短編2
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【夜の森】
「あー。もう突然夜にならないでほしいよ」
私は必死に夜の森を歩いていた。
滞在地へと帰る途中で、昼から夜へと時間帯が変わってしまったのだ。
昼と夜とでこうも違うのか、というくらい森は表情を変える。
暗い道はやっぱり怖い。
しばらく歩いて行くと、見覚えのありすぎるテントを見つけた。
ぼんやりと明かりがもれるそのテントを見た瞬間、私は立ち止まってしまった。
「うわぁ~……どうしよう」
どう見たってあれはエースのテントだ。
心細い今、知り合いに会えるのは嬉しいが、相手はエース。
しかも夜のテントに2人きりというのは、さすがに気が引ける。
何も起こらないに決まっているけど、からかわれるのは嫌だ。
見つからないようにここを通らねば!!
私は足音を立てないよう慎重にテントの横を通ろうとした。
がしかし。
「あぁ、誰かと思ったら名無しさんじゃないか」
テントからエースがぴょこりと顔をだした(どういうタイミング!?)
彼はいつもの笑顔でこう言った。
「いらっしゃい。さぁ、入ってくれよ」
招いた知人を待っていたかのようなエースの言葉に、ぽかんとする私。
その私の様子をみて彼は少し首をかしげる。
「どうしたの?遠慮なんてしないでくれよ」
「いや、私急いでるから」
「でも夜の森は危ないぜ。熊とかでたら嫌だろ?」
「熊……? 熊なんてでるの?」
「出るさ。俺なんて追いかけられたことがあるんだぜ」
「うそ……」
「ほんとだって! 君が熊から逃げられるならいいんだけどさ、そういうタイプには見えないし、時間帯が変わるまでここにいれば?」
私は思わず辺りを見回した。
真っ暗な森。
歩きなれている道だけど、夜歩くことはめったにない。
本当に熊が出るのかはわからないけど、1人で夜の森を歩くのはやっぱりちょっと怖い。
どうしようかなぁと悩んでいた私は、ふとエースに目をやった。
爽やかな笑顔で私を見ていたエースと目が合った瞬間、口が動いていた。
「それじゃあお邪魔します」
「意外と広いんだねぇ」
テントの中は明るくて、思ったよりも広かった。
淹れてもらったお茶を飲みながら、足を投げ出して座る私。
隣に座るエースもゆったりと寛いで座っている。
「旅で疲れた体を休めるためには、これくらいの広さが必要なんだ」
「こんなテントを持ち歩くから疲れるんじゃないの?」
「そんなことないよ。目的地に着くまでずっと外にいるなんて大変じゃないか」
迷子にならなければ話は早いよねと思いつつも、「そうだね」と素直にうなずいておいた私。(大人の対応だわ)
「名無しさんは滞在地に帰る途中だったの?」
「うん。エースは? どこへ行く途中なの?」
「俺は城へ帰ろうと思ってるんだ」
城……
私は現在地とハートの城を思い浮かべてみる。
「あの……すごく言いにくいんだけど、お城は反対方向だよ?」
「え!? そうなの?」
本気で驚く彼を見て、苦笑いしてしまう。
「近道しようと思ったのが間違いだったのかなぁ」
「そうでしょうね。急がばまわれというしね。あなたの場合は特にそうだと思う」
思わずしみじみとそう言ってしまった私に、エースは「はっきり言うなぁ」と笑った。
「まぁいいや。急いでいるわけじゃないし、こうやって名無しさんに会えたしね」
「……前向きですね」
立派なほどに前向きだわ。
「だって名無しさんに会うのすごく久しぶりじゃないか。会えてうれしいよ」
そう言ってにっこりと笑うエースに、毒気を抜かれる。
2人きりとはいっても、彼はやっぱり友達だ。
テントに入る前に変な警戒心を持った自分を恥じる。ごめんね、エース。
「そうだね。エースが元気そうでよかった」
「心配してくれてたんだ? 名無しさんは優しいなぁ」
そう言いながらエースはずりずりと私の隣りにぴったりとくっつく。
前言撤回。
先ほど心の中でエースに謝った言葉を取り消す私。
「はい、離れてね」
