短編2
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【キャンディパニック】
ゴーランドが今度遊園地で売り出す新作おかしの試食会に、私とボリスを呼び出した。
小さな会議室のテーブルには、色とりどりのパッケージのお菓子が並んでおり、私は見た瞬間ウキウキとしてきた。
「わー!すごい!!こんなにいっぱい新しく販売するの!?」
「いや、さすがに全部はねぇな。この中から、あんたたちの意見を聞いて売れそうなやつを出す」
「へぇ~、すごいね。食べていいの?」
「あぁ、食べてくれ。ただしちゃんと感想を言ってくれよ?味はもちろん、見た目とか触感とか色々な点から教えてくれ」
大喜びでパッケージを開ける私の隣りで、ボリスがため息をついた。
「お菓子ねぇ。これだけ大量に見せられると、食べようという気もなくなるな」
「あれ、ボリス甘いの嫌いだっけ?」
「いや、別に。でも、さすがにこんなにはいらないよ。名無しさんが俺の分まで頑張って食べな」
彼はそう言って、すぐそばにあったキャンディの袋を私に差し出した。
なんとなく受け取り開けてみると、色とりどりの小さなキャンディが入っていた。
とりあえずピンク色にしてみよう。ピーチ味っぽいし。
そう思って口に入れた瞬間、ゴーランドが言った。
「お、名無しさん、それはちょっと変わった商品だぜ?」
「あ、そうなの?ただのキャンディだと思ったんだけど。味も普通だよ?」
思った通りピーチ味だよと言う私の横で、ボリスが袋をまじまじと見つめる。
「……なにこれ。『摩訶不思議キャンディ?』 おっさん、ネーミングセンスも皆無だな」
「うるせぇな! 摩訶不思議なんだから摩訶不思議キャンディなんだよ!」
呆れたような、からかうような言い方のボリスに、ゴーランドがむっとしたように声を上げる。
いつものことなので気にせず私は口を挟んだ。
「なんで摩訶不思議なの?」
「ふふーん、実はな、そのキャンディを食べると人格が変わるんだよ」
「……なにそれ。なにかヤバイやつでも入ってんの?ってもう名無しさんが舐めちゃってるんだけど」
顔をしかめるボリス。
「いや、そんな変なものは入ってねぇし、体に害はないぜ。ただ、それを舐めると、しばらく人格が変わるんだ。
名無しさん、お前何色食った?」
「ピンク色。普通にピーチ味だけど」
「あー、ピンク色ね。それは何かっていうと……」
ゴーランドはキャンディのパッケージの説明書きを読みながら笑い出した。
「ぷっ。ピンクは酔っ払いっぽくなるキャンディだ。またすごいのを選んだもんだな、名無しさん」
「……酔っ払い?」
「そうそう。酔っ払いってのは人によってタイプが全然違うから、どうなるかはわかんないぜ。
泣き出すタイプ、笑い出すタイプ、語りだすタイプ、怒り出すタイプ、色々だろ?」
「……うわ、それすっごく面倒なキャンディじゃない?よりによって名無しさんはそれを食べたわけだ」
「だな。まぁほんの短時間しか効果はねぇし、とりあえず見守ってみよう。名無しさんはどうなるんだろうな?」
「おいおいおっさん、名無しさんに脱ぎ癖とかがあったらどうするんだよ」
「そりゃー……全力で止めるだろ」
「……」
「……なんだよ、止めるに決まってんだろ」
「なにも言ってないだろ」
「あのねぇ2人とも!私は絶対脱いだりしないからね!?」
こちらを見る2人を睨みつけた、つもりだった。
しかしなんだかぼんやりとして、彼らの顔が遠いような近いような変な感じに見える。
「……あれ~?なんだろ、おかしいなぁ?」
