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【8.上司に相談】
まさかの展開を起こしてしまってから、2時間帯が過ぎた。
グレイとはまだ会っていない。これまで通りにするしかないとは思っているけど、なかなか難しいよね。
あぁ、どうしよう。
アリスにも相談できず、私は今の状況を誰にも言えずに一人で悩み続けていた。
が、しかし!
私のうっかり告白事件は、あっさりナイトメアにバレたのである。
珍しく仕事をしているナイトメア。
次の昼には会合が始まるらしい。
いつ昼になってもおかしくないので、さすがの彼も仕事モードだ。
「名無しさん、そこの書類を取ってくれ」
「……はい。どーぞ」
指し示された書類を、ぽいっと渡すとナイトメアは顔をしかめた。
「なんだ、ずいぶん機嫌が悪いな、名無しさん」
「別にそんなことないけど」
そう答えた私の顔をナイトメアはじっと見つめていたが、すぐにふふっと笑う。
「そんなに落ち込まなくてもいいじゃないか。巻き返しのチャンスなんていくらでもある」
「そうかなぁ? 巻き返すなんて到底不可能な気がするんだけど」
もうファンとして彼と接しようと決めたんだし……と思いつつ、ん?と首をひねる私。
「……っていうか何の話してるの、ナイトメア」
「え? なんのって君の話だよ。うっかり口を滑らせて告白したんだろう? ……名無しさんは結構おもしろい子だな」
なんで知ってんだよあんたが。
思わず心の中で毒づいたけれど、ナイトメアにはそれすらも筒抜けだった。
「おやおや、女の子がそんな言葉を使うものじゃないよ、名無しさん。君の心の声がだだ漏れでね、聞こうとしなくても聞こえてくるんだ」
「え!?」
ナイトメアの言葉に私は真っ青になる。
だだ漏れって……。
「心配しなくても、あくまで心の声だよ。私にしか聞こえない。しかし、こうもはっきりと聞こえてくるなんて、名無しさんはよっぽど気に病んでいるんだな。可哀想に」
彼はそう言って困ったように笑った。
その表情を見た瞬間、私は耐え切れず彼に泣き言をぶちまける。
もう一人では抱え込めないくらいに苦しかったのだ。
「……もう自分でもわけわかんないくらいだよ。いろんなことがあの少しの間にありすぎて……。好きだと思ったら、即刻失恋だよ? 何なんだろう私」
ナイトメアは黙って私の話を聞いてから、口を開いた。穏やかな声。
「状況はよくわからないが、これから頑張ればいいじゃないか。今後名無しさんのことを意識するということもあるだろう?」
「えぇ~? なんかダメな気がする」
適当なことを言うなぁとむっとしてナイトメアを見ると、彼は楽しそうに笑った。
「いや、そんなことはない。ある意味作戦勝ちかもしれないぞ? 普通の告白の仕方ではグレイには何も響かないさ」
「なんかそれ、まるでグレイが告白されることに慣れてますって感じの言い方だよね」
「そりゃあれだけモテて、あれだけ言い寄られてたんだ。多少は慣れてるんじゃないか?」
さらりと言ったナイトメアの言葉に、私は納得しつつも脱力。
「うわ~、やっぱりモテるんだ?」
「あぁ。なんであいつばかりがモテるんだろうな? 私と何が違うと言うんだ?」
「全然違うでしょ。大体ナイトメアってあんまり恋愛っぽい存在じゃないのよね」
「失礼な! 私だってそこそこの恋愛くらいは……」
「いや、うん。いいの。別にそれはどうでも」
ナイトメアの話をバッサリ切ると、彼はいじけるように口を尖らせた。(でも無視!)
「グレイがモテるという話だけど……今は付き合っている人がいるのかなぁ?」
一応確認しておく私。すると彼はにやりと笑った。
「さぁ、どうかな?」
「え!?」
まさかめちゃめちゃ遊びまわってるとか言わないでしょうね?
っていうかあの心配の仕方はお父さんだと思ってたけど、ほんとに妻子持ちだったり!?いや、ありうるでしょそれ!