と言いつつ、私はずりずりと移動して彼から離れた。
「つれないなぁ。せっかく会えたのに」
「せっかく会えたからって、くっつく必要はないでしょうよ」
「えー? そんなことないよ。やっと会えたんだからちょっとくらい触れたっていいじゃないか」
「……何言ってんの」
発言がちょっとおかしな方向になってる気がする。
相変わらずにこにことしているエース。
この笑顔にさっきは毒気を抜かれたけれど、今は警戒心を抱かざるを得ない。
思わず私は投げ出していた足をまげて、膝を抱え込んだ。
そんな私を楽しそうに見ながらエースが言う。
「どうしたの、名無しさん?」
「え、な、なにが?」
「なんだかそわそわしちゃってさ」
そう言いながらエースはすっと私の隣りにくっついた。
「近いってば」
肘でエースを押す私。
私に押されて揺れるエースは、それでも楽しそうに笑う。
「名無しさんは結構力があるんだね」
「かよわくなくてすみませんね」
「でもほら、ちょっとくらい強い方がいいと思うよ」
エースはそう言って私の肩に手を回す。
ぐいっと引き寄せられて、膝を抱えていた私はバランスを失い、ころんと彼の胸に倒れてしまった。
慌てて体勢を整えようとする私より早く、エースが動いた。
私を抱え込むようにして座りなおしたエースは、そのまま私を抱きしめる。
「ちょっと……!」
夜のテントでこれはまずいでしょう。
私はなんとか逃れようとぎゅうぎゅうエースを押し返した。
しかし、そんな抵抗もまったく気にならないらしい。
「なんかさ、小さいくせに逃げようともがいている姿がいいよね」
すっぽりと彼の腕の中におさまってしまった私は、その言葉に思わず固まった。
エースはそっと腕を緩めると、私の肩に手を置いた。
そして、いつもの笑顔で私を見つめる。
「結局は逃げられないのにね」
その言葉で、私の思考はストップする。
「……怖いこと言わないで」
なんとかそう言った私に、エースは唇だけをあげて笑う。
「逃げたいの?」
「できれば」
考える前に言葉が出る私の今の状況。
何をしゃべっているのか自分でもよくわからない。
エースはそんな私を楽しそうに見ている。
「だめ。逃がさないよ」
そう言って彼は私の頬に触れた。
心臓が痛いくらいに早く胸をうっている。
訳のわからない展開に、私の思考はついていけない。
なんでこんなことになっているのだろう?
「……テントに入ったのがまずかったのね」
今さら反省をしても遅いけれど、自分が悪いのかとがっくりしてしまう。
「そんなことないって。熊に襲われたら困るだろ?」
「あなたに襲われるのも困る」
「ははは! そうか。そうだな。俺も君のこと襲ってるもんな」
はははじゃないでしょう。
「でも、熊に襲われたら痛いだけだろ」
そう言いながら、エースは私に顔を近づける。
まっすぐに私を見つめる彼の顔からは笑みが消えていた。
「俺は違うよ」
小さな声でそうささやいて、エースは私に顔を寄せる。
意味深な言葉と意味深な瞳に、私は眩暈がした。
「あー。もう突然夜にならないでほしいよ」
私は必死に夜の森を歩いていた。
滞在地へと帰る途中で、昼から夜へと時間帯が変わってしまったのだ。
昼と夜とでこうも違うのか、というくらい森は表情を変える。
暗い道はやっぱり怖い。
しばらく歩いて行くと、見覚えのありすぎるテントを見つけた。
ぼんやりと明かりがもれるそのテントを見た瞬間、私は立ち止まってしまった。
「うわぁ~……どうしよう」
どう見たってあれはエースのテントだ。
心細い今、知り合いに会えるのは嬉しいが、相手はエース。
しかも夜のテントに2人きりというのは、さすがに気が引ける。
何も起こらないに決まっているけど、からかわれるのは嫌だ。
見つからないようにここを通らねば!!
私は足音を立てないよう慎重にテントの横を通ろうとした。
がしかし。
「あぁ、誰かと思ったら名無しさんじゃないか」
テントからエースがぴょこりと顔をだした(どういうタイミング!?)
