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【27.ずっとふたりで】
ブラッドが出て行き、グレイと2人きりになった私。
なんとなく気まずい感じでグレイを見ると、彼も私をじっと見ていた。
……これはどうなんだろう?怒ってるのかな?
さっきはいきなり逃げちゃったし、ブラッドとくっついている所を見られちゃったし……。
あぁ、もしかしたらアリスと結婚することになったとかそういう話をされちゃったりするかもしれない。
どうしよう、なにを言えばいいんだろう?
そんなふうに必死に考えを巡らせていると、グレイは何も言わずに私の元へ近づいてきた。
そして私に目の前でぴたりと足を止めると、じっと私を見つめる。
「……」
その視線に耐えられなくなりそうな時だった。
グレイは何も言わずに私を抱きしめた。
「!」
予想外の彼の行動にびっくりして固まる私だったけれど、煙草の匂いが鼻を掠めた瞬間なんだかほっとした。
私にとってはバラの匂いよりも煙草の方が落ち着くらしい。
あぁ、やっぱり私はこの人が好きだ。
そう思ってグレイを抱きしめ返すと、さらにぎゅっと抱きしめられた。
「……はぁ」
グレイは耳元で小さくため息をつく。
ため息をつかれてしまった。
私に愛想を尽かせたのかもしれないなぁ。
そう思って悲しくなったけれど「よかった」という小さな声が続いて聞こえた。
安堵のため息であることに気づき、心配させていたことに申し訳なさがこみあげてくる。
「君がまさか門番達を盾に逃げるとは思わなかった」
ほんの少し笑いながら言うグレイに、私は「ごめんなさい」と謝る。
しばらく抱き合ったまま黙っていた私達だったけれど、グレイがすっと腕をゆるめて私を見た。
「名無しさん、どうして俺から逃げ回っていたんだ? 俺が君に何かしてしまったのなら聞かせてほしい」
グレイは真剣な表情でそう言った。
本当に心当たりがないらしい。
きっとアリスへのプロポーズというのも私の勘違いなんだろう。
素直にそう思えた。
けれど、今さら「なんでもないです」とは言えない。
グレイに迷惑をかけてしまったし、ここまで来たらちゃんと確認するべきだ。
「あのね……実は私、さっきグレイがアリスに結婚してほしいって言っているのを聞いちゃって……」
あれはきっと何かの間違いなんだろうとは思っていても、やっぱりものすごくドキドキした。
そんな私をよそに、グレイは「あぁ、あの話を聞いていたのか」と納得したように言う。
「確かにアリスに結婚してほしいと言った」
あっさり頷かれて、私は再びショックを受ける。
しかし、彼はすぐにこう続けた。
「確かに言ったが、それは俺との話じゃない。ナイトメア様とだ」
「……え?」
ナイトメア??
「ナイトメア様には、アリスのようにしっかりした女性がついていた方がいい。なんだかんだ彼女の言うことはちゃんと聞いているしな。この忙しい時期も彼女がいたから、あの方はサボらずになんとか仕事をしていたんだ。
アリスとの結婚に関してはナイトメア様も乗り気のようだったし、アリスに俺から少し話をしてみたんだ」
「……少し話をしてみたというか、まるで自分のことのようにがっつり結婚を迫っていたよね?」
要望に応えるだとか、早い方がいいとか、色々言ってた気がする。
私の言葉にグレイは真面目にこう言った。
「ナイトメア様をアリスに売り込むのはかなり必死にならないと無理だと思ったからな」
「まぁ、そうかもしれないけど……」
はっきり言うね、と突っ込むと彼は白々しく咳払いをした。
「とにかく、あれはアリスとナイトメア様の話だ。だから名無しさんが心配するようなことはなにもないよ」
「……そっかぁ」
本人の口からしっかり否定されたことで、私は一気に体中の力が抜けた。
へろへろと座り込む私を、グレイが驚いたように見ている。
「名無しさん?」
「うん、ごめん。そっか。よかった。私、すっごい勘違いしちゃってね……うわぁ、やだもう馬鹿みたい」
ほっとしたような、情けないようなおかしな気分。