思いっきり驚く私に、ナイトメアはくくくっと肩を震わせた。
「冗談だよ。あれだけ仕事ばかりして、あれだけ私につきまとってくるんだぞ? グレイに女と会う暇なんてあるわけないだろう。妻子持ちでもない」
「そっか。そうだよね」
「むしろ私のことが好きなんじゃないか、あいつ……。最悪だな」
「……ナイトメアが仕事をしないからでしょうよ。それ言ったら本気で怒られると思うよ」
仕事を増やすばかりの病弱な上司を誰が好んで付きまとうというのか。
心底呆れた私の発言を、ナイトメアは聞こえないふりをする。
「よし。名無しさんを悩ませているグレイを、奴の上司としてちょっと懲らしめてやるとするか」
「え?」
懲らしめるって……ナイトメアが!?
驚く私に、彼は声高らかにこう言った。
「名無しさん、作戦Sだ!」
「……は?」
作戦エス?
「あいつの珈琲に砂糖をたっぷりと淹れておき、それを飲ませてやるのだ」
「……」
意気揚々と宣言したナイトメア。
私は何も言えずに彼を見つめる。
ナイトメアもそろそろと私に視線を移した。
「……」
「……」
お互いに無言のまま見つめあう。
ていうかさ、その作戦Sとやらは……
「この前やったよね。私とグレイがあなたに。なに?仕返し?」
そして作戦SのSってまさか砂糖なんじゃ……
「砂糖じゃない! シュガーのSだ!!」
「あぁ、そう」
どっちでも同じだけどね。
がくりと脱力する私に、やる気満々なナイトメア。
……私の悩みって、この人にとってはすんごく小さいことなんだろうな。(所詮、他人事よね……)
思わずため息が出たけれど、目を輝かせるナイトメアを見ていたら、本当にどうでもいいくらい小さな悩み事な気がしてきた。
急に気が大きくなった私は彼の遊びに付き合うことにした。
「まぁいいか。その作戦Sをやってみても面白いかも」
「そうだろうそうだろう! おもしろいどころの騒ぎじゃないぞ」
「そうだねぇ。慌てるのか、ナイトメアみたいに景気よく吹き出すのか、グレイはどういうタイプだろうね?」
「ふふふ、見物だな」
グレイの反応をお互いに想像してにやにやと笑っている時だった。
「すごく楽しそうですね、2人とも。俺も仲間に入れてくださいよ」
「!?」
悪い顔をして笑いあっていた私達は、突然背後から聞こえた声にびくりとして固まる。
「ぐ、グレイ!?」
「うわ、最悪!」
彼の登場に顔の引きつる私達。
フラれたばかりの私はただでさえ会うのが気まずいというのに、このタイミングですか!?
「最悪とはひどい言われようだな、名無しさん」
「いえ、あの……」
『好き』の次は『最悪』だなんて、確かにひどいな私。(でも仕方ない)
動揺する私とナイトメアに、グレイはつかつかと近寄ってくるとナイトメアの机にどさりと書類を置いた。
そしてあきれ果てた目をしてこう言った。
「その作戦Sとやらを考えている暇があったら、とっとと仕事を片付けてほしいものですね、ナイトメア様」
「や、やっている! 仕事はちゃんとやっているぞ!! ちょっと休憩していただけだ! なぁ名無しさん!」
うわ、なんで私に同意を求めるかな!
