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【14.アールグレイ】
今日もキッチンにいる私。
良く考えてみれば、ここにいることが結構多い気がする。
主に珈琲を淹れるためにいるのだけれど、この場所に慣れてきたせいか、ここにいると落ち着くことに最近気づいた。
「広すぎないのがいいのかもねぇ」
ちょうどいい高さの踏み台に乗り、私は棚の上から茶葉を取り出した。
今日は紅茶を入れてみようと思っている。
「ブラッドがくれた茶葉だけど……どれがいいんだろう?」
種類がたくさんあってわからない。
「もういいや、これにしよう」
適当に手に取った茶葉にはアールグレイと書かれていた。 ……アールグレイ。
「いちいち反応する自分が恥ずかしいわ」
意味とかそんなものよりも「グレイ」という言葉に反応している自分に呆れてしまう。
パッケージの裏にある『美味しい紅茶の淹れ方』という説明文を見ながらさっそく紅茶を入れることにした。
やかんを火にかけお湯が沸くのを待っている間、思い浮かぶのはやっぱりグレイのことだった。
「……あの時、なにを言おうとしたんだろうなぁ」
私は踏み台に座りながら、廊下でグレイと話した時のことを思い出す。
あの恋愛っぽい感じの空気は、今思い出してもドキドキする。
あれから3時間帯くらいが経ったけれど、グレイとは相変わらずだ。
会えば挨拶がてら話をするし、一緒にナイトメアを叱ったりもするし、アリスとグレイの話で盛り上がってはファンクラブだのなんだの言って遊んでいる。
私達は相変わらず友達だ。
でも、正直気になることもある。
目が合うと逸らされることが多くなった気がする。
さらに言えば、会話中に不意にグレイが黙り込むことが増えた気がする。
不思議に思って声をかけると、「あぁ、悪い」といつもどおり笑ってくれるけれど。
「……なんだかぎこちないような気がするんだよね」
私がグレイをまだ好きだということが、迷惑なのかもしれない。
あの雰囲気の中で、彼がそう感じたのかもしれない。
「これからどうすればいいんだろうなぁ」
なんだかもう考えるのも面倒になってそうつぶやいた。
「とりあえず火を止めようか、お嬢さん」
思いがけずに返ってきた言葉にびくりとして顔をあげると、そこには予想外の人物がいた。
「え、ブラッド!?」
「こんにちは、名無しさん」
キッチンの入り口に立っていた彼は、私に挨拶をするとさっさとコンロの前まで行き、かちりと火を止めた。
「沸騰したお湯を使うのはいいが、沸かしすぎはよくないよ」
彼の言葉にやかんを見ると、湯気がもうもうと上がっていた。
「あ、ごめん。ありがとう」
慌てて踏み台から立ち上がると、膝に乗せていた茶葉の袋が落ちた。
「あ」
ころりと落ちた茶葉の袋はブラッドの足元へ転がっていく。
彼はそれを拾い上げると私に視線を移す。
「アールグレイか……名無しさんはこれが好きなのか?」
「え、いや、たまたまに手に取ったのがそれだったの。私紅茶のことはあんまりよくわからなくて……」
紅茶好きの人を前にそんなことを言うのは申し訳ないけれど、仕方ない。
しかし、ブラッドは気を悪くした様子もなくこう言った。
「香りの強いフレーバーティーだよ。好みのわかれるところだな。強い香りが苦手ならアイスティーかミルクティーにした方がいいと思うが」
「そうなんだ。知らなかった」
「私が淹れ方をレクチャーしてあげようか」
「え! いいの!?」
マフィアのボスにそんなことしてもらうなんて!
