マッドハッターズ!
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【24.目の前のあなた】
「あれ? エース?」
屋敷の門前でうろうろしている赤い人。
私は思わず声をかけた。
「やぁ、名無しさん。こんにちは」
彼は私をみると爽やかに笑って手を挙げた。
「どうしたの? こんなところで」
「うん、ハートの城に帰りたいんだけど……ここ、どこだ?」
きょろきょろと辺りを見回しながら言うエースに思わずがくりとする。
「帽子屋屋敷だよ。この門をみればわかるでしょ」
「あぁ、ほんとだ。あれ~おかしいなぁ。なんでこっちに来ちゃったんだろう?」
「それはこっちのセリフなんですけど」
門前にいたのが双子だったら確実にもめてたわ。
ため息をつく私をよそに、エースはにこにこと話を続ける。
「名無しさんはバスケットなんて持ってどこかへ行くの?」
「うん。これからみんなでピクニックにいくの」
「ピクニックって、この前の夜に会ったときみたいに?」
「そう。昼なのに珍しくブラッドが外に出ようっていうから。どうせこの門を出た瞬間に気が変わりそうだけどね」
そうなのだ。
ものすごく珍しいことに昼間のピクニック提案者はブラッドなのだ。彼曰く「そういう気分」らしい。
どうせすぐ不機嫌になるんだろう、とこっちもわかってはいるけれど、やっぱりワクワクしてしまう。
「嬉しそうだね、名無しさん」
そう言われてはっと我に返ると、エースが穏やかに私を見ていた。
「帽子屋さんと名無しさんなんて上手くいかないだろうなぁって思ってたのに、残念だな」
「なにそれ。ひどくない?」
口を尖らせるとエースがはははっと笑う。
「俺ね、結構君を奪う気があったんだよ」
「は?」
「だってあの人飽きっぽいからさ、名無しさんが身も心もズタボロにされたらさすがの俺も黙ってられないよ」
「身も心もズタボロって……」
エースの表現が一番ひどいと思う。
「だからさ、そうなる前に名無しさんを俺がもらうのもいいかなって思ってたんだ。俺、わりと君のこと好きだしね」
「……はぁ、それはどうも」
「でもほら、フォークはなげられるわ、今だってすっごい睨まれてるわで、すんごい邪魔者扱いされてるんだよね」
「今?」
苦笑するエースの視線の先を見ると、そこにはブラッドがいた。
「ブラッド!」
「やぁ、帽子屋さん。こんにちは」
にこにこと挨拶するエースとは対照的に、無表情のブラッド。
……うわぁ、なにこの空気感。
2人の様子に冷や冷やしてしまう。
しかし、エースはそんなことを知ってか知らずか、さらに笑顔で続ける。
「最近ずーっと昼続きだけど、元気そうでよかったよ。名無しさんのおかげなのかな?」
うわ、なに言ってんのあなた!
なんで爆弾をボンボン落とすような発言をするんですか!?
エースの足でも踏んづけてやろうかと思った時。
「あぁ、そうだな」
とブラッドが答えた。
びっくりして彼を見る。
「彼女のおかげだ」
思わぬ答えにブラッドを見つめてしまった。
私の隣りのエースが「へぇ」と面白そうにつぶやくのが聞こえる。
2人そろってブラッドを見ていると、彼は静かな口調でこう言った。
「名無しさん、こっちへきなさい」
表情を変えずに淡々とした様子のブラッド。
私は吸い寄せられるように彼の隣りに行く。
そんな私とブラッドを見て、エースが笑った。
「ははは! いいね。本当に仲良しなんだ。羨ましいぜ」
「なんならもっと見せつけてやってもいいぞ?」
私の肩を抱いて顔を寄せるブラッド。
エースを見てにやりと笑う彼だけれど、慌てるのは私の方だ。
「ちょっと何言ってんの!?」
私はブラッドをぎゅうっと押し返す。
「はははっ! 勘弁してよ。そんなの見せられたら悔しくって斬りつけちゃうぜ」
私達のやり取りを見ていたエースはからからと笑うと、ふっと表情を緩めた。
「名無しさん、ズタボロにされたら俺の所にきてね」
「間違ってもエースの所には行かないわ」
彼の場合はズタボロどころか、命の保証がない気がする。
顔をしかめる私を見てエースがくすくす笑った。
「まぁいいや。じゃあ俺行くよ。またフォークを投げつけられても嫌だしね」
あ、ハートの城ってこっちでいいんだよな?
そんなことを言いながらエースはふらりと歩き出す。
「エース、またね!」
思わずその背中に声をかけると、彼は振り返ってにこっと笑った。
「うん、またな、名無しさん」
手を振ってエースは去っていった。
エースの姿が見えなくなると、私はブラッドを見る。
「ブラッド、あなた女の人をズタボロにするっていうイメージがあるみたいね」
エースも、それから双子も以前似たようなことを言っていた。
「まったくひどい話だ。そんな面倒な状況になるまで女を囲う訳がないだろう。後始末がだるい」
「……その言い分があなたのイメージそのままって感じなのよね」
ひどい男だ。
私、こんな男と一緒にいていいのでしょうか?
