短編2
お名前変換はこちらから
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【舞踏会】
「お城の舞踏会」なんて単語、絵本や物語の中でしか使ったことがなかった。
そんな私が今まさに、その「お城の舞踏会」に参加している。
「すごい……私場違い……!」
お城暮らしにはだいぶ慣れたと思うけど、こうも全力でお城っぽいイベントをされると、かなり気おくれしてしまう。
アワアワしていたら、ポンと肩を叩かれた。
「名無しさん」
「!?」
振り向くと顔なじみの彼がいた。いつもとは違う、真っ白なスーツ。
「……エースだよねぇ?」
思わず顔をしかめる私に、彼も顔をしかめた。
「え、うん。俺だよ?」
「赤くないから一瞬わかんなかった」
「名無しさんは俺のこと色で認識してるの?ひどいなー」
彼はそう言って苦笑する。
「これからはもっとちゃーんと自己アピールをしていかないといけないな」
「え?」
「俺が何色を来ていようが、どんなことをしていようが、ちゃんと名無しさんには俺だってわかってほしいし」
彼はそう言ってじっと私を見た。
「とりあえずスキンシップとか、ボディタッチから始めてみるよ」
「いやいや、大丈夫!!うん、ちゃんとわかってるよ!!」
何をしようというのかぐっと距離を詰めてきたエースを慌てて制止しながら、私は言葉を続けた。
「大丈夫だよ、エースほど強烈な個性を持った人なんてそうそういないから、すぐにちゃんとわかるもん」
するとエースは一瞬ものすごく嬉しそうな顔をした。
珍しいなぁと思ってびっくりしたけれど、彼はすぐにいつもの笑顔になる。
「エースって赤い方が似合うね」
「そうかな?別にどっちだっていいんだけど……」
「うん、赤い方が似合う。っていうか見慣れてるからかなー?」
「名無しさんはそのドレスが似合うね。いつもと違っていい感じに露出があってえろ……痛っ!」
爽やかにセクハラ発言が飛び出そうだったので、とりあえずひじ鉄を入れておいた。
エースは腕をさすりながら「名無しさんってけっこう力強いよね」と言う。
「エース仕事は?会場の警備とかしないの?」
「うん、してるよ。今仕事中」
そう言ってにこにこ笑う彼の手にはどう見てもお酒のグラス。
「……そんなの飲んでて何かあったらすぐに動けるの?」
「警備なんて本当は必要ないんだ。だって、普段はうちともめている人たちが堂々と城に入っていい日なんだからさ」
「いや、だからこそ警備って必要なんじゃないの?」
「あぁ、言われてみれば確かにそういう考え方もあるなぁ。はははっ!気づかなかったぜ」
……この人が警備担当なんて本当に大丈夫なのだろうか?
なんだかちょっと心配になる。
「だったらお酒なんてもうやめて見回りでもしてきなよ。誰かが変なことしてたら困るでしょう?」
よくお城に追いかけっこにくる双子の門番を思い浮かべながら言うと、エースはうなずいた。
「そうだね。ちゃんと見張ってないと危ないかもね」
そう言いつつも全く動こうとしないエース。
首を傾げつつ「さっさと行けば?」と目で訴えてみると、エースはくすくすと笑った。
「ひどいなー名無しさん。そんな目で見ないでくれよ。ちゃーんと警備してるんだから、さ」
「してないでしょ。こんな所で飲んだくれてるだけじゃない」
顔をしかめる私をエースはじっと見つめた。
そして静かな声で言う。
「俺、今ちゃーんと仕事してるよ?」
なんだかドキリとして「は?」と聞き返してしまう。
するとエースはふっと笑った。
そして私に顔を寄せる。
「誰かが、名無しさんに変なことしないように、ちゃんと見張ってる」
ゆっくりとひとつひとつの言葉を区切りながら、エースは低い声でそう言った。
そして「だから君のそばにいるんじゃないか」と小さく笑う。
「なっ……!?」
思わず固まる私。
