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【16.波乱の会合】
会合が始まった。
広い会議室には役持ちの皆様が着席している。
心底つまらなそうな人、私とアリスにひらひらと手を振ってくる人、さっそく居眠りをする人、わりとまじめに書類を見つめている人など様々だ。
私とアリスは会議室の入り口付近に椅子を置いて座っている。
ナイトメアからは「練習の時と同じ場所にすわってほしい」と言われたけれど、さすがにそんなど真ん中に座るなんて無理だ。
部屋の端にこっそりと座り、ナイトメアのスピーチを見守ることにした。
が、しかし。
「……これ、話が違うわよね」
「うん、違うね」
アリスと私はナイトメアのスピーチに愕然とした。
緊張しまくっている彼のスピーチはお世辞にもうまいとは言えない。
しどろもどろ、という言葉がしっくりくる。
私とアリスはわざわざナイトメアから見える場所に座ってあげたというのに、彼は私達を見ようともしない。
私達がいることも忘れているかのようにいっぱいいっぱいだった。
「ナイトメア、落ち着いて!」と心の中で叫んでみたけれど、全く聞こえていないらしい。
議長席の後ろで、おでこに手をあててうつむくグレイが見えた。
もういっそのことグレイが議長をすればいいのに。
グレイにつられてため息をついた時だった。
「おい、蓑虫。お前が何を言いたいのか全くわからぬぞ。もっとしっかりせい」
きっぱりとそう言ったのはビバルディだった。
しばらく黙って聞いていた彼女も、どうやら限界だったらしい。
ナイトメアは「な、なんだと!?」と顔をしかめるが、女王様の発言に隣に座っていたペーターも同意した。
「そうですね。正直に言って、議題が何かも伝えられないような議長が進める会合なんて時間の無駄です。
それよりも、もっと重大なことを話しあうべきではありませんか?」
「重大なこと? なんだそれは」
ナイトメアが口を尖らせると、ペーターはずばりとこう言った。
「もちろん余所者の滞在地についてです。どうしてこの塔に余所者が2人もいるのですか? アリスは僕の元へ来るべきなんです!!」
ペーターはぱっと振り返ると、アリスに向けて熱烈な視線とセリフを贈る。
「あぁ、アリス!愛しい人!!こんな塔の連中と一緒にいてはいけません!お城へ来てくだされば、僕があなたを大切にします!!」
「……寝言は寝て言いなさいよ」
アリスは思いっきり引きつった表情でそう言い捨てた。
「アリス、愛されてるんだねぇ」と言うと、睨まれてしまった。
「でも、宰相さんのいう通りだと思うなー。名無しさんかアリスのどっちかは俺だって欲しいんだけど」
ボリスの言葉に双子も続ける。
「僕らは名無しさんもお姉さんも2人とも欲しいなぁ。屋敷にいてほしいよ」
「そうだね、兄弟。2人とも屋敷に住むべきだよ」
いつの間にか会議室内の視線が私とアリスに集中している。
え、どうなのこれ。おかしくない?
私は助けを求めて議長であるナイトメアを見る。
私の視線に気づいた彼は、はっとしたように口を開いた。
「ちょっと待て。今回の議題は、余所者の滞在地についてではないぞ!」
「くだらない議題よりも、よっぽど重要なことじゃ。名無しさんとアリスはわらわと共にいた方が良いに決まっておる」
ビバルディの言葉に、他の人たちがわいわいと騒ぎ出した。
屋敷がいいだの、森の方が楽しいだの、紅茶が飲みたいだのそれぞれが好き勝手なことを話しだす。
ペーターに至っては、いつのまにかアリスの隣りに来て彼女に引っ越しの説得を始める始末。
「……なんかもうめちゃくちゃになってるよ」
どうするのこれ。ナイトメアじゃ手におえなさそう。
そう思った時だった。
すぐ後ろのドアがぎぃっと開いた。
「はー、やっと着いた」
もう始まっちゃってるよね、と爽やかに入って来たのはこの前会った赤い服の人だった。
彼の登場に更なる波乱の予感を覚える私。
すると、さっそくペーターの冷たい声が聞こえてきた。
「会合に遅刻だなんて迷惑な騎士ですね、エース君!!」
「ははは。ごめんごめん、ペーターさん。道に迷っちゃったんだ。これでもだいぶ急いできたんだぜ?」
彼はそう言って笑うと、ぶつぶつと文句を言うペーターをスルーして私に視線を止めた。
「あ、君は前に街で会った子だよね? 確かトカゲさんの彼女の……」
「違います!」