目をこすると、ボリスが呆れたような声を出した。
「名無しさん、頭がふらふらしてるよ。ちゃんとまっすぐ座りな」
そう言って彼は私の肩と頭のてっぺんを抑えるように手を乗せた。
ずんと重みを感じると同時に、ふわーっとした気分になる。
「ボリスー、これやばいかも。わたしほんとに酔っ払いになったみたい」
「酔っ払ったことを認める酔っ払いなんて珍しいな。名無しさんはお酒飲んでないから酔っぱらってないよ。しっかりしなって」
「えー、でもなんかふわふわくらくらする。脱ぐ気力はないけど、酔っぱらったよ、これ」
「……うーん、自己分析できるなんて珍しいタイプの酔っ払いだな」
「厳密には酔っぱらってないからな。あくまで酔っ払いっぽくなるキャンディだから、わりと思考はしっかりしてるんじゃねぇのか?」
「なーんかややこしいな」
ボリスは「名無しさん、大丈夫?」と私を見る。
私はというとなんだかもう異様に眠い。
恐ろしい眠気に頭から溶けそうだった。
「うー、だめだー。ねむいー」
ボリスと並んで座っていた私はそのまま横に倒れ込む。
彼の肩にずるずると体が落ちていくのを感じた。
「うわ、酔うと名無しさんって寝るタイプなんだ?」
ボリスの声が頭の上から聞こえてきたのを最後に、私の思考は完全に落ちた。
「……これ、どうしろっていうんだろ?」
倒れこんできた名無しさんを受け止めたボリスは、彼女に肩を貸した体勢のままため息をついた。
肩口ですーすーと寝息を立てる名無しさん。
いつもよりも近い距離にドキリとしつつ、ボリスは彼女の顔を覗き込む。
「平和な顔しちゃって……少しはこっちの身にもなれっつーの」
「珍しく振り回されてるな、ボリス。ま、お前の場合、たまにはそういう経験もした方がいいんだ」
「ちぇ。俺は猫だぜ?気まぐれなのは仕方ないだろ。
でも、俺よりもよっぽど名無しさんの方が猫みたいだ。あちこち色んな奴の所に行っては仲良くしてるし」
「確かに名無しさんは顔が広いもんなぁ。少し前にハートの騎士に道案内してやってたかと思えば、この間は帽子屋んとこの双子とジェットコースターに乗ってたぜ。赤と青のどっちが名無しさんの隣に座るかもめてたけど」
「……あっそ」
「っておい。俺を睨むんじゃねぇ!」
「別に睨んでないって。ただ面白くなかっただけ」
ボリスはそう言ってぷいっと横を向いた。
「なんだ、焼きもちか?お前も可愛い所があるじゃねーか」
そう言って笑うゴーランドに、ボリスは口を尖らせる。
「うるさいな、俺は別に……」
彼がそう言ってほんの少し動いたはずみに、名無しさんがさらにずるりと落ちて行った。
ボリスのひざに彼女の頭がぽんと乗る。
「……」
「綺麗~に落ちていったな。膝枕ってやつだ」
こてんと自分のひざに落ちてきた名無しさんを見て黙り込むボリスと、からかうでもなく状況を言葉にするゴーランド。
「……名無しさん、寝てるの?」
名無しさんの顔を覗き込むボリス。
しかし、彼女は動かない。
どうやら本当に寝ているらしい。
「へぇ~~。ほ~~」
ゴーランドはにやにやしながら、ボリスと彼のひざで眠る名無しさんを見る。
「……なに?なんでそんなニヤついてるわけ?気持ち悪いな」
「いーや。なんだかんだ名無しさんにはお前なんだろうなーと思ってさ。いつも一緒にいるし」
「な、なんだよ、急に」
思わぬ発言に驚いたらしい。動揺を隠せずにボリスは言葉を詰まらせる。
「名無しさんはお前に一番懐いてるって話。ほんと、どっちが猫だかわかりゃしねぇな」
ゴーランドは楽しそうに笑うとすっと立ち上がる。
「毛布持ってきてやるよ」
どこにしまってあったかなー??
