マッドハッターズ!
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【25.再びバラ園】
昼間のバラ園は写真集のような空間だ。
すごく綺麗で、いつ見ても圧巻。
自由に出入りを許された私は、1人で何度かここに来ていた。
今もブランコに座ってぼんやりと過ごしていた。
「おや、今日は先客がいたのか」
その声にはっとして意識を取り戻すと、そこにはなんとビバルディがいた。
「え、あれ? ビバルディ!?」
「うふふ。この空間に名無しさんはとても似合っておるのう。愛い愛い」
突然現れたかと思えば、普通にそんなことを言いだした女王様。
「今日は何を考えていたの? またあやつのこと?」
「今日は何も考えていなかったよ」
「そう。それはおもしろい。……残念だったな。お前のことなどみじんも考えていなかったらしいぞ?」
私の言葉に、ビバルディは変な答え方をした。
と思ったら、彼女は私の後方を見ていた。
不思議に思って振り返ると、そこにはブラッドがいた。
「……ひどい言い方をしないでくれないか、姉貴」
「!!」
驚きすぎてブランコから落ちそうになった。
まさかこのバラ園でこの姉弟を自分の目で見る日がこようとは!!
「お前のような男にこの子はもったいない。わらわが欲しい」
「譲るつもりはないよ」
「それならば奪うまでだがね?」
「……あなたが言うと洒落にならない」
「本気だからねぇ」
楽しそうに笑うビバルディと、ため息をつくブラッド。
こうなるとやっぱり姉の方が強いらしい。(本当に姉弟だったんだなぁ)
彼らを見ている私はそれだけで胸が一杯だった。(美男美女万歳! 姉弟万歳!)
1人でうぅ~と悶えているとビバルディが不思議そうに私を見た。
「名無しさん? どうした?」
「いや、感無量で……」
「?」
私の感動の元である2人は揃って首を傾げる。
「せっかく名無しさんがいるのだからもう少しここにいたいが、わらわはそろそろ戻らねば」
「え、もう帰っちゃうの?」
「あぁ、またくるよ。今度はブラッドのいない時に2人で会おう、名無しさん」
「うん!!」
「……そんなにはっきりと頷かれると傷つくな」
「ほほほ。名無しさんはわらわの方が好きなようじゃ。残念だったな」
そう言ったかと思うと、ビバルディはすすすっと私に近寄りほっぺにキスをした。
ふわりと香水の香りが鼻をかすめる。
「名無しさん、またここで」
優しい声でそう言ったかと思うと、彼女はドレスのすそを翻して行ってしまった。
残された私とブラッド。
私はぼんやりとビバルディが去っていた道を見つめる。
無意識にキスされた頬に手のひらを当てて。
「……まさか絆された、なんてことはないだろうな?」
背後から私の首に手を回しながら、ブラッドがつまらなそうにそう言った。
「綺麗すぎるよね、ビバルディ」
うっとりとそう言う私にため息をついたブラッド。
私はおかしくなって首を倒して彼を見上げた。
「なんてね。心配した?」
「……君も意地が悪くなったものだな」
私を見下ろしてブラッドがそう言った。
「ブラッドに似たのかもね」
笑いながらそう答えて、私は頭を起こして前方のバラ園を見た。
私の一番好きな花になりつつあるバラ。
「一緒にいると似てくるんだよ。残念なことに」
そのうち私も紅茶派になるのかもしれない。夜が好きになるのかもしれない。
「私に似た女など面倒だな。似なくていいぞ」
「そうだね、だるだるな私になんてなりたくないや。ブラッドが私に似てみれば?」
「……マフィアのボスには向いてなさそうだ」
そう言って笑いあう私達。
その時、不意に辺りが暗くなっていく。
「!」
「夜だ」
急激に闇に染まっていくバラ園に、明かりがともる。
私は思わずブランコから立ち上がった。
振り返ってブラッドを見ると、彼の表情が変わっていた。
すっきりと冴えた顔。
今のブラッドならなんでもできるんじゃないかと思うくらいの雰囲気を漂わせている。
この人は本当に夜が似合う。
「何時間帯ぶりだろうな」
「かなり久しぶりだよね」
夜が特別好きなわけでなくても、なんだか久しぶりの夜に楽しくなってくる。
「夜でもきれいなんだね」
ぼんやりとした明かりの中でバラが闇夜に浮かび上がって見える。
私達はしばらく2人でバラを眺めて立っていた。
「いつか名無しさんに言ったことは当たりだったな」
「なんだっけ?」
「私達にとって君は悪魔かもしれない、という話だ」
「あぁ……あれね」
いつだったか、ブラッドの部屋でそう言われた。
あの時ほどブラッドを怖いと思ったことはなかった。すごく昔のことに思えるけど。
「ん、ちょっと待って。当たりってどういうこと? 私が悪魔だとでも言うんですか」
