」
私がそう言うと、お姉さんはびっくりしたように目を丸くしたけれど、すぐに微笑んだ。
「わかりました」
お姉さんはすぐに赤いバラの花束を作りにかかる。
それを待っている間、私の心はもうブラッド=デュプレの背中を追っていた。
今ならまだ間に合う。
走って行けば追いつく。
遠い世界の人だと思っていたけれど、きっと追いつける。
声をかけてくれたり、チューリップを綺麗に咲かせてくれたり、色々なことをしてもらった。
たとえ気まぐれだとしても、色々気にかけてもらえて嬉しかった。
それなのに、私はその気持ちを全く彼に伝えないまま、終わらせようとしてしまった。
勝手に遠い人だからとあきらめてしまった。
感謝の気持ちは伝えた方がいいに決まってる。
私はバラの花束を受け取ると、元来た道を走り出す。
帽子屋ファミリーはすでに見えなくなっていたけれど、人だかりの感じから、まだそう遠くには行っていないようだった。
ブラッド=デュプレに伝えたい気持ちが「ありがとう」だけなのかはわからないけれど、とにかく彼に会いたい。
会ってこの花束を届けよう。
その時に自分の気持ちがはっきりとわかるような気がする。
そう考えると花を贈るということは、ものすごく特別な気がした。
でも、
だからこそ、今すぐに届けたい。
あなたに花を。
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