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【24.お茶会 in 帽子屋屋敷】
衝撃の大人双子に出会って数時間帯が経ち、ブラッドから招待されたお茶会の時間帯になった。
面倒事に巻き込まれそうな気がしつつも、私は帽子屋屋敷への道を歩いている。
初めての道をそわそわと歩く私の手には、グレイから持たされた「お土産」がある。
出がけに「ブラッドのお茶会に行ってくるね」と伝えたところ、グレイは良い顔をしなかった。
それでも「夜道は気を付けるように」「すぐに帰ってくるように」「食べ物につられないように」などの注意事項を伝えつつ、
恐るべき手際の良さで「これを渡しなさい」と手土産を用意して私に持たせたのだった。
「なんだかやっぱりお母さんって感じだよねぇ」
一応恋人になったはずなのに、まるで保護者のような感じ。
そういう性分なのかもしれないけれど、なんだか笑ってしまった。
そんな風にグレイのことばかり考えて歩いていた私は、ふとあることに気づいた。
「あれ、そういえばさっきからこの塀がずーっと続いているような気が……」
いつからか、クリーム色の大きな塀に沿って歩いていた私だけれど、前を見るとまだまだ塀は続いている。
塀の中を覗くにも高すぎて中の様子がわからない。
なんとなく不安になりつつもとりあえず歩き続けてみた。
「なんか変な所に来ちゃったのかなー?」
ブラッドの招待状と一緒に入っていた地図を見てみる。
「えぇと、さっきの道を左でいいんだよねぇ。このまま行けばつくはずだけど……ってまさかこの塀は帽子屋屋敷の……」
はっとした時だった。
「あー!来た来た!!」
「名無しさんー!!」
前方からきゃっきゃと明るい声が聞こえる。
見ると、ものすごーく大きな門の前に赤と青の少年たちが手を振っていた。
「名無しさん、いらっしゃい!!僕達ずーっと待ってたんだよ!」
「門番らしく門の前で待ってたんだけど、待ちきれなくて迎えに行こうかって話してた所だったんだよね、兄弟」
「うんうん、ちゃんとたどり着いてくれてよかったよ。迷わなかった?」
「名無しさんは迷子騎士とは違うから迷わないよ。ねぇ、名無しさん?」
「あれ、なにか持ってきてくれたの? お土産?」
「名無しさんってば気を遣わなくてもいいのに。優しいなぁ。大好き!」
「僕も大好き大好き!」
約束通り子どもの姿だったディーとダムは、両側から私に引っ付いてきた。
そしていつものようにだーっとマシンガントークを繰り広げる。
私はというと、どこまでも続く長い塀を見やり、桁違いに大きい門を見上げ、門の奥に見える大きなお屋敷に呆然とした。
「……お城ですか、ここは」
予想をはるかに超えた立派過ぎるお屋敷に、今さらながら躊躇するのだった。
大きな門をくぐり、ディーとダムに案内されながら歩く私は、あちこち見まわしては感嘆のため息を漏らすことしかできなかった。
これまでの人生でお屋敷に入ったことなんてないけれど、こんなに大きな家が個人の持ち物だなんて信じられない。
セレブだとは思っていたけど、ブラッドってものすごい人なのかもしれない。(マフィアって儲かるのね……)
「屋敷の案内をしてあげたいけどそれはまた今度ね。ボスを待たせたら怒られちゃう」
「それに、早くお菓子食べたいもんね」
彼らはにこにこと機嫌よさそうに歩いている。
この子たちがこの間、あんなセクシー系のお兄さんになっていただなんてやっぱり信じられない。
身の危険を感じる、というのはあの時のことを言うのだろう。
この子たちの場合、冗談みたいなことを本気で言うし、やる。
躊躇しないし、迷いもない。
しかも相手は2人だからタチが悪い。手におえないし逃げられない。
もう絶対に大人姿にはならないでもらいたい。
2人の後ろ姿を見ながらうーむ、と考えていると、不意にディーが振り返った。
「あ、名無しさん。舗装されている道からはずれないでね?」
「え?」
「あのねぇ、この前ボリスと一緒に作った落とし穴がその辺にあるんだ」
ダムがおっとりと言う。
「落とし穴?」
「そうそう。ひよこウサギがたまにかかったりするんだよ」
ひよこウサギって確かエリオットのことだよね?