私の言葉に、ブラッドが楽しそうに笑う。
「あぁ、君はやっぱり悪魔だ。私を振り回す人間などそうはいないからね」
「……振り回されてるのは私の方なんですけど」
呆れる私に、ブラッドはわざとらしく首を振った。
「そんなことはない。名無しさんがどこかへ行くたびに私は心配しているんだよ」
「嘘っぽいなぁ、その言い方」
わざとらしい言い方に思わず笑ってしまった。
「私の心配が少しでも減るように……印をつけようか。名無しさん、約束の夜だ」
その言葉に、私の笑いは引きつり笑いになる。
「え……!? や、約束なんてしてないけど!?」
「そうだったかな。印をつける約束をした気がするがね」
彼はそう言いながら私の腰に手を回すと、そのままがっちりホールドする。
「してないしてない!! ブラッドが一方的に言ってただけでしょ!」
そう言ってみるが、すでに逃げようのない体勢になっていた私。
ブラッドは私の耳元にくちびるをよせて楽しそうにこう言った。
「言っておくが、私は夜でなくても構わなかったんだよ。夜が来るまで待ってあげたことに感謝してほしいくらいだ」
「え、えぇ? そんな傲慢な言い方って……!」
ブラッドからなんとか距離を取ろうとぐいぐいと彼の体を押す私。
すると、その時だった。
「名無しさん」
ものすごく真剣な声で私の名を呼んだブラッド。
ほとんど条件反射で、私は手をゆるめて彼を見た。
じっと私を見つめるブラッドと視線が合う。どきりとして固まると彼は私の手をそっと握った。
言葉なんてなくても、それだけで十分にわかった。
好きで好きで仕方ない。
お互いにそう思っていることが目を見ればわかる。
マフィアのボスにそんな感情を持つなんて、思ってもみなかった。
きっと、彼にしたってそうだろう。
私みたいな普通の子を好きになるなんて。
でも好きなものは仕方ない。
ほんの数秒だったけれどそんな思いをお互いに抱いたまま私たちは見つめあって、そのままキスをした。
唇が離れ鼻先が触れる距離で、ブラッドが私を見つめる。
……ダメだ。もう好きすぎてどうしよう。苦しいんですけど。
伝えきれるかわからないけど、伝えたい。そう思った時だった。
私を見つめていたブラッドが静かな声で言った。
「名無しさん。好きだ」
ブラッドの言葉を聞いた瞬間、電気が走ったみたいに目の前が真っ白になった。
私は彼の胸に顔をうずめる。
そして力いっぱい彼を抱きしめた。
このまま一つになれればいいのに。私の気持ちが全部まるまる伝わればいいのに。
それくらいにぎゅーっと抱きついた。
すると柔らかく抱きしめ返されて、私はますます胸がいっぱいになる。
初めてちゃんと「好きだ」という言葉をもらった。
ブラッドはわかっていたのだろうか。これまで決定的な言葉を私に言っていなかったことに。
彼のことだ。きっとわざと言わずにいたんだろう。
本当に私を焦らすのが上手い。
「ずるいなぁ、ブラッドは」
思わず出た言葉に、彼は小さく笑って私の髪の毛に顔をうずめた。
どのくらいそうしていたんだろう。
ブラッドが静かに、でもどこか楽しそうにこう言った。
「ここならだれも来ないが、どうする? お嬢さん」
「……嫌。ここはそういう所じゃないもの」
「そうだな」
私の答えがわかっていたのだろう。
ブラッドは抱きしめた腕を緩めると、笑いながら私の手を取った。
「行こうか」
夜のバラ園を抜けて屋敷へと歩く私達。
印の数であなたの気持ちがわかるなら、たくさんつけてもらって構わない。
そんな風に思いながらブラッドの隣を歩くだけで幸せだなんてどうかしている。
私を狂わせる悪魔はあなた。
おわり
昼間のバラ園は写真集のような空間だ。
すごく綺麗で、いつ見ても圧巻。
自由に出入りを許された私は、1人で何度かここに来ていた。
今もブランコに座ってぼんやりと過ごしていた。
「おや、今日は先客がいたのか」
その声にはっとして意識を取り戻すと、そこにはなんとビバルディがいた。
「え、あれ? ビバルディ!?」
「うふふ。この空間に名無しさんはとても似合っておるのう。愛い愛い」
突然現れたかと思えば、普通にそんなことを言いだした女王様。
「今日は何を考えていたの? またあやつのこと?」
「今日は何も考えていなかったよ」
「そう。それはおもしろい。……残念だったな。お前のことなどみじんも考えていなかったらしいぞ?」
私の言葉に、ビバルディは変な答え方をした。
と思ったら、彼女は私の後方を見ていた。
不思議に思って振り返ると、そこにはブラッドがいた。
「……ひどい言い方をしないでくれないか、姉貴」
「!!」
驚きすぎてブランコから落ちそうになった。
まさかこのバラ園でこの姉弟を自分の目で見る日がこようとは!!
