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【20.周囲の反応】
買い出しから戻ると、それはもうニヤニヤと笑うナイトメアが待ち構えていた。
部屋に入った私とグレイを見て、わざとらしいくらい大袈裟な言い方で声をかけてくる。
「おうおう、ご両人。戻ったか。ずいぶんと早かったなぁ。2時間帯たっぷり出かけていてよかったのに」
「なにを言っているんですか。仕事がたまっているんです。2時間帯もあけてられませんよ」
明らかにからかう気満々のナイトメアだったけれど、グレイはいつも通りの調子で答える。
しかし、ナイトメアに怯む様子は全くなかった。
それどころかグレイの肩にぐいっと腕をまわすと、私に背を向けてなにやらこそこそと話をし始める。
「グレイ……まさかお前、ここまで私がおぜん立てしておきながら何も進展しなかったというんじゃないだろうな? 昔あれだけの女を泣かせてきたお前が……」
「余計なお世話です。大体俺はそんなに泣かせてませんよ! 誤解を招く言い方はしないでください!」
「誤解も何も真実だろう?」
「っ! ナイトメア様……あなたはそういうことばっかり考えているから仕事が進まないんですよ!」
「なっ!? お前は都合が悪くなるとそっちに話を持っていこうとするんだな! 卑怯だぞ!」
「卑怯でもなんでもいいですから、名無しさんの前でそんな話はしないでください! 怒りますよ」
「???」
2人でなにやらこそこそ話しているのを不思議に思いながら見つめる私。
たまに私の方をちらちら見てくるので、おそらく私には聞かせたくない話なのだろう。(気になるなぁ)
そんな私に視線に気づいたらしいグレイは、こほんと咳払いをする。
「そんなことよりナイトメア様、すこしは書類を片付けておいてくれたんでしょうね?」
ナイトメアの腕を振りほどきながら、机のうえを覗き込んだグレイは深いため息をついた。
「一つも手を付けていないじゃないですか。俺、いいましたよね? 俺の分までしっかり働いておいてくださいと」
「う……いや、私は上司としてお前達のことが心配でだな……」
「そうですか。それは申し訳ありませんでした。無事に戻ってきましたので、安心して仕事に励んでくださいね」
はい、これもお願いします。
そう言いながらグレイはナイトメアの机にさらに書類を乗せた。
ナイトメアが口を挟む間すら与えない、鮮やかかつ無駄のない流れ。
「じゃあ、俺も自分の仕事に戻るので、これら全てを1時間帯のうちに終わらせてくださいね。あとで取りに来ます」
「1時間帯~!?」
「なにか?」
「……いえ、何でも……」
グレイにすっと視線を向けられ、しゅるしゅると小さくなるナイトメア。
どっちが上司なんだろう?
そう思ってしまうやりとりを目の当たりにして、私は呆然としていた。
グレイは「よろしくお願いしますね」とナイトメアに言った。
そして、くるりと彼に背を向けるとそのまま部屋を出て行った。すれ違いざまにぽんと私の頭をひとなでして。
触れられた頭に手をやりながら、ぼんやりとグレイが去っていたドアを見つめていると、ナイトメアが「はぁ~」とため息をついた。
「ひどい……鬼だ。悪魔だ。あいつはもはや人ではない……!」
うぅ~気持ち悪くなってきたぞ、と机につっぶしたナイトメアに私は苦笑する。
「仕方ないよ。仕事サボってたんだから」
珈琲淹れてあげるからがんばりなよ、と彼の肩をぽんぽんと撫でてなぐさめる私。
すると、ナイトメアが顔を上げた。
「名無しさん、本当にあいつでいいのか? 鬼だぞ、鬼」
「え……」
彼の言葉にドキリとすると、ナイトメアがにやりと笑った。
「うまくいったようでなによりだがね。名無しさん」
そう言った彼は、書類に囲まれた机に頬杖をついて優しい目で私を見ている。
「う、うまくいったって……なんで?」
なんでわかるの?
