真夏のティーパーティー!その2
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【うちの家主】
時計塔で生活を始めて5時間帯ほどが過ぎた。
まったく慣れません。
こんな狭い部屋で、初対面の人と生活をするなんてストレスで胃に穴でも飽きそうです。
しかも同居人は男で、なんだか怖くて、暗い。
思ったほど悪い人でもなさそうだけど、思った以上に毒舌だ。
彼の良い所はどこだろう?と本気で考えてみたけれど、今の所全然浮かばない。
あえて言うのであれば、一緒に生活するにはちょうどいいくらい「私に関心がない」ということだけかもしれない。
一応異性なので、関心がないくらいの方が私としては安心だし気楽だ。
私に関心がないというか、仕事ばかりしていると言った方がいいかもしれない。
それから引きこもり生活をしている割に、彼はいつもきちんとした感じがある。
それはまぁまぁ好感のもてる所だ。
なんにしても私は居候の身なので文句を言える立場ではない。
彼の邪魔をしないように、ということを第一に考えている。
会話らしい会話も今の所ほとんどない。
「ご飯食べる?」と聞いても「いや、今はいい」「あぁ、後で」「これが済んだら」の3パターンのみの返事だ。
一緒にご飯を食べたことなどない。
私は1人でもそもそとご飯を食べながら、彼を盗み見してみる。
よくこうやって彼を見てみるけれど、目が合ったことなんて一度もない。
なんだか避けられているような気がすることさえある。
眼鏡をかけて、黙々と仕事をしている彼は悪くない。
すっと通った鼻筋と、長いけれど綺麗な髪の毛と、真剣な眼差し。そしてきゅっと結ばれた口元。
うん。悪くはない。
悪くはないけれど、仲良くもなれなそうだった。つまりそれほど遠い存在なのだ。
一緒に住んでいるにもかかわらず。
私はここに置かせてもらっているだけなのだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
私自身、べつにそれでも全然構わない。
こんなよくわからない危険な世界にぽいっと放り出されるよりは、この時計塔でひっそりと暮らす方がいい。
というわけで大した交流もないまま、私は時計塔という狭い空間でユリウスとの生活を送っていた。
そんなある日。
「ん?」
珈琲を淹れようと思った私。
珈琲豆の入ったビンを開けようとしたけれど、恐ろしく固く栓がしてあった。
「か、固すぎるっ!」
ふんっと力を込めてみたけれど開かない。
左右の手を入れ替えてみたけれど開かない。
こ、これは……どうするべきか。
私はちらりと仕事をしているユリウスを見る。
彼は私が珈琲豆のビンに格闘していることなど気づく様子もなく、黙々と時計を修理していた。
これを閉めたのはユリウスだ。
だから彼なら開けられる。
でも、こんなくだらないことで仕事の邪魔をしていいものか? ただの居候としてそれは許されるのか!?
私はそこまで考えて、もうちょっとだけ頑張ってみることにした。
「あ、そうだ。ゴム手袋すればいいって聞いたことあるよ?」
私は戸棚からゴム手袋を出してくると、すちゃっとはめた。
そんな私に気づいたらしいユリウスがちらりと私を見る。
「……何を始めるんだ?」
「え、いや、珈琲を飲もうと思って……」
「?」
不思議そうに私を見る彼。
なんだか恥ずかしくなって、私は彼の視線に気づかないふりをした。
そして、そのまま開かずのビンを手に取る。
「んっ!!」
思いっきり力を込めてみた。
「まさかそれを開けるためにそんなものをはめたんじゃないだろうな?」
ユリウスが横からそんなことを言って来たけれど、今力を緩めるわけにはいかない。
もう少しで開きそうな気がする。
そんな時だった。
「貸してみろ」
いつのまにかそばまで来ていたユリウス。
彼はすっと私からビンを取り上げた。
そして、なんなくビンの蓋をあけてしまったのだった。
「わざわざそんなものをつけてまで開けようとしなくても、私に言えば良いだろう」
「う、うん。ありがとう。でも仕事してたし、迷惑かなって思って……」
私の言葉に、彼は深くため息をついた。
「名無しさん、お前は誰に対してもそうやって気を使うタイプなのかもしれないが……正直言って面倒だ」
「え?」
「遠慮され過ぎると居心地が悪い。私もお前に気を使わないから、お前も使うな」
「……う、うん。ごめんなさい」
優しいのか怖いのか、よくわからない言葉。
でも、その言葉でこれまで張りつめていた物が一気に切れた。
気づいたらぽろりと涙が落ちていた。自分でもびっくりする。
思わず珈琲豆のビンをぎゅっと握りしめる。
