キャロットガール
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【時計塔生活】
買い物を終えた私は、必死に時計塔の上を目指して登っていた。
両手がちぎれるんじゃないかと思うくらいの買い物袋を持って。
「……重い……やっぱりにんじんを減らすべきだった」
一時のときめきで私はどうかしていた。
あのウサギの彼の笑顔にうっかりとほだされ、にんじんを10本も買ってしまうなんて……
シチューの材料はにんじんだけではないのだ。ジャガイモだって玉ねぎだってある。重すぎる!
「あの人はコックさんじゃなくて、にんじん農家の方なのかもしれない」
そんな訳のわからない考えを巡らせてしまうほどに、今しんどい。
長い階段はまだまだ続いている。
「……またユリウスに呆れられるよ」
出がけに「持てる分だけ買って来い」と言われた手前、ユリウスに荷物運びの手伝いをお願いするわけにもいかない。
街でばったりエースに出会い荷物を持たせる、ということを実は密かに期待していたのだが、残念ながらそんなミラクルは起きなかった。
仕方ない、根性あるのみ!と私は必死に階段を登った。
やっとの思いで部屋にたどり着き、ドアを開ける。
「ただいま~」
あー、もう無理!限界だー、と買い物袋を下にドスンと置くと、爽やかな声が飛んできた。
「やぁ、名無しさん!おかえり」
見るとユリウスの隣りで何かを話し合っていたらしいエースがいた。
「あぁ、エース。いらっしゃい。来てたんだね」
「うん。名無しさんと入れ違いになったみたい」
「え?でも階段ですれ違わなかったよね?」
エースの言葉に首を傾げると、ユリウスがきっぱりと言った。
「どうせおかしなルートからこの部屋にたどり着いたんだろう。この塔で6時間帯くらい迷っていたらしいからな」
「……うわ、それはすごいね」
どうやったらこの塔で6時間帯も迷えるんだろう?
「すごいだろ? 最速記録更新!これまではどんなに頑張っても10時間帯はこの塔で迷ってたんだ」
にこにことそんなことを言うエースに、私とユリウスは思わず顔を見合わせてため息をついた。
「ところで名無しさん。お前また余計なものをたくさん買って来たんじゃないだろうな?」
私の足元の買い物袋に視線をやりながらユリウスが言う。
言い訳するように私は手をぶんぶんと振った。
「え、えぇと……余計なものではないよ? ちょっと量をたくさん買っちゃっただけ」
「……お前は本当に懲りないな」
ユリウスは呆れたような表情をする。でも言い方がなんだか優しい。
最初のころとはだいぶ違う口調になったことを感じて嬉しくなる。
「いいの。今日はシチュー作るよー。エースも食べるよね?」
「シチュー? いいね! まともな食事を食べるのって久しぶりだな」
そんな話をしながら買ってきたものを冷蔵庫にしまおうとしたら、ふと見慣れない箱がテーブルにあることに気づいた。
「ユリウスー、この箱なに?」
声をあげるとエースが答えた。
「あぁ、それお土産。なんか今街で人気のお菓子屋さんって所に迷い込んだから、ついでに買ってみたんだ。名無しさんが好きそうだったしね。
賞味期限は大丈夫だと思うよ。日持ちするものを選んだから」
「俺って気が利くよね」とエースが言い、「あぁ、そうだな。万年迷子のお前には必要な気遣いだ」とユリウスが皮肉を込めて返す。
結局そのお菓子でお茶にしようということになった。
「うーん、どれにしようかなぁ」
エースが持ってきてくれたお土産の箱の中身は、すごく美味しそうなクッキーだった。
5種類のクッキーが2枚ずつ入っている。
私はものすごく真剣にそのクッキーたちを見据えた。
「ははは! すっごい真剣だね、名無しさん!」
「真剣だよ。だってどれも美味しそうなんだもん」
でも3人で分けるから、数的に全ての種類は食べられない。
うーむ、どれにしよう……。
「お菓子くらいでお前は本当に優柔不断だな」
「う……おっしゃる通りです」
ユリウスにズバリと言われたけれど、こればかりはどうしようもない。
「これも美味しそうだし、こっちのチョコ味も美味しそう。でもこのメープルも捨てがたいし……」
「名無しさん、俺これにしちゃうよ?」
「あー!待って待って!お願いだからちょっと待って!」
手を伸ばしてきたエースを制し、私は悩む。
するとユリウスが呆れたように言った。
「私の分も食べればいいだろう。お前にやる」
「え!? いいの!?」