「あぁ。美味しく飲んでほしいからね。とりあえずストレートで飲んでみるといい」
彼はそう言って、手際よくかつ上品に紅茶の準備を始める。
「珈琲ばかり飲むと聞いてはいたが、道具一式は揃っているんだな」
「うん、たまに紅茶を飲むこともあるから」
そう答えてから、私はブラッドにずっと思っていた疑問をぶつける。
「そういえば、どうしてブラッドがここにいるの?」
「君がここにいたからだよ、お嬢さん」
ブラッドはそう言いながら私を見た。
え?と思ってブラッドを見ると、彼は楽しそうに目を細めた。
「紅茶を入れようとしているのがわかったからね。せっかくならご一緒しようと思ったんだ」
「そうなんだ。でも、ブラッドって街に宿を取っているんでしょう? どうして塔に来たの?」
「次の時間帯は会合なんだ。早めに来て名無しさんに会うのもいいかと思ってね」
迷惑だったかな?とブラッドが笑ったけれど、迷惑なわけないだろうとでも言いたげな目をしている。
なんだかそれが面白くて思わず笑ってしまった。
「うん、ありがとう。紅茶のこと全然わからないから、教えてもらえてよかった」
やっぱりこの人はいいマフィアのボスに違いない。
グレイは怪訝な顔をしていたけど、わざわざ紅茶の淹れ方を教えてくれるボスなんて聞いたことないもん。
そう思いながら紅茶を入れるブラッドを見ていると、彼は砂時計をくるりと返してトンと置いた。
「私は待たされるのは嫌いだが、紅茶に関しては全く苦にならない。この時間は何よりも楽しい」
「そういうものなの?」
「私にとってはね」
「ふぅん」
私はさらさらと落ちてゆく砂を眺める。
砂が落ちてゆくのを見るのは、なんだか癒し効果でもあるように思う。
ふわ~っとした気分でそれを見ていると、ブラッドが口を開いた。
「それで? 君は一体何がわからなくなっていたんだ?」
「え?」
「さっき言っていただろう? これからどうすればいいのかと」
ブラッドは私を見てそう言った。
うーむと考え込んで、私はやっとグレイとの関係に悩んでいたことに思い当たる。
「え、えぇと……その、まぁ大したことじゃないんだけど……」
「ふむ」
相槌を打つ彼は、どうやら私の答えを待っているらしい。
「その……グレイと今後どう付き合っていけばいいのかなぁと思っていたんです」
「グレイ? ここの塔のグレイ=リングマークのことか?」
「うん。なんだか迷惑ばっかりかけちゃってるみたいだから、どうしようかなぁと思って」
ざっくりと説明してみた。恋愛とかそういうのはナシで。(いくらなんでもそこまで言う必要ないし)
すると、ブラッドはとたんにつまらなそうな表情になった。
「……まさか男のことで悩んでいるとは思わなかったな」
「お、男のことって……」
まぁそうなんだけど、ブラッドが言うとニュアンスがかなり大人っぽい感じするなぁ。
「アールグレイという名は、グレイ伯爵という人物から来ている。君がこの紅茶を選んだのは、故意なんじゃないのか?」
「え?恋!? べ、別にグレイが好きだからこの紅茶を選んだという訳じゃ……」
「……念のために言っておくが、わざと、という意味の故意だよ、お嬢さん」
「あ、うん。そうですか……」
気まずすぎる勘違いに言葉も尻すぼみになる私。
ブラッドは意地悪な笑みを浮かべる。
「まぁ、そんなことはどうでもいい。どちらにしてもその名前にかなり敏感なようだね、名無しさん」
「う……」
なんだかしっかりとバレた感じ。
恥ずかしくてブラッドを見られない。
「しかし、あんなつまらない男のことで悩むのは時間の無駄だぞ。私の屋敷に引っ越してくればいい」
「はい?」
どんなアドバイスだ、それは。
「名無しさんなら歓迎するよ。君がいれば楽しそうだし、退屈しなくてすみそうだ。いつでもお茶会に招待できる」
「でも、私この塔から出るつもりは全然ないんだけど……」
「今はまだそうかもしれないな」
ブラッドはそう言って私を見た。
「この会合期間が終わったら屋敷に招待しよう。こんな塔に籠っていては、いつまでたっても君の世界は広がらないからね」
「……確かにほとんど外に出たことがないな、私」
「軟禁状態だね、まるで囚われの姫君のようじゃないか」
「別にそんなんじゃないよ。私は自分の意志で籠っているだけ。外へ出なくても十分楽しいから」
からかうように言うブラッドにきっぱりと反論した。(大体、姫君なんてガラじゃないし)
「ふふふ。まぁ、いい。この塔の連中に飽きたら私の所へおいで。退屈はさせないよ」
そう言いながら、彼はとても自然に私の腰に手を回す。
「うん、ありがとう。ほら、砂時計全部落ちたよ。離れて」
彼の言葉にお礼を言いつつ、彼の行動に釘をさす。
「気の利かない砂時計だな」
「美味しい紅茶のためでしょう」
君の言う通りだなと笑ってブラッドは私から離れると、温めておいたカップに丁寧に紅茶を入れた。
あたたかな湯気といい香りがふわふわと漂ってくる。
彼は入れたばかりの紅茶を私に差し出した。
「さぁ、飲んでみてくれ」
「ありがとう」
華奢なティーカップを受け取る。綺麗なオレンジ色の液体はほっとする香りがした。
ブラッドが楽しそうに言う。
「君の好みの味かどうか感想を聞かせてもらおう。お茶会の参考にするからね」
「うん」
どんな味がするんだろう?