しかし実際にくだらない話に乗ってしまった手前、ここで裏切るのもかわいそうな気がしたので話を合わせる。
「そうそう! それにね、疲れた体には糖分が良いって聞いたことあるし、お疲れ気味のグレイにはいいのかなぁって……ね!? ナイトメア!?」
「そ、そうとも! その通りだ。グレイ、お前はしっかり糖分を取れ」
「…………」
無理やりな話の持っていき方に呆れ顔のグレイ。
無言の圧力を感じるわ。しゃべり続けなければやられる、そんな錯覚を起こしてしまうくらい。
「……え、えぇと、ほらやっぱりグレイファンの私としては、いつもすっきり元気でいてもらいたいっていうかさ……」
「わ、私だって上司として部下の体調は心配だぞ!」
私とナイトメアは、それぞれの立場からのフォローをしてみるが、グレイは深いため息をつくととてもクールな表情で私達を見た。
「お心遣い感謝します。ですが、余計なお世話です。糖分の取りすぎは体に良くありませんし、なによりも俺を疲れさせているのは仕事もせずに、こういうくだらないことばかりしているナイトメア様なんですよ」
「な、私のせいなのか!?」
名無しさんだって乗り気だったのに、と恨みがましい目で私を見てきたナイトメア。
あぁ、やっぱりナイトメアはグレイに弱いなぁ。これはかなり状況的に不利だ。
このままナイトメア側についていたら、グレイに怒られる。
うっかり失恋をしてその後に怒られるなんて、いくらなんでも立ち直れないわ。
そう判断した私はあっさりと寝返った。
「ナイトメア、くだらない作戦なんて考えてないで仕事しなよ」
「!? おい名無しさん! 君はさっきまで一緒になってニヤついてたじゃないか!」
「えー?なんのこと? 私はグレイのファンだもん。グレイを困らせることなんてするわけないじゃない」
そう言いながら、私はグレイの横にちゃっかりと移動する。
なんとグレイもそんな私に乗ってきた。
「そうですよナイトメア様。名無しさんがあなたのくだらない作戦に付き合う訳がないでしょう。さぁ、仕事をしてください。会合に参加する役持ち達もそろそろ集まってきます。いつ昼になってもおかしくないですし、真面目にやってくださいよ」
「そうですよ」
グレイの後についてはやし立てると、ナイトメアは口を尖らせた。
「ひいきだ!グレイ、お前は名無しさんをひいきしている!!」
「ひいきじゃありませんよ。あなたを信頼しきれないだけです」
「日頃の行いよね」
「ひどい、ひどいぞ名無しさん!!」
「ごめんね、ナイトメア。女って時に残酷なの」
私は華麗な泥棒一味のセクシーな某女性キャラになったつもりでそう言った。
ナイトメアはぶつぶつ文句を言いながら仕事に戻る。
それを見届けると、私とグレイはくすくす笑いながらナイトメアの部屋を出た。
「まったく……こっちの心配も顧みずに。困ったものだ」
「ごめんね、グレイ」
一緒になってあそんでしまいました。
ぺこりと頭を下げて謝ると、彼はふふっと笑う。
「いや、名無しさんが気にすることはない。ナイトメア様は日々のツケが回ってきているんだからな」
「うーん、でもちょっといじめすぎちゃった気がするなぁ」
わりと本気で反省しているのに、グレイは「あの方は打たれ強いから、あれくらい平気だ」と全く意に介さない。
それどころか、私を見て微笑んだ。
「……名無しさんは本当におもしろいな。本当に飽きないよ」
……これってズルいよね?
私あなたにフラれたと思っているのに、なんでまたそういうことをそんな顔でいうんですか。
なんか悔しい。
「なんならずっと一緒にいてあげますけど。ファンとして」
勇気を出してそう言ってみたら、彼は一瞬私を見てからふふっと笑った。
「それはいいな。ナイトメア様の対応でイライラした時に名無しさんがいると和みそうだ」
和むって……なんかちょっと動物扱いっぽいなと思ったけど、それ以上になんだかドキドキとしてしまった。
そばにいてもいいって認めてもらったような気がする。(ファンとしてだけど)
鼓動が早くなる私をよそに、グレイは次の話題に移る。
「それよりも名無しさん、実は頼みがあるんだが……」
「な、なに?」
「会合に来た客用の部屋の窓を、換気のために全部開けてあるんだ。2階と3階の客室の窓をすべて閉めてきてくれないか?」
「うん、いいよ。全部閉めればいいのね?」
「あぁ。頼んだよ」
「わかった!」
私はうなずくと、くるりと向きを変えて客室へと向かった。
どうなることかと思ったけど、わりと普通にグレイと話ができたことが嬉しくて、スキップでもしてしまいそうな自分にびっくりした。
まさかの展開を起こしてしまってから、2時間帯が過ぎた。
グレイとはまだ会っていない。これまで通りにするしかないとは思っているけど、なかなか難しいよね。
あぁ、どうしよう。
アリスにも相談できず、私は今の状況を誰にも言えずに一人で悩み続けていた。
が、しかし!