彼はそう言いながら部屋を出て行った。
パタンとドアが閉まり、残されたのはお菓子の山とボリス、そして彼のひざで寝ている名無しさん。
「……毛布なんてその辺にあるだろ」
ボリスは思わずそうつぶやいた。
「はーぁ。おっさんに慰められたり、気を使われたりするなんて……俺もかなり切羽詰ってるのかな」
ボリスはすやすやと眠る名無しさんを見下ろしながら、そっと彼女の髪の毛に触れる。
髪の毛を梳くように頭を撫でると、名無しさんはほんのすこしだけ身じろぎした。
「……名無しさん。猫は俺の方なんだぜ?あんまり振り回さないでくれよ」
そう囁くと、名無しさんの手をそっと持ち上げてキスを落とした。
ゴーランドが今度遊園地で売り出す新作おかしの試食会に、私とボリスを呼び出した。
小さな会議室のテーブルには、色とりどりのパッケージのお菓子が並んでおり、私は見た瞬間ウキウキとしてきた。
「わー!すごい!!こんなにいっぱい新しく販売するの!?」
「いや、さすがに全部はねぇな。この中から、あんたたちの意見を聞いて売れそうなやつを出す」
「へぇ~、すごいね。食べていいの?」
「あぁ、食べてくれ。ただしちゃんと感想を言ってくれよ?味はもちろん、見た目とか触感とか色々な点から教えてくれ」
大喜びでパッケージを開ける私の隣りで、ボリスがため息をついた。
「お菓子ねぇ。これだけ大量に見せられると、食べようという気もなくなるな」
「あれ、ボリス甘いの嫌いだっけ?」
「いや、別に。でも、さすがにこんなにはいらないよ。名無しさんが俺の分まで頑張って食べな」
彼はそう言って、すぐそばにあったキャンディの袋を私に差し出した。
なんとなく受け取り開けてみると、色とりどりの小さなキャンディが入っていた。
とりあえずピンク色にしてみよう。ピーチ味っぽいし。
そう思って口に入れた瞬間、ゴーランドが言った。
「お、名無しさん、それはちょっと変わった商品だぜ?」
「あ、そうなの?ただのキャンディだと思ったんだけど。味も普通だよ?」
思った通りピーチ味だよと言う私の横で、ボリスが袋をまじまじと見つめる。
「……なにこれ。『摩訶不思議キャンディ?』 おっさん、ネーミングセンスも皆無だな」
「うるせぇな! 摩訶不思議なんだから摩訶不思議キャンディなんだよ!」
呆れたような、からかうような言い方のボリスに、ゴーランドがむっとしたように声を上げる。
いつものことなので気にせず私は口を挟んだ。
「なんで摩訶不思議なの?」
「ふふーん、実はな、そのキャンディを食べると人格が変わるんだよ」
「……なにそれ。なにかヤバイやつでも入ってんの?ってもう名無しさんが舐めちゃってるんだけど」
顔をしかめるボリス。
「いや、そんな変なものは入ってねぇし、体に害はないぜ。ただ、それを舐めると、しばらく人格が変わるんだ。
名無しさん、お前何色食った?」
「ピンク色。普通にピーチ味だけど」
「あー、ピンク色ね。それは何かっていうと……」
ゴーランドはキャンディのパッケージの説明書きを読みながら笑い出した。
「ぷっ。ピンクは酔っ払いっぽくなるキャンディだ。またすごいのを選んだもんだな、名無しさん」
「……酔っ払い?」
「そうそう。酔っ払いってのは人によってタイプが全然違うから、どうなるかはわかんないぜ。
泣き出すタイプ、笑い出すタイプ、語りだすタイプ、怒り出すタイプ、色々だろ?」
「……うわ、それすっごく面倒なキャンディじゃない?よりによって名無しさんはそれを食べたわけだ」
「だな。まぁほんの短時間しか効果はねぇし、とりあえず見守ってみよう。名無しさんはどうなるんだろうな?」
「おいおいおっさん、名無しさんに脱ぎ癖とかがあったらどうするんだよ」
「そりゃー……全力で止めるだろ」
「……」
「……なんだよ、止めるに決まってんだろ」
「なにも言ってないだろ」
「あのねぇ2人とも!私は絶対脱いだりしないからね!?」
こちらを見る2人を睨みつけた、つもりだった。
しかしなんだかぼんやりとして、彼らの顔が遠いような近いような変な感じに見える。
「……あれ~?なんだろ、おかしいなぁ?」
目をこすると、ボリスが呆れたような声を出した。
「名無しさん、頭がふらふらしてるよ。ちゃんとまっすぐ座りな」
