キャロットガール
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【3.再会】
「ほんと、どうしよう。これ……」
私は大量のにんじんを前に腕組みをしていた。
シチューで使ったけれど、まだまだ大量に残っている。
「にんじんサラダとかにんじんグラッセとか? それにしたってこんなに使わないよね」
ユリウスはあんまり食にこだわりがなく、1~2食は平気で抜く。
座りっぱなしの省エネな仕事(って言ったら怒られた)なので、おなかがあまりすかないからだと思う。
良く食べるという点ではエースに期待した方がいいと思うけど、彼はまたすぐに出て行ってしまうだろう。
つまり……私しかこのにんじんを消費できる人間がここにはいない!!
その事実に気づいてしまった。
「いや、いいんだけどね。にんじんは嫌いじゃないし、野菜だし体にいいしヘルシーだろうし……。何かいいにんじん料理ってあったっけ?」
悩んだ末、私は街の本屋さんまでやってきた。
にんじん料理のレシピ本を探しにきたのだ。
ウサギさんが住む世界だけあって、レシピ本は種類が豊富だった。
「どれがいいのかなぁ?」
たくさんあるレシピ本を片っ端からぱらぱらとめくる。
私でも作れるような簡単なレシピで、美味しそうなメニューがたくさん載ってるものがいいなぁ。
なんて思いながら、ひたすら悩む私。
ユリウスがいたら「大した違いなんてないだろう。さっさと決めろ」と怒られそうだ。
あぁ、私ってほんと決められない女……。
そんな風に思っていた時だった。
「あ」
という声がして、突然後ろからぽんと肩を叩かれた。
え?と思って振り返る私。
見ると、そこにはこの前の大きなウサギのお兄さんがいた。
私は思わず「あ!」と声を上げる。
すると彼はにかっと笑った。
「お、あんたやっぱりあの時の……また会ったな」
オレンジ色の髪の毛と長い耳をふわふわとさせながら、彼は機嫌よく笑っていた。
私もつられて笑顔になる。また会えたこともなんだか嬉しかった。
「この間はどうもありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる私を見て、彼は楽しそうに笑う。
「おう。美味かっただろ?」
「はい。美味しかったです」
そう答えた私の手元を見て、彼は「ん?」と首を傾げた。
「なに? にんじん料理の本?」
「はい。この前のにんじんがまだあるから、何を作ればいいのかと思って……」
私がそう言うと、彼は「へぇ、偉いな、あんた」と感心したように言った。
「でも、レシピ本もいっぱいあってどれを買おうか悩んでるんです」
そう答えながら、思いがけない再会にちょっぴりドキドキしてきた私。
隣に立った彼の足元に視線を落とす。
そういえば、このお兄さんはあの大量のにんじんをどうしたんだろう?
そう思った時、彼がこう言った。
「俺のオススメはにんじんケーキだな!」
「にんじんケーキ?」
思わぬ言葉に彼を見上げる。
「にんじんスフレもうまいし、にんじんマフィンも捨てがたいけど、やっぱりにんじんのクリームがたっぷり入ったにんじんケーキが一番だぜ!」
「……そうなんですか」
にんじんづくしな上、甘いものづくしだなぁ。
この人、ちょっぴり怖そうな見た目に反して甘党なのかもしれない。(なんか可愛いかも)
「そのにんじんケーキって私食べたことないんですけど」
「マジで?! あんなに美味いものを食ったことないのか!?」
そう言って、彼は熱くにんじんケーキについて語り始めた。
「にんじんケーキっていうのは、にんじん風味の柔らかいスポンジに優しい甘味のにんじんクリームがたっぷりと乗っていて……」
彼は一生懸命説明してくれた。
しかしわかったことは、彼がどれだけにんじんケーキが好きかということだけだった。
「って感じのケーキだな。あんた食べたことないなんてもったいないぜ!」
「はぁ……。それは簡単に作れるものなんですか?」
「んー?どうだろう?ちょっとわかんねぇなぁ。俺料理なんてしたことねぇし」
あんな大量ににんじんを買っていた彼だけれど、どうやらコックさんではないらしい。
じゃあ一体何をしている人なんだろう?
