真夏のティーパーティー!
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アリスとの旅行から無事に帰ってきた私。
そう、帰ってきたばかりなのだ。
それなのに私は今ブラッドの部屋の前に立っている。
疲れ果てていた私は自室に入って荷物をどっこいしょと置き、お茶を飲んで一息つこうと準備をしていたら、急に呼び出されたのだ。
メイドさん曰く「大至急ボスの所へ」とのことだったけれど、何かあったのだろうか?
私はドアをノックする。
「ブラッド。入ってもいい?」
一拍おいてから「どうぞ」という声。
私はドアを開けた。
部屋に入ると、ブラッドはいつものように仕事机で何かをしていた。
私の姿を見ると手を止める。
「やぁ、名無しさん」
「お邪魔します」
部屋に入ったのは良いが、ブラッドは特になにも言わない。
ただ私をじっと見ている。
「? えーと、な、なにかな?」
「……」
「ブラッド? 何か用事があるんじゃないの?」
そんな私の問いにも答えず、ただただじっと彼は私を見ている。
一体なんなんだろう? 大至急というから急いできてみたというのに。
旅行帰りのぼんやりした頭で考えてみる。……旅行帰り……ま、まさかね?
「……ただいま戻りました」
思い切ってそう言ってみた。
すると彼はにやりと笑う。
「おかえり。お嬢さん」
満足そうに言う彼。
そしてしばらくお互いに黙って見つめあう。
「……え? まさかそれだけ?」
ただいまと言わせに来ただけだったりする??
「それだけだよ」
さらりと肯定されて私は脱力した。
ふふふと笑っているブラッドに、ちょっとボス……それはないよ、と心の中でつぶやく。
「なにか大変なことでもあったのかと思った」
「大変なこと? 大したことは何もなかったよ。ただ名無しさんがいないとつまらないというだけだったな」
「はぁ。そうですか」
特におもしろさを提供しているつもりはないけどな。
がくりとする私をブラッドが楽しそうに見ている。
彼は書類を揃えて立ち上がるとソファに座り、私にも座るように合図をした。
「旅行は楽しかったか?」
「うん。楽しかったよ。なんだか色々あったけど」
「聞くところによると、門番達が遊びに行ったそうだな」
「あぁ、うん。来た来た。すぐに帰っていったけど、やっぱりサボリだったの?」
「本人たちは見回りだと言い張っていたがね」
「あ~、なんだか想像つくな。あの子たちが言い張ってる姿。 エリオットが怒ったんじゃない?」
でもブラッドはめんどくさくなって、それで良しとしちゃってそうだな~。
そこまで考える私は、自分でも気づかないうちに頬が緩んでしまっていた。
ふとブラッドを見ると彼は優しい目で私を見ていた。
「やはり、名無しさんがいると楽しいな」
目が合うなりそう言われて、なんだか照れる。
「特に何もしなくても、君がいれば退屈しないよ。お嬢さん」
「面白がられてるってことだよね、それ」
照れ隠しにそう言ってしまう私だったけれど、本当はすごく嬉しい言葉をもらったなと思う。
自分を必要としてもらえているという安心感。
ブラッドから必要とされていると思うと、嬉しいという表現ではおさまらないくらい。
そわそわとした気持ちを静めようと息を吸い込んだ時、ブラッドが私の手にそっと触れた。
思わずそのまま息を止めてしまう。
「名無しさんはこの5時間帯の間に、私のことを少しでも考えてくれたのかな?」
「……そりゃあ少しくらいは」
触れられた手にドキドキしつつ、遠慮気味に言ってみた。
本当は「少しくらい」どころじゃないけれど、それは秘密にしておこう。
私の答えに、ブラッドは「不公平だな」と言って笑う。
「私は早く名無しさんに帰ってきてほしいとばかり思っていたよ」
私の手をそっと握りながら、ブラッドが言った。
珍しく素直な発言だったけれどまっすぐな目でそう言われたので、からかわれているのではないことがすぐにわかる。
恥ずかしさと嬉しさが入り混じった気持ちで、私はなんと答えるべきか必死に考えた。
しかし何もいい言葉が浮かばず、出てきたのはこれだった。
「ただいま」
ただ一言だったけれど、そっけなくは響かなかったと思う。
少なくともブラッドには、私が抱いている言葉にしにくい感情が伝わったらしい。
「おかえり」
穏やかに優しい口調で言って微笑むと、彼は私の手にキスをした。