短編
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【恋人になった日】
エイプリルシーズンというものがやってきたらしい。
このめちゃくちゃな世界にも季節がお目見えしたのだ。
しかし、そこはやはりかなりのめちゃくちゃっぷりを発揮し、領地ごとに季節が違うようだ。
久しぶりの季節感に私はワクワクして、とりあえずあちこち散歩に出かけている。
しかし、なんだか今日は出かける気分になれない。
仕方なく部屋でぼんやりとしていると、なんだかセンチメンタルな気分になってきた。
これはおそらく滞在地の季節のせいだろう。
秋。
秋に人恋しくなるのはどうしてなんだろう?
窓の外の赤や黄色に染められた木々を眺めながら、私は思わずため息をついた。
「はぁ……このままぼーっとしてるのもダメな気がするなぁ」
部屋にこもっているのも良くないので、気分転換に散歩へ行くことにした。
支度をして部屋を出る。
「おー、名無しさん!」
廊下を歩いていたら背後から声をかけられた。
私はその声にドキリとして振り返る。
「エリオット」
にこにこと機嫌よさそうな笑顔でエリオットが私の元へと歩いてきた。
私の好きで仕方ない人。
「どこか行くのか?」
「うん。気分転換に散歩でもしてこようと思って」
「マジで? んじゃあ俺も行っていいか? 仕事が終わったところなんだ」
「いいけど、疲れてないの?」
「全然。名無しさんと一緒にいた方が楽しいからな」
彼はそう言ってにぱっと笑った。
その言葉と笑顔に私の胸はきゅっと縮んだ。
エリオットは自分の言葉が私にどれだけ影響を及ぼしているのか知らないのだろうか?
私達は普段からすごく仲が良いけれど、それはエリオットが私を友達だと思っているからだ。
私が一方的に好きなだけ。そうに決まっている。
そう考えると、私の胸は痛みにぎゅっと絞めつけられる。
エリオットといると、嬉しさと切なさでとても苦しい。
そんなことを知る由もない彼は、大きな手で私の背中をそっと押した。
「よし。んじゃ行こうぜ」
あてもなくぶらぶらと歩く私達。
夕暮れの空が綺麗だった。
他愛もない話をしながら、のんびりと歩いているとふとエリオットが言った。
「夕日ってうまそうだよなー」
辺り一面をオレンジに染める夕日は、まんまるで光っていて、確かにエリオットの好きそうな感じだった。
「夕日が美味しそうっていう人は初めてだなぁ。綺麗だっていう人はいっぱいいるけど」
「そうか? まぁ綺麗かもしれないけど、やっぱり俺にはうまそうに見える」
ぼんやりと夕日を眺めて言う彼に思わず笑ってしまった。
オレンジ色の物はなんだって美味しいと思っているのかもしれない。
「私は夕日よりもその近くの雲の方が美味しそうに見えるなぁ。あれなんてマシュマロみたい。きっとみかん味」
ぷっくりふわふわした小さな雲を指さすと、エリオットは「どれ?」と私と視線を合わせるように顔を近づける。
思いのほか近いその距離にドキドキしながら、私は冷静を装って「あれだよ。あの小さいやつ」と指をさしつづける。
んー、わかんねぇなぁ。あれか?
エリオットはやたらと真剣な眼差しで空を見続ける。
そんな彼をこっそり盗み見て、ものすごく幸せな気持ちになった。
「それからね、あの大きな雲はぶどうみたいだし、あっちはクロワッサンみたい」
「どれがどれだかよくわかんねぇよ」
彼は顔をしかめつつも、私が指さす雲を必死に探しているようだった。
なんだかんだ真面目だと思う。
こういうのに付き合ってくれるエリオットは優しい。
思わず笑うと、彼はちらりと私を見た。
「なんだよ、全然俺にはわかんねぇんだって」
いじけたように言う様子に、にやにやが止まらなかった。
「想像力が足りないなぁ、エリオットは」
からかうようにそう言うと、エリオットの耳がへにょりと垂れた。
「ブラッドにもよく言われるんだ。すぐ撃つな、ちゃんと考えろってさ」
その話と私が言っている想像力は、似ているようでちょっと違う気もする。
「ちゃんと考えなきゃいけないってわかってるんだけどな。つい手が出ちまうんだ」
「それはちょっと問題かもね」
ちょっとっていうかかなり問題な気もする。(危険な人だなぁ)
「でも俺、あんたといるときは結構考えてるんだぜ」
「そうなの?」
「あぁ。名無しさんを困らせたくないからな。ちゃーんと考えて我慢してる」
「我慢?」
って何を?