名前は結構好きな感じなんだけどね。
「名無しさん、名前よりも味の好みかどうかが重要だよ」
ニヤリと笑ったブラッド。
わかってるよ、と口を尖らせたけれど、強くは言い返せない自分がいた。
今日もキッチンにいる私。
良く考えてみれば、ここにいることが結構多い気がする。
主に珈琲を淹れるためにいるのだけれど、この場所に慣れてきたせいか、ここにいると落ち着くことに最近気づいた。
「広すぎないのがいいのかもねぇ」
ちょうどいい高さの踏み台に乗り、私は棚の上から茶葉を取り出した。
今日は紅茶を入れてみようと思っている。
「ブラッドがくれた茶葉だけど……どれがいいんだろう?」
種類がたくさんあってわからない。
「もういいや、これにしよう」
適当に手に取った茶葉にはアールグレイと書かれていた。 ……アールグレイ。
「いちいち反応する自分が恥ずかしいわ」
意味とかそんなものよりも「グレイ」という言葉に反応している自分に呆れてしまう。
パッケージの裏にある『美味しい紅茶の淹れ方』という説明文を見ながらさっそく紅茶を入れることにした。
やかんを火にかけお湯が沸くのを待っている間、思い浮かぶのはやっぱりグレイのことだった。
「……あの時、なにを言おうとしたんだろうなぁ」
私は踏み台に座りながら、廊下でグレイと話した時のことを思い出す。
あの恋愛っぽい感じの空気は、今思い出してもドキドキする。
あれから3時間帯くらいが経ったけれど、グレイとは相変わらずだ。
会えば挨拶がてら話をするし、一緒にナイトメアを叱ったりもするし、アリスとグレイの話で盛り上がってはファンクラブだのなんだの言って遊んでいる。
私達は相変わらず友達だ。
でも、正直気になることもある。
目が合うと逸らされることが多くなった気がする。
さらに言えば、会話中に不意にグレイが黙り込むことが増えた気がする。
不思議に思って声をかけると、「あぁ、悪い」といつもどおり笑ってくれるけれど。
「……なんだかぎこちないような気がするんだよね」
私がグレイをまだ好きだということが、迷惑なのかもしれない。
あの雰囲気の中で、彼がそう感じたのかもしれない。
「これからどうすればいいんだろうなぁ」
なんだかもう考えるのも面倒になってそうつぶやいた。
「とりあえず火を止めようか、お嬢さん」
思いがけずに返ってきた言葉にびくりとして顔をあげると、そこには予想外の人物がいた。
「え、ブラッド!?」
「こんにちは、名無しさん」
キッチンの入り口に立っていた彼は、私に挨拶をするとさっさとコンロの前まで行き、かちりと火を止めた。
「沸騰したお湯を使うのはいいが、沸かしすぎはよくないよ」
彼の言葉にやかんを見ると、湯気がもうもうと上がっていた。
「あ、ごめん。ありがとう」
慌てて踏み台から立ち上がると、膝に乗せていた茶葉の袋が落ちた。
「あ」
ころりと落ちた茶葉の袋はブラッドの足元へ転がっていく。
彼はそれを拾い上げると私に視線を移す。
「アールグレイか……名無しさんはこれが好きなのか?」
「え、いや、たまたまに手に取ったのがそれだったの。私紅茶のことはあんまりよくわからなくて……」
紅茶好きの人を前にそんなことを言うのは申し訳ないけれど、仕方ない。
しかし、ブラッドは気を悪くした様子もなくこう言った。
「香りの強いフレーバーティーだよ。好みのわかれるところだな。強い香りが苦手ならアイスティーかミルクティーにした方がいいと思うが」
「そうなんだ。知らなかった」
「私が淹れ方をレクチャーしてあげようか」
「え! いいの!?」
マフィアのボスにそんなことしてもらうなんて!