私は今歩いている舗装された道の横に視線をやる。
見た所、綺麗に整えられた芝生が広がっており、落とし穴らしき形跡はない。
今は夜だから余計にわからないのかもしれない。
「あいつぼんやり歩いてるからねー。でも悔しいことに、落とし穴に落ちそうで落ちないんだよあいつ」
「いつか、穴の底に落ちて泣いてるひよこウサギを見てみたいよね」
落とし穴なんて可愛いことするなぁ、なんだかんだ子どもだわー。
そんなことを思っていたけれど、彼らの言う「落とし穴」と私の思うそれがまるで違う物であることなんて、知る由もない。
「名無しさん、お茶会では僕らの隣に座ってよね!」
「そうそう、間違ってもひよこウサギの方に行ったらダメだよ。あいつオレンジのよくわからないものばっかり食べてるから」
「僕らが名無しさんに美味しいオススメのお菓子を食べさせてあげるね!」
きゃっきゃと楽しそうに笑いかけてくる彼らはやっぱり可愛い。
この子たちは子ども姿でいるべきなのだ。うんうん。
「私、お茶会って初めてなんだけど、紅茶を飲むんじゃないの?」
「そんなのボスに飲ませておけばいいんだよ。っていうか勝手に飲んでるからいいんだよ」
「そうだよ。お菓子を食べて、口の中が甘くなったら紅茶を飲めばいい。別になんだっていいんだよ」
「ボスの紅茶話はテキトーに聞き流してればいいからね」
とても上司を敬っているとは思えない2人の発言に、私は苦笑いしかできなかった。
「……ほんとに大丈夫かな」
場違い。
そんな言葉が私の頭を駆け巡った。
恐ろしいくらい広い庭園に、ものすごーく高価そうなティーセットの並んだテーブルがどーんと設置されている。
すでにお茶会とやらを始めていたらしい。
ブラッドとエリオットが席についていた。
優雅に紅茶を飲んでいたブラッドとオレンジのものを食べていたエリオットが、双子に案内されてやってきた私を見る。
「やぁ、お嬢さん。待っていたよ」
「おー、久しぶりだなー名無しさん!」
にこりと笑うブラッドと手をぶんぶん振ってくるエリオット。
私はぺこりと頭を下げる。
「こんばんは。ブラッド、エリオット。今日はお招きありがとうございます」
「こちらこそ、来てくれて嬉しいよ。さぁ、座ってくれ。お茶会の素晴らしさを名無しさんに知ってもらおう」
「名無しさん、このにんじんケーキ新作なんだぜ! うまいから食ってくれよ」
「ありがとう。あ、そうそう。ブラッド、これ気持ちばかりのものですがどうぞ」
私はグレイに持たされたお土産を渡す。
「ありがとう、名無しさん」
お土産を受け取ったブラッドはちらりと紙袋の中身を覗いた。
そして、一瞬固まる。
「……ふふふ。なるほど。どうやら牽制されているようだね」
「?」
首を傾げる私にブラッドは楽しそうに笑った。
「名無しさんから渡されたならば仕方がない。ありがたく受け取っておくよ。ただ、申し訳ないが中身をこのお茶会で出すのは控えさせていただこう」
「なに?」
確か中身はクローバーの塔の領地の名物お菓子か何かだったはず。
なにかよくなかったのかな?