私イラつかせるようなことを気づかないうちにしているのかしら?(それはまずい!)
「あの、エリオット。何かあったら言ってね? 我慢の限界が来てある日突然撃たれるなんて嫌だから」
怖すぎるよ、そんなの。
するとエリオットはきょとんとした表情を見せる。
「撃つ? 俺が名無しさんを撃つわけねーだろ」
「え、じゃあ何?」
首を傾げる私に、エリオットは一瞬動きを止めた。
そして、私をじっと見つめる。
その視線になんとなく居心地の悪さを感じた私。
エリオットはしばらく私を見ていたけれど、ふっとため息をついてから1歩分距離を縮めてきた。
「なにって、そりゃあ…決まってんだろ」
手を出されないとわからないのか?
呆れたような、でも少し楽しそうな彼の表情に、私は自分の間抜けな発言にやっと気づいた。
しかし、その時にはすでにエリオットの大きな手が私の頬に触れていた。
「こうやってあんたに触れることだよ」
彼の温かい手と近い距離に鼓動がドクドクと音を立て始める。
「名無しさんを困らせたくないから、触らないように気を付けてたんだ」
そう言いながら思いっきり触れているこの手はなんなのか。
「でも俺考えるの苦手だから、あーだこーだ考えるのも面倒になってきた」
突然の展開に彼をただただ見つめていると、エリオットは私の目を覗き込んだ。
「俺の言ってること、わかる?」
エリオットは静かな声でそう言った。
混乱しつつもなんとかうなずくと、彼は困ったような顔をした。
「やっぱりわかるのか。あんたは賢いな。引くに引けなくなっちまったじゃねーか」
ふっと小さく笑うと、エリオットは私の頬から手を離した。
そして、私に体ごと向き合う。
「名無しさん、俺あんたが好きなんだ」
その言葉に私は全身の血流がばーーーっと一気にものすごい速度で流れ始めたような気がした。
すごいよ、これ。大丈夫なのかな、私。
体中がかーっと熱くなるし、頭もくらりとする。
「名無しさん?」
不審に思ったらしいエリオットが、私の顔を覗きこんできた。
ふっと目が合って私はますます熱くなる。
「すっげー顔赤いけど……大丈夫か?」
告白してきた人に心配されるほど、私は動揺してしまったらしい。
私は自分の頬を押さえて、ひたすらこくこくと頷いた。大丈夫だからもう見ないで欲しい。
そんな私の様子にエリオットはすぐに全てを察したらしい。
「そこまでの反応を見せてくれると、告白した甲斐があるよな」
楽しそうな彼の声。
私はそっとエリオットを見てみた。
すると、彼はしっかりと私を見ていた。
「……なんでエリオットが普通なの」
告白した方がいつも通りっておかしい気がする。
「俺が普通っていうか、名無しさんが動揺しすぎなんじゃねーの?」
「う……」
おっしゃる通りかもしれません。(恋愛経験に乏しいから仕方ないのです)
エリオットは私の頭をくしゃっとなでてから、こう言った。
「ほんと、一緒にいるとおもしろいんだよな。あんた」
わしゃわしゃになった髪の毛を直そうしたら、その手を掴まれた。
「返事。一応もらっておきたいんだけど?」
彼は私をまっすぐに見つめてそう言った。
返事なんて今さらな気もするけれど、でも私もちゃんと言葉で伝えなくちゃ。
そう思って、私は彼を見つめ返した。
けれど、どうにも恥ずかしくてまともに顔が見られない。
エリオットはじっと私を見つめてその言葉を待っている。
手を掴まれているので逃げることもできない私は、仕方なくおもいっきり彼の胸に飛び込んだ。
これなら顔を見られずに済む、とか思ったけれど実は大胆な行動だということに、この時点では気づかなかった。そのくらい頭が真っ白だったのだ。
「!」
「私も好き」
私の言葉は彼の胸に吸い込まれるくらい小さかったと思う。
けれど、言った瞬間思い切り抱きしめられた。
とても長く感じたけれど、それはほんの5秒くらいだったと思う。
彼は私を抱きしめたままこう言った。
「声、小せぇ」
そう言って笑うエリオットに、私もつられて笑ってしまった。
くすくす笑いが収まると、私は彼をそっと見上げる。
すると、エリオットも私を見た。
見つめあった私たちはそのまま短いキスを交わす。
今までなんで友達でいられたんだろうと思うくらい自然な流れに、またもやおかしくなって2人で笑ってしまった。
エイプリルシーズンというものがやってきたらしい。
このめちゃくちゃな世界にも季節がお目見えしたのだ。
しかし、そこはやはりかなりのめちゃくちゃっぷりを発揮し、領地ごとに季節が違うようだ。
久しぶりの季節感に私はワクワクして、とりあえずあちこち散歩に出かけている。
しかし、なんだか今日は出かける気分になれない。
仕方なく部屋でぼんやりとしていると、なんだかセンチメンタルな気分になってきた。
これはおそらく滞在地の季節のせいだろう。
秋。
秋に人恋しくなるのはどうしてなんだろう?