「どうせエースだって名無しさんのために買ってきたんだろう。それにお前が太ろうがどうなろうがどうでもいいからな」
「! うわ、ひどい発言」
「じゃあいらないのか?」
「……いります。いただきます。どうもありがとうございます」
ぺこりと頭を下げると、ユリウスは「ふん」と言いながら珈琲を飲んだ。
隣では「ユリウス優しい~」とにやにや笑うエース。
ユリウスはそんなエースを睨みつけるが、彼は全く動じない。
ぱっと私を見ると、楽しそうにこう言った。
「それにしてもお菓子でそこまで悩むなんて、名無しさんは可愛いなぁ。女の子って感じだよね」
「え、ほんと? ありがとう! 褒められた!」
「名無しさんの場合は、ただの優柔不断だ」
エースの言葉に喜ぶと、ユリウスが冷たく言い放つ。
「自分で欲しいものくらいすぐに選べなくてどうするんだ」
「ユリウス、女の子は欲張りだからなんでも欲しがるんだよ。ほら、女の子同士ってご飯を食べてるときに、よく食べ物を交換してるじゃないか」
エースの発言に私も声を上げた。
「そうそう! そうなんだよ。ユリウスは女心をわかってないよ」
「そういう男はモテないぜ?」
「だよね!」
エースとやいやい言っていたら、ユリウスがじろりと睨んでくる。
「うるさい。私が女心なんてわかるわけないだろう」
「ちょっとくらい学んだ方がいいと思うぜ? 名無しさんに嫌われたくないだろ?」
「別にどうでもいい!」
「あはは!素直になれよユリウス!」
ふん、と顔をそむけつつもなんだか顔の赤いユリウスと、彼の肩をぽんと叩いてからからと笑うエース。
仲良しな2人だなぁと思いながら、彼らのやりとりをのんびり見ていた私だったけれど、
その時ふいにさっきの買い物での出来事を思い出した。
「あ、でもね、私もうにんじんを選ぶときは迷わないよ!」
「にんじん?」
突然の私の言葉に2人は不思議そうな顔をする。
「うん。あのね、さっきにんじんを買おうと思ってどれがいいのか悩んでたら、にんじんのプロっていうか回し者っぽいウサギのお兄さんが
おいしいにんじんの見分け方を教えてくれたの。すっごい笑顔で教えてくれてね、たぶん相当なにんじん愛を持った人だと思うんだよね」
「にんじんのプロ?」
「ウサギのお兄さん……?」
エースとユリウスはそうつぶやいて、顔をしかめた。
「色が濃くてツヤツヤで、茎が細いのがいいんだって! つい10本も買っちゃったんだけど、そのお兄さんは30本くらい買っていてね……」
意気揚々としゃべり続ける私をよそに、ユリウスとエースはぼそぼそと話している。
「……にんじん好きで大きなウサギ」
「それってまさか……」
苦笑する2人に気づくことなく私はそのウサギのお兄さんについてしゃべり続けた。
買い物を終えた私は、必死に時計塔の上を目指して登っていた。
両手がちぎれるんじゃないかと思うくらいの買い物袋を持って。
「……重い……やっぱりにんじんを減らすべきだった」
一時のときめきで私はどうかしていた。
あのウサギの彼の笑顔にうっかりとほだされ、にんじんを10本も買ってしまうなんて……
シチューの材料はにんじんだけではないのだ。ジャガイモだって玉ねぎだってある。重すぎる!
「あの人はコックさんじゃなくて、にんじん農家の方なのかもしれない」
そんな訳のわからない考えを巡らせてしまうほどに、今しんどい。
長い階段はまだまだ続いている。
「……またユリウスに呆れられるよ」
出がけに「持てる分だけ買って来い」と言われた手前、ユリウスに荷物運びの手伝いをお願いするわけにもいかない。
街でばったりエースに出会い荷物を持たせる、ということを実は密かに期待していたのだが、残念ながらそんなミラクルは起きなかった。
仕方ない、根性あるのみ!と私は必死に階段を登った。
やっとの思いで部屋にたどり着き、ドアを開ける。
「ただいま~」
あー、もう無理!限界だー、と買い物袋を下にドスンと置くと、爽やかな声が飛んできた。
「やぁ、名無しさん!おかえり」
見るとユリウスの隣りで何かを話し合っていたらしいエースがいた。
「あぁ、エース。いらっしゃい。来てたんだね」
「うん。名無しさんと入れ違いになったみたい」
「え?でも階段ですれ違わなかったよね?」
エースの言葉に首を傾げると、ユリウスがきっぱりと言った。
「どうせおかしなルートからこの部屋にたどり着いたんだろう。この塔で6時間帯くらい迷っていたらしいからな」
「……うわ、それはすごいね」
どうやったらこの塔で6時間帯も迷えるんだろう?