でもグレイのことだし、変なものをお土産にするはずはないけれど、私はすごく不安になる。
「これを用意したのは塔の奴の誰かだろうな」
「え……うん。実はそうなの。ごめんね、私が選んだわけじゃないんだけど、美味しいお菓子だし良ければ食べて」
なんでわかったんだろう。(気まずすぎます)
そんな私の思いをよそに、ブラッドはふぅっとため息をついた。
「君は奴らにかなり心配されているようだ。別に今すぐ君をどうこうするつもりなど、私にはないのだがね」
「???」
全然意味がわからない。
顔をしかめる私にブラッドはくすくす笑った。
「まぁ、門番達はどうだかわからないが」
そう言ってブラッドはすっと視線を私から外した。
つられて、彼の視線の先を見てみる。
「ボス、その言葉覚えておいてよ?」
「名無しさんに手を出さないでよね、ボス」
いつのまにか大人姿になっているディーとダムが口を尖らせて立っていた。
「ボスの言葉は信用できないなぁ。名無しさん、気を付けてね。ボスのそばに近寄ったら何されるかわからないよ」
「そうそう。大人ってずるいから、安心させてからぱくっと食べたりするんだよ」
「ふふふ。お前達に言われたくないな」
余裕の笑みを浮かべるブラッドに、双子は更に口を尖らせた。
「もういいよ。名無しさん、こっちに座って!」
「僕らの隣り。一緒にお菓子を食べよう」
ぐんと背のたかくなった彼らは、私の腕を両側から掴んだ。
「名無しさん、甘くて美味しいお菓子があるんだ」
「そうそう。美味しすぎて名無しさんはとろけちゃうんじゃないかな」
彼らは私の耳元でささやくようにそう言った。
なんでそう色っぽい言い方をわざわざするんでしょう?(絶対わざとだな!)
「ちょっと待って!大人の姿は見慣れてないから子どもの方がいいなってこの前言っ……」
「早くこの姿に慣れてほしいから、お茶会は大人になるよ」
「名無しさんを驚かせたらいけないから、お出迎えは子どもにしておいたんだよ。僕らって気が利くでしょう?」
さっきのように両側から私の腕を掴んでくるけれど、さっきと違うのはものすごく「連行されてる感」があることだ。
ディーとダムは私を席に座らせると、両隣に座る。
そのやりとりを眺めていたブラッドが紅茶をすすりながら言った。
「お前達、今日はクローバーの塔の奴らからの土産があるから、名無しさんに手を出すのはよしなさい」
「え!?」
「そうなの!? もしかして名無しさんが持ってきたお土産って塔の奴らからの物ってこと?」
ディーとダムは驚いたように私を見る。
「さっきからなんなの? お土産がなにかまずかった?」
彼らの反応にたまらず私は声を上げたけれど、誰も私の質問に答えてはくれなかった。
「……そっか。蓑虫の部下が用意したんだね。名無しさんにそれを持たせるなんて嫌な奴」
「なんか悔しいから、そのお土産なかったことにしちゃう? 切り刻んじゃおうか? それとも跡形もなく燃やしとく?」
「はぁ?! 持ってきた手土産をいきなりそんな扱いされたら嫌なんですけど」
ダムのとんでもない発言に声を上げる私。
しかしディーが冷静にこう言った。
「だってクローバーの塔の奴が用意した土産でしょう? 名無しさんに何かしたら許さないって意味じゃないか」
「名無しさんに何かするに決まってるんだから、そんなのもらったって面倒なだけだよ」
さっきからセクシーボイスでとんでもない発言ばかりしているダムはこの際無視だ。
「深読みしすぎなんじゃないの?」
ブラッドに視線をやると、彼は紅茶を一口飲んでから私を見た。
「まぁ、君の後ろには塔の奴らがいる、ということを示したかったんだろうから、似たようなものだな」
「めんどくせーなぁ。手ぇつけずに返しちまえば?」
もくもくとお菓子を食べながらも、話を聞いていたらしい。
エリオットがにんじんケーキとやら食べながらあっさりとそう言った。
「そうだよ。ボス、返しちゃおう」
「珍しく良いこと言うね、ひよこウサギ」
それこそ珍しくエリオットに賛同したらしい双子は、うなずき合ってブラッドを見る。
「いや。用意したのは彼らだが、持ってきたのは名無しさんだ。お茶会のゲストである名無しさんからの物を返すなんて私にはできないね」
「そうだよね。名無しさんが持ってきてくれたんだもんね」
なんだかよくわからないけれど、私のお土産はかなりの波紋を呼んでいるらしい。
グレイがお土産を持たせたのは、彼なりの思惑があってのことだったようだ。
「それじゃあそのお土産はなかったことにしてさ、もう面倒だし、この際僕らと一緒にここに住んじゃえば?」
「それは絶対にないです!」
きっぱり断らないとたぶんつけ込まれると思ったので、即拒否しておいた。
それにしても、なんてフリーダムな発言ばかりしているんだろう、この子たち。
見かけは大人でも、中身は全然変わらない。
「だったらもういっそのこと塔の奴らをやっちゃえばいいんじゃない? そうすれば問題ないよ。そうでしょうボス?」
「ちょっとなに言ってんの! 問題あるに決まってるでしょう!?」
思わず口を挟んだ私。
ディーとダムはブラッドの言葉を待っている。
しばらく黙り込んだブラッドは一言。
「……だるい」
「え?」
「そんな面倒なことはしたくないし、今は茶が飲みたい。余計なことなど考えたくない」
「えー、でもボス~」
「お茶会は紅茶を楽しむためのものだ。名無しさんだって初めてのお茶会を楽しみにしてくれているんだぞ」
なぁ、名無しさん?
