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【26.波紋】
また会合期間がやってくるらしい。
みんな忙しそうにしている。
グレイはいつ寝ているんだろう、というくらい働いていて、傍から見ていても大変そうだ。
同じ塔に住んでいるとは言っても仕事をしている彼の邪魔をしたくないので、私は彼の周りをうろうろしないようにしていた。
自然と会う機会も減る。
この間も約束が彼の仕事でキャンセルになってしまった。
すごく残念だったけれど、心から謝ってくれたので悲しい気持ちを飲み込んで「大丈夫だよ」と言ってしまった。
以前は仕事の合間を縫って会っていたけれど、ここ最近は姿をちらりと見かける程度だ。
寂しいけど仕方がない。会合が終わるまでは我慢しないとね。
そんなふうに思って過ごしていたある日のことだった。
廊下を歩いていたら、休憩室のドアがほんの少し開いていて、そこからグレイの声が聞こえた。
誰かと話をしているらしい。
休憩中なら少しくらい話してもいいかなぁと思い、私もその部屋に入ろうとした時だった。
「結婚してほしい」
静かな休憩室に、そんなグレイの言葉がどすんと落ちた。
私は耳を疑った。
ドアを開けようとした手はそのまま固まり、私は廊下にたちつくす。
すると、部屋の中のグレイがもう一度慎重な声で言った。
「結婚してほしいんだ、アリス」
私は目の前がまっくらになった。頭を殴られたような衝撃を受ける。
ドアの隙間から、向かい合って座るグレイとアリスが見えた。
グレイは私ではなく、アリスに向かって「結婚してほしい」と言ったのだ。
「え?」
「できれば早い方がいい。式の準備はこちらでやるし、要望があればできる限りこたえるつもりだ」
「で、でもそんな突然……」
「そうだな。確かにこの忙しい時期に言うべきことではないだろう。しかし、この時期になんとかやってこられたのはアリス、君がいたからだ」
「グレイ」
そこまで聞いてしまった私の頭は真っ白だった。
ここからはグレイの後ろ姿しか見えない。どんな表情なのかわからない。
でも私の心臓はものすごい勢いでドクドクとなっていて、自分の呼吸が浅くなっていることに気づいた。
なんだかくらくらする。
そっとドアから手を引くと早くその場を離れたくて、とりあえず廊下を走る。
なに? 今のはなに?
『結婚してほしいんだ、アリス』というグレイの声が頭の中で繰り返される。
なんで?どういうこと?全然わからない。
私は彼の仕事が忙しいから会えないと思っていた。我慢していた。
だけど、もしかしたら会えない理由は違うことなのかもしれない。
頭がぐちゃぐちゃしたまま、ひたすら走る。
すると、曲がり角でどすんと何かにぶつかった。
「わ!?」
「!」
ぶつかった拍子に倒れるかと思ったらそのまま抱きとめられた。
「名無しさん?!」
「びっくりした~! 名無しさんだ。大丈夫?」
私がぶつかったのは、大人姿の双子の門番だった。
驚いた様子だったけれど、彼らはしっかりと私を支えてくれていた。
「よかった、僕ら大人になってたからちゃんと支えてあげられたね」
「うん、さすがに子どもの姿だったら不意打ちすぎて一緒に倒れてたかもね」
「ご、ごめん……」
彼らに謝った拍子に、張りつめていた気持ちが緩んだ。
私はそのまま力が抜けてその場に座り込む。
すると、ディーとダムは慌てたように声を上げた。
「わっ!? 名無しさん?? どこか痛かった?」
「大丈夫? どこが痛いのか教えて?」
しゃがみこんで私の様子を伺う彼らに、私は首を振った。
「ごめん、大丈夫。どこも痛くない」
体は全然痛くない。
「でも、辛そうな顔してるよ」
ディーが顔をしかめてそう言った。
「何かあったの?」
ダムはじっと私を見てそう言った。
今何かを言えば泣き出しそうな気がしたので、私は黙りこむ。
「もしかして、蓑虫の部下になにかされた?」
「ケンカしたの? フラれた? 浮気??」
……この子たち、どうして直球で聞いてくるんだろう。
容赦ない言葉に私の心はさらにへこむ。
「……兄弟。これは一大事だよ。あいつ、名無しさんのことを傷つけたんだ」
「許せないね。名無しさんの優しさにつけ込んで、名無しさんのことを弄んだんだ」
ディーとダムは勝手に話を進めていく。
でも彼らの言う通りなのかな?
私は弄ばれてしまったということになるのかなぁ?
