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【25.恋は欲望】
とりあえず初めてのお茶会を終えて帰ってきた私。
クローバーの塔に着いてすぐに私はグレイを探した。
心配してくれていただろうし、お土産のおかげで助かったことも話したい。
なによりも、今すぐグレイに会いたい。会って顔を見たいのだ。
思い当たる場所をうろうろと探していると、廊下を曲がったところで見慣れた彼の背中を発見!
私のテンションは一気にぐわっとあがった。
グレイはファイルを片手にずんずん歩いていく。
まっすぐに伸びた背筋と長い手足。
頭身が高いし、なんといっても頭の形がいい。
私は彼の後ろ姿も好きなのだ。
……なんてじっくり観察をしていたら、彼がどんどん遠ざかって行くことに気づいた。
私は慌ててグレイを呼び止める。
「グレイ!」
追いかけながら名前を呼ぶと、グレイはすっと振り返って立ち止まった。
「あぁ、名無しさん。帰ってきたのか」
穏やかな調子でそう言ったけれど、明らかに安堵した表情を浮かべたグレイ。
どうやら心配してくれていたようだ。
「うん。ただいま」
「おかえり。早かったな」
「うん。グレイのお土産のおかげだよ。ありがとう」
私は彼に駆け寄り、隣の位置に落ち着いた。
グレイは優しい表情で私を見て言う。
「役に立ったなら良かった。土産の意味を理解したうえで無視するような奴らだから、ちょっと心配だったんだ」
「確かにディーとダムは怖いこといってたけど、ブラッドが止めてくれたの」
私の言葉に、グレイは驚いたような顔をする。
「帽子屋が?」
「うん。やっぱりいいマフィアだよね」
「……名無しさん、君の認識はちょっとずれていると思うぞ」
「え、そうかなぁ?」
首を傾げる私に、グレイはふぅっとため息をついた。
「俺は心配で仕方なかった。帽子屋屋敷で名無しさんに何かあったらと思うと心配で仕事が手につかなかった。
おかげでナイトメア様を叱ることもできなかったよ」
グレイは静かにそう言ったけれど、最後の言葉には笑みを浮かべていた。
思わず私も笑ってしまった。
「ごめん。でも、紅茶を飲みに行っただけだよ?」
「あぁ。だから君を引き留めるわけにもいかなかった。でも、相手はあの帽子屋だ。双子の門番にも気に入られていたようだしな。
名無しさんが一人で帽子屋屋敷へ行くなんて、猛獣の群れの中にウサギを入れるようなものだろう」
「え、そこまでですか!」
「控えめに言ってそれくらいだ」
驚く私に彼はきっぱりと頷いた。
「というわけで、俺は仕事がたまっている。このままだと名無しさんと約束した時間帯までに仕事が終わらないかもしれない。悪いが、急いで仕事を片付けてくるからまた後でゆっくり話そう」
そう言って仕事に戻ろうとするグレイ。
私は慌てて彼を引き留めた。
「待って待って! 私も手伝うよ。資料の整理くらいならできると思うし、心配かけちゃったんだし」
「いや、でも……」
「だって、グレイとの約束が楽しみなんだもん。だから手伝わせて」
私がそう言うと、グレイは色々と考え込んでいたが、結局はうなずいてくれた。
「…それじゃあ少し手伝ってもらおう」
「うん」
「ありがとう、名無しさん」
ふわりとほほ笑まれて、なんだか照れてしまった。
資料室へ行くという彼について歩く。
お茶会でなんだかんだ気を張っていたらしい私は、グレイの顔を見たらものすごくほっとした。
廊下を歩きながら、帽子屋屋敷の大きさにびっくりしたことや、双子の落とし穴の話や、エリオットのにんじんのお菓子についてや、ブラッドの紅茶論についてだとか、体験してきたことを話す。
グレイはひとつひとつをきちんと聞いてくれて、たまに質問したり、的確なツッコミを入れてくれたりする。
ナイトメアみたいに大騒ぎするわけじゃない。
双子みたいにあれこれしゃべるわけでもない。
エリオットみたいに熱く語りだすわけでもないし、ブラッドみたいにからかってくるわけでもない。
それでもグレイとは会話のペースがちょうどよくて、私は一緒に話していると楽しいのだ。
顔がものすごく緩んでいたらしい私を見て、グレイは顔をしかめた。
「名無しさん、そんなに楽しかったのか? 帽子屋とのお茶会が」
「え?」
「さっきから機嫌がよさそうだ」
彼はそう言ってふいっと前を向いてしまった。
え、これはまさかの焼きもち?
