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【13.恋愛絡みの空気感】
クローバーの塔の2時間帯休みも終わり、再び慌ただしく仕事をする生活が始まった。
とは言っても、私は仕事らしい仕事なんてしていない。
ちょっと掃除をしてみたり、みんなに珈琲を淹れてみたりと邪魔にならない程度に動いてはいるけれど、基本的にはヒマ人だ。
ブラッドからもらった紅茶の淹れ方でも研究してみようかなぁ。
そう思いながら廊下を歩いていた時だった。
「名無しさん、名無しさん! ちょっとこっちへ来てくれ!」
小声で名前を呼ばれてきょろきょろする私。
見ると、柱の影にナイトメアがいた。私を見て手招きをしている。
「? どうしたのナイトメア」
「しーー!!」
彼は人差し指を唇に当てている。
反射的に口を押えると、私は彼の元へ近づいた。
「どうしたの?」
「名無しさん、頼みがあるんだ」
「頼み?」
「そう。大事なことだ。名無しさんにしか頼めない」
ナイトメアは真剣な表情でそう言った。
彼がこんな顔を見せるなんて……思わずごくりと息を飲む。
「この書類をそっと資料室にしまって来てほしいんだ」
彼はそう言って青いファイルを差し出してきた。
なんだ、そんなこと?
「別にいいけど、どうしたの? おなかでも痛くて動けないの? 薬飲む? グレイを呼ぶ?」
「いらん!! 特にグレイは呼ぶな!!」
彼はそう言って大声を上げる。
そして自分の声量に驚いて口を押えた。(コミカルな人だなぁ)
「と、とにかく何の心配もいらないから、この書類だけしまってきてくれ! できれば誰にも見つからないように」
「……なんで?」
一気に疑いの目になる私。
ナイトメアはとたんに動揺し始めた。
「い、いや。私は仕事があるからこれを片付けにいくヒマがないんだ。だから……」
「どうして見つかっちゃいけないの? これをしまうだけなのに」
そこまで言って私はとあることを思い出した。
「ねぇ、この書類ってさっきグレイから『これ全部お願いします』って言われてたものじゃない?」
「ぎ、ぎくっ!」
……どうしようもない人だ。試しに言ってみたら大正解。
「だめでしょー! 頼まれた書類を勝手にしまったら!!」
「いや、違う! 量がありすぎて机に乗らないんだ! 少しずつ片付けないと無理だ」
「床にでも置いとけばいいじゃない」
「名無しさん、君はけっこう酷いな」
「グレイに言いつけちゃおうっと!」
「だーー!! 待て! 待ってくれ!!」
そう言いながら私の腕を掴むナイトメア。
はぁ……この人……どうしようもないなぁ。
「あのさぁ、もうちょっと頑張ろうよ」
「……これ以上は頑張れるわけないだろう」
「そんなわけないよ。 だってナイトメアは一番偉い人なんでしょ!? 頑張れる! あんなに高熱だしても薬いらないってくらい我慢強いんだよ! やればできる! 成せば成る!!」
ファイトファイト!と持ち上げてみた。
まぁ、たぶんダメだろうけど。
無表情のナイトメアを見てそう思った私。
しかし、彼の表情はみるみる変化していった。
「……ふふふ。そうか。そう思うか? そうだな! 私は偉いんだ! やればできる!」
あら、その気になった?(まさか!)