そう言うブラッドに私はこくこくとうなずいた。
この話題はもう切り上げたいという私の思いを彼は汲み取ってくれたらしい。
「お前達も今日くらいは我慢しなさい。今は子どもじゃないんだろう?」
ブラッドの言葉に、口を尖らせつつも双子は引き下がった。
グレイのお土産とブラッドのおかげで、どうやら今回も私は助かったらしい。
「この間も我慢したのにね、兄弟」
「ほんと。我慢ばっかりで大人ってほんとにつまんないよね、兄弟」
ぶつぶつ言いながら、彼らはお菓子に手を伸ばす。
私はほっとして紅茶を一口すすった。
すると、ブラッドがちらりと私を見てこう言った。
「君の恋人に免じて、私も今回は我慢しておくよ」
「え?」
不穏な言葉をつぶやいたよね?と思い、ブラッドを見る。
しかし彼は「なんでもないよ、お嬢さん」と笑うだけだった。
衝撃の大人双子に出会って数時間帯が経ち、ブラッドから招待されたお茶会の時間帯になった。
面倒事に巻き込まれそうな気がしつつも、私は帽子屋屋敷への道を歩いている。
初めての道をそわそわと歩く私の手には、グレイから持たされた「お土産」がある。
出がけに「ブラッドのお茶会に行ってくるね」と伝えたところ、グレイは良い顔をしなかった。
それでも「夜道は気を付けるように」「すぐに帰ってくるように」「食べ物につられないように」などの注意事項を伝えつつ、
恐るべき手際の良さで「これを渡しなさい」と手土産を用意して私に持たせたのだった。
「なんだかやっぱりお母さんって感じだよねぇ」
一応恋人になったはずなのに、まるで保護者のような感じ。
そういう性分なのかもしれないけれど、なんだか笑ってしまった。
そんな風にグレイのことばかり考えて歩いていた私は、ふとあることに気づいた。
「あれ、そういえばさっきからこの塀がずーっと続いているような気が……」
いつからか、クリーム色の大きな塀に沿って歩いていた私だけれど、前を見るとまだまだ塀は続いている。
塀の中を覗くにも高すぎて中の様子がわからない。
なんとなく不安になりつつもとりあえず歩き続けてみた。
「なんか変な所に来ちゃったのかなー?」
ブラッドの招待状と一緒に入っていた地図を見てみる。
「えぇと、さっきの道を左でいいんだよねぇ。このまま行けばつくはずだけど……ってまさかこの塀は帽子屋屋敷の……」
はっとした時だった。
「あー!来た来た!!」
「名無しさんー!!」
前方からきゃっきゃと明るい声が聞こえる。
見ると、ものすごーく大きな門の前に赤と青の少年たちが手を振っていた。
「名無しさん、いらっしゃい!!僕達ずーっと待ってたんだよ!」
「門番らしく門の前で待ってたんだけど、待ちきれなくて迎えに行こうかって話してた所だったんだよね、兄弟」
「うんうん、ちゃんとたどり着いてくれてよかったよ。迷わなかった?」
「名無しさんは迷子騎士とは違うから迷わないよ。ねぇ、名無しさん?」
「あれ、なにか持ってきてくれたの? お土産?」
「名無しさんってば気を遣わなくてもいいのに。優しいなぁ。大好き!」
「僕も大好き大好き!」
約束通り子どもの姿だったディーとダムは、両側から私に引っ付いてきた。
そしていつものようにだーっとマシンガントークを繰り広げる。