「もうてっきり私、グレイがアリスにプロポーズしたものだと思っちゃって……すっごいショックを一人で受けちゃった」
「それでどんどんマイナス思考に陥った、ということか?」
「うん」
グレイの言葉に私はこくりと頷いた。
はぁ、もうほんと馬鹿みたいだ。自分が嫌になる。
「ごめんね、グレイ。私、グレイのこと信じたかったんだけど、途中ですごく不安になっちゃった」
「いや、俺も悪いんだ。疑われるようなことをしてしまったからな。それに門番や帽子屋が名無しさんに色々とよけいなことを吹き込んだんだろう?君が不安になるのは当然だ」
「でも、ちょっと会えないくらいでこんな風になっちゃうなんて……グレイだって困るよね」
ダメだなぁ私、とつぶやくと彼は私の頭をぽんと撫でた。
反射的にグレイを見上げると、彼はものすごく優しい目で私を見ていた。
「不安にさせてすまない」
そう言いつつも表情はなんだかいつもよりも緩んでいる。
「……なんで笑うの?」
「いや、笑うというか……そこまで名無しさんが俺のことを想ってくれているのかと思うとつい、な」
「だって、私はグレイが好きなんだもん」
思わずそう言うと、彼は面食らったような顔をする。
「……名無しさん、君は本当にいつも不意打ちだな」
おかげで振り回されてばかりだ、と言いながらグレイは私の手を取って立ち上がらせる
いやいや、私の方が絶対振り回されていますと言おうと思ったけれど、まっすぐに見つめられて私は言葉を失った。
じっと彼を見つめることしかできなくて、どうしても動けなかった。
するとグレイは穏やかにさらりとこう言った。
「俺には君しかいないよ」
その言葉に私の鼓動がドキンと跳ねた。
一気に体がかーっと熱くなる私を見て、グレイはふわりと笑いながら私の頬をなでる。
「好きだ、名無しさん」
胸が一杯になって私は彼に抱きついた。
「名無しさん、本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫だと思うよ。やっぱりこういうのはとりあえず王道で攻めてみた方がいいと思うから」
花束を片手にちらりとこちらを見てくるナイトメアに、私は強くうなずいた。
これから作戦Fを決行することになっている。
広い部屋の中央で、私とナイトメアは最後の打ち合わせをしているのであった。
「お花をもらって嫌な気持ちになる女子はいないの。プロポーズはしなくてもいいから、とにかくちゃんとアリスにプレゼントしてくるんだよ!」
「わかった」
ナイトメアは神妙な面持ちでうなずいた。
「それにしてもナイトメアがアリスのことを好きだなんて全然知らなかったなぁ」
「君はグレイのことしか見ていなかったからな」
「う……!」
ずばりとそう言われて、私は言葉に詰まった。
そんな私を見てナイトメアはくすくすと笑うと、笑みを残したまま私に言う。
「君たちを見ていて恋人というものもいいな、と思ったんだ。愛しあい、信頼できる相手がいることが羨ましくなったんだよ」
「……そんなに大袈裟なものではないと思うけど」
なんだか恥ずかしい。
ナイトメアはふふふと笑うけれど、茶化すことなく続ける。
「本人たちにとってみれば当たり前のことなんだろうな。羨ましいよ」
「そうなのかなぁ」
「あぁ、そうなんだよ。いいことだ。別に照れる必要もないし、隠すこともない」
ナイトメアは静かに、でもきっぱりとそう言った。
私はなんだか嬉しくなる。
ナイトメアは私を見て満足そうにうなずくと、「よし」と声を出した。
「それじゃあ私はそろそろ行くよ。当たって砕けることにしよう」
「そんな、砕けるだなんて……まだわからないでしょう?」
アリスに会う前からそんな寂しいことを言わないでほしい。
しかし、ナイトメアは首を横に振る。そして綺麗に笑った。
「名無しさん、私は人の心が読めてしまうんだ。彼女が私をどう思っているかなんてずっと前から知っているよ。悲しいことにね」
「……ナイトメア」
思わず言葉に詰まる私だったけれど、ぐっと彼を見つめる。
「ナイトメア。1回砕けたってどうってことないよ! その後の頑張りが大切だからね! 私が良い例でしょう?」