すると、ユリウスがまたため息をつくのが聞こえた。
あぁ、また怒られる。
そう思った時だった。
「お前は自分が思っている以上に気を使いすぎているんだ。私に気なんて使うな。そのうちおかしくなるぞ」
彼はそう言って、私の頭を撫でた。
びっくりして涙も止まる。
「知らない世界に放り出された揚句、私のように偏屈な男と住むことになるなんて、お前はついてないな」
そう言って私の頭を撫でる大きな手のひらは、優しくてなんだか安心できる気がした。
自分のことを偏屈だと言う所も、なんだか信頼できる気がした。
「だが、いつも怯えた目をされているこっちの身にもなってくれ」
ぼそりとつぶやかれた言葉に、私は思い切って聞いてみた。
「……私、怯えた目をしてた?」
「あぁ。あまり怖がらせるのも本位じゃないからな。お前をあまり見ないようにしていた」
「え、そうなの?私てっきり嫌われてるんだとばかり……」
「嫌っているならここに置かない」
そう言ったユリウスを私は思わずじっと見つめてしまった。
すると、彼ははっとして動きを止めた。
そして私の頭から手を離す。
「珈琲を飲むなら淹れてやる。私もちょうど休憩にしようと思ったところだ」
「え?」
「名無しさんの好きそうな菓子がそこの戸棚に入っている。この間客が持ってきたものだが、それで良ければ食べるといい」
そう言って私の手から珈琲豆のビンを取ると、さっさとお湯を沸かしに行ってしまった。
優しいのか怖いのか、よくわからない。
でも、思ったよりは優しいのかもしれない。
そのあと初めて一緒にお茶をした。
会話が弾むというまではいかなかったし、視線が合うと困ったような照れたような感じで目をそらされてしまった。
でも、それがなんだかすごく良くて、こっそり笑ってしまう。
彼の淹れてくれた珈琲は私が淹れるものより美味しくてびっくりした。
時計塔で生活を始めて5時間帯ほどが過ぎた。
まったく慣れません。
こんな狭い部屋で、初対面の人と生活をするなんてストレスで胃に穴でも飽きそうです。
しかも同居人は男で、なんだか怖くて、暗い。
思ったほど悪い人でもなさそうだけど、思った以上に毒舌だ。
彼の良い所はどこだろう?と本気で考えてみたけれど、今の所全然浮かばない。
あえて言うのであれば、一緒に生活するにはちょうどいいくらい「私に関心がない」ということだけかもしれない。
一応異性なので、関心がないくらいの方が私としては安心だし気楽だ。
私に関心がないというか、仕事ばかりしていると言った方がいいかもしれない。
それから引きこもり生活をしている割に、彼はいつもきちんとした感じがある。
それはまぁまぁ好感のもてる所だ。
なんにしても私は居候の身なので文句を言える立場ではない。
彼の邪魔をしないように、ということを第一に考えている。
会話らしい会話も今の所ほとんどない。
「ご飯食べる?」と聞いても「いや、今はいい」「あぁ、後で」「これが済んだら」の3パターンのみの返事だ。
一緒にご飯を食べたことなどない。
私は1人でもそもそとご飯を食べながら、彼を盗み見してみる。
よくこうやって彼を見てみるけれど、目が合ったことなんて一度もない。
なんだか避けられているような気がすることさえある。
眼鏡をかけて、黙々と仕事をしている彼は悪くない。
すっと通った鼻筋と、長いけれど綺麗な髪の毛と、真剣な眼差し。そしてきゅっと結ばれた口元。
うん。悪くはない。
悪くはないけれど、仲良くもなれなそうだった。つまりそれほど遠い存在なのだ。
一緒に住んでいるにもかかわらず。
私はここに置かせてもらっているだけなのだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
私自身、べつにそれでも全然構わない。
こんなよくわからない危険な世界にぽいっと放り出されるよりは、この時計塔でひっそりと暮らす方がいい。
というわけで大した交流もないまま、私は時計塔という狭い空間でユリウスとの生活を送っていた。
そんなある日。
「ん?」
珈琲を淹れようと思った私。
珈琲豆の入ったビンを開けようとしたけれど、恐ろしく固く栓がしてあった。
「か、固すぎるっ!」
ふんっと力を込めてみたけれど開かない。
左右の手を入れ替えてみたけれど開かない。
こ、これは……どうするべきか。
私はちらりと仕事をしているユリウスを見る。
彼は私が珈琲豆のビンに格闘していることなど気づく様子もなく、黙々と時計を修理していた。
これを閉めたのはユリウスだ。
だから彼なら開けられる。
でも、こんなくだらないことで仕事の邪魔をしていいものか? ただの居候としてそれは許されるのか!?