私はというと、どこまでも続く長い塀を見やり、桁違いに大きい門を見上げ、門の奥に見える大きなお屋敷に呆然とした。
「……お城ですか、ここは」
予想をはるかに超えた立派過ぎるお屋敷に、今さらながら躊躇するのだった。
大きな門をくぐり、ディーとダムに案内されながら歩く私は、あちこち見まわしては感嘆のため息を漏らすことしかできなかった。
これまでの人生でお屋敷に入ったことなんてないけれど、こんなに大きな家が個人の持ち物だなんて信じられない。
セレブだとは思っていたけど、ブラッドってものすごい人なのかもしれない。(マフィアって儲かるのね……)
「屋敷の案内をしてあげたいけどそれはまた今度ね。ボスを待たせたら怒られちゃう」
「それに、早くお菓子食べたいもんね」
彼らはにこにこと機嫌よさそうに歩いている。
この子たちがこの間、あんなセクシー系のお兄さんになっていただなんてやっぱり信じられない。
身の危険を感じる、というのはあの時のことを言うのだろう。
この子たちの場合、冗談みたいなことを本気で言うし、やる。
躊躇しないし、迷いもない。
しかも相手は2人だからタチが悪い。手におえないし逃げられない。
もう絶対に大人姿にはならないでもらいたい。
2人の後ろ姿を見ながらうーむ、と考えていると、不意にディーが振り返った。
「あ、名無しさん。舗装されている道からはずれないでね?」
「え?」
「あのねぇ、この前ボリスと一緒に作った落とし穴がその辺にあるんだ」
ダムがおっとりと言う。
「落とし穴?」
「そうそう。ひよこウサギがたまにかかったりするんだよ」
ひよこウサギって確かエリオットのことだよね?
私は今歩いている舗装された道の横に視線をやる。
見た所、綺麗に整えられた芝生が広がっており、落とし穴らしき形跡はない。
今は夜だから余計にわからないのかもしれない。
「あいつぼんやり歩いてるからねー。でも悔しいことに、落とし穴に落ちそうで落ちないんだよあいつ」
「いつか、穴の底に落ちて泣いてるひよこウサギを見てみたいよね」
落とし穴なんて可愛いことするなぁ、なんだかんだ子どもだわー。
そんなことを思っていたけれど、彼らの言う「落とし穴」と私の思うそれがまるで違う物であることなんて、知る由もない。
「名無しさん、お茶会では僕らの隣に座ってよね!」
「そうそう、間違ってもひよこウサギの方に行ったらダメだよ。あいつオレンジのよくわからないものばっかり食べてるから」
「僕らが名無しさんに美味しいオススメのお菓子を食べさせてあげるね!」
きゃっきゃと楽しそうに笑いかけてくる彼らはやっぱり可愛い。
この子たちは子ども姿でいるべきなのだ。うんうん。
「私、お茶会って初めてなんだけど、紅茶を飲むんじゃないの?」
「そんなのボスに飲ませておけばいいんだよ。っていうか勝手に飲んでるからいいんだよ」
「そうだよ。お菓子を食べて、口の中が甘くなったら紅茶を飲めばいい。別になんだっていいんだよ」
「ボスの紅茶話はテキトーに聞き流してればいいからね」
とても上司を敬っているとは思えない2人の発言に、私は苦笑いしかできなかった。
「……ほんとに大丈夫かな」
場違い。
そんな言葉が私の頭を駆け巡った。
