短編2
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【受け止めてくれる人】
この世界にだいぶ馴染んだつもりではあったけれど、なんだかんだ気を使って生活していたらしい。
ある日、自分がものすごーく疲れていることに気づいた。
ふらっと散歩でもいこうかなぁと思っていたら、ブラッドに声をかけられた。
「やぁ、名無しさん。これからお茶会をするんだが、よければどうだ?」
「お茶会?」
「あぁ。いい茶葉が手に入ったんだ」
機嫌が良いらしく、ブラッドの表情は明るい。
「……お茶会かぁ」
気分転換にはなるかもしれない。
一瞬そう思ったけれど、次の瞬間色々な状況が思い浮かんだ。
ひたすら『いい茶葉』について語るブラッド。
そして、いつのまにか乱入してくるエリオットと双子。
きっとにんじんのお菓子を押し付けられたり、わーわー賑やかに物騒なことをし出すんだろう。
考えただけでなんだか疲れてしまった。
「……ごめん、今日はこれから出かけるから」
「そうか。残念だな。君の好きな茶菓子もあるんだが」
「うん、ごめん。また今度ね」
「……茶菓子で名無しさんが釣れないとはよっぽどだな」
そう言って笑うブラッドだったけれど、どうやら私の心の疲れというものを見抜いたらしい。
「無理しすぎないようにな、お嬢さん」と言って去って行った。
たまに見せる彼の心遣いに感謝しつつ、私は屋敷を出る。
「どうしようかなぁ。森で新鮮な空気でも吸ってみようかなぁ」
そう思った途端、森をうろつく赤い人影が思い浮かんだ。
「……嫌な予感しかしない」
森にぽつんとたたずむテントが容易に想像できてしまった。
にこにこ笑顔でとんでもないことばかり言う彼には今会いたくない。
会ったら絶対逃がしてもらえない。
「森はやめよう」
じゃあビバルディに会いに行こうかな。
いや、ダメだ。
エースが森ではなくてお城でキャンプしてるかもしれないし、ペーターさんに会ったら面倒だ。
今彼のアリスへのラブ話なんて聞いてられない。
きっと「はいはい、もうどうでもいいです。さっさとくっつくか、諦めるかしてください!」って素で言ってしまいそう。
「あぁ、私ってなんて嫌な奴……」
そうつぶやいて、私は行くべき場所を思いめぐらせる。
1人でいるのはなんだか寂しいから、誰かに会いたい。
でも会ったら会ったで面倒な人ばかりだ。そう思うのはずるいのかな。
あ、ユリウスはどうかな?
ユリウスの部屋は静かで落ち着く。
……あー、でも今は彼の毒舌がストレートに心に響いてしまいそう。
「遊園地がいいかもなぁ」
ゴーランドは遊園地でぱーっと遊べよ、とか言って元気づけてくれそうだし
ボリスは飄々としつつも、色々と気遣ってくれそうだ。(しかも自然に!)
「っていうかなに私。甘えたがり?」
ほんと面倒なタイプだわ、と自己嫌悪に陥りそうになった時だった。
「名無しさん?」
名前を呼ばれてはっと顔を上げると、そこにはグレイがいた。
「グレイ!」
「どうした?そんな道の真ん中で。具合でも悪いのか?」
彼はそう言って心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「ううん、ちょっと考え事してたの。グレイはどうしたの?」
「ナイトメア様の薬をもらってきたところなんだ」
小さな紙袋を軽く持ち上げて見せながら、グレイが笑う。
「具合悪いの?」
「いや、いつものことだ。ちょっと高熱にうなされているだけだ」
「それって変な言い方だよね?」
高熱にうなされているのは結構大変だと思うけど。
「そうかもしれないな。でもあの方の高熱は日常茶飯事だし、熱には耐性ができてしまっているからな。さっきも薬を拒んで大暴れして大変だったんだ」
「……うわー、もうほんと何してるんだろうね、あの人」
今の私だったら付き合いきれない。
きっとかなり強引な手段でナイトメアに薬を飲ませてしまうだろう。
ナイトメアの子どもっぽさに呆れつつ、心の余裕がない自分に対してもがっくりしてしまう。
「はぁ。もうだめだなぁ私」
「……名無しさん、疲れているようだな。いつもの君らしくないぞ」
「え、えぇと……まぁうん。そうだね。なんか疲れてるの。あ、でもグレイみたいにほんとに忙しい人に私が言えたものじゃないけどね」
苦笑する私をグレイはじっと見つめる。
「いや、俺は別に疲れてはいない。ただ仕事に追われているだけだ。だが、名無しさんは違う。元の世界との違いに神経をすり減らしながら暮らしているんだろう?それは疲れるに決まっている」
彼の言葉に私はびっくりしてしまった。
なんでわかったんだろう?