私のうっかり告白事件は、あっさりナイトメアにバレたのである。
珍しく仕事をしているナイトメア。
次の昼には会合が始まるらしい。
いつ昼になってもおかしくないので、さすがの彼も仕事モードだ。
「名無しさん、そこの書類を取ってくれ」
「……はい。どーぞ」
指し示された書類を、ぽいっと渡すとナイトメアは顔をしかめた。
「なんだ、ずいぶん機嫌が悪いな、名無しさん」
「別にそんなことないけど」
そう答えた私の顔をナイトメアはじっと見つめていたが、すぐにふふっと笑う。
「そんなに落ち込まなくてもいいじゃないか。巻き返しのチャンスなんていくらでもある」
「そうかなぁ? 巻き返すなんて到底不可能な気がするんだけど」
もうファンとして彼と接しようと決めたんだし……と思いつつ、ん?と首をひねる私。
「……っていうか何の話してるの、ナイトメア」
「え? なんのって君の話だよ。うっかり口を滑らせて告白したんだろう? ……名無しさんは結構おもしろい子だな」
なんで知ってんだよあんたが。
思わず心の中で毒づいたけれど、ナイトメアにはそれすらも筒抜けだった。
「おやおや、女の子がそんな言葉を使うものじゃないよ、名無しさん。君の心の声がだだ漏れでね、聞こうとしなくても聞こえてくるんだ」
「え!?」
ナイトメアの言葉に私は真っ青になる。
だだ漏れって……。
「心配しなくても、あくまで心の声だよ。私にしか聞こえない。しかし、こうもはっきりと聞こえてくるなんて、名無しさんはよっぽど気に病んでいるんだな。可哀想に」
彼はそう言って困ったように笑った。
その表情を見た瞬間、私は耐え切れず彼に泣き言をぶちまける。
もう一人では抱え込めないくらいに苦しかったのだ。
「……もう自分でもわけわかんないくらいだよ。いろんなことがあの少しの間にありすぎて……。好きだと思ったら、即刻失恋だよ? 何なんだろう私」
ナイトメアは黙って私の話を聞いてから、口を開いた。穏やかな声。
「状況はよくわからないが、これから頑張ればいいじゃないか。今後名無しさんのことを意識するということもあるだろう?」
「えぇ~? なんかダメな気がする」
適当なことを言うなぁとむっとしてナイトメアを見ると、彼は楽しそうに笑った。
「いや、そんなことはない。ある意味作戦勝ちかもしれないぞ? 普通の告白の仕方ではグレイには何も響かないさ」
「なんかそれ、まるでグレイが告白されることに慣れてますって感じの言い方だよね」
「そりゃあれだけモテて、あれだけ言い寄られてたんだ。多少は慣れてるんじゃないか?」
さらりと言ったナイトメアの言葉に、私は納得しつつも脱力。
「うわ~、やっぱりモテるんだ?」
「あぁ。なんであいつばかりがモテるんだろうな? 私と何が違うと言うんだ?」
「全然違うでしょ。大体ナイトメアってあんまり恋愛っぽい存在じゃないのよね」
「失礼な! 私だってそこそこの恋愛くらいは……」
「いや、うん。いいの。別にそれはどうでも」
ナイトメアの話をバッサリ切ると、彼はいじけるように口を尖らせた。(でも無視!)
「グレイがモテるという話だけど……今は付き合っている人がいるのかなぁ?」
一応確認しておく私。すると彼はにやりと笑った。
「さぁ、どうかな?」
「え!?」
まさかめちゃめちゃ遊びまわってるとか言わないでしょうね?
っていうかあの心配の仕方はお父さんだと思ってたけど、ほんとに妻子持ちだったり!?いや、ありうるでしょそれ!
