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【21.熱を帯びる】
たぶん色々な疲れが一気に出たのかもしれない。
いや、グレイと恋人同士になったことに興奮しすぎたのかもしれない。
私は今、景気よく発熱していた。
ピピッと体温計がなったので、見てみたら39.6と書いてある。
わーすごい、39度台は初めてだなぁ、と思っていたら、横からそれを覗いたアリスが声を上げた。
「さ、39.6度!? 大変! 救急車を呼ばなくちゃ!!」
「いや、病院まで俺が直接連れて行こう。名無しさん、動けるか?」
アリスとグレイがわたわたとしているのを、ぼーっとした頭で眺める。
「グレイ、そのまま入院てことになるかもしれないから、私はあとから名無しさんの着替えを持っていくわ」
「あぁ、そうしてもらえると助かる」
なんだか大袈裟な気がするなぁ、と思っていたらナイトメアがやってきた。
「お? どうした、なんだか慌ただしいな」
「名無しさん、39.6度の熱があるのよ。病院に連れてかなくちゃ!」
「ナイトメア様、2時間帯の休暇をいただきますね。俺は名無しさんを病院に連れて行きます」
アリスとグレイの慌てっぷりとは対照的に、ナイトメアは無言でちらりと私を見た。
そしてぐったりとソファに座る私につかつかと近寄ると、彼はそっと私のおでこに手を当てる。
冷たくて気持ちのいい手だ。
「確かに熱いな……顔色も悪い。大丈夫か?」
「あたまいたい。ぞくぞくしてさむい」
「そうだよなぁ。大丈夫なわけがない。そのうち吐き気も来るぞ。節々も痛いだろう?でも、いつかはおさまると思えばなんとか耐えられるものだ」
「うん……」
さすが病気慣れしてるなぁ、と感心する私。
しかし、グレイとアリスは違ったらしい。
「ナイトメア!そんなのんきなこと言ってる場合じゃないでしょう!?高熱なのよ!?」
「そうです。高熱なんです。っていうか軽々しく名無しさんに触れないでください」
「いや、確かに高熱だが、私が40度越えしていても、お前達はそこまで心配してくれないじゃないか」
「万年病人のあなたと、いつも健康な名無しさんとはわけが違うんです!」
「うぅ、ひどいことを言うな。もっと私をいたわってくれてもいいじゃないか。大体、いつも健康な名無しさんがそんな高熱を出すなんておかしくないか? まさかグレイ。お前、名無しさんに無理なことをさせたんじゃないだろうな?」
「まだ何もしてませんよ!」
「そうよね、グレイがそんなに手が早いわけないじゃない!」
「アリス、君はこいつの本性を知らないな?」
「本性?なにそれ??」
「いいからナイトメア様は黙っててください!」
……元気があればツッコミを入れる所だけれど、もうどうでもいいくらいに体がだるい。
彼らのやりとりをぼーっと聞きながら、私はそのままソファに横になった。
すると意識がどんどんと遠のいて行った。
「あ。名無しさんが倒れた」
ナイトメアの声が最後に聞こえた。
結局ただの風邪だったらしい。
私は病院に連れて行かれ、薬をもらい、大人しく部屋で過ごしていた。
2時間帯ほどが経ち、すっかり元気&退屈になった私は、自分の部屋を出る。
「グレイやアリスにお礼を言っておかなくちゃ」
そう思いつつ、廊下を歩く。
しかし、なんだかいつもよりも静かな気がする。
まるで誰もいないような静けさを不思議に思いつつ、休憩室を覗いてみるとちょうどグレイがいた。
彼は煙草をふかしてぼんやりとしているようだった。