「お前のような男にこの子はもったいない。わらわが欲しい」
「譲るつもりはないよ」
「それならば奪うまでだがね?」
「……あなたが言うと洒落にならない」
「本気だからねぇ」
楽しそうに笑うビバルディと、ため息をつくブラッド。
こうなるとやっぱり姉の方が強いらしい。(本当に姉弟だったんだなぁ)
彼らを見ている私はそれだけで胸が一杯だった。(美男美女万歳! 姉弟万歳!)
1人でうぅ~と悶えているとビバルディが不思議そうに私を見た。
「名無しさん? どうした?」
「いや、感無量で……」
「?」
私の感動の元である2人は揃って首を傾げる。
「せっかく名無しさんがいるのだからもう少しここにいたいが、わらわはそろそろ戻らねば」
「え、もう帰っちゃうの?」
「あぁ、またくるよ。今度はブラッドのいない時に2人で会おう、名無しさん」
「うん!!」
「……そんなにはっきりと頷かれると傷つくな」
「ほほほ。名無しさんはわらわの方が好きなようじゃ。残念だったな」
そう言ったかと思うと、ビバルディはすすすっと私に近寄りほっぺにキスをした。
ふわりと香水の香りが鼻をかすめる。
「名無しさん、またここで」
優しい声でそう言ったかと思うと、彼女はドレスのすそを翻して行ってしまった。
残された私とブラッド。
私はぼんやりとビバルディが去っていた道を見つめる。
無意識にキスされた頬に手のひらを当てて。
「……まさか絆された、なんてことはないだろうな?」
背後から私の首に手を回しながら、ブラッドがつまらなそうにそう言った。
「綺麗すぎるよね、ビバルディ」
うっとりとそう言う私にため息をついたブラッド。
私はおかしくなって首を倒して彼を見上げた。
「なんてね。心配した?」
「……君も意地が悪くなったものだな」
私を見下ろしてブラッドがそう言った。
「ブラッドに似たのかもね」
笑いながらそう答えて、私は頭を起こして前方のバラ園を見た。
私の一番好きな花になりつつあるバラ。
「一緒にいると似てくるんだよ。残念なことに」
そのうち私も紅茶派になるのかもしれない。夜が好きになるのかもしれない。
「私に似た女など面倒だな。似なくていいぞ」
「そうだね、だるだるな私になんてなりたくないや。ブラッドが私に似てみれば?」
「……マフィアのボスには向いてなさそうだ」
そう言って笑いあう私達。
その時、不意に辺りが暗くなっていく。
「!」
「夜だ」
急激に闇に染まっていくバラ園に、明かりがともる。
私は思わずブランコから立ち上がった。
振り返ってブラッドを見ると、彼の表情が変わっていた。
すっきりと冴えた顔。
今のブラッドならなんでもできるんじゃないかと思うくらいの雰囲気を漂わせている。
この人は本当に夜が似合う。
「何時間帯ぶりだろうな」
「かなり久しぶりだよね」
夜が特別好きなわけでなくても、なんだか久しぶりの夜に楽しくなってくる。
「夜でもきれいなんだね」
ぼんやりとした明かりの中でバラが闇夜に浮かび上がって見える。
私達はしばらく2人でバラを眺めて立っていた。
「いつか名無しさんに言ったことは当たりだったな」
「なんだっけ?」
「私達にとって君は悪魔かもしれない、という話だ」
「あぁ……あれね」
いつだったか、ブラッドの部屋でそう言われた。
あの時ほどブラッドを怖いと思ったことはなかった。すごく昔のことに思えるけど。
「ん、ちょっと待って。当たりってどういうこと? 私が悪魔だとでも言うんですか」
私の言葉に、ブラッドが楽しそうに笑う。
「あぁ、君はやっぱり悪魔だ。私を振り回す人間などそうはいないからね」