何も言えずにグレイを見つめていると、彼はさらにこう言った。
「病弱だが病気に強いナイトメア様が熱を出すのと、普段元気な君が熱を出すのでは意味が違うだろう?」
「え?うん、そうだけど……なんで突然?」
「つまり人と比べる物ではないということだ」
グレイはそう言いつつ、「すまない、例えが悪かったな」と笑った。
「名無しさん、疲れや辛さは人と比べる物じゃない。君がつらいのなら、しっかりと休むべきだ。無理する必要はない」
グレイはそう言って私の頭にぽんと手を乗せた。
「君は少し我慢してしまう所があるからな。少しの我慢も積み重なれば大きくなる」
「そんなに我慢してないよ。いい加減だよ私」
「その言い分が真面目すぎる」
「……真面目なのはグレイだって一緒でしょ」
「俺は別に真面目じゃない」
私の言葉に、即答するグレイ。
しばらく私たちは見つめあっていたけれど、ふっと息をついたのは私だった。
真面目かどうかの論争はどうでもいい。
きっとグレイは私を受け止めてくれる。そんな気がしたのだ。
「じゃあこれから少し付き合ってくれる?一緒に珈琲でも飲もうよ」
「あぁ。そうしよう」
「塔の近くの珈琲屋さんまで行こう」
「そうだな」
私のわがままにグレイが優しく笑ってくれたので、ものすごく嬉しくなってしまった。
とたんに気持ちが軽くなる自分は単純だなぁと思っていたら、グレイがぼそりと言った。
「このまま連れて帰りたくなるな」
「え?」
思わず彼を見ると、グレイは「いや、なんでもない」と笑って歩き出した。
なんだかドキドキする。
彼の半歩後ろを歩きながら、先ほどの言葉の意味を考えてしまう私だった。
この世界にだいぶ馴染んだつもりではあったけれど、なんだかんだ気を使って生活していたらしい。
ある日、自分がものすごーく疲れていることに気づいた。
ふらっと散歩でもいこうかなぁと思っていたら、ブラッドに声をかけられた。
「やぁ、名無しさん。これからお茶会をするんだが、よければどうだ?」
「お茶会?」
「あぁ。いい茶葉が手に入ったんだ」
機嫌が良いらしく、ブラッドの表情は明るい。
「……お茶会かぁ」
気分転換にはなるかもしれない。
一瞬そう思ったけれど、次の瞬間色々な状況が思い浮かんだ。
ひたすら『いい茶葉』について語るブラッド。
そして、いつのまにか乱入してくるエリオットと双子。
きっとにんじんのお菓子を押し付けられたり、わーわー賑やかに物騒なことをし出すんだろう。
考えただけでなんだか疲れてしまった。
「……ごめん、今日はこれから出かけるから」
「そうか。残念だな。君の好きな茶菓子もあるんだが」
「うん、ごめん。また今度ね」
「……茶菓子で名無しさんが釣れないとはよっぽどだな」
そう言って笑うブラッドだったけれど、どうやら私の心の疲れというものを見抜いたらしい。
「無理しすぎないようにな、お嬢さん」と言って去って行った。
たまに見せる彼の心遣いに感謝しつつ、私は屋敷を出る。
「どうしようかなぁ。森で新鮮な空気でも吸ってみようかなぁ」
そう思った途端、森をうろつく赤い人影が思い浮かんだ。
「……嫌な予感しかしない」
森にぽつんとたたずむテントが容易に想像できてしまった。
にこにこ笑顔でとんでもないことばかり言う彼には今会いたくない。
会ったら絶対逃がしてもらえない。
「森はやめよう」
じゃあビバルディに会いに行こうかな。
いや、ダメだ。
エースが森ではなくてお城でキャンプしてるかもしれないし、ペーターさんに会ったら面倒だ。
今彼のアリスへのラブ話なんて聞いてられない。
きっと「はいはい、もうどうでもいいです。さっさとくっつくか、諦めるかしてください!」って素で言ってしまいそう。
「あぁ、私ってなんて嫌な奴……」
そうつぶやいて、私は行くべき場所を思いめぐらせる。
1人でいるのはなんだか寂しいから、誰かに会いたい。
でも会ったら会ったで面倒な人ばかりだ。そう思うのはずるいのかな。
あ、ユリウスはどうかな?
