真夏のティーパーティー!その2

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余所者で普通の女の子が夢主です
夢主のお名前は?

 【穏やかな眠りを】


「ユリウス、たまにはちゃんと寝たら?」

私は仕事ばかりしている彼に声をかけた。
私がここに来てから、彼がまともに寝ている所を見たことがない。
ベッドは1つしかないので私が使わせてもらっているけれど、ユリウスが使っている気配はない。

「私が起きている時に、ユリウスがベッドで寝ればいいじゃない」

私がそういうと、仕事をしていた彼は大して興味もなさそうにちらりと私を見た。

「別に必要ない。もとからあまりそのベッドを使っていなかったからな」
「でも体によくないと思うよ。その生活」

仕事ばっかりで、食事も睡眠もろくにとっていない。
不健康な生活とはこのことだと思う。

「特に問題はない。今までもずっとそうやって来た」

彼はそう言いながら、カチャカチャと時計をいじる。

「でもさ、絶対に良くないと思う。机で寝たり、ソファで寝たりするのって疲れが取れないよ。いい仕事ができないよ。
 次寝るときは絶対ベッドがいいよ! って聞いてる?」

私の熱弁中も、彼は仕事の手を全く止めなかった。
でも一応は聞いていたらしい。
そして、いい加減私を黙らせたかったらしい。

「……考えておく」

そう言ってそのまま仕事を続けてしまった。
うわ、人が心配しているのにそういうつれない態度をとるわけですね?

「もういい。ユリウスがベッドを使うまで、私はこのソファで寝ることにするから」
「は?」
「私に遠慮してベッドを使わないなら、私だってユリウスがそのベッドを使うまではソファで寝る」
「なんでそうなるんだ」
「だって、ユリウスにちゃんと休んでほしいんだもん」

勢い任せでそう言った私をユリウスはじっと見つめてから、はぁっとため息をついた。

「お前がどこで寝ようと勝手だが、私がベッドを使わないのは名無しさんに遠慮しているからじゃないぞ」
「え」
「仕事で忙しいし、ベッドだろうと机だろうとソファだろうと私にとって大した違いはない。
 だから、名無しさんがベッドを使わなくても、私には関係ないぞ」

ぐぬぬ……!!
あんまりじゃないですか?その言葉!

「もうユリウスなんて知らない!過労で倒れたって面倒見てやらないんだからね!!」
「……すごいことを突然言うな、名無しさん

私の捨て台詞に、一拍おいてからユリウスは呆れたようにそう言った。

結局私はささやかな反抗として、本当にその日はソファで眠ることにした。
そんな私をユリウスはちらりと見て「本当にそこで寝るのか」と言ったけれど、その後はすぐに仕事に戻ってしまった。

ソファで横になると、私は頭から毛布をかぶる。
心配だからベッドで眠ってほしいだけなのに、どうやったらわかってもらえるんだろうなぁ。
そんなことを考えながら、いつもよりもすぐそばで聞こえてくる時計の修理音に耳を澄ませる。

その音になんだか安心するのはなぜだろう?
聞きなれた音だからか、それともユリウスがすぐそばにいることを感じられるからなのか。

私は毛布の隙間からそっとユリウスを覗いてみた。
机の明かりの中で、彼はいつものように時計に向き合っていた。
机に屈みこむようにしていたかと思えば、時計を宙へ持ち上げて覗き込んでみたり、色々している。……ほんとにすごい集中力。

そう思いながら見ていると、不意に彼は手を止めてこちらを見た。気がした。
私は慌てて毛布の隙間をシャットアウトする。

大丈夫、気づかれてない。私が見ていたことなんて絶対気づかれてない。ほんのちょっとの隙間から見てただけだもん。
そう自分に言い聞かせつつも、胸がものすごいドキドキしていた。

そうか、ソファで寝るというのはこういうことか!
私は今さらながら彼との距離の近さに愕然とした。
この部屋のベッドは、梯子に登らなくてはいけないいわゆるロフトベッドだったので、彼の視線など気にしたことはなかった。
しかし、ここのソファはユリウスの仕事机からしっかりと見える位置にある。

……これは私、かなり無謀なことをしてしまったかもしれない。
私寝相は良い方なのだろうか? 寝言とか言うタイプなのだろうか?
寝ている間の自分というものが全くわからないから、どんな失態を披露してしまうのか想像もつかなかった。

「まぁね、ユリウスは仕事一筋だから私がここでどんな風に寝てようが気にしないと思うけど……」

毛布の中でそうつぶやいてみたけれど、なんだかやっぱり緊張してきてしまう私だった。
これは眠れないかもしれない。
ぎゅっと目を閉じてみたけれど、時計を修理する音がしっかりと聞こえてきて、ドキドキがおさまらなかった。
安心できる音のはずだったのにな。


「……おい。おい、名無しさん

ソファで眠る名無しさんに声をかけるユリウス。

「本当にここで眠るとはな」

彼は呆れたようにため息をつくと、彼女の肩に手をかけた。

「おい、名無しさん。起きろ。こんな所で寝るな。ベッドで寝ろ」

そう言いながら彼女をゆするけれど、起きる様子がない。

「はぁ。まったく手のかかる奴だな」

ソファにおさまって眠る彼女は、深く眠っているようだった。
しかし、ユリウスは容赦なく彼女を起こしにかかった。

「おい、名無しさん
「……うぅ~?」
「こんな所で眠られると迷惑だ。起きろ」
「……なんで?」
「ソファで寝たって疲れるだけだろう。ちゃんと寝ろ」
「ユリウスがベッドでねるまではやだ」

半分眠りながらもそう主張する名無しさんに、ユリウスは頭をかいた。

「はぁ。わかったわかった。今度からはベッドで寝る。だからお前はもうベッドへ行け」
「……もうむり。きょうはむり。うごけない」
「ここで寝られると迷惑だ」
「やだ。ねむい」
「……頼むからベッドで寝てくれ」
「うん、こんどから」

名無しさんはそう言ってまたすーすーと眠ってしまった。

「……どうしろと言うんだ」

ユリウスはそうつぶやくと、近くの椅子に座る。
まさか本当にソファで眠るとは思わなかった。
彼女が眠っているのを横目で見ながら仕事なんてできるわけがない。
だからと言って、抱きかかえてベッドに運ぶなんてこともできない。そんなことをしたら最後、自分が彼女に何をしてしまうのかわからないからだ。

「私に気を使わなさすぎるのも問題だな」

ユリウスはそうつぶやくと、ソファで眠る名無しさんを眺めた。
自分に背を向けて眠っている彼女。寝顔が見えなくて良かったと密かに思う。
名無しさんの肩が、上下に規則正しく動く。起きる気配はない。
ユリウスは立ち上がると、再び彼女に近づいた。

「少しはこっちの身にもなってくれ」

そう言いながら、彼は名無しさんの頭を撫で髪の毛を梳いた。
その瞬間、彼女は体の向きを変える。
起きるかと思って動きを止めるユリウスだったけれど、彼女は起きなかった。
昏々と眠る名無しさんの穏やかな寝顔をほんの少し見てから、彼はため息をついた。
彼女がここで寝ている以上、仕事どころか読書もできそうにない。

「仕方ない。寝るか」

ユリウスはそう苦笑しながら、久しぶりにベッドで眠ることした。
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