恐ろしいくらい広い庭園に、ものすごーく高価そうなティーセットの並んだテーブルがどーんと設置されている。
すでにお茶会とやらを始めていたらしい。
ブラッドとエリオットが席についていた。
優雅に紅茶を飲んでいたブラッドとオレンジのものを食べていたエリオットが、双子に案内されてやってきた私を見る。
「やぁ、お嬢さん。待っていたよ」
「おー、久しぶりだなー名無しさん!」
にこりと笑うブラッドと手をぶんぶん振ってくるエリオット。
私はぺこりと頭を下げる。
「こんばんは。ブラッド、エリオット。今日はお招きありがとうございます」
「こちらこそ、来てくれて嬉しいよ。さぁ、座ってくれ。お茶会の素晴らしさを名無しさんに知ってもらおう」
「名無しさん、このにんじんケーキ新作なんだぜ! うまいから食ってくれよ」
「ありがとう。あ、そうそう。ブラッド、これ気持ちばかりのものですがどうぞ」
私はグレイに持たされたお土産を渡す。
「ありがとう、名無しさん」
お土産を受け取ったブラッドはちらりと紙袋の中身を覗いた。
そして、一瞬固まる。
「……ふふふ。なるほど。どうやら牽制されているようだね」
「?」
首を傾げる私にブラッドは楽しそうに笑った。
「名無しさんから渡されたならば仕方がない。ありがたく受け取っておくよ。ただ、申し訳ないが中身をこのお茶会で出すのは控えさせていただこう」
「なに?」
確か中身はクローバーの塔の領地の名物お菓子か何かだったはず。
なにかよくなかったのかな?
でもグレイのことだし、変なものをお土産にするはずはないけれど、私はすごく不安になる。
「これを用意したのは塔の奴の誰かだろうな」
「え……うん。実はそうなの。ごめんね、私が選んだわけじゃないんだけど、美味しいお菓子だし良ければ食べて」
なんでわかったんだろう。(気まずすぎます)
そんな私の思いをよそに、ブラッドはふぅっとため息をついた。
「君は奴らにかなり心配されているようだ。別に今すぐ君をどうこうするつもりなど、私にはないのだがね」
「???」
全然意味がわからない。
顔をしかめる私にブラッドはくすくす笑った。
「まぁ、門番達はどうだかわからないが」
そう言ってブラッドはすっと視線を私から外した。
つられて、彼の視線の先を見てみる。
「ボス、その言葉覚えておいてよ?」
「名無しさんに手を出さないでよね、ボス」
いつのまにか大人姿になっているディーとダムが口を尖らせて立っていた。
「ボスの言葉は信用できないなぁ。名無しさん、気を付けてね。ボスのそばに近寄ったら何されるかわからないよ」
「そうそう。大人ってずるいから、安心させてからぱくっと食べたりするんだよ」
「ふふふ。お前達に言われたくないな」
余裕の笑みを浮かべるブラッドに、双子は更に口を尖らせた。
「もういいよ。名無しさん、こっちに座って!」
「僕らの隣り。一緒にお菓子を食べよう」
ぐんと背のたかくなった彼らは、私の腕を両側から掴んだ。
「名無しさん、甘くて美味しいお菓子があるんだ」
「そうそう。美味しすぎて名無しさんはとろけちゃうんじゃないかな」
彼らは私の耳元でささやくようにそう言った。
なんでそう色っぽい言い方をわざわざするんでしょう?(絶対わざとだな!)