彼の反応にびっくりしつつも、私は更に持ち上げてみた。
「そうだよ。ナイトメア様素敵! 頑張って!! あとで珈琲をお持ちしますね!」
「うむ、わかった。あ、言っておくが、ブラックはダメだぞ。ミルクと砂糖もつけてくれ」
「はい、かしこまりました。がんばってください!」
私は青いファイルをさりげなく彼に返しながら肩をポンと叩いた。
ナイトメアは満足そうにうなずくと、そのまま行ってしまった。
「…………単純。」
嘘みたいに単純。
なんか騙しちゃったみたいで悪いことしたかなぁと思うくらいに単純だわ。
彼の後ろ姿をぼんやりと見ていると、くくくっと笑う気配。
はっと振り返ると、そこにはグレイが立っていた。
「グレイ!!」
「ふふふっ、すごいな、名無しさん。あのナイトメア様をあんなにスムーズにやる気にさせるだなんて」
「いや、私もびっくりした」
素直にそう答えると、グレイはますますおかしそうに笑った。
「俺やアリスが言ってもあそこまでの効果はでないぞ」
「たぶん私にはまだ油断してるんじゃないかな」
「なるほど。しかし、君は人を扱うのが本当に上手いな」
俺もナイトメア様も名無しさんには逆らえないよ、とグレイは笑う。
それってなんだか裏ボスみたいな立ち位置にされてるような気がするなぁ。(微妙だわ)
「それにしても休み明けからこっそりサボろうとするとはな。ナイトメア様にも困ったものだ」
複雑な思いを抱く私をよそに、グレイは苦笑した。
「グレイは2時間帯の休みで元気になった?」
「そうだな。まぁそれなりに」
私の問いに、グレイは『元気になったぞ』という感じが全くしない答え方をする。
「……うーん、なんかこう覇気がないよね。クールすぎるっていうか」
「元からこういうテンションなんだ。ナイトメア様と一緒にしてもらっては困る」
「そりゃあ私だって、ナイトメアと同じテンションのグレイなんてちょっと嫌だよ」
そんなグレイは見たくない。
想像できないしね、と思っていたらグレイが私に言った。
「名無しさんはいつでも元気だな」
「え。私うるさい? ナイトメアみたいな感じ? それはかなりショックなんですけど」
私ってあんな風に一人でわーわーとおかしなテンションの人だったのか……。
がくりと落ち込むと、グレイは真面目に訂正を入れる。
「いや、そうじゃない。そうじゃなくて……君を見ていると元気になれるというか、ほっとする」
じっと見つめられて私は本気で焦った。
「え、えぇと。それはどうもありがとうございます。っていうかグレイ、それまさかの告白みたいだから!」
やだな、ファンにはちょっと刺激が強いよ! と冗談交じりにツッコんだのに、彼は大真面目な顔のままだった。
「……告白か」
そうつぶやいてグレイは自嘲気味に笑った。
うつむいて何かを考えている様子に首を傾げていると、彼はすっと顔をあげる。
「名無しさん」
その瞬間、明らかに何かが変わったのがわかった。
静かな声で名前を呼ばれて、私はびくりとする。
何か言いたげな様子で彼が私を見つめる。
目が合った途端に視界がぐらりと動いた気がした。グレイだけしか見えなくなる。
心臓が痛いくらいにスピードを上げ、私は息苦しくなった。
グレイは口を開きかけたが、思い直したかのように小さく首を振りこう言った。
「俺は……君を困らせることばかりしてしまうな」
「え?」
「いや、今さらだ。何でもない」
話が全く見えず、ドキドキしたままグレイを見ていると彼はふっと笑った。
「そんな目でみないでくれ。これから仕事なんだ」
「!? ご、ごめん!」
って私どんな目で見てしまったんだろう!? (熱視線!? やだ、恥ずかしすぎる!)
かーっと熱くなる顔を押さえながら、私はグレイから視線を外した。
どくどくとすごい勢いの心音を聞きながら、自分の足元を必死に見つめる。
動揺しまくる私にグレイが笑う気配。
「冗談だ。……きっと俺の方に問題があるんだろう」
悪かった、と言うグレイをちらりと見ると彼は困ったような顔で笑う。
何も言葉が出てこなくて黙ったまま彼を見ていると、グレイはすっと私から視線を逸らせた。
「それじゃあ」
そう言い残して、グレイは行ってしまった。
廊下に1人残された私。
鼓動はまだ静まらない。
後半の彼とのやり取りを思い返してみる。
「いくら私だって感じるよ、あのおかしな雰囲気は」
ああいう空気は、その場の2人にしかわからない。
明らかに恋愛絡みの空気感だ。
でも、まさかね?