「……そういえば君はグレイにうっかり告白してフラれたっけな。ははは」
「まぁ、今となっては笑い話だけど……でもね、あの時フラれた私を『チャンスだ』って慰めてくれたのはナイトメアだからね!?今回ダメでも、次につながるはずだから頑張ってよ!」
そう必死に言う私をあっけにとられたように見ていたナイトメア。
しかしすぐにふっと表情をゆるめて笑った。
「そうだな。頑張ってみることにするよ。ありがとう、名無しさん」
「うん、頑張って!」
花束を抱えて出て行くナイトメアを見送る私。
すると、入れ替えにグレイがやってきた。
「また何かするんだな」
花束を持ったナイトメアを見たらしいグレイは笑っている。
「うん。アリスにアタック作戦Fだよ」
「F……フラワーのFか?」
「あたり」
「次から次へとよく思いつくな」と言いながら、グレイはソファに座った。
「うまくいってほしいからね」と答えながら私も彼の隣に座る。
「恋愛にクールなアリスだけど、花束プレゼントっていう王道は一応試した方がいいでしょう?」
「そうだな」
グレイは楽しそうに笑う。
「やっぱりね、王道は全部試してみた方がいいと思うの。で、ダメだったら次に行く。王道が全滅したらサプライズにいくの。でもサプライズは私苦手だから、その辺りはナイトメアに自分で考えてもらわないとだけど」
「なるほど」
私がべらべらとしゃべり、グレイが相槌を打つ。いつもの感じ。
しかし、今日は違った。
「名無しさん」
「ん?」
「俺もサプライズは苦手なんだ」
「あ、そうなんだ?でもナイトメアは結構そういうの好きそうだから、もしやるとしたら本人に任せればいいんじゃない?」
「王道の花束すら君に贈っていないな、俺は」
「あぁ、私達のこと? 別にいいよー。今度プレゼントしてくれれば」
なんてね、と言おうとした時だった。
グレイがすっと何かを差し出した。小さな箱。
「え……?」
「本物はそのうちちゃんと用意する。これでも虫よけくらいにはなるだろう?」
珍しく歯切れの悪いグレイ。
私はそっとその箱を受け取る。ものすごくドキドキした。
「開けていいの?」
「あぁ」
そっと開けてみると、そこにはちょこんと指輪が入っていた。
それを見た瞬間、泣きそうになっている自分がいて驚いた。
「……これ、いいの?もらっても」
「あぁ。受け取ってもらえないと困る」
「ありがとう」
私はそっとその指輪をつまみ上げる。なんだか指が震えるんですけど……。
「サイズもわからなかったから、合わなかったら交換してもらう」
グレイはそう言いながら私から指輪を取り、左手を取る。
私はドキドキしながら、彼が指輪を私の手にはめてくれるのを見つめる。
知らない間に息を止めていたらしく、彼の手が離れた瞬間に大きく息を吐く。
そっと左手を持ち上げてみた。
薬指にはめてもらった指輪はほんの少しゆるい。
でも私は全然気にならなかった。
嬉しくてそのままグレイに抱きつくと、彼はしっかりと受け止めてくれた。
「もう一つサイズが下の方がよかったか」
「大丈夫。これに合う指になるように私は頑張るよ」
思わずそう言った私に「何をだ?」と笑いながら突っ込むグレイ。
しばらく2人でくすくす笑う私達。
「次はちゃんとサイズの合う物を用意する」
「うん。楽しみにしてるね」
次……それはどんな意味を持つ指輪になるんだろう。
そう考えて胸が一杯になる。
幸せすぎてどうしようもないって、今の状況なのかもしれない。
グレイを見ると、彼とばっちり目が合った。
私の好きで好きで仕方ない人。
この人をちゃんと信じてついていけたらいいなぁ。
そう思ってじっと見つめていたら、彼はふわりと微笑んだ。
私もつられて笑う。
そのまま私達はキスをした。
あぁもう何も考えなくてもいいや。
ずっと2人で笑っていられたらそれでいい。
おわり
ブラッドが出て行き、グレイと2人きりになった私。
なんとなく気まずい感じでグレイを見ると、彼も私をじっと見ていた。
……これはどうなんだろう?怒ってるのかな?