彼はいつもの笑顔でこう言った。
「いらっしゃい。さぁ、入ってくれよ」
招いた知人を待っていたかのようなエースの言葉に、ぽかんとする私。
その私の様子をみて彼は少し首をかしげる。
「どうしたの?遠慮なんてしないでくれよ」
「いや、私急いでるから」
「でも夜の森は危ないぜ。熊とかでたら嫌だろ?」
「熊……? 熊なんてでるの?」
「出るさ。俺なんて追いかけられたことがあるんだぜ」
「うそ……」
「ほんとだって! 君が熊から逃げられるならいいんだけどさ、そういうタイプには見えないし、時間帯が変わるまでここにいれば?」
私は思わず辺りを見回した。
真っ暗な森。
歩きなれている道だけど、夜歩くことはめったにない。
本当に熊が出るのかはわからないけど、1人で夜の森を歩くのはやっぱりちょっと怖い。
どうしようかなぁと悩んでいた私は、ふとエースに目をやった。
爽やかな笑顔で私を見ていたエースと目が合った瞬間、口が動いていた。
「それじゃあお邪魔します」
「意外と広いんだねぇ」
テントの中は明るくて、思ったよりも広かった。
淹れてもらったお茶を飲みながら、足を投げ出して座る私。
隣に座るエースもゆったりと寛いで座っている。
「旅で疲れた体を休めるためには、これくらいの広さが必要なんだ」
「こんなテントを持ち歩くから疲れるんじゃないの?」
「そんなことないよ。目的地に着くまでずっと外にいるなんて大変じゃないか」
迷子にならなければ話は早いよねと思いつつも、「そうだね」と素直にうなずいておいた私。(大人の対応だわ)
「名無しさんは滞在地に帰る途中だったの?」
「うん。エースは? どこへ行く途中なの?」
「俺は城へ帰ろうと思ってるんだ」
城……
私は現在地とハートの城を思い浮かべてみる。
「あの……すごく言いにくいんだけど、お城は反対方向だよ?」
「え!? そうなの?」
本気で驚く彼を見て、苦笑いしてしまう。
「近道しようと思ったのが間違いだったのかなぁ」
「そうでしょうね。急がばまわれというしね。あなたの場合は特にそうだと思う」
思わずしみじみとそう言ってしまった私に、エースは「はっきり言うなぁ」と笑った。
「まぁいいや。急いでいるわけじゃないし、こうやって名無しさんに会えたしね」
「……前向きですね」
立派なほどに前向きだわ。
「だって名無しさんに会うのすごく久しぶりじゃないか。会えてうれしいよ」
そう言ってにっこりと笑うエースに、毒気を抜かれる。
2人きりとはいっても、彼はやっぱり友達だ。
テントに入る前に変な警戒心を持った自分を恥じる。ごめんね、エース。
「そうだね。エースが元気そうでよかった」
「心配してくれてたんだ? 名無しさんは優しいなぁ」
そう言いながらエースはずりずりと私の隣りにぴったりとくっつく。
前言撤回。
先ほど心の中でエースに謝った言葉を取り消す私。
「はい、離れてね」
と言いつつ、私はずりずりと移動して彼から離れた。
「つれないなぁ。せっかく会えたのに」
「せっかく会えたからって、くっつく必要はないでしょうよ」
「えー? そんなことないよ。やっと会えたんだからちょっとくらい触れたっていいじゃないか」
「……何言ってんの」
発言がちょっとおかしな方向になってる気がする。
相変わらずにこにことしているエース。
この笑顔にさっきは毒気を抜かれたけれど、今は警戒心を抱かざるを得ない。
思わず私は投げ出していた足をまげて、膝を抱え込んだ。
そんな私を楽しそうに見ながらエースが言う。
「どうしたの、名無しさん?」
「え、な、なにが?」
「なんだかそわそわしちゃってさ」
そう言いながらエースはすっと私の隣りにくっついた。
「近いってば」
肘でエースを押す私。
私に押されて揺れるエースは、それでも楽しそうに笑う。
「名無しさんは結構力があるんだね」
「かよわくなくてすみませんね」
「でもほら、ちょっとくらい強い方がいいと思うよ」
エースはそう言って私の肩に手を回す。
ぐいっと引き寄せられて、膝を抱えていた私はバランスを失い、ころんと彼の胸に倒れてしまった。
慌てて体勢を整えようとする私より早く、エースが動いた。
私を抱え込むようにして座りなおしたエースは、そのまま私を抱きしめる。
「ちょっと……!」
夜のテントでこれはまずいでしょう。
私はなんとか逃れようとぎゅうぎゅうエースを押し返した。
しかし、そんな抵抗もまったく気にならないらしい。
「なんかさ、小さいくせに逃げようともがいている姿がいいよね」
すっぽりと彼の腕の中におさまってしまった私は、その言葉に思わず固まった。
エースはそっと腕を緩めると、私の肩に手を置いた。
そして、いつもの笑顔で私を見つめる。
「結局は逃げられないのにね」
その言葉で、私の思考はストップする。
「……怖いこと言わないで」
なんとかそう言った私に、エースは唇だけをあげて笑う。
「逃げたいの?」
「できれば」
考える前に言葉が出る私の今の状況。
何をしゃべっているのか自分でもよくわからない。
エースはそんな私を楽しそうに見ている。
「だめ。逃がさないよ」
そう言って彼は私の頬に触れた。
心臓が痛いくらいに早く胸をうっている。
訳のわからない展開に、私の思考はついていけない。
なんでこんなことになっているのだろう?
「……テントに入ったのがまずかったのね」
今さら反省をしても遅いけれど、自分が悪いのかとがっくりしてしまう。
「そんなことないって。熊に襲われたら困るだろ?」
「あなたに襲われるのも困る」
「ははは! そうか。そうだな。俺も君のこと襲ってるもんな」
はははじゃないでしょう。
「でも、熊に襲われたら痛いだけだろ」
そう言いながら、エースは私に顔を近づける。
まっすぐに私を見つめる彼の顔からは笑みが消えていた。
「俺は違うよ」
小さな声でそうささやいて、エースは私に顔を寄せる。
意味深な言葉と意味深な瞳に、私は眩暈がした。