「かわいそうな名無しさん」
「僕らなら絶対名無しさんにそんな顔させないよ」
ディーとダムはそう言いながら、そっと私の頭や頬をなでる。
はちゃめちゃな彼らだが、本当に心配してくれているのがわかって、不覚にも泣きそうになってしまう。
「安心して名無しさん。僕らがちゃんとあいつを懲らしめてあげる」
「これからは僕らがずっと名無しさんを守ってあげるからね」
彼らは私の顔を覗きこんだ。
「だから元気出して」
そう言いながら2人が顔を近づけてきた時だった。
「名無しさん?」
その声に私はびくりとした。
振り返ると書類を抱えたグレイがいた。
「グレイ……」
「大丈夫か? どうした?」
彼はそう言って私のそばにやってきた。
するとディーがすっと立ち上がり、背中に私を隠す様にしてグレイの前に立った。
そして斧を彼に向ける。
「!」
グレイは立ち止まると双子を睨みつけた。
「お前達、名無しさんに何をした?」
彼の言葉に、斧を向けたままディーが静かに口を開いた。
「それはこっちのセリフだよ」
ダムも立ち上がって私とグレイの間に入る。
「あんた、名無しさんになにしたの?僕達けっこう怒ってるんだけど」
「なにって……俺がなにかしたのか、名無しさん?」
グレイは驚いたように私を見る。
彼は本当に心当たりがないようだった。
でも、それじゃあさっきのあれはなんだったの?
「名無しさん」
困ったように名前を呼ばれて、私はどうしていいのかわからなくなった。
「……わからないよ、私」
何をどう話せばいいのか、なんだかよくわからない。
わからないけど、とりあえず今グレイと話すっていう気持ちにはなれない。
そうなると道は一つだ。
私は立ち上がると、目の前の双子とその先にいるグレイを見る。
グレイと目が合い、思わず視線を逸らしてしまった。
どうしようもなくなった私は、ディーとダムの背中をポンと押した。
「ディー、ダム。足止めよろしく!」
「わ!?」
「名無しさん!?」
グレイの前に押し出された格好のディーとダムは慌てて私を振り返る。
「名無しさん!」
グレイの声が聞こえたけれど、私は振り返らずにその場から猛ダッシュで逃げた。
また会合期間がやってくるらしい。
みんな忙しそうにしている。
グレイはいつ寝ているんだろう、というくらい働いていて、傍から見ていても大変そうだ。
同じ塔に住んでいるとは言っても仕事をしている彼の邪魔をしたくないので、私は彼の周りをうろうろしないようにしていた。
自然と会う機会も減る。
この間も約束が彼の仕事でキャンセルになってしまった。
すごく残念だったけれど、心から謝ってくれたので悲しい気持ちを飲み込んで「大丈夫だよ」と言ってしまった。
以前は仕事の合間を縫って会っていたけれど、ここ最近は姿をちらりと見かける程度だ。
寂しいけど仕方がない。会合が終わるまでは我慢しないとね。
そんなふうに思って過ごしていたある日のことだった。
廊下を歩いていたら、休憩室のドアがほんの少し開いていて、そこからグレイの声が聞こえた。
誰かと話をしているらしい。
休憩中なら少しくらい話してもいいかなぁと思い、私もその部屋に入ろうとした時だった。
「結婚してほしい」
静かな休憩室に、そんなグレイの言葉がどすんと落ちた。
私は耳を疑った。
ドアを開けようとした手はそのまま固まり、私は廊下にたちつくす。
すると、部屋の中のグレイがもう一度慎重な声で言った。
「結婚してほしいんだ、アリス」
私は目の前がまっくらになった。頭を殴られたような衝撃を受ける。
ドアの隙間から、向かい合って座るグレイとアリスが見えた。
グレイは私ではなく、アリスに向かって「結婚してほしい」と言ったのだ。
「え?」
「できれば早い方がいい。式の準備はこちらでやるし、要望があればできる限りこたえるつもりだ」
「で、でもそんな突然……」
「そうだな。確かにこの忙しい時期に言うべきことではないだろう。しかし、この時期になんとかやってこられたのはアリス、君がいたからだ」
「グレイ」
そこまで聞いてしまった私の頭は真っ白だった。
ここからはグレイの後ろ姿しか見えない。どんな表情なのかわからない。
でも私の心臓はものすごい勢いでドクドクとなっていて、自分の呼吸が浅くなっていることに気づいた。
なんだかくらくらする。
そっとドアから手を引くと早くその場を離れたくて、とりあえず廊下を走る。
なに? 今のはなに?