さっきはいきなり逃げちゃったし、ブラッドとくっついている所を見られちゃったし……。
あぁ、もしかしたらアリスと結婚することになったとかそういう話をされちゃったりするかもしれない。
どうしよう、なにを言えばいいんだろう?
そんなふうに必死に考えを巡らせていると、グレイは何も言わずに私の元へ近づいてきた。
そして私に目の前でぴたりと足を止めると、じっと私を見つめる。
「……」
その視線に耐えられなくなりそうな時だった。
グレイは何も言わずに私を抱きしめた。
「!」
予想外の彼の行動にびっくりして固まる私だったけれど、煙草の匂いが鼻を掠めた瞬間なんだかほっとした。
私にとってはバラの匂いよりも煙草の方が落ち着くらしい。
あぁ、やっぱり私はこの人が好きだ。
そう思ってグレイを抱きしめ返すと、さらにぎゅっと抱きしめられた。
「……はぁ」
グレイは耳元で小さくため息をつく。
ため息をつかれてしまった。
私に愛想を尽かせたのかもしれないなぁ。
そう思って悲しくなったけれど「よかった」という小さな声が続いて聞こえた。
安堵のため息であることに気づき、心配させていたことに申し訳なさがこみあげてくる。
「君がまさか門番達を盾に逃げるとは思わなかった」
ほんの少し笑いながら言うグレイに、私は「ごめんなさい」と謝る。
しばらく抱き合ったまま黙っていた私達だったけれど、グレイがすっと腕をゆるめて私を見た。
「名無しさん、どうして俺から逃げ回っていたんだ? 俺が君に何かしてしまったのなら聞かせてほしい」
グレイは真剣な表情でそう言った。
本当に心当たりがないらしい。
きっとアリスへのプロポーズというのも私の勘違いなんだろう。
素直にそう思えた。
けれど、今さら「なんでもないです」とは言えない。
グレイに迷惑をかけてしまったし、ここまで来たらちゃんと確認するべきだ。
「あのね……実は私、さっきグレイがアリスに結婚してほしいって言っているのを聞いちゃって……」
あれはきっと何かの間違いなんだろうとは思っていても、やっぱりものすごくドキドキした。
そんな私をよそに、グレイは「あぁ、あの話を聞いていたのか」と納得したように言う。
「確かにアリスに結婚してほしいと言った」
あっさり頷かれて、私は再びショックを受ける。
しかし、彼はすぐにこう続けた。
「確かに言ったが、それは俺との話じゃない。ナイトメア様とだ」
「……え?」
ナイトメア??
「ナイトメア様には、アリスのようにしっかりした女性がついていた方がいい。なんだかんだ彼女の言うことはちゃんと聞いているしな。この忙しい時期も彼女がいたから、あの方はサボらずになんとか仕事をしていたんだ。
アリスとの結婚に関してはナイトメア様も乗り気のようだったし、アリスに俺から少し話をしてみたんだ」
「……少し話をしてみたというか、まるで自分のことのようにがっつり結婚を迫っていたよね?」
要望に応えるだとか、早い方がいいとか、色々言ってた気がする。
私の言葉にグレイは真面目にこう言った。
「ナイトメア様をアリスに売り込むのはかなり必死にならないと無理だと思ったからな」
「まぁ、そうかもしれないけど……」
はっきり言うね、と突っ込むと彼は白々しく咳払いをした。
「とにかく、あれはアリスとナイトメア様の話だ。だから名無しさんが心配するようなことはなにもないよ」
「……そっかぁ」
本人の口からしっかり否定されたことで、私は一気に体中の力が抜けた。
へろへろと座り込む私を、グレイが驚いたように見ている。
「名無しさん?」
「うん、ごめん。そっか。よかった。私、すっごい勘違いしちゃってね……うわぁ、やだもう馬鹿みたい」
ほっとしたような、情けないようなおかしな気分。
「もうてっきり私、グレイがアリスにプロポーズしたものだと思っちゃって……すっごいショックを一人で受けちゃった」
「それでどんどんマイナス思考に陥った、ということか?」
「うん」