「え、違うの?」
グレイの彼女という言葉を否定する私に、彼は特に驚いた様子もない。
「ところで、もう会合って始まってるんだよな?なに?どうしてこんなめちゃくちゃな感じになってるの?」
ペーターさんはアリスを口説いてるし、参加しなくていいはずの君たちがここにいるし、みんな騒いでるし、と至極まともなことを言う彼。
「なんだか色々あって……」
そもそもの原因はナイトメアのダメ議長っぷりなんだけど、それは黙っておこう。
「ふぅん。まぁいいか。ねぇ、君の名前って確か名無しさんだよね? 俺はエースっていうんだ。自己紹介まだだったよな」
彼は爽やかにそう言って握手をしようと手を差し出してきた。
え、今この状況で自己紹介とかアリですか。
うーむ、と一瞬悩んだけれど差し出された手を拒否するわけにもいかず、とりあえず「どうも」と握手をする。
「はは。よかった。握手してもらえた」
「え?」
「だって君、初めて会った時すっごい怯えた顔で俺のこと見てたからさ。怖がられてるのかと思ったんだ」
あはは、と笑うエース。
確かに『赤い人には注意しろ』的なことを言われていたので、かなり警戒はしていたけれど。
「自己紹介も済んだし、君はトカゲさんの彼女じゃないって言うし、ほっとしたぜ」
そう言って笑いながらエースは私を見る。
「もう一度名無しさんに会いたかったんだ。ちょっと気になってたからさ、君のこと」
「あ、そうですか……」
そう答えながら、今は会合中だったことを思い出した私。
周囲を見回すと、会議室の皆様からの視線は私とエースに集まっていた。
うわわ! これはかなり恥ずかしい!
思わずエースと距離を取ると、双子が非難の声を上げた。
「遅刻しておいて名無しさんを口説くなんて、図々しいにもほどがあるんじゃないの? 迷子騎士!」
「そうだよ。名無しさんから離れろよ」
「確かにちょっとずるいよね。真面目にやろうとしてるこっちが馬鹿みたいだ」
むっとしたようにボリスも同意する。
「名無しさん、こっちに来なさい。君は私の隣りに座るべきだ」
それまで黙っていたブラッドが静かにそう言った。
するとアリスが私の服の袖を掴む。
「ダメよ、名無しさん。もうここから出ましょう」
あぁ、もうなんだか本当にめちゃくちゃだ。
どうしよう。
そう頭を抱えた時だった。
「名無しさん。俺の隣りに来てくれ」
その声と言葉にはっと顔をあげると、グレイが立ち上がって私を見ていた。
「君の場所はここだ」
グレイは空いている席を指し示す。
突然のことに思考が止まる私。
しかし、グレイは次々と指示を飛ばしていく。
「アリスはナイトメア様の隣りで補助を頼む。ナイトメア様は落ち着いて資料を見てください。それからペーター=ホワイト。お前も席に戻れ」
ペーターは不満そうな顔をしつつも席に戻り、アリスはナイトメアの隣りへと座った。
グレイはそれらを見届けると、エースを静かに見つめた。
「今後遅刻してくることは許さない。席に着け」
「ご機嫌斜めだね、トカゲさん」
「いいから座れ。大人しくしていろ」
「ははは。相変わらず厳しいぜ」
エースはそう言いながら自分の席に座った。
静かになった室内を見回して、グレイが口を開いた。
「今回の議題は余所者の滞在地ではない。そして、この塔に滞在しているのは彼女たちの意志だということを理解してもらおう。
異論があるならまずは彼女たちを説得することだ。ただし、それは会合の後にしてくれ」
事態が収拾されていくのを眺めて立ち尽くす私。
グレイは話し終えると、静かに私の名を呼んだ。
「名無しさん」
はっと我に返り、グレイが私をじっと見つめていることに気づいた。
しんと静まり返った部屋の中、私はグレイの元へと歩いていく。
「迷惑をかけてすまなかった」
席に着いたら、グレイにそう言われた。
別にグレイのせいじゃないよと言おうと思った時、ぼそりと小さな声でグレイがつぶやいた。
「あいつら……片っ端から消していくか」
「は?」
「!! いや、なんでもない。気にするな」
「?」
一瞬昔のやんちゃなグレイが見えた気がしたのですが……。
「グレイ、今怖いこと言った?」
「いや、何でもない。ナイトメア様、続きをお願いします」
グレイはいつものクールな表情でそう言うと、さっさと書類に目を落とした。
一筋縄じゃいかないメンツとぐちゃぐちゃになった状況を綺麗にまとめたグレイ。