言葉にならない思いにナイトメアはくすくすと笑う。
「心を読むまでもない。さっきと雰囲気も顔つきも全然違うからな」
その言葉に私は頬を抑える。
ナイトメアは楽しそうな目で私を見ていた。
「私のナイスアシストにおかげだろう? 私が君たちを買い出しに行かせたおかげだ!」
やたらと勝ち誇ったように言うナイトメアに対して、私は素直にうなずいた。
「うん、ありがとう。あの時は『余計なことしないでよ』って思ったけど、なんだかうまくいっちゃった」
「ははは。そりゃそうさ。君たちは誰がどう見たって惹かれあっているようだったからね。
もっと早くくっつけただろうに。見ていてまどろっこしかったよ」
「それはナイトメアが心を読めるからでしょう? 私がグレイを好きなのはみんな知っていたかもしれないけど、グレイは全然わからなかったよ」
「いやぁ、そうでもないさ。グレイの心は滅多に読めないが、あいつは君といる時とそうでない時の態度が違いすぎるんだ」
「……そう、だったの?」
「あぁ。そうだったよ。あいつがあんなに他人としゃべったり、笑ったりする姿なんてこれまで見たことがない」
「そうなんだ。私にはよくわからなかったけど」
でも、私にとっては嬉しい情報だ。
思わず緩む頬を抑える。
「名無しさん」
名前を呼ばれてナイトメアを見た。
彼はじっと私を見てこう言った。
「グレイを頼んだよ」
ものすごく穏やかな表情。
でもどちらかと言えば、私がグレイに面倒を見てもらう側だと思う。
「ナイトメアにグレイを頼まれるなんて、すごく変」
「ふふふ。酷いな。私だって上司として、あいつのことは知っているつもりだよ。あいつはなんだってできる。うまくやれる。
だが、一人でうまくできる故に人に頼ろうとしない。支えがないといつかポキっと折れるだろう」
珍しくナイトメアは真剣な表情で静かにそう言った。
そして、探るような目で私を見る。
「名無しさんがあいつを支えてやってくれ」
夢で会う時みたいに、ナイトメアが底知れない不思議な雰囲気を宿しているように思えた。
「……わかった」
そう答えると、ナイトメアは安心したように笑う。
私は初めて、ナイトメアってすごい人なのかもしれないと思った。
「名無しさん、私は『すごい人なのかもしれない』んじゃなくて、本当に『すごい人』なんだ」
「あーうん、そうですねー」
「うわ、なんだその投げやりな言い方は!! 私は本当にすごい人なんだぞ!!」
「そうかもしれないけど、勝手に心を読まないでくださいねー」
私の言葉にナイトメアがいつも通りわーわー騒ぎ始める。
なんだかおかしくて笑ってしまった。
「アリス。実はちょっとご報告がありまして……」
ナイトメアの部屋から出ると、アリスにばったり出会った。
これから休憩時間だという彼女をお茶にさそい、私は思い切ってグレイとのことを話すことにした。
考えてみれば、私がグレイを好きになってしまったことも、うっかり告白っぽいことをしたことも、失恋したことも、何一つアリスに話したことはなった。
あれだけグレイファンとして一緒に騒いでいたというのに。
ファンだと言っておきながら、いつのまにか本気になってしまっていたので言いづらかったというのもあるけれど、グレイと付き合うことになったんだし、やっぱり話しておかなくちゃいけないよね。
「どうしたの? 改まっちゃって」
アリスは紅茶をすすりながら、不思議そうな顔をする。
「えぇと、その……実はですね……私、グレイのことが本当に好きになっちゃって、この度彼と付き合うことになりました」
思い切ってそう告白する私。
グレイに告白するよりもドキドキしているのはなんでだろうか?
ドキドキしまくる私は、そっとアリスを見てみる。
「……」
彼女は無言で私を見つめていた。
……え、あれ? なんでそんなに無表情なんでしょうか?
「あの……アリス?」
まさかアリスもグレイが好きだったとか、そういうことではないよね?
だとしたらグレイファンとして一緒に盛り上がってたのにどういうこと!?とか言われちゃうのかしら?(まさか!)
冷や汗のようなものがじわりと浮かんでくる私に、アリスはやっと口を開いた。
「……付き合うことにって……それ最近の話なの?」
「うん。その……ついさっきのことなんだけど……」
思わぬ質問に冷や汗がさらに出てきた気がする。
これは、まさかほんとにアリスはグレイのことを……?