……ぼんやりとしている姿すら絵になるわ。
私は入り口から彼をこっそりと観察しながら、ドキドキしてしまった。
すると、私に気づいたらしい。
グレイはふっと私の方を向いた。
「名無しさん! もういいのか?」
驚いたように言う彼に、私はうなずいた。
「うん。もう元気。心配かけてごめんね」
グレイの隣りに座ろうと歩いていくと、彼は吸っていた煙草を灰皿に押し付けながら私を見る。
「君はいつも元気だからな。あの高熱には驚いたよ」
「うん、自己ベストを更新しました」
そう言ってグレイの隣りに座ると、彼はふっと笑った。
「それはおめでとう」
「ありがとう」
確かにかなり気持ち悪かったし、かなり頭も痛かった。
総合的にかなりつらい風邪ではあったけれど、自己ベスト体温のせいか不思議な達成感はある。なぜだろう。
という私のくだらない話を、グレイは楽しそうに聞いてくれた。
「でももう平気。病院まで連れて行ってくれてありがとう」
「いや、病院に行くということがすごく簡単で拍子抜けしたくらいだ。あんなにスムーズに病院へ人を連れて行く経験がなかったからな」
「ナイトメアみたいにごねる人が珍しいんだよ」
思わず笑う私にグレイも「そうだな」と笑った。
「ねぇ、なんだかすごく塔の中が静かだね」
「あぁ、会合が終わったんだ。名無しさんが寝込んでいる間に」
「え?」
予想外の言葉に目が点になる。
「会合中に泊まっていた出席者はみんな帰って行ったよ」
「そうだったんだ。お疲れ様」
まさか寝ているうちに、全てが終わっているとは……。
「あぁ、とりあえずはな。でも、またすぐ次の会合が始まるから、その準備をしなくてはいけないんだ。忙しさは変わらないよ」
「そうなんだ。大変だね」
少しはラクになるのかと思ったけれど、そうもいかないらしい。
こんなに働いている人が体調を崩さないで、フラフラしている私が風邪をひくなんてなんか申し訳ない。気合が足りていないのかもしれない。
そんなことを考えていたら、グレイが私の頭をなでてきた。
突然のことにびっくりして彼を見る。
「悪いな」
「え?」
「なかなか名無しさんとの時間を作るのが難しいんだ」
そう言ってグレイは、私の頭をこてんと自分の肩に乗せる。
そうか、恋人同士になったのだからこれくらいは当たり前なのかもしれない。
ドキドキする胸を押さえると、私はそのまま彼に寄り添うことにした。
「別にいいんだよ私は。こうやってほんの少しの時間だけでも一緒にいられれば」
「そうか」
グレイはそう言ってから小さく笑う。
「でも、俺はこれじゃあ足りないくらいなんだ」
「え」
意外な言葉に彼を見ると、グレイも私を見ていた。
「全然足りない」
そう言われて、じっと見つめられて、私の鼓動は跳ね上がった。
顔がかーっと熱くなる。
しかし、グレイはいつもの落ち着いた表情。
うわ、どうしよう。私ばっかり動揺してるのが丸わかりだわ。
ドキドキしすぎてわけがわからなくなる私に、グレイは顔を近づけてきた。
わー、え、今? ここで!?
彼の端正な顔が近づいてくるのを見て、私は動揺しすぎていたらしい。
気付けば彼の肩口を手で押し返していた。
そっと目を開けたグレイと視線がぶつかる。
「……ダメか?」
「え、えぇと、ごめん。びっくりしすぎちゃってっ……!」
本音ですこれ。
でも、ものすごーく悪いことをした気がする。
どうしようどうしよう。
「いや、すまない、俺が悪い。突然すぎたな」
彼はそう言って、私から距離を取った。
うわ、なんだかもうこれ嫌われちゃったんじゃない!?