疑問を持つ私をよそに、彼は私の手にある本を覗き込んだ。
ふっと顔が近づく。
背の高い彼が本を見ようと、少しかがみこむような姿勢になったせいだ。
「えぇと、この本の中で一番うちで食べるにんじんケーキに近いのは……」
そう言いながら、私の手にある本のページをじゃんじゃんめくっていく。
一生懸命本を見つめている彼だけれど、私はというと気が気ではない。
2度目とはいえ、ほぼ初対面の人とこんなにも顔を近づけていいのだろうか?
ちらりと彼を見てみる。
前から見てもキリっとしている顔立ちだとは思うけれど、無造作にはねた綺麗なオレンジ色の髪の毛とシャープなあごのライン、通った鼻筋がとても綺麗だった。
なんとなく凄みのある雰囲気とウサギ耳のせいで気づかなかったけれど、実は整った顔をしていたんだなぁ。
間近で彼を見てしまい、思いっきりドキドキしてしまった。
いかんいかん!
私は手元の本に視線を落とす。
その瞬間ページを繰る彼の手がぴたりと止まった。
「あー、これこれ。こんな感じ」
彼は声をあげて写真を指さした。
そこには美味しそうなケーキのカラー写真。
思ったよりもにんじんっぽい感じがしない。
「見た目はこんな感じ。味はさすがに食ってみないとわかんないけど、まぁ試してみてくれよ」
な?
と言いながら彼はふっと私を見た。
至近距離でばちりと視線が合い、私は息を詰める。
ドキドキしっぱなしの胸をなんとか押さえながら、こくこくと頷くと彼は満足そうに笑ってあるべき距離に戻る。
「さて、俺はそろそろ行かないと。これから仕事なんだ」
「そうなんですか」
なんだかちょっぴり残念。
急に心が曇ってしまったような感覚。
すると、彼は頭をかきながらサラリとこう言った。
「仕事じゃなければうちのケーキをあんたに食ってもらいたかったけど、まぁ、それは今度機会があればな」
「え? えぇ、今度……」
とりあえずそう答えたけれど、それってつまり彼の家に行くということですかね。
再びドッキリする私をよそに、彼はさらに続ける。
「あんた、この辺に住んでるのか?」
その質問に戸惑う私。
時計塔に住んでます、というのはやめておいた方がいいかもしれない。
あらぬ噂や誤解を招いてユリウスに迷惑をかけたら嫌だし。
「はい、すぐそこの公園の近くなんですけど……あなたは?」
「俺? 俺はこの辺ではないけど、仕事でこの辺はよく来るんだ。また会えそうだな」
また会うかもというその言葉に今度はちょっぴり嬉しくなる。
「あぁそうだ。あんたに良い物やる」
そう言って、彼はポケットをごそごそと探ると、右手をグーにしたままその手を私に差し出した。
「ほら、手ぇ出せよ」
「え?」
戸惑う私を、彼はじっと見つめる。
そっと手を差し出すと、彼は私の手のひらにバラバラとキャンディを乗せた。
「わ!?」
片手では受け取りきれず、私は慌てて両手を差し出す。
両手いっぱいに乗ったキャンディを唖然として見つめていると、彼が笑った。
「にんじんキャンディ。美味いんだ。あんたにやる」
「え、こんなに?」
「あぁ。美味いから食ってほしいんだ。あんた良い奴だし、にんじん好きなら絶対ハマる!」
「ありがとう」
私は特ににんじん好きなわけではないけれど、あまりに彼が嬉しそうに笑うので否定なんて出来なかった。
「俺はエリオット=マーチだ。あんたは?」
「私は名無しさん」
「名無しさんか」
彼はそう言ってうなずくと、私の頭をぽんぽんと2度たたいた。
「またな、名無しさん」
そして、大きな歩幅でずんずんと歩いて行ってしまった。
「……エリオット=マーチ」
叩かれた頭をなでながら、彼の後ろ姿をぼんやりと眺める私だった。
胸の奥がまだなんだかドキドキする。
「ほんと、どうしよう。これ……」
私は大量のにんじんを前に腕組みをしていた。
シチューで使ったけれど、まだまだ大量に残っている。
「にんじんサラダとかにんじんグラッセとか? それにしたってこんなに使わないよね」
ユリウスはあんまり食にこだわりがなく、1~2食は平気で抜く。
座りっぱなしの省エネな仕事(って言ったら怒られた)なので、おなかがあまりすかないからだと思う。
良く食べるという点ではエースに期待した方がいいと思うけど、彼はまたすぐに出て行ってしまうだろう。
つまり……私しかこのにんじんを消費できる人間がここにはいない!!