「……振り回されてるのは私の方なんですけど」
呆れる私に、ブラッドはわざとらしく首を振った。
「そんなことはない。名無しさんがどこかへ行くたびに私は心配しているんだよ」
「嘘っぽいなぁ、その言い方」
わざとらしい言い方に思わず笑ってしまった。
「私の心配が少しでも減るように……印をつけようか。名無しさん、約束の夜だ」
その言葉に、私の笑いは引きつり笑いになる。
「え……!? や、約束なんてしてないけど!?」
「そうだったかな。印をつける約束をした気がするがね」
彼はそう言いながら私の腰に手を回すと、そのままがっちりホールドする。
「してないしてない!! ブラッドが一方的に言ってただけでしょ!」
そう言ってみるが、すでに逃げようのない体勢になっていた私。
ブラッドは私の耳元にくちびるをよせて楽しそうにこう言った。
「言っておくが、私は夜でなくても構わなかったんだよ。夜が来るまで待ってあげたことに感謝してほしいくらいだ」
「え、えぇ? そんな傲慢な言い方って……!」
ブラッドからなんとか距離を取ろうとぐいぐいと彼の体を押す私。
すると、その時だった。
「名無しさん」
ものすごく真剣な声で私の名を呼んだブラッド。
ほとんど条件反射で、私は手をゆるめて彼を見た。
じっと私を見つめるブラッドと視線が合う。どきりとして固まると彼は私の手をそっと握った。
言葉なんてなくても、それだけで十分にわかった。
好きで好きで仕方ない。
お互いにそう思っていることが目を見ればわかる。
マフィアのボスにそんな感情を持つなんて、思ってもみなかった。
きっと、彼にしたってそうだろう。
私みたいな普通の子を好きになるなんて。
でも好きなものは仕方ない。
ほんの数秒だったけれどそんな思いをお互いに抱いたまま私たちは見つめあって、そのままキスをした。
唇が離れ鼻先が触れる距離で、ブラッドが私を見つめる。
……ダメだ。もう好きすぎてどうしよう。苦しいんですけど。
伝えきれるかわからないけど、伝えたい。そう思った時だった。
私を見つめていたブラッドが静かな声で言った。
「名無しさん。好きだ」
ブラッドの言葉を聞いた瞬間、電気が走ったみたいに目の前が真っ白になった。
私は彼の胸に顔をうずめる。
そして力いっぱい彼を抱きしめた。
このまま一つになれればいいのに。私の気持ちが全部まるまる伝わればいいのに。
それくらいにぎゅーっと抱きついた。
すると柔らかく抱きしめ返されて、私はますます胸がいっぱいになる。
初めてちゃんと「好きだ」という言葉をもらった。
ブラッドはわかっていたのだろうか。これまで決定的な言葉を私に言っていなかったことに。
彼のことだ。きっとわざと言わずにいたんだろう。
本当に私を焦らすのが上手い。
「ずるいなぁ、ブラッドは」
思わず出た言葉に、彼は小さく笑って私の髪の毛に顔をうずめた。
どのくらいそうしていたんだろう。
ブラッドが静かに、でもどこか楽しそうにこう言った。
「ここならだれも来ないが、どうする? お嬢さん」
「……嫌。ここはそういう所じゃないもの」
「そうだな」
私の答えがわかっていたのだろう。
ブラッドは抱きしめた腕を緩めると、笑いながら私の手を取った。
「行こうか」
夜のバラ園を抜けて屋敷へと歩く私達。
印の数であなたの気持ちがわかるなら、たくさんつけてもらって構わない。
そんな風に思いながらブラッドの隣を歩くだけで幸せだなんてどうかしている。
私を狂わせる悪魔はあなた。
おわり
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