真夏のティーパーティー!その2
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【待ってるね】
私はその時本棚の上の方にある本を取ろうと、思い切り手を伸ばしていた。
つま先立ちでぎりぎり届くその高さに「んっ!!」と気合を入れ、指先に力を込めて本を取ろうとしていたのだ。
するとその瞬間どこからともなく鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「え……?」
思わず天井を見上げる私。
しかし、鳥の姿はどこにもない。
なんだってこんな建物の中で鳥の声がするんだろう?
もしかして迷い込んできちゃったのかもしれない。
鳴き声の感じでは小鳥っぽかったから、そこまで気にしなくていいとは思うけど、突然飛んで来たりつつかれたら嫌だなぁ。
私はもういちど辺りを見回し、鳥がいないことを確認する。
そして、再び自分が取ろうと思った本に向き直ると、思い切り背伸びをして手を伸ばした。
「よっ……!」
あと少し!と思いながらさらに限界まで手を伸ばそうとした時だった。
後ろからすっと手が伸びてきて、私の本をいとも簡単に取り出した。
赤い袖にまさかと思いながら振り返る。
「はい、どうぞ」
爽やか笑顔で本を差し出してきたのはやっぱりエースだった。
驚く私を彼はにこにこと見つめている。
「……まさかこんな所でエースに会うとは思わなかったな」
私の言葉に、エースはいつもの爽やかな笑顔でうなずいた。
「そうだね。俺もびっくりしたよ。まさかこんな所で名無しさんに会えるなんて、ね」
私とエースはこそこそと小さな声でそう言い合いながら、目の前にずらりと並ぶ本棚を見上げた。
ここは街の図書館。
両脇が本棚に囲まれた狭く薄暗い通路でばったりと遭遇したのだった。
こんな所で会うなんて夢にも思わなかった。
「エースも本を読むんだね」
「いや、たまたまたどり着いただけだよ。でもまぁ、ついでだしちょっと調べたいこともあったから入ってみたんだ」
「調べたいこと?」
「うん」
彼はうなずきながら、手に持っていた本を私に見せた。
ずいぶんと分厚い本で、それは『よくわかる野鳥図鑑』と書いてある。
「……野鳥図鑑?」
「うん。この間見たことない鳥がいてさ、ちょっと気になってたんだ。だから調べてみようと思って」
エースはにこやかにそう言った。
私はふと、さっきの鳥の鳴き声のことを思い出す。
「そういえば、この図書館に鳥が迷い込んでるっぽいんだよね」
「え、そうなの?」
「うん、さっき声が聞こえたよ」
「へぇ、俺は全然気づかなかったなぁ」
見つけたら外に出してあげたいよなぁ、と言うエースになんだか嬉しくなる。
「それにしても、アウトドア派のエースにも知らない鳥がいるんだね」
「うん。でも、知らないことがあるっていうのを知ることができるのが旅の醍醐味だよな」
「すごい。なんか人生の達人みたいなセリフ」
「っていうか旅の達人っていう方が嬉しいかも」
「騎士なのに」
「ははは!そうだね」
彼は気を悪くした様子もなく笑った。
騎士で旅の達人、でも迷子になりやすい。
そんな彼はきっと、平凡な私よりも色々な経験をしていて、色々なことを知っているのだろう。
ちゃらんぽらんに見えて意外と物知りだったりする。
「それでその図鑑に鳥は載っていたの?」
「うん、載ってた。ほら、これ」
彼は嬉々として私にページを広げた図鑑を見せてきた。
近づく距離になんとなくドキリとする。
「なんか鳴き声も聞ける図鑑らしいんだよね」
「え、そんな機能があるの?!」
「うん、ここを押すと……」
そう言いながら彼は図鑑についているボタンをためらいなく押した。
写真で見るとかなり小さな鳥だけれど、その鳴き声は意外にも迫力があり、張りのある高い鳴き声が図書館に響き渡った。
「わ、ちょっとエース!?」
慌てた私は思わず図鑑のページを両手で押さえた。しかし、鳴き声が止まるはずもなく5回くらい鳴いてから静かになった。
「はははは! すごいなー。意外と大きな声だったね」
「笑い事じゃないでしょ! 図書館なんだからね!」
「大丈夫だよ。外の鳥だってみんな思うから」
「いや、どう聞いても館内に響き渡ったよ。っていうかさっきの鳴き声もこれでしょう!?」
「えー、そうなの?」
犯人はコイツか……呆れる私に、エースはにこにことしている。