グレイの言葉に私はこくりと頷いた。
はぁ、もうほんと馬鹿みたいだ。自分が嫌になる。
「ごめんね、グレイ。私、グレイのこと信じたかったんだけど、途中ですごく不安になっちゃった」
「いや、俺も悪いんだ。疑われるようなことをしてしまったからな。それに門番や帽子屋が名無しさんに色々とよけいなことを吹き込んだんだろう?君が不安になるのは当然だ」
「でも、ちょっと会えないくらいでこんな風になっちゃうなんて……グレイだって困るよね」
ダメだなぁ私、とつぶやくと彼は私の頭をぽんと撫でた。
反射的にグレイを見上げると、彼はものすごく優しい目で私を見ていた。
「不安にさせてすまない」
そう言いつつも表情はなんだかいつもよりも緩んでいる。
「……なんで笑うの?」
「いや、笑うというか……そこまで名無しさんが俺のことを想ってくれているのかと思うとつい、な」
「だって、私はグレイが好きなんだもん」
思わずそう言うと、彼は面食らったような顔をする。
「……名無しさん、君は本当にいつも不意打ちだな」
おかげで振り回されてばかりだ、と言いながらグレイは私の手を取って立ち上がらせる
いやいや、私の方が絶対振り回されていますと言おうと思ったけれど、まっすぐに見つめられて私は言葉を失った。
じっと彼を見つめることしかできなくて、どうしても動けなかった。
するとグレイは穏やかにさらりとこう言った。
「俺には君しかいないよ」
その言葉に私の鼓動がドキンと跳ねた。
一気に体がかーっと熱くなる私を見て、グレイはふわりと笑いながら私の頬をなでる。
「好きだ、名無しさん」
胸が一杯になって私は彼に抱きついた。
「名無しさん、本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫だと思うよ。やっぱりこういうのはとりあえず王道で攻めてみた方がいいと思うから」
花束を片手にちらりとこちらを見てくるナイトメアに、私は強くうなずいた。
これから作戦Fを決行することになっている。
広い部屋の中央で、私とナイトメアは最後の打ち合わせをしているのであった。
「お花をもらって嫌な気持ちになる女子はいないの。プロポーズはしなくてもいいから、とにかくちゃんとアリスにプレゼントしてくるんだよ!」
「わかった」
ナイトメアは神妙な面持ちでうなずいた。
「それにしてもナイトメアがアリスのことを好きだなんて全然知らなかったなぁ」
「君はグレイのことしか見ていなかったからな」
「う……!」
ずばりとそう言われて、私は言葉に詰まった。
そんな私を見てナイトメアはくすくすと笑うと、笑みを残したまま私に言う。
「君たちを見ていて恋人というものもいいな、と思ったんだ。愛しあい、信頼できる相手がいることが羨ましくなったんだよ」
「……そんなに大袈裟なものではないと思うけど」
なんだか恥ずかしい。
ナイトメアはふふふと笑うけれど、茶化すことなく続ける。
「本人たちにとってみれば当たり前のことなんだろうな。羨ましいよ」
「そうなのかなぁ」
「あぁ、そうなんだよ。いいことだ。別に照れる必要もないし、隠すこともない」
ナイトメアは静かに、でもきっぱりとそう言った。
私はなんだか嬉しくなる。
ナイトメアは私を見て満足そうにうなずくと、「よし」と声を出した。
「それじゃあ私はそろそろ行くよ。当たって砕けることにしよう」
「そんな、砕けるだなんて……まだわからないでしょう?」
アリスに会う前からそんな寂しいことを言わないでほしい。
しかし、ナイトメアは首を横に振る。そして綺麗に笑った。
「名無しさん、私は人の心が読めてしまうんだ。彼女が私をどう思っているかなんてずっと前から知っているよ。悲しいことにね」
「……ナイトメア」
思わず言葉に詰まる私だったけれど、ぐっと彼を見つめる。
「ナイトメア。1回砕けたってどうってことないよ! その後の頑張りが大切だからね! 私が良い例でしょう?」