その事実に気づいてしまった。
「いや、いいんだけどね。にんじんは嫌いじゃないし、野菜だし体にいいしヘルシーだろうし……。何かいいにんじん料理ってあったっけ?」
悩んだ末、私は街の本屋さんまでやってきた。
にんじん料理のレシピ本を探しにきたのだ。
ウサギさんが住む世界だけあって、レシピ本は種類が豊富だった。
「どれがいいのかなぁ?」
たくさんあるレシピ本を片っ端からぱらぱらとめくる。
私でも作れるような簡単なレシピで、美味しそうなメニューがたくさん載ってるものがいいなぁ。
なんて思いながら、ひたすら悩む私。
ユリウスがいたら「大した違いなんてないだろう。さっさと決めろ」と怒られそうだ。
あぁ、私ってほんと決められない女……。
そんな風に思っていた時だった。
「あ」
という声がして、突然後ろからぽんと肩を叩かれた。
え?と思って振り返る私。
見ると、そこにはこの前の大きなウサギのお兄さんがいた。
私は思わず「あ!」と声を上げる。
すると彼はにかっと笑った。
「お、あんたやっぱりあの時の……また会ったな」
オレンジ色の髪の毛と長い耳をふわふわとさせながら、彼は機嫌よく笑っていた。
私もつられて笑顔になる。また会えたこともなんだか嬉しかった。
「この間はどうもありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる私を見て、彼は楽しそうに笑う。
「おう。美味かっただろ?」
「はい。美味しかったです」
そう答えた私の手元を見て、彼は「ん?」と首を傾げた。
「なに? にんじん料理の本?」
「はい。この前のにんじんがまだあるから、何を作ればいいのかと思って……」
私がそう言うと、彼は「へぇ、偉いな、あんた」と感心したように言った。
「でも、レシピ本もいっぱいあってどれを買おうか悩んでるんです」
そう答えながら、思いがけない再会にちょっぴりドキドキしてきた私。
隣に立った彼の足元に視線を落とす。
そういえば、このお兄さんはあの大量のにんじんをどうしたんだろう?
そう思った時、彼がこう言った。
「俺のオススメはにんじんケーキだな!」
「にんじんケーキ?」
思わぬ言葉に彼を見上げる。
「にんじんスフレもうまいし、にんじんマフィンも捨てがたいけど、やっぱりにんじんのクリームがたっぷり入ったにんじんケーキが一番だぜ!」
「……そうなんですか」
にんじんづくしな上、甘いものづくしだなぁ。
この人、ちょっぴり怖そうな見た目に反して甘党なのかもしれない。(なんか可愛いかも)
「そのにんじんケーキって私食べたことないんですけど」
「マジで?! あんなに美味いものを食ったことないのか!?」
そう言って、彼は熱くにんじんケーキについて語り始めた。
「にんじんケーキっていうのは、にんじん風味の柔らかいスポンジに優しい甘味のにんじんクリームがたっぷりと乗っていて……」
彼は一生懸命説明してくれた。
しかしわかったことは、彼がどれだけにんじんケーキが好きかということだけだった。
「って感じのケーキだな。あんた食べたことないなんてもったいないぜ!」
「はぁ……。それは簡単に作れるものなんですか?」
「んー?どうだろう?ちょっとわかんねぇなぁ。俺料理なんてしたことねぇし」
あんな大量ににんじんを買っていた彼だけれど、どうやらコックさんではないらしい。
じゃあ一体何をしている人なんだろう?