思いっきり驚く私に、ナイトメアはくくくっと肩を震わせた。
「冗談だよ。あれだけ仕事ばかりして、あれだけ私につきまとってくるんだぞ? グレイに女と会う暇なんてあるわけないだろう。妻子持ちでもない」
「そっか。そうだよね」
「むしろ私のことが好きなんじゃないか、あいつ……。最悪だな」
「……ナイトメアが仕事をしないからでしょうよ。それ言ったら本気で怒られると思うよ」
仕事を増やすばかりの病弱な上司を誰が好んで付きまとうというのか。
心底呆れた私の発言を、ナイトメアは聞こえないふりをする。
「よし。名無しさんを悩ませているグレイを、奴の上司としてちょっと懲らしめてやるとするか」
「え?」
懲らしめるって……ナイトメアが!?
驚く私に、彼は声高らかにこう言った。
「名無しさん、作戦Sだ!」
「……は?」
作戦エス?
「あいつの珈琲に砂糖をたっぷりと淹れておき、それを飲ませてやるのだ」
「……」
意気揚々と宣言したナイトメア。
私は何も言えずに彼を見つめる。
ナイトメアもそろそろと私に視線を移した。
「……」
「……」
お互いに無言のまま見つめあう。
ていうかさ、その作戦Sとやらは……
「この前やったよね。私とグレイがあなたに。なに?仕返し?」
そして作戦SのSってまさか砂糖なんじゃ……
「砂糖じゃない! シュガーのSだ!!」
「あぁ、そう」
どっちでも同じだけどね。
がくりと脱力する私に、やる気満々なナイトメア。
……私の悩みって、この人にとってはすんごく小さいことなんだろうな。(所詮、他人事よね……)
思わずため息が出たけれど、目を輝かせるナイトメアを見ていたら、本当にどうでもいいくらい小さな悩み事な気がしてきた。
急に気が大きくなった私は彼の遊びに付き合うことにした。
「まぁいいか。その作戦Sをやってみても面白いかも」
「そうだろうそうだろう! おもしろいどころの騒ぎじゃないぞ」
「そうだねぇ。慌てるのか、ナイトメアみたいに景気よく吹き出すのか、グレイはどういうタイプだろうね?」
「ふふふ、見物だな」
グレイの反応をお互いに想像してにやにやと笑っている時だった。
「すごく楽しそうですね、2人とも。俺も仲間に入れてくださいよ」
「!?」
悪い顔をして笑いあっていた私達は、突然背後から聞こえた声にびくりとして固まる。
「ぐ、グレイ!?」
「うわ、最悪!」
彼の登場に顔の引きつる私達。
フラれたばかりの私はただでさえ会うのが気まずいというのに、このタイミングですか!?
「最悪とはひどい言われようだな、名無しさん」
「いえ、あの……」
『好き』の次は『最悪』だなんて、確かにひどいな私。(でも仕方ない)
動揺する私とナイトメアに、グレイはつかつかと近寄ってくるとナイトメアの机にどさりと書類を置いた。
そしてあきれ果てた目をしてこう言った。
「その作戦Sとやらを考えている暇があったら、とっとと仕事を片付けてほしいものですね、ナイトメア様」
「や、やっている! 仕事はちゃんとやっているぞ!! ちょっと休憩していただけだ! なぁ名無しさん!」
うわ、なんで私に同意を求めるかな!