うわ、意外と可愛い所があるんだなぁ。
予想外の反応に私はなんだか嬉しくなってしまった。
「違うよ。グレイと話してるから楽しいんだよ」
素直にそう言うと、彼は一瞬目を見開いた。
そして「そうか……」と黙り込む。
うわ、照れてる。今度は照れてるんだよね、きっと。
そう思ったらテンションがどうしようもなく上がってしまった。
あぁ、なんだかもうどうしよう。
隣にグレイがいるっていうのが嬉しくて仕方ない。
抱きつきたいなー。
ふとそんな思いが私の全身を駆け巡った。
隣りを歩くこの人に思いっきり抱きつきたい。ぎゅうっとしたい。
今までグレイに抱きついたことなんてないし、そんな勇気もないけれど彼に触れたくて仕方なかった。
……って何考えてるんだ私は。
はっと我に返って、衝動をなんとか押さえこむ。
でも……
手をつなぐくらいなら許されるのかしら?
そんなことを思ってちらりと視線を落とした。
うまい具合に私の右隣にいる彼の左手は開いている。
「……」
えい!っと手を掴んじゃえばいいんだよね。うん。
まさか拒まれたりはしないはず。
あぁ、でも「仕事中だから」って言われるかもしれない。
「部下に見られたら嫌だ」とか言われるかもしれない。そうだよねぇ、ここ廊下だもんね。
うぅ~……でも限界。
隣にいるだけじゃ足りない。触りたい!(やばい、私変質者になってる……!)
ぐるぐると考えまくる私を、何も知らないグレイは不思議そうな顔をして見ている。
「名無しさん? どうした?」
「え、いやいや、何でもないです!!」
動揺した私が動いた拍子に、私の手と彼の手がぶつかった。
その瞬間、私の中でかちりとスイッチが入った。もう行ってしまえ!
私はグレイの手をきゅっと掴んだ。
驚いたようにグレイが私を見る。
「ちょっと手をつなぎたくなっちゃった」
いかにも今思いつきました、という感じで笑って言うと、私はまっすぐ前を見た。グレイの方なんて向けるわけがない。
ドキドキしすぎて、口から心臓が飛び出すんじゃないかと思った。
グレイの反応が怖くて、ひたすら前を見つめる私。
隣でくすりと笑う気配を感じた。
彼は何も言わず、そのまま私の手をぎゅっと握ってくれた。
思わずグレイを見る。
「名無しさんはいつも突然だな」
「え、そうかなぁ?」
ってそんな突然なにかやらかしたりは……あぁ、してますね。(うっかり好きだと言っちゃったりしたもんなぁ私)
思い当たった私は黙り込む。
「俺は名無しさんに振り回されてばかりだ」
そう言って笑うグレイだったけれど、私は声を大にして言いたい。
私の方があなたに振り回されています!と。
しかし、彼の方は本気で「振り回されている側」だと思っているらしい。
「俺をどうしたいんだろう、君は」
「ど、どうってべつに……」
ただ一緒にいたいなとか、手をつなぎたいなとか、抱きつきたいなとは思ってるけど……まさかそれがばれているのでは!?