鳴き声につられ、私達のいる通路を覗き込んでくる人が何人かいたけれど、完全に知らんぷりのエースはすごいと思う。
「あ、ちなみにこっちの鳥の鳴き声は見た目に反して結構低くてさ……」
そう言いながら隣の鳥のボタンを押そうとするエース。
私は彼の腕をがしっと掴む。
「押さんでいい!!」
「え、そう?」
「迷惑! 図書館では静かにしましょう!!」
睨みつけながらそう言うと、彼はくすくすと笑った。
「ごめんごめん。名無しさんにも知ってほしくてさ」
「嫌がらせとしか思えませんけど」
「そんなことないよ」
口を尖らせる私に、エースはいつもの爽やか笑顔を見せる。
「ねぇ、名無しさん。今度一緒に本物を見に行こうよ」
「え?」
「のんびりと旅をしながら、さ」
「……バードウォッチングってこと?」
「うん。あ、別に鳥じゃなくてもいいよ。花でも星でも熊でもなんでもいい。俺けっこう知ってるから」
なんで熊?と思ったけれど、彼の言葉はなんだか嬉しかった。
「旅をしてると、名無しさんに見せたいなって思うものが結構たくさんあるんだ。だから、今度一緒に行こう」
エースは穏やかにそう言いながら、笑いかけてくる。
彼の中身がハチャメチャであることを知っていても、拒否なんて出来なくて、気づいたらうなずいていた私。
私がうなずいたのを見て、エースはふわりと笑った。
うっかりその顔に見とれていたら、ふっと顔が近づいてきた。
その時初めて、私は自分がいつのまにか本棚に押し付けられていることに気づいた。
「約束。忘れないでくれよ?」
彼は私の耳元でそう言ってそのままキスを落とすと、「そのうち迎えに行くから」と言い残して、さっさと行ってしまった。
赤いコートがひらひらと揺れるのを私はぼんやりと眺めながら、耳元に手をやる。
彼が残していった感触に、かーっと顔が熱くなる。
「そのうちって……いつ?」
迷子ばかりの彼が私をちゃんと迎えに来てくれるのか、ちょっぴり心配。
でも、彼はどんなに遅くなっても目的地までちゃんとたどり着く。それは絶対だ。
エースの後ろ姿は見えなくなったけれど、私の鼓動はどうしようもないくらい早かった。
ドキドキしっぱなしで待つのは結構つらい。
「なるべく早めでお願いします」
私はその時本棚の上の方にある本を取ろうと、思い切り手を伸ばしていた。
つま先立ちでぎりぎり届くその高さに「んっ!!」と気合を入れ、指先に力を込めて本を取ろうとしていたのだ。
するとその瞬間どこからともなく鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「え……?」
思わず天井を見上げる私。
しかし、鳥の姿はどこにもない。
なんだってこんな建物の中で鳥の声がするんだろう?
もしかして迷い込んできちゃったのかもしれない。
鳴き声の感じでは小鳥っぽかったから、そこまで気にしなくていいとは思うけど、突然飛んで来たりつつかれたら嫌だなぁ。
私はもういちど辺りを見回し、鳥がいないことを確認する。
そして、再び自分が取ろうと思った本に向き直ると、思い切り背伸びをして手を伸ばした。
「よっ……!」
あと少し!と思いながらさらに限界まで手を伸ばそうとした時だった。
後ろからすっと手が伸びてきて、私の本をいとも簡単に取り出した。
赤い袖にまさかと思いながら振り返る。
「はい、どうぞ」
爽やか笑顔で本を差し出してきたのはやっぱりエースだった。
驚く私を彼はにこにこと見つめている。
「……まさかこんな所でエースに会うとは思わなかったな」
私の言葉に、エースはいつもの爽やかな笑顔でうなずいた。
「そうだね。俺もびっくりしたよ。まさかこんな所で名無しさんに会えるなんて、ね」
私とエースはこそこそと小さな声でそう言い合いながら、目の前にずらりと並ぶ本棚を見上げた。
ここは街の図書館。
両脇が本棚に囲まれた狭く薄暗い通路でばったりと遭遇したのだった。
こんな所で会うなんて夢にも思わなかった。
「エースも本を読むんだね」
「いや、たまたまたどり着いただけだよ。でもまぁ、ついでだしちょっと調べたいこともあったから入ってみたんだ」
「調べたいこと?」
「うん」
彼はうなずきながら、手に持っていた本を私に見せた。
ずいぶんと分厚い本で、それは『よくわかる野鳥図鑑』と書いてある。
「……野鳥図鑑?」
「うん。この間見たことない鳥がいてさ、ちょっと気になってたんだ。だから調べてみようと思って」