「すごいだろ? 最速記録更新!これまではどんなに頑張っても10時間帯はこの塔で迷ってたんだ」
にこにことそんなことを言うエースに、私とユリウスは思わず顔を見合わせてため息をついた。
「ところで名無しさん。お前また余計なものをたくさん買って来たんじゃないだろうな?」
私の足元の買い物袋に視線をやりながらユリウスが言う。
言い訳するように私は手をぶんぶんと振った。
「え、えぇと……余計なものではないよ? ちょっと量をたくさん買っちゃっただけ」
「……お前は本当に懲りないな」
ユリウスは呆れたような表情をする。でも言い方がなんだか優しい。
最初のころとはだいぶ違う口調になったことを感じて嬉しくなる。
「いいの。今日はシチュー作るよー。エースも食べるよね?」
「シチュー? いいね! まともな食事を食べるのって久しぶりだな」
そんな話をしながら買ってきたものを冷蔵庫にしまおうとしたら、ふと見慣れない箱がテーブルにあることに気づいた。
「ユリウスー、この箱なに?」
声をあげるとエースが答えた。
「あぁ、それお土産。なんか今街で人気のお菓子屋さんって所に迷い込んだから、ついでに買ってみたんだ。名無しさんが好きそうだったしね。
賞味期限は大丈夫だと思うよ。日持ちするものを選んだから」
「俺って気が利くよね」とエースが言い、「あぁ、そうだな。万年迷子のお前には必要な気遣いだ」とユリウスが皮肉を込めて返す。
結局そのお菓子でお茶にしようということになった。
「うーん、どれにしようかなぁ」
エースが持ってきてくれたお土産の箱の中身は、すごく美味しそうなクッキーだった。
5種類のクッキーが2枚ずつ入っている。
私はものすごく真剣にそのクッキーたちを見据えた。
「ははは! すっごい真剣だね、名無しさん!」
「真剣だよ。だってどれも美味しそうなんだもん」
でも3人で分けるから、数的に全ての種類は食べられない。
うーむ、どれにしよう……。
「お菓子くらいでお前は本当に優柔不断だな」
「う……おっしゃる通りです」
ユリウスにズバリと言われたけれど、こればかりはどうしようもない。
「これも美味しそうだし、こっちのチョコ味も美味しそう。でもこのメープルも捨てがたいし……」
「名無しさん、俺これにしちゃうよ?」
「あー!待って待って!お願いだからちょっと待って!」
手を伸ばしてきたエースを制し、私は悩む。
するとユリウスが呆れたように言った。
「私の分も食べればいいだろう。お前にやる」
「え!? いいの!?」
「どうせエースだって名無しさんのために買ってきたんだろう。それにお前が太ろうがどうなろうがどうでもいいからな」
「! うわ、ひどい発言」
「じゃあいらないのか?」
「……いります。いただきます。どうもありがとうございます」
ぺこりと頭を下げると、ユリウスは「ふん」と言いながら珈琲を飲んだ。
隣では「ユリウス優しい~」とにやにや笑うエース。
ユリウスはそんなエースを睨みつけるが、彼は全く動じない。
ぱっと私を見ると、楽しそうにこう言った。
「それにしてもお菓子でそこまで悩むなんて、名無しさんは可愛いなぁ。女の子って感じだよね」
「え、ほんと? ありがとう! 褒められた!」
「名無しさんの場合は、ただの優柔不断だ」
エースの言葉に喜ぶと、ユリウスが冷たく言い放つ。
「自分で欲しいものくらいすぐに選べなくてどうするんだ」
「ユリウス、女の子は欲張りだからなんでも欲しがるんだよ。ほら、女の子同士ってご飯を食べてるときに、よく食べ物を交換してるじゃないか」
エースの発言に私も声を上げた。
「そうそう! そうなんだよ。ユリウスは女心をわかってないよ」
「そういう男はモテないぜ?」
「だよね!」
エースとやいやい言っていたら、ユリウスがじろりと睨んでくる。
「うるさい。私が女心なんてわかるわけないだろう」
「ちょっとくらい学んだ方がいいと思うぜ? 名無しさんに嫌われたくないだろ?」
「別にどうでもいい!」
「あはは!素直になれよユリウス!」
ふん、と顔をそむけつつもなんだか顔の赤いユリウスと、彼の肩をぽんと叩いてからからと笑うエース。
仲良しな2人だなぁと思いながら、彼らのやりとりをのんびり見ていた私だったけれど、
その時ふいにさっきの買い物での出来事を思い出した。
「あ、でもね、私もうにんじんを選ぶときは迷わないよ!」
「にんじん?」
突然の私の言葉に2人は不思議そうな顔をする。
「うん。あのね、さっきにんじんを買おうと思ってどれがいいのか悩んでたら、にんじんのプロっていうか回し者っぽいウサギのお兄さんが
おいしいにんじんの見分け方を教えてくれたの。すっごい笑顔で教えてくれてね、たぶん相当なにんじん愛を持った人だと思うんだよね」
「にんじんのプロ?」
「ウサギのお兄さん……?」
エースとユリウスはそうつぶやいて、顔をしかめた。
「色が濃くてツヤツヤで、茎が細いのがいいんだって! つい10本も買っちゃったんだけど、そのお兄さんは30本くらい買っていてね……」
意気揚々としゃべり続ける私をよそに、ユリウスとエースはぼそぼそと話している。
「……にんじん好きで大きなウサギ」
「それってまさか……」
苦笑する2人に気づくことなく私はそのウサギのお兄さんについてしゃべり続けた。