慌てる私を見て、小さく笑うグレイ。
「君にその気がなくても、君の言動は俺を揺さぶるのに十分すぎる」
よく意味が分からないなぁと思っていたら、そのまま手を引かれた。
「グレイ? なに、どうしたの?」
歩き出す彼に引っ張られる形で私はついていく。
どこへいくのかと思ったら、グレイはすぐそばのドアを開けた。
今は誰も使っていない客室だ。
グレイは私の手を引いてそこに入ると、ぱたんとドアを閉めた。
そして持っていたファイルを手近な棚にぽんと置くと、くるりと私に向き合った。
部屋の真ん中で向かい合う私とグレイ。
こ、この状況は一体……
突然の展開に私の心臓はドキドキし始める。
グレイを見上げると、彼は私の手を掴んだままじっとこちらを見ていた。
どうしよう。言葉が何も出てこない。
彼はふっと表情を緩めたかと思うと、私を抱きしめた。
ほのかな煙草の匂いが鼻をかすめる。
「すまない。どうしても今すぐ名無しさんを抱きしめたくなった」
静かな声でグレイは言って、さらに腕に力を込めた。
息が詰まりそうになる。
私はグレイの背中に手を回し、ぎゅうっと抱きしめ返した。
どれくらいそうしていたのかわからない。
グレイがふっと腕を緩めたので、私も腕を緩めた。
くっついたままお互いの顔を見合い、どちらからともなくキスをする。
深くなる口づけは甘くて苦しい。
唇が離れてから彼を見ると、当然のことながらものすごい至近距離にびくりとしてしまった。
私のほんの少しの動きにグレイが不安そうな顔をする。
まずーい!失礼すぎる!!
「ごめん、嫌とかじゃなくて近さにびっくりしちゃって……恥ずかしいというかもうどんな顔していいのやら……」
慌てる私をしばらく見ていたグレイはくすくすと笑いだした。
「嫌がられていないなら良かった」
「嫌なわけないです」
グレイの反応にホッとした私はなにも考えずそう言った。
するとそんな私の反応に、何かを言いたくなったらしいグレイが顔を上げる。
じっと私を見つめる彼の目は何かを企んでいるようだった。
「……な、なんですか?」
思わず逃げ腰になる私の肩を掴んだグレイは、楽しそうな笑みを浮かべる。
「嫌じゃないなら、慣れてもらえるようにがんばってみようかと……」
そう言いながら、私をさりげなくベッドに座らせる。
ちょこんと座らされた私は目の前のグレイを見上げる。
……え、あれ?これは大丈夫なの私?
気づいた時にはもう遅い。
あれよあれよという間に、グレイは私を押し倒していた。
「わ、えぇと、ちょっと待って! ほら、今すぐ仕事をしなくちゃ!! 溜めこんだ分をがんばって終わらせないと!!」
「確かにそうだが……溜まっているのは仕事だけじゃないんだ」
グレイは切れ長の目をゆっくりと伏せながら私を見て静かに笑う。
意味深すぎる笑みに、私は思わず声を上げた。
「グレイにそういうのは似合わないと思うな!」
「そういうの……? 俺は名無しさんを心配する気持ちが溜まりすぎたから、君に触れて安心したいんだが……名無しさんは何を考えていたんだろう?」
ニヤリと笑うグレイ。
意地悪すぎる……!
何も言えず真っ赤になる私に、グレイがふっと笑った。
そして、「悪かった。冗談だ」と言って私の頬に優しく触れると、軽く唇にキスをする。
そして私から離れると、私を優しく抱き起こしてくれた。
「何もしない。俺だってちゃんとわきまえている」
私の隣に座ったグレイは囁くように言いながら顔を寄せる。
そして、唇が触れ合いそうな距離で言った。
「さすがに仕事中だからな。これ以上はなにもしない」
そう言って私にキスを落とす。
初めて見る彼の一面にドキドキがおさまらない。
繰り返されるキスの合間に、「そろそろ仕事に戻らないとね」「そうだな」とお互いに言いつつも、なかなか部屋を出られない私達。
今日はもういいんじゃない?なんて思ったけれど、私からはそんなこと言えない。
とりあえず初めてのお茶会を終えて帰ってきた私。
クローバーの塔に着いてすぐに私はグレイを探した。
心配してくれていただろうし、お土産のおかげで助かったことも話したい。
なによりも、今すぐグレイに会いたい。会って顔を見たいのだ。
思い当たる場所をうろうろと探していると、廊下を曲がったところで見慣れた彼の背中を発見!