しかし実際にくだらない話に乗ってしまった手前、ここで裏切るのもかわいそうな気がしたので話を合わせる。
「そうそう! それにね、疲れた体には糖分が良いって聞いたことあるし、お疲れ気味のグレイにはいいのかなぁって……ね!? ナイトメア!?」
「そ、そうとも! その通りだ。グレイ、お前はしっかり糖分を取れ」
「…………」
無理やりな話の持っていき方に呆れ顔のグレイ。
無言の圧力を感じるわ。しゃべり続けなければやられる、そんな錯覚を起こしてしまうくらい。
「……え、えぇと、ほらやっぱりグレイファンの私としては、いつもすっきり元気でいてもらいたいっていうかさ……」
「わ、私だって上司として部下の体調は心配だぞ!」
私とナイトメアは、それぞれの立場からのフォローをしてみるが、グレイは深いため息をつくととてもクールな表情で私達を見た。
「お心遣い感謝します。ですが、余計なお世話です。糖分の取りすぎは体に良くありませんし、なによりも俺を疲れさせているのは仕事もせずに、こういうくだらないことばかりしているナイトメア様なんですよ」
「な、私のせいなのか!?」
名無しさんだって乗り気だったのに、と恨みがましい目で私を見てきたナイトメア。
あぁ、やっぱりナイトメアはグレイに弱いなぁ。これはかなり状況的に不利だ。
このままナイトメア側についていたら、グレイに怒られる。
うっかり失恋をしてその後に怒られるなんて、いくらなんでも立ち直れないわ。
そう判断した私はあっさりと寝返った。
「ナイトメア、くだらない作戦なんて考えてないで仕事しなよ」
「!? おい名無しさん! 君はさっきまで一緒になってニヤついてたじゃないか!」
「えー?なんのこと? 私はグレイのファンだもん。グレイを困らせることなんてするわけないじゃない」
そう言いながら、私はグレイの横にちゃっかりと移動する。
なんとグレイもそんな私に乗ってきた。
「そうですよナイトメア様。名無しさんがあなたのくだらない作戦に付き合う訳がないでしょう。さぁ、仕事をしてください。会合に参加する役持ち達もそろそろ集まってきます。いつ昼になってもおかしくないですし、真面目にやってくださいよ」
「そうですよ」
グレイの後についてはやし立てると、ナイトメアは口を尖らせた。
「ひいきだ!グレイ、お前は名無しさんをひいきしている!!」
「ひいきじゃありませんよ。あなたを信頼しきれないだけです」
「日頃の行いよね」
「ひどい、ひどいぞ名無しさん!!」
「ごめんね、ナイトメア。女って時に残酷なの」
私は華麗な泥棒一味のセクシーな某女性キャラになったつもりでそう言った。
ナイトメアはぶつぶつ文句を言いながら仕事に戻る。
それを見届けると、私とグレイはくすくす笑いながらナイトメアの部屋を出た。
「まったく……こっちの心配も顧みずに。困ったものだ」
「ごめんね、グレイ」
一緒になってあそんでしまいました。
ぺこりと頭を下げて謝ると、彼はふふっと笑う。
「いや、名無しさんが気にすることはない。ナイトメア様は日々のツケが回ってきているんだからな」
「うーん、でもちょっといじめすぎちゃった気がするなぁ」
わりと本気で反省しているのに、グレイは「あの方は打たれ強いから、あれくらい平気だ」と全く意に介さない。
それどころか、私を見て微笑んだ。
「……名無しさんは本当におもしろいな。本当に飽きないよ」
……これってズルいよね?
私あなたにフラれたと思っているのに、なんでまたそういうことをそんな顔でいうんですか。
なんか悔しい。
「なんならずっと一緒にいてあげますけど。ファンとして」
勇気を出してそう言ってみたら、彼は一瞬私を見てからふふっと笑った。
「それはいいな。ナイトメア様の対応でイライラした時に名無しさんがいると和みそうだ」
和むって……なんかちょっと動物扱いっぽいなと思ったけど、それ以上になんだかドキドキとしてしまった。
そばにいてもいいって認めてもらったような気がする。(ファンとしてだけど)
鼓動が早くなる私をよそに、グレイは次の話題に移る。
「それよりも名無しさん、実は頼みがあるんだが……」
「な、なに?」
「会合に来た客用の部屋の窓を、換気のために全部開けてあるんだ。2階と3階の客室の窓をすべて閉めてきてくれないか?」
「うん、いいよ。全部閉めればいいのね?」
「あぁ。頼んだよ」
「わかった!」
私はうなずくと、くるりと向きを変えて客室へと向かった。
どうなることかと思ったけど、わりと普通にグレイと話ができたことが嬉しくて、スキップでもしてしまいそうな自分にびっくりした。