窓の外の赤や黄色に染められた木々を眺めながら、私は思わずため息をついた。
「はぁ……このままぼーっとしてるのもダメな気がするなぁ」
部屋にこもっているのも良くないので、気分転換に散歩へ行くことにした。
支度をして部屋を出る。
「おー、名無しさん!」
廊下を歩いていたら背後から声をかけられた。
私はその声にドキリとして振り返る。
「エリオット」
にこにこと機嫌よさそうな笑顔でエリオットが私の元へと歩いてきた。
私の好きで仕方ない人。
「どこか行くのか?」
「うん。気分転換に散歩でもしてこようと思って」
「マジで? んじゃあ俺も行っていいか? 仕事が終わったところなんだ」
「いいけど、疲れてないの?」
「全然。名無しさんと一緒にいた方が楽しいからな」
彼はそう言ってにぱっと笑った。
その言葉と笑顔に私の胸はきゅっと縮んだ。
エリオットは自分の言葉が私にどれだけ影響を及ぼしているのか知らないのだろうか?
私達は普段からすごく仲が良いけれど、それはエリオットが私を友達だと思っているからだ。
私が一方的に好きなだけ。そうに決まっている。
そう考えると、私の胸は痛みにぎゅっと絞めつけられる。
エリオットといると、嬉しさと切なさでとても苦しい。
そんなことを知る由もない彼は、大きな手で私の背中をそっと押した。
「よし。んじゃ行こうぜ」
あてもなくぶらぶらと歩く私達。
夕暮れの空が綺麗だった。
他愛もない話をしながら、のんびりと歩いているとふとエリオットが言った。
「夕日ってうまそうだよなー」
辺り一面をオレンジに染める夕日は、まんまるで光っていて、確かにエリオットの好きそうな感じだった。
「夕日が美味しそうっていう人は初めてだなぁ。綺麗だっていう人はいっぱいいるけど」
「そうか? まぁ綺麗かもしれないけど、やっぱり俺にはうまそうに見える」
ぼんやりと夕日を眺めて言う彼に思わず笑ってしまった。
オレンジ色の物はなんだって美味しいと思っているのかもしれない。
「私は夕日よりもその近くの雲の方が美味しそうに見えるなぁ。あれなんてマシュマロみたい。きっとみかん味」
ぷっくりふわふわした小さな雲を指さすと、エリオットは「どれ?」と私と視線を合わせるように顔を近づける。
思いのほか近いその距離にドキドキしながら、私は冷静を装って「あれだよ。あの小さいやつ」と指をさしつづける。
んー、わかんねぇなぁ。あれか?
エリオットはやたらと真剣な眼差しで空を見続ける。
そんな彼をこっそり盗み見て、ものすごく幸せな気持ちになった。
「それからね、あの大きな雲はぶどうみたいだし、あっちはクロワッサンみたい」
「どれがどれだかよくわかんねぇよ」
彼は顔をしかめつつも、私が指さす雲を必死に探しているようだった。
なんだかんだ真面目だと思う。
こういうのに付き合ってくれるエリオットは優しい。
思わず笑うと、彼はちらりと私を見た。
「なんだよ、全然俺にはわかんねぇんだって」
いじけたように言う様子に、にやにやが止まらなかった。
「想像力が足りないなぁ、エリオットは」
からかうようにそう言うと、エリオットの耳がへにょりと垂れた。
「ブラッドにもよく言われるんだ。すぐ撃つな、ちゃんと考えろってさ」
その話と私が言っている想像力は、似ているようでちょっと違う気もする。
「ちゃんと考えなきゃいけないってわかってるんだけどな。つい手が出ちまうんだ」
「それはちょっと問題かもね」
ちょっとっていうかかなり問題な気もする。(危険な人だなぁ)
「でも俺、あんたといるときは結構考えてるんだぜ」
「そうなの?」
「あぁ。名無しさんを困らせたくないからな。ちゃーんと考えて我慢してる」
「我慢?」
って何を?