私のテンションは一気にぐわっとあがった。
グレイはファイルを片手にずんずん歩いていく。
まっすぐに伸びた背筋と長い手足。
頭身が高いし、なんといっても頭の形がいい。
私は彼の後ろ姿も好きなのだ。
……なんてじっくり観察をしていたら、彼がどんどん遠ざかって行くことに気づいた。
私は慌ててグレイを呼び止める。
「グレイ!」
追いかけながら名前を呼ぶと、グレイはすっと振り返って立ち止まった。
「あぁ、名無しさん。帰ってきたのか」
穏やかな調子でそう言ったけれど、明らかに安堵した表情を浮かべたグレイ。
どうやら心配してくれていたようだ。
「うん。ただいま」
「おかえり。早かったな」
「うん。グレイのお土産のおかげだよ。ありがとう」
私は彼に駆け寄り、隣の位置に落ち着いた。
グレイは優しい表情で私を見て言う。
「役に立ったなら良かった。土産の意味を理解したうえで無視するような奴らだから、ちょっと心配だったんだ」
「確かにディーとダムは怖いこといってたけど、ブラッドが止めてくれたの」
私の言葉に、グレイは驚いたような顔をする。
「帽子屋が?」
「うん。やっぱりいいマフィアだよね」
「……名無しさん、君の認識はちょっとずれていると思うぞ」
「え、そうかなぁ?」
首を傾げる私に、グレイはふぅっとため息をついた。
「俺は心配で仕方なかった。帽子屋屋敷で名無しさんに何かあったらと思うと心配で仕事が手につかなかった。
おかげでナイトメア様を叱ることもできなかったよ」
グレイは静かにそう言ったけれど、最後の言葉には笑みを浮かべていた。
思わず私も笑ってしまった。
「ごめん。でも、紅茶を飲みに行っただけだよ?」
「あぁ。だから君を引き留めるわけにもいかなかった。でも、相手はあの帽子屋だ。双子の門番にも気に入られていたようだしな。
名無しさんが一人で帽子屋屋敷へ行くなんて、猛獣の群れの中にウサギを入れるようなものだろう」
「え、そこまでですか!」
「控えめに言ってそれくらいだ」
驚く私に彼はきっぱりと頷いた。
「というわけで、俺は仕事がたまっている。このままだと名無しさんと約束した時間帯までに仕事が終わらないかもしれない。悪いが、急いで仕事を片付けてくるからまた後でゆっくり話そう」
そう言って仕事に戻ろうとするグレイ。
私は慌てて彼を引き留めた。
「待って待って! 私も手伝うよ。資料の整理くらいならできると思うし、心配かけちゃったんだし」
「いや、でも……」
「だって、グレイとの約束が楽しみなんだもん。だから手伝わせて」
私がそう言うと、グレイは色々と考え込んでいたが、結局はうなずいてくれた。
「…それじゃあ少し手伝ってもらおう」
「うん」
「ありがとう、名無しさん」
ふわりとほほ笑まれて、なんだか照れてしまった。
資料室へ行くという彼について歩く。
お茶会でなんだかんだ気を張っていたらしい私は、グレイの顔を見たらものすごくほっとした。
廊下を歩きながら、帽子屋屋敷の大きさにびっくりしたことや、双子の落とし穴の話や、エリオットのにんじんのお菓子についてや、ブラッドの紅茶論についてだとか、体験してきたことを話す。
グレイはひとつひとつをきちんと聞いてくれて、たまに質問したり、的確なツッコミを入れてくれたりする。
ナイトメアみたいに大騒ぎするわけじゃない。
双子みたいにあれこれしゃべるわけでもない。
エリオットみたいに熱く語りだすわけでもないし、ブラッドみたいにからかってくるわけでもない。
それでもグレイとは会話のペースがちょうどよくて、私は一緒に話していると楽しいのだ。
顔がものすごく緩んでいたらしい私を見て、グレイは顔をしかめた。
「名無しさん、そんなに楽しかったのか? 帽子屋とのお茶会が」
「え?」
「さっきから機嫌がよさそうだ」
彼はそう言ってふいっと前を向いてしまった。
え、これはまさかの焼きもち?