『結婚してほしいんだ、アリス』というグレイの声が頭の中で繰り返される。
なんで?どういうこと?全然わからない。
私は彼の仕事が忙しいから会えないと思っていた。我慢していた。
だけど、もしかしたら会えない理由は違うことなのかもしれない。
頭がぐちゃぐちゃしたまま、ひたすら走る。
すると、曲がり角でどすんと何かにぶつかった。
「わ!?」
「!」
ぶつかった拍子に倒れるかと思ったらそのまま抱きとめられた。
「名無しさん?!」
「びっくりした~! 名無しさんだ。大丈夫?」
私がぶつかったのは、大人姿の双子の門番だった。
驚いた様子だったけれど、彼らはしっかりと私を支えてくれていた。
「よかった、僕ら大人になってたからちゃんと支えてあげられたね」
「うん、さすがに子どもの姿だったら不意打ちすぎて一緒に倒れてたかもね」
「ご、ごめん……」
彼らに謝った拍子に、張りつめていた気持ちが緩んだ。
私はそのまま力が抜けてその場に座り込む。
すると、ディーとダムは慌てたように声を上げた。
「わっ!? 名無しさん?? どこか痛かった?」
「大丈夫? どこが痛いのか教えて?」
しゃがみこんで私の様子を伺う彼らに、私は首を振った。
「ごめん、大丈夫。どこも痛くない」
体は全然痛くない。
「でも、辛そうな顔してるよ」
ディーが顔をしかめてそう言った。
「何かあったの?」
ダムはじっと私を見てそう言った。
今何かを言えば泣き出しそうな気がしたので、私は黙りこむ。
「もしかして、蓑虫の部下になにかされた?」
「ケンカしたの? フラれた? 浮気??」
……この子たち、どうして直球で聞いてくるんだろう。
容赦ない言葉に私の心はさらにへこむ。
「……兄弟。これは一大事だよ。あいつ、名無しさんのことを傷つけたんだ」
「許せないね。名無しさんの優しさにつけ込んで、名無しさんのことを弄んだんだ」
ディーとダムは勝手に話を進めていく。
でも彼らの言う通りなのかな?
私は弄ばれてしまったということになるのかなぁ?
「かわいそうな名無しさん」
「僕らなら絶対名無しさんにそんな顔させないよ」
ディーとダムはそう言いながら、そっと私の頭や頬をなでる。
はちゃめちゃな彼らだが、本当に心配してくれているのがわかって、不覚にも泣きそうになってしまう。
「安心して名無しさん。僕らがちゃんとあいつを懲らしめてあげる」
「これからは僕らがずっと名無しさんを守ってあげるからね」
彼らは私の顔を覗きこんだ。
「だから元気出して」
そう言いながら2人が顔を近づけてきた時だった。
「名無しさん?」
その声に私はびくりとした。
振り返ると書類を抱えたグレイがいた。
「グレイ……」
「大丈夫か? どうした?」
彼はそう言って私のそばにやってきた。
するとディーがすっと立ち上がり、背中に私を隠す様にしてグレイの前に立った。
そして斧を彼に向ける。
「!」
グレイは立ち止まると双子を睨みつけた。
「お前達、名無しさんに何をした?」
彼の言葉に、斧を向けたままディーが静かに口を開いた。
「それはこっちのセリフだよ」
ダムも立ち上がって私とグレイの間に入る。
「あんた、名無しさんになにしたの?僕達けっこう怒ってるんだけど」
「なにって……俺がなにかしたのか、名無しさん?」
グレイは驚いたように私を見る。
彼は本当に心当たりがないようだった。
でも、それじゃあさっきのあれはなんだったの?
「名無しさん」
困ったように名前を呼ばれて、私はどうしていいのかわからなくなった。
「……わからないよ、私」
何をどう話せばいいのか、なんだかよくわからない。
わからないけど、とりあえず今グレイと話すっていう気持ちにはなれない。
そうなると道は一つだ。
私は立ち上がると、目の前の双子とその先にいるグレイを見る。
グレイと目が合い、思わず視線を逸らしてしまった。
どうしようもなくなった私は、ディーとダムの背中をポンと押した。
「ディー、ダム。足止めよろしく!」
「わ!?」
「名無しさん!?」
グレイの前に押し出された格好のディーとダムは慌てて私を振り返る。
「名無しさん!」
グレイの声が聞こえたけれど、私は振り返らずにその場から猛ダッシュで逃げた。