「あ、あの私、ほら、病み上がりだし、変にうつしたら困るでしょう? 別に嫌だってわけじゃなくて、むしろドキドキしすぎてどうしていいのやら……」
しどろもどろになりつつ、弁明する私を見てグレイはくすくす笑った。
「あぁ、わかっている。気にしないでくれ。俺が悪い。ほんの少し名無しさんに会わなかっただけで、こうも自制が利かなくなるとは自分でも思わなかった」
「なんかけっこうなことを言っている気がしますけど……」
思わずそう言うと、彼はにやりと笑った。
「2時間帯でこれだからな。なるべく俺と会っておいた方がいいかもしれないぞ、名無しさん?」
「……すごく悪役のセリフっぽいね、グレイ」
「まぁ、良い奴ではないからな。俺も」
そう言ってグレイは私のおでこにキスをする。
「今回はこれで我慢しておこう。病み上がりだからな」
ふわりとほほ笑むグレイに、またどきりとしてしまった。
もう十分発熱したのに。
病み上がりの自分がもどかしかった。
たぶん色々な疲れが一気に出たのかもしれない。
いや、グレイと恋人同士になったことに興奮しすぎたのかもしれない。
私は今、景気よく発熱していた。
ピピッと体温計がなったので、見てみたら39.6と書いてある。
わーすごい、39度台は初めてだなぁ、と思っていたら、横からそれを覗いたアリスが声を上げた。
「さ、39.6度!? 大変! 救急車を呼ばなくちゃ!!」
「いや、病院まで俺が直接連れて行こう。名無しさん、動けるか?」
アリスとグレイがわたわたとしているのを、ぼーっとした頭で眺める。
「グレイ、そのまま入院てことになるかもしれないから、私はあとから名無しさんの着替えを持っていくわ」
「あぁ、そうしてもらえると助かる」
なんだか大袈裟な気がするなぁ、と思っていたらナイトメアがやってきた。
「お? どうした、なんだか慌ただしいな」
「名無しさん、39.6度の熱があるのよ。病院に連れてかなくちゃ!」
「ナイトメア様、2時間帯の休暇をいただきますね。俺は名無しさんを病院に連れて行きます」
アリスとグレイの慌てっぷりとは対照的に、ナイトメアは無言でちらりと私を見た。
そしてぐったりとソファに座る私につかつかと近寄ると、彼はそっと私のおでこに手を当てる。
冷たくて気持ちのいい手だ。
「確かに熱いな……顔色も悪い。大丈夫か?」
「あたまいたい。ぞくぞくしてさむい」
「そうだよなぁ。大丈夫なわけがない。そのうち吐き気も来るぞ。節々も痛いだろう?でも、いつかはおさまると思えばなんとか耐えられるものだ」
「うん……」
さすが病気慣れしてるなぁ、と感心する私。
しかし、グレイとアリスは違ったらしい。
「ナイトメア!そんなのんきなこと言ってる場合じゃないでしょう!?高熱なのよ!?」
「そうです。高熱なんです。っていうか軽々しく名無しさんに触れないでください」
「いや、確かに高熱だが、私が40度越えしていても、お前達はそこまで心配してくれないじゃないか」
「万年病人のあなたと、いつも健康な名無しさんとはわけが違うんです!」
「うぅ、ひどいことを言うな。もっと私をいたわってくれてもいいじゃないか。大体、いつも健康な名無しさんがそんな高熱を出すなんておかしくないか? まさかグレイ。お前、名無しさんに無理なことをさせたんじゃないだろうな?」
「まだ何もしてませんよ!」
「そうよね、グレイがそんなに手が早いわけないじゃない!」
「アリス、君はこいつの本性を知らないな?」
「本性?なにそれ??」
「いいからナイトメア様は黙っててください!」
……元気があればツッコミを入れる所だけれど、もうどうでもいいくらいに体がだるい。
彼らのやりとりをぼーっと聞きながら、私はそのままソファに横になった。
すると意識がどんどんと遠のいて行った。
「あ。名無しさんが倒れた」
ナイトメアの声が最後に聞こえた。
結局ただの風邪だったらしい。
私は病院に連れて行かれ、薬をもらい、大人しく部屋で過ごしていた。
2時間帯ほどが経ち、すっかり元気&退屈になった私は、自分の部屋を出る。
「グレイやアリスにお礼を言っておかなくちゃ」
そう思いつつ、廊下を歩く。
しかし、なんだかいつもよりも静かな気がする。
まるで誰もいないような静けさを不思議に思いつつ、休憩室を覗いてみるとちょうどグレイがいた。
彼は煙草をふかしてぼんやりとしているようだった。
……ぼんやりとしている姿すら絵になるわ。