うわ、意外と可愛い所があるんだなぁ。
予想外の反応に私はなんだか嬉しくなってしまった。
「違うよ。グレイと話してるから楽しいんだよ」
素直にそう言うと、彼は一瞬目を見開いた。
そして「そうか……」と黙り込む。
うわ、照れてる。今度は照れてるんだよね、きっと。
そう思ったらテンションがどうしようもなく上がってしまった。
あぁ、なんだかもうどうしよう。
隣にグレイがいるっていうのが嬉しくて仕方ない。
抱きつきたいなー。
ふとそんな思いが私の全身を駆け巡った。
隣りを歩くこの人に思いっきり抱きつきたい。ぎゅうっとしたい。
今までグレイに抱きついたことなんてないし、そんな勇気もないけれど彼に触れたくて仕方なかった。
……って何考えてるんだ私は。
はっと我に返って、衝動をなんとか押さえこむ。
でも……
手をつなぐくらいなら許されるのかしら?
そんなことを思ってちらりと視線を落とした。
うまい具合に私の右隣にいる彼の左手は開いている。
「……」
えい!っと手を掴んじゃえばいいんだよね。うん。
まさか拒まれたりはしないはず。
あぁ、でも「仕事中だから」って言われるかもしれない。
「部下に見られたら嫌だ」とか言われるかもしれない。そうだよねぇ、ここ廊下だもんね。
うぅ~……でも限界。
隣にいるだけじゃ足りない。触りたい!(やばい、私変質者になってる……!)
ぐるぐると考えまくる私を、何も知らないグレイは不思議そうな顔をして見ている。
「名無しさん? どうした?」
「え、いやいや、何でもないです!!」
動揺した私が動いた拍子に、私の手と彼の手がぶつかった。
その瞬間、私の中でかちりとスイッチが入った。もう行ってしまえ!
私はグレイの手をきゅっと掴んだ。
驚いたようにグレイが私を見る。
「ちょっと手をつなぎたくなっちゃった」
いかにも今思いつきました、という感じで笑って言うと、私はまっすぐ前を見た。グレイの方なんて向けるわけがない。
ドキドキしすぎて、口から心臓が飛び出すんじゃないかと思った。
グレイの反応が怖くて、ひたすら前を見つめる私。
隣でくすりと笑う気配を感じた。
彼は何も言わず、そのまま私の手をぎゅっと握ってくれた。
思わずグレイを見る。
「名無しさんはいつも突然だな」
「え、そうかなぁ?」
ってそんな突然なにかやらかしたりは……あぁ、してますね。(うっかり好きだと言っちゃったりしたもんなぁ私)
思い当たった私は黙り込む。
「俺は名無しさんに振り回されてばかりだ」
そう言って笑うグレイだったけれど、私は声を大にして言いたい。
私の方があなたに振り回されています!と。
しかし、彼の方は本気で「振り回されている側」だと思っているらしい。
「俺をどうしたいんだろう、君は」
「ど、どうってべつに……」
ただ一緒にいたいなとか、手をつなぎたいなとか、抱きつきたいなとは思ってるけど……まさかそれがばれているのでは!?