疑問を持つ私をよそに、彼は私の手にある本を覗き込んだ。
ふっと顔が近づく。
背の高い彼が本を見ようと、少しかがみこむような姿勢になったせいだ。
「えぇと、この本の中で一番うちで食べるにんじんケーキに近いのは……」
そう言いながら、私の手にある本のページをじゃんじゃんめくっていく。
一生懸命本を見つめている彼だけれど、私はというと気が気ではない。
2度目とはいえ、ほぼ初対面の人とこんなにも顔を近づけていいのだろうか?
ちらりと彼を見てみる。
前から見てもキリっとしている顔立ちだとは思うけれど、無造作にはねた綺麗なオレンジ色の髪の毛とシャープなあごのライン、通った鼻筋がとても綺麗だった。
なんとなく凄みのある雰囲気とウサギ耳のせいで気づかなかったけれど、実は整った顔をしていたんだなぁ。
間近で彼を見てしまい、思いっきりドキドキしてしまった。
いかんいかん!
私は手元の本に視線を落とす。
その瞬間ページを繰る彼の手がぴたりと止まった。
「あー、これこれ。こんな感じ」
彼は声をあげて写真を指さした。
そこには美味しそうなケーキのカラー写真。
思ったよりもにんじんっぽい感じがしない。
「見た目はこんな感じ。味はさすがに食ってみないとわかんないけど、まぁ試してみてくれよ」
な?
と言いながら彼はふっと私を見た。
至近距離でばちりと視線が合い、私は息を詰める。
ドキドキしっぱなしの胸をなんとか押さえながら、こくこくと頷くと彼は満足そうに笑ってあるべき距離に戻る。
「さて、俺はそろそろ行かないと。これから仕事なんだ」
「そうなんですか」
なんだかちょっぴり残念。
急に心が曇ってしまったような感覚。
すると、彼は頭をかきながらサラリとこう言った。
「仕事じゃなければうちのケーキをあんたに食ってもらいたかったけど、まぁ、それは今度機会があればな」
「え? えぇ、今度……」
とりあえずそう答えたけれど、それってつまり彼の家に行くということですかね。
再びドッキリする私をよそに、彼はさらに続ける。
「あんた、この辺に住んでるのか?」
その質問に戸惑う私。
時計塔に住んでます、というのはやめておいた方がいいかもしれない。
あらぬ噂や誤解を招いてユリウスに迷惑をかけたら嫌だし。
「はい、すぐそこの公園の近くなんですけど……あなたは?」
「俺? 俺はこの辺ではないけど、仕事でこの辺はよく来るんだ。また会えそうだな」
また会うかもというその言葉に今度はちょっぴり嬉しくなる。
「あぁそうだ。あんたに良い物やる」
そう言って、彼はポケットをごそごそと探ると、右手をグーにしたままその手を私に差し出した。
「ほら、手ぇ出せよ」
「え?」
戸惑う私を、彼はじっと見つめる。
そっと手を差し出すと、彼は私の手のひらにバラバラとキャンディを乗せた。
「わ!?」
片手では受け取りきれず、私は慌てて両手を差し出す。
両手いっぱいに乗ったキャンディを唖然として見つめていると、彼が笑った。
「にんじんキャンディ。美味いんだ。あんたにやる」
「え、こんなに?」
「あぁ。美味いから食ってほしいんだ。あんた良い奴だし、にんじん好きなら絶対ハマる!」
「ありがとう」
私は特ににんじん好きなわけではないけれど、あまりに彼が嬉しそうに笑うので否定なんて出来なかった。
「俺はエリオット=マーチだ。あんたは?」
「私は名無しさん」
「名無しさんか」
彼はそう言ってうなずくと、私の頭をぽんぽんと2度たたいた。
「またな、名無しさん」
そして、大きな歩幅でずんずんと歩いて行ってしまった。
「……エリオット=マーチ」
叩かれた頭をなでながら、彼の後ろ姿をぼんやりと眺める私だった。
胸の奥がまだなんだかドキドキする。