そう言って彼は私の肩と頭のてっぺんを抑えるように手を乗せた。
ずんと重みを感じると同時に、ふわーっとした気分になる。
「ボリスー、これやばいかも。わたしほんとに酔っ払いになったみたい」
「酔っ払ったことを認める酔っ払いなんて珍しいな。名無しさんはお酒飲んでないから酔っぱらってないよ。しっかりしなって」
「えー、でもなんかふわふわくらくらする。脱ぐ気力はないけど、酔っぱらったよ、これ」
「……うーん、自己分析できるなんて珍しいタイプの酔っ払いだな」
「厳密には酔っぱらってないからな。あくまで酔っ払いっぽくなるキャンディだから、わりと思考はしっかりしてるんじゃねぇのか?」
「なーんかややこしいな」
ボリスは「名無しさん、大丈夫?」と私を見る。
私はというとなんだかもう異様に眠い。
恐ろしい眠気に頭から溶けそうだった。
「うー、だめだー。ねむいー」
ボリスと並んで座っていた私はそのまま横に倒れ込む。
彼の肩にずるずると体が落ちていくのを感じた。
「うわ、酔うと名無しさんって寝るタイプなんだ?」
ボリスの声が頭の上から聞こえてきたのを最後に、私の思考は完全に落ちた。
「……これ、どうしろっていうんだろ?」
倒れこんできた名無しさんを受け止めたボリスは、彼女に肩を貸した体勢のままため息をついた。
肩口ですーすーと寝息を立てる名無しさん。
いつもよりも近い距離にドキリとしつつ、ボリスは彼女の顔を覗き込む。
「平和な顔しちゃって……少しはこっちの身にもなれっつーの」
「珍しく振り回されてるな、ボリス。ま、お前の場合、たまにはそういう経験もした方がいいんだ」
「ちぇ。俺は猫だぜ?気まぐれなのは仕方ないだろ。
でも、俺よりもよっぽど名無しさんの方が猫みたいだ。あちこち色んな奴の所に行っては仲良くしてるし」
「確かに名無しさんは顔が広いもんなぁ。少し前にハートの騎士に道案内してやってたかと思えば、この間は帽子屋んとこの双子とジェットコースターに乗ってたぜ。赤と青のどっちが名無しさんの隣に座るかもめてたけど」
「……あっそ」
「っておい。俺を睨むんじゃねぇ!」
「別に睨んでないって。ただ面白くなかっただけ」
ボリスはそう言ってぷいっと横を向いた。
「なんだ、焼きもちか?お前も可愛い所があるじゃねーか」
そう言って笑うゴーランドに、ボリスは口を尖らせる。
「うるさいな、俺は別に……」
彼がそう言ってほんの少し動いたはずみに、名無しさんがさらにずるりと落ちて行った。
ボリスのひざに彼女の頭がぽんと乗る。
「……」
「綺麗~に落ちていったな。膝枕ってやつだ」
こてんと自分のひざに落ちてきた名無しさんを見て黙り込むボリスと、からかうでもなく状況を言葉にするゴーランド。
「……名無しさん、寝てるの?」
名無しさんの顔を覗き込むボリス。
しかし、彼女は動かない。
どうやら本当に寝ているらしい。
「へぇ~~。ほ~~」
ゴーランドはにやにやしながら、ボリスと彼のひざで眠る名無しさんを見る。
「……なに?なんでそんなニヤついてるわけ?気持ち悪いな」
「いーや。なんだかんだ名無しさんにはお前なんだろうなーと思ってさ。いつも一緒にいるし」
「な、なんだよ、急に」
思わぬ発言に驚いたらしい。動揺を隠せずにボリスは言葉を詰まらせる。
「名無しさんはお前に一番懐いてるって話。ほんと、どっちが猫だかわかりゃしねぇな」
ゴーランドは楽しそうに笑うとすっと立ち上がる。
「毛布持ってきてやるよ」
どこにしまってあったかなー??
彼はそう言いながら部屋を出て行った。
パタンとドアが閉まり、残されたのはお菓子の山とボリス、そして彼のひざで寝ている名無しさん。
「……毛布なんてその辺にあるだろ」
ボリスは思わずそうつぶやいた。
「はーぁ。おっさんに慰められたり、気を使われたりするなんて……俺もかなり切羽詰ってるのかな」
ボリスはすやすやと眠る名無しさんを見下ろしながら、そっと彼女の髪の毛に触れる。
髪の毛を梳くように頭を撫でると、名無しさんはほんのすこしだけ身じろぎした。
「……名無しさん。猫は俺の方なんだぜ?あんまり振り回さないでくれよ」
そう囁くと、名無しさんの手をそっと持ち上げてキスを落とした。