慌てる私を見て、小さく笑うグレイ。
「君にその気がなくても、君の言動は俺を揺さぶるのに十分すぎる」
よく意味が分からないなぁと思っていたら、そのまま手を引かれた。
「グレイ? なに、どうしたの?」
歩き出す彼に引っ張られる形で私はついていく。
どこへいくのかと思ったら、グレイはすぐそばのドアを開けた。
今は誰も使っていない客室だ。
グレイは私の手を引いてそこに入ると、ぱたんとドアを閉めた。
そして持っていたファイルを手近な棚にぽんと置くと、くるりと私に向き合った。
部屋の真ん中で向かい合う私とグレイ。
こ、この状況は一体……
突然の展開に私の心臓はドキドキし始める。
グレイを見上げると、彼は私の手を掴んだままじっとこちらを見ていた。
どうしよう。言葉が何も出てこない。
彼はふっと表情を緩めたかと思うと、私を抱きしめた。
ほのかな煙草の匂いが鼻をかすめる。
「すまない。どうしても今すぐ名無しさんを抱きしめたくなった」
静かな声でグレイは言って、さらに腕に力を込めた。
息が詰まりそうになる。
私はグレイの背中に手を回し、ぎゅうっと抱きしめ返した。
どれくらいそうしていたのかわからない。
グレイがふっと腕を緩めたので、私も腕を緩めた。
くっついたままお互いの顔を見合い、どちらからともなくキスをする。
深くなる口づけは甘くて苦しい。
唇が離れてから彼を見ると、当然のことながらものすごい至近距離にびくりとしてしまった。
私のほんの少しの動きにグレイが不安そうな顔をする。
まずーい!失礼すぎる!!
「ごめん、嫌とかじゃなくて近さにびっくりしちゃって……恥ずかしいというかもうどんな顔していいのやら……」
慌てる私をしばらく見ていたグレイはくすくすと笑いだした。
「嫌がられていないなら良かった」
「嫌なわけないです」
グレイの反応にホッとした私はなにも考えずそう言った。
するとそんな私の反応に、何かを言いたくなったらしいグレイが顔を上げる。
じっと私を見つめる彼の目は何かを企んでいるようだった。
「……な、なんですか?」
思わず逃げ腰になる私の肩を掴んだグレイは、楽しそうな笑みを浮かべる。
「嫌じゃないなら、慣れてもらえるようにがんばってみようかと……」
そう言いながら、私をさりげなくベッドに座らせる。
ちょこんと座らされた私は目の前のグレイを見上げる。
……え、あれ?これは大丈夫なの私?
気づいた時にはもう遅い。
あれよあれよという間に、グレイは私を押し倒していた。
「わ、えぇと、ちょっと待って! ほら、今すぐ仕事をしなくちゃ!! 溜めこんだ分をがんばって終わらせないと!!」
「確かにそうだが……溜まっているのは仕事だけじゃないんだ」
グレイは切れ長の目をゆっくりと伏せながら私を見て静かに笑う。
意味深すぎる笑みに、私は思わず声を上げた。
「グレイにそういうのは似合わないと思うな!」
「そういうの……? 俺は名無しさんを心配する気持ちが溜まりすぎたから、君に触れて安心したいんだが……名無しさんは何を考えていたんだろう?」
ニヤリと笑うグレイ。
意地悪すぎる……!
何も言えず真っ赤になる私に、グレイがふっと笑った。
そして、「悪かった。冗談だ」と言って私の頬に優しく触れると、軽く唇にキスをする。
そして私から離れると、私を優しく抱き起こしてくれた。
「何もしない。俺だってちゃんとわきまえている」
私の隣に座ったグレイは囁くように言いながら顔を寄せる。
そして、唇が触れ合いそうな距離で言った。
「さすがに仕事中だからな。これ以上はなにもしない」
そう言って私にキスを落とす。
初めて見る彼の一面にドキドキがおさまらない。
繰り返されるキスの合間に、「そろそろ仕事に戻らないとね」「そうだな」とお互いに言いつつも、なかなか部屋を出られない私達。
今日はもういいんじゃない?なんて思ったけれど、私からはそんなこと言えない。