「あぁ。美味しく飲んでほしいからね。とりあえずストレートで飲んでみるといい」
彼はそう言って、手際よくかつ上品に紅茶の準備を始める。
「珈琲ばかり飲むと聞いてはいたが、道具一式は揃っているんだな」
「うん、たまに紅茶を飲むこともあるから」
そう答えてから、私はブラッドにずっと思っていた疑問をぶつける。
「そういえば、どうしてブラッドがここにいるの?」
「君がここにいたからだよ、お嬢さん」
ブラッドはそう言いながら私を見た。
え?と思ってブラッドを見ると、彼は楽しそうに目を細めた。
「紅茶を入れようとしているのがわかったからね。せっかくならご一緒しようと思ったんだ」
「そうなんだ。でも、ブラッドって街に宿を取っているんでしょう? どうして塔に来たの?」
「次の時間帯は会合なんだ。早めに来て名無しさんに会うのもいいかと思ってね」
迷惑だったかな?とブラッドが笑ったけれど、迷惑なわけないだろうとでも言いたげな目をしている。
なんだかそれが面白くて思わず笑ってしまった。
「うん、ありがとう。紅茶のこと全然わからないから、教えてもらえてよかった」
やっぱりこの人はいいマフィアのボスに違いない。
グレイは怪訝な顔をしていたけど、わざわざ紅茶の淹れ方を教えてくれるボスなんて聞いたことないもん。
そう思いながら紅茶を入れるブラッドを見ていると、彼は砂時計をくるりと返してトンと置いた。
「私は待たされるのは嫌いだが、紅茶に関しては全く苦にならない。この時間は何よりも楽しい」
「そういうものなの?」
「私にとってはね」
「ふぅん」
私はさらさらと落ちてゆく砂を眺める。
砂が落ちてゆくのを見るのは、なんだか癒し効果でもあるように思う。
ふわ~っとした気分でそれを見ていると、ブラッドが口を開いた。
「それで? 君は一体何がわからなくなっていたんだ?」
「え?」
「さっき言っていただろう? これからどうすればいいのかと」
ブラッドは私を見てそう言った。
うーむと考え込んで、私はやっとグレイとの関係に悩んでいたことに思い当たる。
「え、えぇと……その、まぁ大したことじゃないんだけど……」
「ふむ」
相槌を打つ彼は、どうやら私の答えを待っているらしい。
「その……グレイと今後どう付き合っていけばいいのかなぁと思っていたんです」
「グレイ? ここの塔のグレイ=リングマークのことか?」
「うん。なんだか迷惑ばっかりかけちゃってるみたいだから、どうしようかなぁと思って」
ざっくりと説明してみた。恋愛とかそういうのはナシで。(いくらなんでもそこまで言う必要ないし)
すると、ブラッドはとたんにつまらなそうな表情になった。
「……まさか男のことで悩んでいるとは思わなかったな」
「お、男のことって……」
まぁそうなんだけど、ブラッドが言うとニュアンスがかなり大人っぽい感じするなぁ。
「アールグレイという名は、グレイ伯爵という人物から来ている。君がこの紅茶を選んだのは、故意なんじゃないのか?」
「え?恋!? べ、別にグレイが好きだからこの紅茶を選んだという訳じゃ……」
「……念のために言っておくが、わざと、という意味の故意だよ、お嬢さん」
「あ、うん。そうですか……」
気まずすぎる勘違いに言葉も尻すぼみになる私。
ブラッドは意地悪な笑みを浮かべる。
「まぁ、そんなことはどうでもいい。どちらにしてもその名前にかなり敏感なようだね、名無しさん」
「う……」
なんだかしっかりとバレた感じ。
恥ずかしくてブラッドを見られない。
「しかし、あんなつまらない男のことで悩むのは時間の無駄だぞ。私の屋敷に引っ越してくればいい」
「はい?」
どんなアドバイスだ、それは。
「名無しさんなら歓迎するよ。君がいれば楽しそうだし、退屈しなくてすみそうだ。いつでもお茶会に招待できる」
「でも、私この塔から出るつもりは全然ないんだけど……」
「今はまだそうかもしれないな」
ブラッドはそう言って私を見た。
「この会合期間が終わったら屋敷に招待しよう。こんな塔に籠っていては、いつまでたっても君の世界は広がらないからね」
「……確かにほとんど外に出たことがないな、私」
「軟禁状態だね、まるで囚われの姫君のようじゃないか」
「別にそんなんじゃないよ。私は自分の意志で籠っているだけ。外へ出なくても十分楽しいから」
からかうように言うブラッドにきっぱりと反論した。(大体、姫君なんてガラじゃないし)
「ふふふ。まぁ、いい。この塔の連中に飽きたら私の所へおいで。退屈はさせないよ」
そう言いながら、彼はとても自然に私の腰に手を回す。
「うん、ありがとう。ほら、砂時計全部落ちたよ。離れて」
彼の言葉にお礼を言いつつ、彼の行動に釘をさす。
「気の利かない砂時計だな」
「美味しい紅茶のためでしょう」
君の言う通りだなと笑ってブラッドは私から離れると、温めておいたカップに丁寧に紅茶を入れた。
あたたかな湯気といい香りがふわふわと漂ってくる。
彼は入れたばかりの紅茶を私に差し出した。
「さぁ、飲んでみてくれ」
「ありがとう」
華奢なティーカップを受け取る。綺麗なオレンジ色の液体はほっとする香りがした。
ブラッドが楽しそうに言う。
「君の好みの味かどうか感想を聞かせてもらおう。お茶会の参考にするからね」
「うん」
どんな味がするんだろう?
名前は結構好きな感じなんだけどね。
「名無しさん、名前よりも味の好みかどうかが重要だよ」
ニヤリと笑ったブラッド。
わかってるよ、と口を尖らせたけれど、強くは言い返せない自分がいた。