それをあっさりとやってのける人が、普通のいい人なわけないよねぇと変に納得してしまう私だった。
会合が始まった。
広い会議室には役持ちの皆様が着席している。
心底つまらなそうな人、私とアリスにひらひらと手を振ってくる人、さっそく居眠りをする人、わりとまじめに書類を見つめている人など様々だ。
私とアリスは会議室の入り口付近に椅子を置いて座っている。
ナイトメアからは「練習の時と同じ場所にすわってほしい」と言われたけれど、さすがにそんなど真ん中に座るなんて無理だ。
部屋の端にこっそりと座り、ナイトメアのスピーチを見守ることにした。
が、しかし。
「……これ、話が違うわよね」
「うん、違うね」
アリスと私はナイトメアのスピーチに愕然とした。
緊張しまくっている彼のスピーチはお世辞にもうまいとは言えない。
しどろもどろ、という言葉がしっくりくる。
私とアリスはわざわざナイトメアから見える場所に座ってあげたというのに、彼は私達を見ようともしない。
私達がいることも忘れているかのようにいっぱいいっぱいだった。
「ナイトメア、落ち着いて!」と心の中で叫んでみたけれど、全く聞こえていないらしい。
議長席の後ろで、おでこに手をあててうつむくグレイが見えた。
もういっそのことグレイが議長をすればいいのに。
グレイにつられてため息をついた時だった。
「おい、蓑虫。お前が何を言いたいのか全くわからぬぞ。もっとしっかりせい」
きっぱりとそう言ったのはビバルディだった。
しばらく黙って聞いていた彼女も、どうやら限界だったらしい。
ナイトメアは「な、なんだと!?」と顔をしかめるが、女王様の発言に隣に座っていたペーターも同意した。
「そうですね。正直に言って、議題が何かも伝えられないような議長が進める会合なんて時間の無駄です。
それよりも、もっと重大なことを話しあうべきではありませんか?」
「重大なこと? なんだそれは」
ナイトメアが口を尖らせると、ペーターはずばりとこう言った。
「もちろん余所者の滞在地についてです。どうしてこの塔に余所者が2人もいるのですか? アリスは僕の元へ来るべきなんです!!」
ペーターはぱっと振り返ると、アリスに向けて熱烈な視線とセリフを贈る。
「あぁ、アリス!愛しい人!!こんな塔の連中と一緒にいてはいけません!お城へ来てくだされば、僕があなたを大切にします!!」
「……寝言は寝て言いなさいよ」
アリスは思いっきり引きつった表情でそう言い捨てた。
「アリス、愛されてるんだねぇ」と言うと、睨まれてしまった。
「でも、宰相さんのいう通りだと思うなー。名無しさんかアリスのどっちかは俺だって欲しいんだけど」
ボリスの言葉に双子も続ける。
「僕らは名無しさんもお姉さんも2人とも欲しいなぁ。屋敷にいてほしいよ」
「そうだね、兄弟。2人とも屋敷に住むべきだよ」
いつの間にか会議室内の視線が私とアリスに集中している。
え、どうなのこれ。おかしくない?
私は助けを求めて議長であるナイトメアを見る。
私の視線に気づいた彼は、はっとしたように口を開いた。
「ちょっと待て。今回の議題は、余所者の滞在地についてではないぞ!」
「くだらない議題よりも、よっぽど重要なことじゃ。名無しさんとアリスはわらわと共にいた方が良いに決まっておる」
ビバルディの言葉に、他の人たちがわいわいと騒ぎ出した。
屋敷がいいだの、森の方が楽しいだの、紅茶が飲みたいだのそれぞれが好き勝手なことを話しだす。
ペーターに至っては、いつのまにかアリスの隣りに来て彼女に引っ越しの説得を始める始末。
「……なんかもうめちゃくちゃになってるよ」
どうするのこれ。ナイトメアじゃ手におえなさそう。
そう思った時だった。
すぐ後ろのドアがぎぃっと開いた。
「はー、やっと着いた」
もう始まっちゃってるよね、と爽やかに入って来たのはこの前会った赤い服の人だった。
彼の登場に更なる波乱の予感を覚える私。
すると、さっそくペーターの冷たい声が聞こえてきた。
「会合に遅刻だなんて迷惑な騎士ですね、エース君!!」
「ははは。ごめんごめん、ペーターさん。道に迷っちゃったんだ。これでもだいぶ急いできたんだぜ?」
彼はそう言って笑うと、ぶつぶつと文句を言うペーターをスルーして私に視線を止めた。
「あ、君は前に街で会った子だよね? 確かトカゲさんの彼女の……」
「違います!」
「え、違うの?」
グレイの彼女という言葉を否定する私に、彼は特に驚いた様子もない。