「……そういえば君はグレイにうっかり告白してフラれたっけな。ははは」
「まぁ、今となっては笑い話だけど……でもね、あの時フラれた私を『チャンスだ』って慰めてくれたのはナイトメアだからね!?今回ダメでも、次につながるはずだから頑張ってよ!」
そう必死に言う私をあっけにとられたように見ていたナイトメア。
しかしすぐにふっと表情をゆるめて笑った。
「そうだな。頑張ってみることにするよ。ありがとう、名無しさん」
「うん、頑張って!」
花束を抱えて出て行くナイトメアを見送る私。
すると、入れ替えにグレイがやってきた。
「また何かするんだな」
花束を持ったナイトメアを見たらしいグレイは笑っている。
「うん。アリスにアタック作戦Fだよ」
「F……フラワーのFか?」
「あたり」
「次から次へとよく思いつくな」と言いながら、グレイはソファに座った。
「うまくいってほしいからね」と答えながら私も彼の隣に座る。
「恋愛にクールなアリスだけど、花束プレゼントっていう王道は一応試した方がいいでしょう?」
「そうだな」
グレイは楽しそうに笑う。
「やっぱりね、王道は全部試してみた方がいいと思うの。で、ダメだったら次に行く。王道が全滅したらサプライズにいくの。でもサプライズは私苦手だから、その辺りはナイトメアに自分で考えてもらわないとだけど」
「なるほど」
私がべらべらとしゃべり、グレイが相槌を打つ。いつもの感じ。
しかし、今日は違った。
「名無しさん」
「ん?」
「俺もサプライズは苦手なんだ」
「あ、そうなんだ?でもナイトメアは結構そういうの好きそうだから、もしやるとしたら本人に任せればいいんじゃない?」
「王道の花束すら君に贈っていないな、俺は」
「あぁ、私達のこと? 別にいいよー。今度プレゼントしてくれれば」
なんてね、と言おうとした時だった。
グレイがすっと何かを差し出した。小さな箱。
「え……?」
「本物はそのうちちゃんと用意する。これでも虫よけくらいにはなるだろう?」
珍しく歯切れの悪いグレイ。
私はそっとその箱を受け取る。ものすごくドキドキした。
「開けていいの?」
「あぁ」
そっと開けてみると、そこにはちょこんと指輪が入っていた。
それを見た瞬間、泣きそうになっている自分がいて驚いた。
「……これ、いいの?もらっても」
「あぁ。受け取ってもらえないと困る」
「ありがとう」
私はそっとその指輪をつまみ上げる。なんだか指が震えるんですけど……。
「サイズもわからなかったから、合わなかったら交換してもらう」
グレイはそう言いながら私から指輪を取り、左手を取る。
私はドキドキしながら、彼が指輪を私の手にはめてくれるのを見つめる。
知らない間に息を止めていたらしく、彼の手が離れた瞬間に大きく息を吐く。
そっと左手を持ち上げてみた。
薬指にはめてもらった指輪はほんの少しゆるい。
でも私は全然気にならなかった。
嬉しくてそのままグレイに抱きつくと、彼はしっかりと受け止めてくれた。
「もう一つサイズが下の方がよかったか」
「大丈夫。これに合う指になるように私は頑張るよ」
思わずそう言った私に「何をだ?」と笑いながら突っ込むグレイ。
しばらく2人でくすくす笑う私達。
「次はちゃんとサイズの合う物を用意する」
「うん。楽しみにしてるね」
次……それはどんな意味を持つ指輪になるんだろう。
そう考えて胸が一杯になる。
幸せすぎてどうしようもないって、今の状況なのかもしれない。
グレイを見ると、彼とばっちり目が合った。
私の好きで好きで仕方ない人。
この人をちゃんと信じてついていけたらいいなぁ。
そう思ってじっと見つめていたら、彼はふわりと微笑んだ。
私もつられて笑う。
そのまま私達はキスをした。
あぁもう何も考えなくてもいいや。
ずっと2人で笑っていられたらそれでいい。
おわり
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