私はそこまで考えて、もうちょっとだけ頑張ってみることにした。
「あ、そうだ。ゴム手袋すればいいって聞いたことあるよ?」
私は戸棚からゴム手袋を出してくると、すちゃっとはめた。
そんな私に気づいたらしいユリウスがちらりと私を見る。
「……何を始めるんだ?」
「え、いや、珈琲を飲もうと思って……」
「?」
不思議そうに私を見る彼。
なんだか恥ずかしくなって、私は彼の視線に気づかないふりをした。
そして、そのまま開かずのビンを手に取る。
「んっ!!」
思いっきり力を込めてみた。
「まさかそれを開けるためにそんなものをはめたんじゃないだろうな?」
ユリウスが横からそんなことを言って来たけれど、今力を緩めるわけにはいかない。
もう少しで開きそうな気がする。
そんな時だった。
「貸してみろ」
いつのまにかそばまで来ていたユリウス。
彼はすっと私からビンを取り上げた。
そして、なんなくビンの蓋をあけてしまったのだった。
「わざわざそんなものをつけてまで開けようとしなくても、私に言えば良いだろう」
「う、うん。ありがとう。でも仕事してたし、迷惑かなって思って……」
私の言葉に、彼は深くため息をついた。
「名無しさん、お前は誰に対してもそうやって気を使うタイプなのかもしれないが……正直言って面倒だ」
「え?」
「遠慮され過ぎると居心地が悪い。私もお前に気を使わないから、お前も使うな」
「……う、うん。ごめんなさい」
優しいのか怖いのか、よくわからない言葉。
でも、その言葉でこれまで張りつめていた物が一気に切れた。
気づいたらぽろりと涙が落ちていた。自分でもびっくりする。
思わず珈琲豆のビンをぎゅっと握りしめる。
すると、ユリウスがまたため息をつくのが聞こえた。
あぁ、また怒られる。
そう思った時だった。
「お前は自分が思っている以上に気を使いすぎているんだ。私に気なんて使うな。そのうちおかしくなるぞ」
彼はそう言って、私の頭を撫でた。
びっくりして涙も止まる。
「知らない世界に放り出された揚句、私のように偏屈な男と住むことになるなんて、お前はついてないな」
そう言って私の頭を撫でる大きな手のひらは、優しくてなんだか安心できる気がした。
自分のことを偏屈だと言う所も、なんだか信頼できる気がした。
「だが、いつも怯えた目をされているこっちの身にもなってくれ」
ぼそりとつぶやかれた言葉に、私は思い切って聞いてみた。
「……私、怯えた目をしてた?」
「あぁ。あまり怖がらせるのも本位じゃないからな。お前をあまり見ないようにしていた」
「え、そうなの?私てっきり嫌われてるんだとばかり……」
「嫌っているならここに置かない」
そう言ったユリウスを私は思わずじっと見つめてしまった。
すると、彼ははっとして動きを止めた。
そして私の頭から手を離す。
「珈琲を飲むなら淹れてやる。私もちょうど休憩にしようと思ったところだ」
「え?」
「名無しさんの好きそうな菓子がそこの戸棚に入っている。この間客が持ってきたものだが、それで良ければ食べるといい」
そう言って私の手から珈琲豆のビンを取ると、さっさとお湯を沸かしに行ってしまった。
優しいのか怖いのか、よくわからない。
でも、思ったよりは優しいのかもしれない。
そのあと初めて一緒にお茶をした。
会話が弾むというまではいかなかったし、視線が合うと困ったような照れたような感じで目をそらされてしまった。
でも、それがなんだかすごく良くて、こっそり笑ってしまう。
彼の淹れてくれた珈琲は私が淹れるものより美味しくてびっくりした。