「ちょっと待って!大人の姿は見慣れてないから子どもの方がいいなってこの前言っ……」
「早くこの姿に慣れてほしいから、お茶会は大人になるよ」
「名無しさんを驚かせたらいけないから、お出迎えは子どもにしておいたんだよ。僕らって気が利くでしょう?」
さっきのように両側から私の腕を掴んでくるけれど、さっきと違うのはものすごく「連行されてる感」があることだ。
ディーとダムは私を席に座らせると、両隣に座る。
そのやりとりを眺めていたブラッドが紅茶をすすりながら言った。
「お前達、今日はクローバーの塔の奴らからの土産があるから、名無しさんに手を出すのはよしなさい」
「え!?」
「そうなの!? もしかして名無しさんが持ってきたお土産って塔の奴らからの物ってこと?」
ディーとダムは驚いたように私を見る。
「さっきからなんなの? お土産がなにかまずかった?」
彼らの反応にたまらず私は声を上げたけれど、誰も私の質問に答えてはくれなかった。
「……そっか。蓑虫の部下が用意したんだね。名無しさんにそれを持たせるなんて嫌な奴」
「なんか悔しいから、そのお土産なかったことにしちゃう? 切り刻んじゃおうか? それとも跡形もなく燃やしとく?」
「はぁ?! 持ってきた手土産をいきなりそんな扱いされたら嫌なんですけど」
ダムのとんでもない発言に声を上げる私。
しかしディーが冷静にこう言った。
「だってクローバーの塔の奴が用意した土産でしょう? 名無しさんに何かしたら許さないって意味じゃないか」
「名無しさんに何かするに決まってるんだから、そんなのもらったって面倒なだけだよ」
さっきからセクシーボイスでとんでもない発言ばかりしているダムはこの際無視だ。
「深読みしすぎなんじゃないの?」
ブラッドに視線をやると、彼は紅茶を一口飲んでから私を見た。
「まぁ、君の後ろには塔の奴らがいる、ということを示したかったんだろうから、似たようなものだな」
「めんどくせーなぁ。手ぇつけずに返しちまえば?」
もくもくとお菓子を食べながらも、話を聞いていたらしい。
エリオットがにんじんケーキとやら食べながらあっさりとそう言った。
「そうだよ。ボス、返しちゃおう」
「珍しく良いこと言うね、ひよこウサギ」
それこそ珍しくエリオットに賛同したらしい双子は、うなずき合ってブラッドを見る。
「いや。用意したのは彼らだが、持ってきたのは名無しさんだ。お茶会のゲストである名無しさんからの物を返すなんて私にはできないね」
「そうだよね。名無しさんが持ってきてくれたんだもんね」
なんだかよくわからないけれど、私のお土産はかなりの波紋を呼んでいるらしい。
グレイがお土産を持たせたのは、彼なりの思惑があってのことだったようだ。
「それじゃあそのお土産はなかったことにしてさ、もう面倒だし、この際僕らと一緒にここに住んじゃえば?」
「それは絶対にないです!」
きっぱり断らないとたぶんつけ込まれると思ったので、即拒否しておいた。
それにしても、なんてフリーダムな発言ばかりしているんだろう、この子たち。
見かけは大人でも、中身は全然変わらない。
「だったらもういっそのこと塔の奴らをやっちゃえばいいんじゃない? そうすれば問題ないよ。そうでしょうボス?」
「ちょっとなに言ってんの! 問題あるに決まってるでしょう!?」
思わず口を挟んだ私。
ディーとダムはブラッドの言葉を待っている。
しばらく黙り込んだブラッドは一言。
「……だるい」
「え?」
「そんな面倒なことはしたくないし、今は茶が飲みたい。余計なことなど考えたくない」
「えー、でもボス~」
「お茶会は紅茶を楽しむためのものだ。名無しさんだって初めてのお茶会を楽しみにしてくれているんだぞ」
なぁ、名無しさん?
そう言うブラッドに私はこくこくとうなずいた。
この話題はもう切り上げたいという私の思いを彼は汲み取ってくれたらしい。
「お前達も今日くらいは我慢しなさい。今は子どもじゃないんだろう?」
ブラッドの言葉に、口を尖らせつつも双子は引き下がった。
グレイのお土産とブラッドのおかげで、どうやら今回も私は助かったらしい。
「この間も我慢したのにね、兄弟」
「ほんと。我慢ばっかりで大人ってほんとにつまんないよね、兄弟」
ぶつぶつ言いながら、彼らはお菓子に手を伸ばす。
私はほっとして紅茶を一口すすった。
すると、ブラッドがちらりと私を見てこう言った。
「君の恋人に免じて、私も今回は我慢しておくよ」
「え?」
不穏な言葉をつぶやいたよね?と思い、ブラッドを見る。
しかし彼は「なんでもないよ、お嬢さん」と笑うだけだった。