「ついさっきなんて嘘でしょう?」
アリスはそう言って小さく笑う。
「本当なの?」
「う、うん。ごめん。ほんと」
やばい。これ予想以上に修羅場になっちゃったりするかも。
どうしようどうしようと頭がフル回転し始めた時だった。
「嘘でしょー!? 名無しさんとグレイはもっと前から付き合ってると思ってたわ~!」
「……へ?」
心底驚いた、というように声をあげるアリス。
そのセリフに私の思考は一瞬止まった。
「だって、あなた達すっごく仲良しだったじゃない? よく一緒にいる所をみかけるし、グレイがあんなにしゃべったり、笑ったりしている所なんて、名無しさんと一緒にいるときくらいだったわよ」
あぁ、ナイトメアは別よ。あれは別。
アリスはそう言って笑う。
「だから私てっきり二人は恋人同士なんだとばっかり……ついさっきだなんて信じられない!」
どうやら私の心配した展開にはならなそうだ。
私はほっとしてぐたりと脱力する。
そんな私に気づく様子もなく、アリスはニコニコと話を続ける。
「でも、そっかぁ。良かったわね!すっごくお似合いだと思うわよ。っていうか、あんなに仲良くて、これまでよく友達でいられたわよねぇ。実は手を出されてた、とかそんな展開はなかったの? 実は告白されてたけど焦らしてた、とかさ」
「え? えぇと……」
焦らしてはいないけど、キスはされました。(なんて言えない)
口ごもる私を見て、アリスはにや~っと笑う。
「うふふっ。まぁ、色々あるわよね! いいなぁ。グレイだなんて羨ましい~!あんなにいい人絶対いないわよ?優しいし、真面目だし、すぐに発砲したり切ったりしないし、大人だし、かっこいいし。いいないいな~」
ぐいぐいと上がるアリスのテンションに、私は今更ながらグレイがいかにモテる人なのかを感じた。
あのアリスがこれだもの。
グレイは私の何が良くて好きになってくれたのだろうか?(謎だわ)
「名無しさん、余計なことなんて考えちゃだめよ? とにかくグレイが好きならそれだけでいいの。
グレイもあなたのことが好きだと言ってくれたんだから、それでいいのよ。信じていればいいの」
「……うん」
「変に疑ったり、自分に自信を無くすと、その瞬間おかしなことになっちゃうからね」
「アリス、なんだか実感籠ってるね?」
「えぇ。恋愛って信じることが大切なのよ」
しみじみと言うアリスに、恋愛経験ほぼ初心者の私はふむふむそういうものか、と頷いておいた。
恋愛は信じることが大切。
しっかり覚えておこう。
買い出しから戻ると、それはもうニヤニヤと笑うナイトメアが待ち構えていた。
部屋に入った私とグレイを見て、わざとらしいくらい大袈裟な言い方で声をかけてくる。
「おうおう、ご両人。戻ったか。ずいぶんと早かったなぁ。2時間帯たっぷり出かけていてよかったのに」
「なにを言っているんですか。仕事がたまっているんです。2時間帯もあけてられませんよ」
明らかにからかう気満々のナイトメアだったけれど、グレイはいつも通りの調子で答える。
しかし、ナイトメアに怯む様子は全くなかった。
それどころかグレイの肩にぐいっと腕をまわすと、私に背を向けてなにやらこそこそと話をし始める。
「グレイ……まさかお前、ここまで私がおぜん立てしておきながら何も進展しなかったというんじゃないだろうな? 昔あれだけの女を泣かせてきたお前が……」
「余計なお世話です。大体俺はそんなに泣かせてませんよ! 誤解を招く言い方はしないでください!」
「誤解も何も真実だろう?」
「っ! ナイトメア様……あなたはそういうことばっかり考えているから仕事が進まないんですよ!」
「なっ!? お前は都合が悪くなるとそっちに話を持っていこうとするんだな! 卑怯だぞ!」
「卑怯でもなんでもいいですから、名無しさんの前でそんな話はしないでください! 怒りますよ」
「???」
2人でなにやらこそこそ話しているのを不思議に思いながら見つめる私。
たまに私の方をちらちら見てくるので、おそらく私には聞かせたくない話なのだろう。(気になるなぁ)
そんな私に視線に気づいたらしいグレイは、こほんと咳払いをする。
「そんなことよりナイトメア様、すこしは書類を片付けておいてくれたんでしょうね?」
ナイトメアの腕を振りほどきながら、机のうえを覗き込んだグレイは深いため息をついた。
「一つも手を付けていないじゃないですか。俺、いいましたよね? 俺の分までしっかり働いておいてくださいと」
「う……いや、私は上司としてお前達のことが心配でだな……」
「そうですか。それは申し訳ありませんでした。無事に戻ってきましたので、安心して仕事に励んでくださいね」
はい、これもお願いします。
そう言いながらグレイはナイトメアの机にさらに書類を乗せた。
ナイトメアが口を挟む間すら与えない、鮮やかかつ無駄のない流れ。
「じゃあ、俺も自分の仕事に戻るので、これら全てを1時間帯のうちに終わらせてくださいね。あとで取りに来ます」
「1時間帯~!?」
「なにか?」
「……いえ、何でも……」
グレイにすっと視線を向けられ、しゅるしゅると小さくなるナイトメア。
どっちが上司なんだろう?