呆れつつもそんな疑問が浮かんだ私。
すると、ブラッドが言う。
「名無しさん、君は目の前の私だけ見ていればいい」
「目の前のだるそうなあなたを?」
「……口の減らないお嬢さんだ」
そんな言葉と共にほっぺたをきゅっとつねられた。
目の前のだるそうな彼は、そんなにひどい人じゃない。
知っているのは私だけ。
そう断言できるくらいもっと彼のことを知りたい。まだ足りない。好きで仕方ない。
どこからこんな気持ちが溢れてくるのかなぁ。
「あれ? エース?」
屋敷の門前でうろうろしている赤い人。
私は思わず声をかけた。
「やぁ、名無しさん。こんにちは」
彼は私をみると爽やかに笑って手を挙げた。
「どうしたの? こんなところで」
「うん、ハートの城に帰りたいんだけど……ここ、どこだ?」
きょろきょろと辺りを見回しながら言うエースに思わずがくりとする。
「帽子屋屋敷だよ。この門をみればわかるでしょ」
「あぁ、ほんとだ。あれ~おかしいなぁ。なんでこっちに来ちゃったんだろう?」
「それはこっちのセリフなんですけど」
門前にいたのが双子だったら確実にもめてたわ。
ため息をつく私をよそに、エースはにこにこと話を続ける。
「名無しさんはバスケットなんて持ってどこかへ行くの?」
「うん。これからみんなでピクニックにいくの」
「ピクニックって、この前の夜に会ったときみたいに?」
「そう。昼なのに珍しくブラッドが外に出ようっていうから。どうせこの門を出た瞬間に気が変わりそうだけどね」
そうなのだ。
ものすごく珍しいことに昼間のピクニック提案者はブラッドなのだ。彼曰く「そういう気分」らしい。
どうせすぐ不機嫌になるんだろう、とこっちもわかってはいるけれど、やっぱりワクワクしてしまう。
「嬉しそうだね、名無しさん」
そう言われてはっと我に返ると、エースが穏やかに私を見ていた。
「帽子屋さんと名無しさんなんて上手くいかないだろうなぁって思ってたのに、残念だな」
「なにそれ。ひどくない?」
口を尖らせるとエースがはははっと笑う。
「俺ね、結構君を奪う気があったんだよ」
「は?」
「だってあの人飽きっぽいからさ、名無しさんが身も心もズタボロにされたらさすがの俺も黙ってられないよ」
「身も心もズタボロって……」
エースの表現が一番ひどいと思う。
「だからさ、そうなる前に名無しさんを俺がもらうのもいいかなって思ってたんだ。俺、わりと君のこと好きだしね」
「……はぁ、それはどうも」
「でもほら、フォークはなげられるわ、今だってすっごい睨まれてるわで、すんごい邪魔者扱いされてるんだよね」
「今?」
苦笑するエースの視線の先を見ると、そこにはブラッドがいた。
「ブラッド!」
「やぁ、帽子屋さん。こんにちは」
にこにこと挨拶するエースとは対照的に、無表情のブラッド。
……うわぁ、なにこの空気感。
2人の様子に冷や冷やしてしまう。
しかし、エースはそんなことを知ってか知らずか、さらに笑顔で続ける。
「最近ずーっと昼続きだけど、元気そうでよかったよ。名無しさんのおかげなのかな?」
うわ、なに言ってんのあなた!
なんで爆弾をボンボン落とすような発言をするんですか!?
エースの足でも踏んづけてやろうかと思った時。
「あぁ、そうだな」
とブラッドが答えた。
びっくりして彼を見る。
「彼女のおかげだ」
思わぬ答えにブラッドを見つめてしまった。
私の隣りのエースが「へぇ」と面白そうにつぶやくのが聞こえる。
2人そろってブラッドを見ていると、彼は静かな口調でこう言った。
「名無しさん、こっちへきなさい」
表情を変えずに淡々とした様子のブラッド。
私は吸い寄せられるように彼の隣りに行く。
そんな私とブラッドを見て、エースが笑った。
「ははは! いいね。本当に仲良しなんだ。羨ましいぜ」
「なんならもっと見せつけてやってもいいぞ?」
私の肩を抱いて顔を寄せるブラッド。
エースを見てにやりと笑う彼だけれど、慌てるのは私の方だ。
「ちょっと何言ってんの!?」
私はブラッドをぎゅうっと押し返す。
「はははっ! 勘弁してよ。そんなの見せられたら悔しくって斬りつけちゃうぜ」
私達のやり取りを見ていたエースはからからと笑うと、ふっと表情を緩めた。
「名無しさん、ズタボロにされたら俺の所にきてね」
「間違ってもエースの所には行かないわ」
彼の場合はズタボロどころか、命の保証がない気がする。
顔をしかめる私を見てエースがくすくす笑った。
「まぁいいや。じゃあ俺行くよ。またフォークを投げつけられても嫌だしね」
あ、ハートの城ってこっちでいいんだよな?
そんなことを言いながらエースはふらりと歩き出す。
「エース、またね!」
思わずその背中に声をかけると、彼は振り返ってにこっと笑った。
「うん、またな、名無しさん」
手を振ってエースは去っていった。
エースの姿が見えなくなると、私はブラッドを見る。
「ブラッド、あなた女の人をズタボロにするっていうイメージがあるみたいね」
エースも、それから双子も以前似たようなことを言っていた。
「まったくひどい話だ。そんな面倒な状況になるまで女を囲う訳がないだろう。後始末がだるい」
「……その言い分があなたのイメージそのままって感じなのよね」
ひどい男だ。
私、こんな男と一緒にいていいのでしょうか?
呆れつつもそんな疑問が浮かんだ私。
すると、ブラッドが言う。
「名無しさん、君は目の前の私だけ見ていればいい」
「目の前のだるそうなあなたを?」
「……口の減らないお嬢さんだ」
そんな言葉と共にほっぺたをきゅっとつねられた。
目の前のだるそうな彼は、そんなにひどい人じゃない。
知っているのは私だけ。
そう断言できるくらいもっと彼のことを知りたい。まだ足りない。好きで仕方ない。
どこからこんな気持ちが溢れてくるのかなぁ。