「ところで、もう会合って始まってるんだよな?なに?どうしてこんなめちゃくちゃな感じになってるの?」
ペーターさんはアリスを口説いてるし、参加しなくていいはずの君たちがここにいるし、みんな騒いでるし、と至極まともなことを言う彼。
「なんだか色々あって……」
そもそもの原因はナイトメアのダメ議長っぷりなんだけど、それは黙っておこう。
「ふぅん。まぁいいか。ねぇ、君の名前って確か名無しさんだよね? 俺はエースっていうんだ。自己紹介まだだったよな」
彼は爽やかにそう言って握手をしようと手を差し出してきた。
え、今この状況で自己紹介とかアリですか。
うーむ、と一瞬悩んだけれど差し出された手を拒否するわけにもいかず、とりあえず「どうも」と握手をする。
「はは。よかった。握手してもらえた」
「え?」
「だって君、初めて会った時すっごい怯えた顔で俺のこと見てたからさ。怖がられてるのかと思ったんだ」
あはは、と笑うエース。
確かに『赤い人には注意しろ』的なことを言われていたので、かなり警戒はしていたけれど。
「自己紹介も済んだし、君はトカゲさんの彼女じゃないって言うし、ほっとしたぜ」
そう言って笑いながらエースは私を見る。
「もう一度名無しさんに会いたかったんだ。ちょっと気になってたからさ、君のこと」
「あ、そうですか……」
そう答えながら、今は会合中だったことを思い出した私。
周囲を見回すと、会議室の皆様からの視線は私とエースに集まっていた。
うわわ! これはかなり恥ずかしい!
思わずエースと距離を取ると、双子が非難の声を上げた。
「遅刻しておいて名無しさんを口説くなんて、図々しいにもほどがあるんじゃないの? 迷子騎士!」
「そうだよ。名無しさんから離れろよ」
「確かにちょっとずるいよね。真面目にやろうとしてるこっちが馬鹿みたいだ」
むっとしたようにボリスも同意する。
「名無しさん、こっちに来なさい。君は私の隣りに座るべきだ」
それまで黙っていたブラッドが静かにそう言った。
するとアリスが私の服の袖を掴む。
「ダメよ、名無しさん。もうここから出ましょう」
あぁ、もうなんだか本当にめちゃくちゃだ。
どうしよう。
そう頭を抱えた時だった。
「名無しさん。俺の隣りに来てくれ」
その声と言葉にはっと顔をあげると、グレイが立ち上がって私を見ていた。
「君の場所はここだ」
グレイは空いている席を指し示す。
突然のことに思考が止まる私。
しかし、グレイは次々と指示を飛ばしていく。
「アリスはナイトメア様の隣りで補助を頼む。ナイトメア様は落ち着いて資料を見てください。それからペーター=ホワイト。お前も席に戻れ」
ペーターは不満そうな顔をしつつも席に戻り、アリスはナイトメアの隣りへと座った。
グレイはそれらを見届けると、エースを静かに見つめた。
「今後遅刻してくることは許さない。席に着け」
「ご機嫌斜めだね、トカゲさん」
「いいから座れ。大人しくしていろ」
「ははは。相変わらず厳しいぜ」
エースはそう言いながら自分の席に座った。
静かになった室内を見回して、グレイが口を開いた。
「今回の議題は余所者の滞在地ではない。そして、この塔に滞在しているのは彼女たちの意志だということを理解してもらおう。
異論があるならまずは彼女たちを説得することだ。ただし、それは会合の後にしてくれ」
事態が収拾されていくのを眺めて立ち尽くす私。
グレイは話し終えると、静かに私の名を呼んだ。
「名無しさん」
はっと我に返り、グレイが私をじっと見つめていることに気づいた。
しんと静まり返った部屋の中、私はグレイの元へと歩いていく。
「迷惑をかけてすまなかった」
席に着いたら、グレイにそう言われた。
別にグレイのせいじゃないよと言おうと思った時、ぼそりと小さな声でグレイがつぶやいた。
「あいつら……片っ端から消していくか」
「は?」
「!! いや、なんでもない。気にするな」
「?」
一瞬昔のやんちゃなグレイが見えた気がしたのですが……。
「グレイ、今怖いこと言った?」
「いや、何でもない。ナイトメア様、続きをお願いします」
グレイはいつものクールな表情でそう言うと、さっさと書類に目を落とした。
一筋縄じゃいかないメンツとぐちゃぐちゃになった状況を綺麗にまとめたグレイ。
それをあっさりとやってのける人が、普通のいい人なわけないよねぇと変に納得してしまう私だった。