そう思ってしまうやりとりを目の当たりにして、私は呆然としていた。
グレイは「よろしくお願いしますね」とナイトメアに言った。
そして、くるりと彼に背を向けるとそのまま部屋を出て行った。すれ違いざまにぽんと私の頭をひとなでして。
触れられた頭に手をやりながら、ぼんやりとグレイが去っていたドアを見つめていると、ナイトメアが「はぁ~」とため息をついた。
「ひどい……鬼だ。悪魔だ。あいつはもはや人ではない……!」
うぅ~気持ち悪くなってきたぞ、と机につっぶしたナイトメアに私は苦笑する。
「仕方ないよ。仕事サボってたんだから」
珈琲淹れてあげるからがんばりなよ、と彼の肩をぽんぽんと撫でてなぐさめる私。
すると、ナイトメアが顔を上げた。
「名無しさん、本当にあいつでいいのか? 鬼だぞ、鬼」
「え……」
彼の言葉にドキリとすると、ナイトメアがにやりと笑った。
「うまくいったようでなによりだがね。名無しさん」
そう言った彼は、書類に囲まれた机に頬杖をついて優しい目で私を見ている。
「う、うまくいったって……なんで?」
なんでわかるの?
言葉にならない思いにナイトメアはくすくすと笑う。
「心を読むまでもない。さっきと雰囲気も顔つきも全然違うからな」
その言葉に私は頬を抑える。
ナイトメアは楽しそうな目で私を見ていた。
「私のナイスアシストにおかげだろう? 私が君たちを買い出しに行かせたおかげだ!」
やたらと勝ち誇ったように言うナイトメアに対して、私は素直にうなずいた。
「うん、ありがとう。あの時は『余計なことしないでよ』って思ったけど、なんだかうまくいっちゃった」
「ははは。そりゃそうさ。君たちは誰がどう見たって惹かれあっているようだったからね。
もっと早くくっつけただろうに。見ていてまどろっこしかったよ」
「それはナイトメアが心を読めるからでしょう? 私がグレイを好きなのはみんな知っていたかもしれないけど、グレイは全然わからなかったよ」
「いやぁ、そうでもないさ。グレイの心は滅多に読めないが、あいつは君といる時とそうでない時の態度が違いすぎるんだ」
「……そう、だったの?」
「あぁ。そうだったよ。あいつがあんなに他人としゃべったり、笑ったりする姿なんてこれまで見たことがない」
「そうなんだ。私にはよくわからなかったけど」
でも、私にとっては嬉しい情報だ。
思わず緩む頬を抑える。
「名無しさん」
名前を呼ばれてナイトメアを見た。
彼はじっと私を見てこう言った。
「グレイを頼んだよ」
ものすごく穏やかな表情。
でもどちらかと言えば、私がグレイに面倒を見てもらう側だと思う。
「ナイトメアにグレイを頼まれるなんて、すごく変」
「ふふふ。酷いな。私だって上司として、あいつのことは知っているつもりだよ。あいつはなんだってできる。うまくやれる。
だが、一人でうまくできる故に人に頼ろうとしない。支えがないといつかポキっと折れるだろう」
珍しくナイトメアは真剣な表情で静かにそう言った。
そして、探るような目で私を見る。
「名無しさんがあいつを支えてやってくれ」
夢で会う時みたいに、ナイトメアが底知れない不思議な雰囲気を宿しているように思えた。
「……わかった」
そう答えると、ナイトメアは安心したように笑う。
私は初めて、ナイトメアってすごい人なのかもしれないと思った。
「名無しさん、私は『すごい人なのかもしれない』んじゃなくて、本当に『すごい人』なんだ」
「あーうん、そうですねー」
「うわ、なんだその投げやりな言い方は!! 私は本当にすごい人なんだぞ!!」
「そうかもしれないけど、勝手に心を読まないでくださいねー」
私の言葉にナイトメアがいつも通りわーわー騒ぎ始める。
なんだかおかしくて笑ってしまった。
「アリス。実はちょっとご報告がありまして……」
ナイトメアの部屋から出ると、アリスにばったり出会った。
これから休憩時間だという彼女をお茶にさそい、私は思い切ってグレイとのことを話すことにした。
考えてみれば、私がグレイを好きになってしまったことも、うっかり告白っぽいことをしたことも、失恋したことも、何一つアリスに話したことはなった。
あれだけグレイファンとして一緒に騒いでいたというのに。
ファンだと言っておきながら、いつのまにか本気になってしまっていたので言いづらかったというのもあるけれど、グレイと付き合うことになったんだし、やっぱり話しておかなくちゃいけないよね。
「どうしたの? 改まっちゃって」
アリスは紅茶をすすりながら、不思議そうな顔をする。
「えぇと、その……実はですね……私、グレイのことが本当に好きになっちゃって、この度彼と付き合うことになりました」
思い切ってそう告白する私。
グレイに告白するよりもドキドキしているのはなんでだろうか?