グレイには一度フラれているんだから。
そう自分に言い聞かせてみるけれど、そんな事実も忘れてしまうほど、さっきの彼の言動は私にとって都合のいいもののように思えてしまう。
「……本当に変な期待を持たせないでよ」
すでにいない彼に私は口を尖らせた。
クローバーの塔の2時間帯休みも終わり、再び慌ただしく仕事をする生活が始まった。
とは言っても、私は仕事らしい仕事なんてしていない。
ちょっと掃除をしてみたり、みんなに珈琲を淹れてみたりと邪魔にならない程度に動いてはいるけれど、基本的にはヒマ人だ。
ブラッドからもらった紅茶の淹れ方でも研究してみようかなぁ。
そう思いながら廊下を歩いていた時だった。
「名無しさん、名無しさん! ちょっとこっちへ来てくれ!」
小声で名前を呼ばれてきょろきょろする私。
見ると、柱の影にナイトメアがいた。私を見て手招きをしている。
「? どうしたのナイトメア」
「しーー!!」
彼は人差し指を唇に当てている。
反射的に口を押えると、私は彼の元へ近づいた。
「どうしたの?」
「名無しさん、頼みがあるんだ」
「頼み?」
「そう。大事なことだ。名無しさんにしか頼めない」
ナイトメアは真剣な表情でそう言った。
彼がこんな顔を見せるなんて……思わずごくりと息を飲む。
「この書類をそっと資料室にしまって来てほしいんだ」
彼はそう言って青いファイルを差し出してきた。
なんだ、そんなこと?
「別にいいけど、どうしたの? おなかでも痛くて動けないの? 薬飲む? グレイを呼ぶ?」
「いらん!! 特にグレイは呼ぶな!!」
彼はそう言って大声を上げる。
そして自分の声量に驚いて口を押えた。(コミカルな人だなぁ)
「と、とにかく何の心配もいらないから、この書類だけしまってきてくれ! できれば誰にも見つからないように」
「……なんで?」
一気に疑いの目になる私。
ナイトメアはとたんに動揺し始めた。
「い、いや。私は仕事があるからこれを片付けにいくヒマがないんだ。だから……」
「どうして見つかっちゃいけないの? これをしまうだけなのに」
そこまで言って私はとあることを思い出した。
「ねぇ、この書類ってさっきグレイから『これ全部お願いします』って言われてたものじゃない?」
「ぎ、ぎくっ!」
……どうしようもない人だ。試しに言ってみたら大正解。
「だめでしょー! 頼まれた書類を勝手にしまったら!!」
「いや、違う! 量がありすぎて机に乗らないんだ! 少しずつ片付けないと無理だ」
「床にでも置いとけばいいじゃない」
「名無しさん、君はけっこう酷いな」
「グレイに言いつけちゃおうっと!」
「だーー!! 待て! 待ってくれ!!」
そう言いながら私の腕を掴むナイトメア。
はぁ……この人……どうしようもないなぁ。
「あのさぁ、もうちょっと頑張ろうよ」
「……これ以上は頑張れるわけないだろう」
「そんなわけないよ。 だってナイトメアは一番偉い人なんでしょ!? 頑張れる! あんなに高熱だしても薬いらないってくらい我慢強いんだよ! やればできる! 成せば成る!!」
ファイトファイト!と持ち上げてみた。
まぁ、たぶんダメだろうけど。
無表情のナイトメアを見てそう思った私。
しかし、彼の表情はみるみる変化していった。
「……ふふふ。そうか。そう思うか? そうだな! 私は偉いんだ! やればできる!」
あら、その気になった?(まさか!)