ユリウスの部屋は静かで落ち着く。
……あー、でも今は彼の毒舌がストレートに心に響いてしまいそう。
「遊園地がいいかもなぁ」
ゴーランドは遊園地でぱーっと遊べよ、とか言って元気づけてくれそうだし
ボリスは飄々としつつも、色々と気遣ってくれそうだ。(しかも自然に!)
「っていうかなに私。甘えたがり?」
ほんと面倒なタイプだわ、と自己嫌悪に陥りそうになった時だった。
「名無しさん?」
名前を呼ばれてはっと顔を上げると、そこにはグレイがいた。
「グレイ!」
「どうした?そんな道の真ん中で。具合でも悪いのか?」
彼はそう言って心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「ううん、ちょっと考え事してたの。グレイはどうしたの?」
「ナイトメア様の薬をもらってきたところなんだ」
小さな紙袋を軽く持ち上げて見せながら、グレイが笑う。
「具合悪いの?」
「いや、いつものことだ。ちょっと高熱にうなされているだけだ」
「それって変な言い方だよね?」
高熱にうなされているのは結構大変だと思うけど。
「そうかもしれないな。でもあの方の高熱は日常茶飯事だし、熱には耐性ができてしまっているからな。さっきも薬を拒んで大暴れして大変だったんだ」
「……うわー、もうほんと何してるんだろうね、あの人」
今の私だったら付き合いきれない。
きっとかなり強引な手段でナイトメアに薬を飲ませてしまうだろう。
ナイトメアの子どもっぽさに呆れつつ、心の余裕がない自分に対してもがっくりしてしまう。
「はぁ。もうだめだなぁ私」
「……名無しさん、疲れているようだな。いつもの君らしくないぞ」
「え、えぇと……まぁうん。そうだね。なんか疲れてるの。あ、でもグレイみたいにほんとに忙しい人に私が言えたものじゃないけどね」
苦笑する私をグレイはじっと見つめる。
「いや、俺は別に疲れてはいない。ただ仕事に追われているだけだ。だが、名無しさんは違う。元の世界との違いに神経をすり減らしながら暮らしているんだろう?それは疲れるに決まっている」
彼の言葉に私はびっくりしてしまった。
なんでわかったんだろう?
何も言えずにグレイを見つめていると、彼はさらにこう言った。
「病弱だが病気に強いナイトメア様が熱を出すのと、普段元気な君が熱を出すのでは意味が違うだろう?」
「え?うん、そうだけど……なんで突然?」
「つまり人と比べる物ではないということだ」
グレイはそう言いつつ、「すまない、例えが悪かったな」と笑った。
「名無しさん、疲れや辛さは人と比べる物じゃない。君がつらいのなら、しっかりと休むべきだ。無理する必要はない」
グレイはそう言って私の頭にぽんと手を乗せた。
「君は少し我慢してしまう所があるからな。少しの我慢も積み重なれば大きくなる」
「そんなに我慢してないよ。いい加減だよ私」
「その言い分が真面目すぎる」
「……真面目なのはグレイだって一緒でしょ」
「俺は別に真面目じゃない」
私の言葉に、即答するグレイ。
しばらく私たちは見つめあっていたけれど、ふっと息をついたのは私だった。
真面目かどうかの論争はどうでもいい。
きっとグレイは私を受け止めてくれる。そんな気がしたのだ。
「じゃあこれから少し付き合ってくれる?一緒に珈琲でも飲もうよ」
「あぁ。そうしよう」
「塔の近くの珈琲屋さんまで行こう」
「そうだな」
私のわがままにグレイが優しく笑ってくれたので、ものすごく嬉しくなってしまった。
とたんに気持ちが軽くなる自分は単純だなぁと思っていたら、グレイがぼそりと言った。
「このまま連れて帰りたくなるな」
「え?」
思わず彼を見ると、グレイは「いや、なんでもない」と笑って歩き出した。
なんだかドキドキする。
彼の半歩後ろを歩きながら、先ほどの言葉の意味を考えてしまう私だった。
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