ドキドキしまくる私は、そっとアリスを見てみる。
「……」
彼女は無言で私を見つめていた。
……え、あれ? なんでそんなに無表情なんでしょうか?
「あの……アリス?」
まさかアリスもグレイが好きだったとか、そういうことではないよね?
だとしたらグレイファンとして一緒に盛り上がってたのにどういうこと!?とか言われちゃうのかしら?(まさか!)
冷や汗のようなものがじわりと浮かんでくる私に、アリスはやっと口を開いた。
「……付き合うことにって……それ最近の話なの?」
「うん。その……ついさっきのことなんだけど……」
思わぬ質問に冷や汗がさらに出てきた気がする。
これは、まさかほんとにアリスはグレイのことを……?
「ついさっきなんて嘘でしょう?」
アリスはそう言って小さく笑う。
「本当なの?」
「う、うん。ごめん。ほんと」
やばい。これ予想以上に修羅場になっちゃったりするかも。
どうしようどうしようと頭がフル回転し始めた時だった。
「嘘でしょー!? 名無しさんとグレイはもっと前から付き合ってると思ってたわ~!」
「……へ?」
心底驚いた、というように声をあげるアリス。
そのセリフに私の思考は一瞬止まった。
「だって、あなた達すっごく仲良しだったじゃない? よく一緒にいる所をみかけるし、グレイがあんなにしゃべったり、笑ったりしている所なんて、名無しさんと一緒にいるときくらいだったわよ」
あぁ、ナイトメアは別よ。あれは別。
アリスはそう言って笑う。
「だから私てっきり二人は恋人同士なんだとばっかり……ついさっきだなんて信じられない!」
どうやら私の心配した展開にはならなそうだ。
私はほっとしてぐたりと脱力する。
そんな私に気づく様子もなく、アリスはニコニコと話を続ける。
「でも、そっかぁ。良かったわね!すっごくお似合いだと思うわよ。っていうか、あんなに仲良くて、これまでよく友達でいられたわよねぇ。実は手を出されてた、とかそんな展開はなかったの? 実は告白されてたけど焦らしてた、とかさ」
「え? えぇと……」
焦らしてはいないけど、キスはされました。(なんて言えない)
口ごもる私を見て、アリスはにや~っと笑う。
「うふふっ。まぁ、色々あるわよね! いいなぁ。グレイだなんて羨ましい~!あんなにいい人絶対いないわよ?優しいし、真面目だし、すぐに発砲したり切ったりしないし、大人だし、かっこいいし。いいないいな~」
ぐいぐいと上がるアリスのテンションに、私は今更ながらグレイがいかにモテる人なのかを感じた。
あのアリスがこれだもの。
グレイは私の何が良くて好きになってくれたのだろうか?(謎だわ)
「名無しさん、余計なことなんて考えちゃだめよ? とにかくグレイが好きならそれだけでいいの。
グレイもあなたのことが好きだと言ってくれたんだから、それでいいのよ。信じていればいいの」
「……うん」
「変に疑ったり、自分に自信を無くすと、その瞬間おかしなことになっちゃうからね」
「アリス、なんだか実感籠ってるね?」
「えぇ。恋愛って信じることが大切なのよ」
しみじみと言うアリスに、恋愛経験ほぼ初心者の私はふむふむそういうものか、と頷いておいた。
恋愛は信じることが大切。
しっかり覚えておこう。