エースはにこやかにそう言った。
私はふと、さっきの鳥の鳴き声のことを思い出す。
「そういえば、この図書館に鳥が迷い込んでるっぽいんだよね」
「え、そうなの?」
「うん、さっき声が聞こえたよ」
「へぇ、俺は全然気づかなかったなぁ」
見つけたら外に出してあげたいよなぁ、と言うエースになんだか嬉しくなる。
「それにしても、アウトドア派のエースにも知らない鳥がいるんだね」
「うん。でも、知らないことがあるっていうのを知ることができるのが旅の醍醐味だよな」
「すごい。なんか人生の達人みたいなセリフ」
「っていうか旅の達人っていう方が嬉しいかも」
「騎士なのに」
「ははは!そうだね」
彼は気を悪くした様子もなく笑った。
騎士で旅の達人、でも迷子になりやすい。
そんな彼はきっと、平凡な私よりも色々な経験をしていて、色々なことを知っているのだろう。
ちゃらんぽらんに見えて意外と物知りだったりする。
「それでその図鑑に鳥は載っていたの?」
「うん、載ってた。ほら、これ」
彼は嬉々として私にページを広げた図鑑を見せてきた。
近づく距離になんとなくドキリとする。
「なんか鳴き声も聞ける図鑑らしいんだよね」
「え、そんな機能があるの?!」
「うん、ここを押すと……」
そう言いながら彼は図鑑についているボタンをためらいなく押した。
写真で見るとかなり小さな鳥だけれど、その鳴き声は意外にも迫力があり、張りのある高い鳴き声が図書館に響き渡った。
「わ、ちょっとエース!?」
慌てた私は思わず図鑑のページを両手で押さえた。しかし、鳴き声が止まるはずもなく5回くらい鳴いてから静かになった。
「はははは! すごいなー。意外と大きな声だったね」
「笑い事じゃないでしょ! 図書館なんだからね!」
「大丈夫だよ。外の鳥だってみんな思うから」
「いや、どう聞いても館内に響き渡ったよ。っていうかさっきの鳴き声もこれでしょう!?」
「えー、そうなの?」
犯人はコイツか……呆れる私に、エースはにこにことしている。
鳴き声につられ、私達のいる通路を覗き込んでくる人が何人かいたけれど、完全に知らんぷりのエースはすごいと思う。
「あ、ちなみにこっちの鳥の鳴き声は見た目に反して結構低くてさ……」
そう言いながら隣の鳥のボタンを押そうとするエース。
私は彼の腕をがしっと掴む。
「押さんでいい!!」
「え、そう?」
「迷惑! 図書館では静かにしましょう!!」
睨みつけながらそう言うと、彼はくすくすと笑った。
「ごめんごめん。名無しさんにも知ってほしくてさ」
「嫌がらせとしか思えませんけど」
「そんなことないよ」
口を尖らせる私に、エースはいつもの爽やか笑顔を見せる。
「ねぇ、名無しさん。今度一緒に本物を見に行こうよ」
「え?」
「のんびりと旅をしながら、さ」
「……バードウォッチングってこと?」
「うん。あ、別に鳥じゃなくてもいいよ。花でも星でも熊でもなんでもいい。俺けっこう知ってるから」
なんで熊?と思ったけれど、彼の言葉はなんだか嬉しかった。
「旅をしてると、名無しさんに見せたいなって思うものが結構たくさんあるんだ。だから、今度一緒に行こう」
エースは穏やかにそう言いながら、笑いかけてくる。
彼の中身がハチャメチャであることを知っていても、拒否なんて出来なくて、気づいたらうなずいていた私。
私がうなずいたのを見て、エースはふわりと笑った。
うっかりその顔に見とれていたら、ふっと顔が近づいてきた。
その時初めて、私は自分がいつのまにか本棚に押し付けられていることに気づいた。
「約束。忘れないでくれよ?」
彼は私の耳元でそう言ってそのままキスを落とすと、「そのうち迎えに行くから」と言い残して、さっさと行ってしまった。
赤いコートがひらひらと揺れるのを私はぼんやりと眺めながら、耳元に手をやる。
彼が残していった感触に、かーっと顔が熱くなる。
「そのうちって……いつ?」
迷子ばかりの彼が私をちゃんと迎えに来てくれるのか、ちょっぴり心配。
でも、彼はどんなに遅くなっても目的地までちゃんとたどり着く。それは絶対だ。
エースの後ろ姿は見えなくなったけれど、私の鼓動はどうしようもないくらい早かった。
ドキドキしっぱなしで待つのは結構つらい。
「なるべく早めでお願いします」
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