短編2

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余所者で普通の女の子が夢主です
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  【悪党】


エリオットは、よく私の頭をなでる。
いや、なでるというほど優しくはない。
どちらかというと弟とか、気を許した同性の後輩の頭をぐしゃぐしゃっとかき回すような感じ。

彼なりに気を使っているのか、実際そこまで髪の毛は乱れない。けれど、大きな手ががしっと乗っかってくるのは結構な衝撃だ。
でも、それがちょっと心地いい、なんて思っちゃってる私。

何を隠そう私はエリオットが好きなのだ。
彼のその行動が何の気なしのものだとしても、私はかなりときめいてしまっている。
恥ずかしいから絶対に秘密だけどね。

そんなある日、帽子屋屋敷の廊下でばったりエリオットに会った。


「あ、エリオット」
「おー名無しさん、いいものやるよ!」

会うなり彼はそう言ってポケットから小さな包みを出した。

「ほら、これ。めっちゃくちゃ美味いぞ」

にこにこと渡されたそれは、中身を見なくてもわかる。

「にんじんのお菓子?」
「そう、よくわかったな!にんじんキャラメルだ」

にんじんキャラメル……想像できないわ。

「こんなにいっぱい、いいの?」
「あぁ。名無しさんに食ってほしいんだよ。美味いから」

エリオットは気を許した相手にはとことん優しい。
私は彼ほどにんじん好きではないけれど、気持ちがすごく嬉しい。

「……ありがと」

お礼を言う私の頭をぐしゃっと撫でて、嬉しそうにエリオットが笑った。
もうね、そういうの反則だと思う。
私は高鳴る胸を静めようと深呼吸をし、にやける顔を隠そうとうつむく。

「髪の毛がぐしゃぐしゃになっちゃうよ」

髪の毛を整えるふりをしながら、彼の手の感触をなぞる。

「悪い悪い」
「絶対そう思ってないでしょ」

楽しそうに笑うエリオットに口をとがらせる。

「あんただって嫌がってないだろ」

思わぬ言葉にエリオットを見る。
そんな私の様子に、一瞬驚いた顔を見せたエリオット。

「お、図星?」

にやりと笑みを浮かべて私を覗き込んでくるエリオットに、言葉を返せない。

「……ふぅん。そういう反応か」

ぼそりとつぶやかれた言葉は、楽しそうに響いた。
私は気持ちがばれたのかと気まずくて、彼の顔を見ることができない。

「俺すぐ顔に出るって言われるけど、名無しさんもそうだよな。素直」
「そ、そんなことないでしょ……」

否定の言葉も尻すぼみになってしまう。
今の自分の気持ちは、全て顔に出ているとわかっているから。

「へぇ? そうなのか?」

そう言いながら、顔を近づけて私をじぃっと見つめてきた。
ちらりと視線をあげると、目の前には真剣な表情のエリオット。

「な、なんですか!?」
「……」

思わず後ずさりをすると、彼はそのまま一歩距離を詰めてくる。

「近いよ」
「……」

何も答えずひたすら私を見つめてくるエリオットは、意地悪そうに笑った。

「嫌なら押しのければいいだろ」

からかわれたという恥ずかしさと、気持ちを知られたくないという意地で、言われるがまま私は彼を押しのけようと手を出した。
すると、その手をがしりと掴まれる。
彼がニヤリと笑うのが見えた。

「素直っつーか、意地っ張りっつーか……」
「!?」

まんまとやられたらしい。
掴まれた手をぐいっと引かれ、エリオットの胸の中に入ってしまった。

「暴れない所をみると、本当は嫌じゃないってことでいいよな?」
「……暴れた所で抑え込まれるでしょう?」
「まぁ、そうかもしれねぇな」

私の言葉にエリオットはぼそりとつぶやく。

「最低」
「でも、嫌じゃないんだからいいだろ」
「嫌じゃないなんて言ってない」
「じゃあ暴れてみるか? そうなると、俺も少々手荒な手段に出るかもしれねぇけど」
「……」

エリオットならいいや、とか思いそうになる自分をぐっと押さえる。(もう私のばか!)
そんな私の思いなど露知らず、彼は「ん」と小さくうなずいた。

「よしよし。俺だって名無しさんには手荒な真似はしたくねぇんだ」
「……すっごい悪党のセリフだよ、それ」
「当たり前だろ。すっごい悪党だからな、俺」

そう言って彼は私の頭をなでる。
大きくて優しい手に、思わず目をつむった。

「悪党と意地っ張りでいいコンビなんじゃねぇの?」
「……意地っ張りじゃないもん」
「そのセリフがもう意地っ張りだよな。まぁ、そこがいいんだけどさ」

エリオットはそう言って笑いながら私にキスをした。
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