私イラつかせるようなことを気づかないうちにしているのかしら?(それはまずい!)
「あの、エリオット。何かあったら言ってね? 我慢の限界が来てある日突然撃たれるなんて嫌だから」
怖すぎるよ、そんなの。
するとエリオットはきょとんとした表情を見せる。
「撃つ? 俺が名無しさんを撃つわけねーだろ」
「え、じゃあ何?」
首を傾げる私に、エリオットは一瞬動きを止めた。
そして、私をじっと見つめる。
その視線になんとなく居心地の悪さを感じた私。
エリオットはしばらく私を見ていたけれど、ふっとため息をついてから1歩分距離を縮めてきた。
「なにって、そりゃあ…決まってんだろ」
手を出されないとわからないのか?
呆れたような、でも少し楽しそうな彼の表情に、私は自分の間抜けな発言にやっと気づいた。
しかし、その時にはすでにエリオットの大きな手が私の頬に触れていた。
「こうやってあんたに触れることだよ」
彼の温かい手と近い距離に鼓動がドクドクと音を立て始める。
「名無しさんを困らせたくないから、触らないように気を付けてたんだ」
そう言いながら思いっきり触れているこの手はなんなのか。
「でも俺考えるの苦手だから、あーだこーだ考えるのも面倒になってきた」
突然の展開に彼をただただ見つめていると、エリオットは私の目を覗き込んだ。
「俺の言ってること、わかる?」
エリオットは静かな声でそう言った。
混乱しつつもなんとかうなずくと、彼は困ったような顔をした。
「やっぱりわかるのか。あんたは賢いな。引くに引けなくなっちまったじゃねーか」
ふっと小さく笑うと、エリオットは私の頬から手を離した。
そして、私に体ごと向き合う。
「名無しさん、俺あんたが好きなんだ」
その言葉に私は全身の血流がばーーーっと一気にものすごい速度で流れ始めたような気がした。
すごいよ、これ。大丈夫なのかな、私。
体中がかーっと熱くなるし、頭もくらりとする。
「名無しさん?」
不審に思ったらしいエリオットが、私の顔を覗きこんできた。
ふっと目が合って私はますます熱くなる。
「すっげー顔赤いけど……大丈夫か?」
告白してきた人に心配されるほど、私は動揺してしまったらしい。
私は自分の頬を押さえて、ひたすらこくこくと頷いた。大丈夫だからもう見ないで欲しい。
そんな私の様子にエリオットはすぐに全てを察したらしい。
「そこまでの反応を見せてくれると、告白した甲斐があるよな」
楽しそうな彼の声。
私はそっとエリオットを見てみた。
すると、彼はしっかりと私を見ていた。
「……なんでエリオットが普通なの」
告白した方がいつも通りっておかしい気がする。
「俺が普通っていうか、名無しさんが動揺しすぎなんじゃねーの?」
「う……」
おっしゃる通りかもしれません。(恋愛経験に乏しいから仕方ないのです)
エリオットは私の頭をくしゃっとなでてから、こう言った。
「ほんと、一緒にいるとおもしろいんだよな。あんた」
わしゃわしゃになった髪の毛を直そうしたら、その手を掴まれた。
「返事。一応もらっておきたいんだけど?」
彼は私をまっすぐに見つめてそう言った。
返事なんて今さらな気もするけれど、でも私もちゃんと言葉で伝えなくちゃ。
そう思って、私は彼を見つめ返した。
けれど、どうにも恥ずかしくてまともに顔が見られない。
エリオットはじっと私を見つめてその言葉を待っている。
手を掴まれているので逃げることもできない私は、仕方なくおもいっきり彼の胸に飛び込んだ。
これなら顔を見られずに済む、とか思ったけれど実は大胆な行動だということに、この時点では気づかなかった。そのくらい頭が真っ白だったのだ。
「!」
「私も好き」
私の言葉は彼の胸に吸い込まれるくらい小さかったと思う。
けれど、言った瞬間思い切り抱きしめられた。
とても長く感じたけれど、それはほんの5秒くらいだったと思う。
彼は私を抱きしめたままこう言った。
「声、小せぇ」
そう言って笑うエリオットに、私もつられて笑ってしまった。
くすくす笑いが収まると、私は彼をそっと見上げる。
すると、エリオットも私を見た。
見つめあった私たちはそのまま短いキスを交わす。
今までなんで友達でいられたんだろうと思うくらい自然な流れに、またもやおかしくなって2人で笑ってしまった。