彼の反応にびっくりしつつも、私は更に持ち上げてみた。
「そうだよ。ナイトメア様素敵! 頑張って!! あとで珈琲をお持ちしますね!」
「うむ、わかった。あ、言っておくが、ブラックはダメだぞ。ミルクと砂糖もつけてくれ」
「はい、かしこまりました。がんばってください!」
私は青いファイルをさりげなく彼に返しながら肩をポンと叩いた。
ナイトメアは満足そうにうなずくと、そのまま行ってしまった。
「…………単純。」
嘘みたいに単純。
なんか騙しちゃったみたいで悪いことしたかなぁと思うくらいに単純だわ。
彼の後ろ姿をぼんやりと見ていると、くくくっと笑う気配。
はっと振り返ると、そこにはグレイが立っていた。
「グレイ!!」
「ふふふっ、すごいな、名無しさん。あのナイトメア様をあんなにスムーズにやる気にさせるだなんて」
「いや、私もびっくりした」
素直にそう答えると、グレイはますますおかしそうに笑った。
「俺やアリスが言ってもあそこまでの効果はでないぞ」
「たぶん私にはまだ油断してるんじゃないかな」
「なるほど。しかし、君は人を扱うのが本当に上手いな」
俺もナイトメア様も名無しさんには逆らえないよ、とグレイは笑う。
それってなんだか裏ボスみたいな立ち位置にされてるような気がするなぁ。(微妙だわ)
「それにしても休み明けからこっそりサボろうとするとはな。ナイトメア様にも困ったものだ」
複雑な思いを抱く私をよそに、グレイは苦笑した。
「グレイは2時間帯の休みで元気になった?」
「そうだな。まぁそれなりに」
私の問いに、グレイは『元気になったぞ』という感じが全くしない答え方をする。
「……うーん、なんかこう覇気がないよね。クールすぎるっていうか」
「元からこういうテンションなんだ。ナイトメア様と一緒にしてもらっては困る」
「そりゃあ私だって、ナイトメアと同じテンションのグレイなんてちょっと嫌だよ」
そんなグレイは見たくない。
想像できないしね、と思っていたらグレイが私に言った。
「名無しさんはいつでも元気だな」
「え。私うるさい? ナイトメアみたいな感じ? それはかなりショックなんですけど」
私ってあんな風に一人でわーわーとおかしなテンションの人だったのか……。
がくりと落ち込むと、グレイは真面目に訂正を入れる。
「いや、そうじゃない。そうじゃなくて……君を見ていると元気になれるというか、ほっとする」
じっと見つめられて私は本気で焦った。
「え、えぇと。それはどうもありがとうございます。っていうかグレイ、それまさかの告白みたいだから!」
やだな、ファンにはちょっと刺激が強いよ! と冗談交じりにツッコんだのに、彼は大真面目な顔のままだった。
「……告白か」
そうつぶやいてグレイは自嘲気味に笑った。
うつむいて何かを考えている様子に首を傾げていると、彼はすっと顔をあげる。
「名無しさん」
その瞬間、明らかに何かが変わったのがわかった。
静かな声で名前を呼ばれて、私はびくりとする。
何か言いたげな様子で彼が私を見つめる。
目が合った途端に視界がぐらりと動いた気がした。グレイだけしか見えなくなる。
心臓が痛いくらいにスピードを上げ、私は息苦しくなった。
グレイは口を開きかけたが、思い直したかのように小さく首を振りこう言った。
「俺は……君を困らせることばかりしてしまうな」
「え?」
「いや、今さらだ。何でもない」
話が全く見えず、ドキドキしたままグレイを見ていると彼はふっと笑った。
「そんな目でみないでくれ。これから仕事なんだ」
「!? ご、ごめん!」
って私どんな目で見てしまったんだろう!? (熱視線!? やだ、恥ずかしすぎる!)
かーっと熱くなる顔を押さえながら、私はグレイから視線を外した。
どくどくとすごい勢いの心音を聞きながら、自分の足元を必死に見つめる。
動揺しまくる私にグレイが笑う気配。
「冗談だ。……きっと俺の方に問題があるんだろう」
悪かった、と言うグレイをちらりと見ると彼は困ったような顔で笑う。
何も言葉が出てこなくて黙ったまま彼を見ていると、グレイはすっと私から視線を逸らせた。
「それじゃあ」
そう言い残して、グレイは行ってしまった。
廊下に1人残された私。
鼓動はまだ静まらない。
後半の彼とのやり取りを思い返してみる。
「いくら私だって感じるよ、あのおかしな雰囲気は」
ああいう空気は、その場の2人にしかわからない。
明らかに恋愛絡みの空気感だ。
でも、まさかね?
グレイには一度フラれているんだから。
そう自分に言い聞かせてみるけれど、そんな事実も忘れてしまうほど、さっきの彼の言動は私にとって都合のいいもののように思えてしまう。
「……本当に変な期待を持たせないでよ」
すでにいない彼に私は口を尖らせた。