私は入り口から彼をこっそりと観察しながら、ドキドキしてしまった。
すると、私に気づいたらしい。
グレイはふっと私の方を向いた。
「名無しさん! もういいのか?」
驚いたように言う彼に、私はうなずいた。
「うん。もう元気。心配かけてごめんね」
グレイの隣りに座ろうと歩いていくと、彼は吸っていた煙草を灰皿に押し付けながら私を見る。
「君はいつも元気だからな。あの高熱には驚いたよ」
「うん、自己ベストを更新しました」
そう言ってグレイの隣りに座ると、彼はふっと笑った。
「それはおめでとう」
「ありがとう」
確かにかなり気持ち悪かったし、かなり頭も痛かった。
総合的にかなりつらい風邪ではあったけれど、自己ベスト体温のせいか不思議な達成感はある。なぜだろう。
という私のくだらない話を、グレイは楽しそうに聞いてくれた。
「でももう平気。病院まで連れて行ってくれてありがとう」
「いや、病院に行くということがすごく簡単で拍子抜けしたくらいだ。あんなにスムーズに病院へ人を連れて行く経験がなかったからな」
「ナイトメアみたいにごねる人が珍しいんだよ」
思わず笑う私にグレイも「そうだな」と笑った。
「ねぇ、なんだかすごく塔の中が静かだね」
「あぁ、会合が終わったんだ。名無しさんが寝込んでいる間に」
「え?」
予想外の言葉に目が点になる。
「会合中に泊まっていた出席者はみんな帰って行ったよ」
「そうだったんだ。お疲れ様」
まさか寝ているうちに、全てが終わっているとは……。
「あぁ、とりあえずはな。でも、またすぐ次の会合が始まるから、その準備をしなくてはいけないんだ。忙しさは変わらないよ」
「そうなんだ。大変だね」
少しはラクになるのかと思ったけれど、そうもいかないらしい。
こんなに働いている人が体調を崩さないで、フラフラしている私が風邪をひくなんてなんか申し訳ない。気合が足りていないのかもしれない。
そんなことを考えていたら、グレイが私の頭をなでてきた。
突然のことにびっくりして彼を見る。
「悪いな」
「え?」
「なかなか名無しさんとの時間を作るのが難しいんだ」
そう言ってグレイは、私の頭をこてんと自分の肩に乗せる。
そうか、恋人同士になったのだからこれくらいは当たり前なのかもしれない。
ドキドキする胸を押さえると、私はそのまま彼に寄り添うことにした。
「別にいいんだよ私は。こうやってほんの少しの時間だけでも一緒にいられれば」
「そうか」
グレイはそう言ってから小さく笑う。
「でも、俺はこれじゃあ足りないくらいなんだ」
「え」
意外な言葉に彼を見ると、グレイも私を見ていた。
「全然足りない」
そう言われて、じっと見つめられて、私の鼓動は跳ね上がった。
顔がかーっと熱くなる。
しかし、グレイはいつもの落ち着いた表情。
うわ、どうしよう。私ばっかり動揺してるのが丸わかりだわ。
ドキドキしすぎてわけがわからなくなる私に、グレイは顔を近づけてきた。
わー、え、今? ここで!?
彼の端正な顔が近づいてくるのを見て、私は動揺しすぎていたらしい。
気付けば彼の肩口を手で押し返していた。
そっと目を開けたグレイと視線がぶつかる。
「……ダメか?」
「え、えぇと、ごめん。びっくりしすぎちゃってっ……!」
本音ですこれ。
でも、ものすごーく悪いことをした気がする。
どうしようどうしよう。
「いや、すまない、俺が悪い。突然すぎたな」
彼はそう言って、私から距離を取った。
うわ、なんだかもうこれ嫌われちゃったんじゃない!?
「あ、あの私、ほら、病み上がりだし、変にうつしたら困るでしょう? 別に嫌だってわけじゃなくて、むしろドキドキしすぎてどうしていいのやら……」
しどろもどろになりつつ、弁明する私を見てグレイはくすくす笑った。
「あぁ、わかっている。気にしないでくれ。俺が悪い。ほんの少し名無しさんに会わなかっただけで、こうも自制が利かなくなるとは自分でも思わなかった」
「なんかけっこうなことを言っている気がしますけど……」
思わずそう言うと、彼はにやりと笑った。
「2時間帯でこれだからな。なるべく俺と会っておいた方がいいかもしれないぞ、名無しさん?」
「……すごく悪役のセリフっぽいね、グレイ」
「まぁ、良い奴ではないからな。俺も」
そう言ってグレイは私のおでこにキスをする。
「今回はこれで我慢しておこう。病み上がりだからな」
ふわりとほほ笑むグレイに、またどきりとしてしまった。
もう十分発熱したのに。
病み上がりの自分がもどかしかった。