至近距離のエースは私の目を覗き込むようにしながら、体を近づける。
頭が真っ白になり、どうしていいのかわからなくなる。
逃げ出したい衝動に駆られたその時だった。
「……なーんてね!」
ぱっと私から離れてエースがそう言った。
え?と思い彼を見ると、エースはいつもの笑顔。
「冗談だよ。ドキドキした?」
にこりと笑う彼に、私は一気に脱力した。
と同時に一気に恥ずかしさと気まずさが押し寄せる。
「あー!!!もう最低!人のことからかわないでくれる!?」
「うわ、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。舞踏会で騎士に護衛されるなんて王道でおもしろくない?」
「おもしろくない!そういうのいらない!!」
おもしろいとかじゃなくて、そういうからかわれ方はしたくない。
「はははっ!ごめんな。服装のせいか、なんだかいつもよりも名無しさんが可愛くってさ。つい困らせたくなっちゃったんだ」
「いや、もうそのセリフも絶対からかってるとしか思えない!!さっさと仕事に戻りなさい!!」
恥ずかしくて一気にそうまくしたてると、私はエースの体の向きをくるりとまわして、そのまま背中を押して会場の外へと向かわせる。
「ごめんごめん、悪かったよ。名無しさん、そんなに押さなくてもいいじゃないか」
「うるさい。早くどっか行って!!」
わめく私に、エースはからからと笑いながら会場を出て行った。
あー、恥ずかしい。最悪なからかわれ方だ。
顔が熱くて仕方がない。
エースを追い出してしばらくすると、今度は帽子屋ファミリーの皆さんに遭遇した。
ドレス効果なのかブラッドに口説かれ、エリオットに褒められ、双子に引きずり回されかけた。
全てを丁重に受け流し、疲れ果てた私は会場の隅の椅子に1人ぼんやりと座る。
「はー……結構疲れるイベントなんだなぁ」
踊ってもいないのに何でこんなにぐったりしてるんだろう私。
気疲れと言うほど気を使っていないけれど、いつもと違う状況に気を張っているのかもしれない。
「そろそろ部屋に戻ろうかなぁ」
そう思った時だった。
すっと目の前に影が落ちる。
視界に数名分の靴。
視線をあげると、まったく見覚えのない男の人3人が私を見下ろしていた。
「こんばんは、お嬢ちゃん。1人?」
「帽子屋の奴らと仲がいいんだねぇ?」
彼らは笑いながらそう言った。
これは危ない人だ。一瞬でそれがわかった。
口元は笑っているけれど目は全然笑っていないし、なによりも雰囲気が怖い。
私はその場を離れようと立ち上がりかけた。
すると、彼らのうちの一人が私の腕を掴む。
「ちょっと一緒に来てもらおうか」
「やっ……!!」
ぐいっと引っ張られかけた時、さらに別の手が背後から私の肩にとんと手をかける。
3人の他に、後ろからも囲まれていたのかと驚いた時だった。
「はぁーあ。困るなぁ。この子がうちの城の人間だってこと、知らないんだ?」
困るなぁというわりには、ものすごく爽やかな声色と口調。
姿を見なくてもわかる。
振り向きざまに私は彼の名前を叫んだ。
「エース!!」
「帽子屋さんに恨みがあるなら、そっちの関係者に手を出せばいいんじゃない?」
エースは後ろから私の肩を抱くようにしながらそう言った。
私の腕を掴んでいた3人組はぱっと私から距離を取る。
「女王陛下に言いつけちゃおうかな~」
「!!!」
エースの言葉にびくりとする3人組。
「あー、やっぱり困るよね?陛下のお気に入りに手を出したなんて知れたら、君たち首を刎ねられるだけじゃ済まなそうだし。
特別に陛下に黙っていてあげてもいいけど、でも……」
エースはそう言ってから、私の髪に頬を寄せる。
「俺のお気に入りに手を出したことは反省してもらわないと、ね」
私にぴたりと張り付いたまま、エースは3人組に剣を向けた。
固まる彼ら。そして私。
お気に入り発言にも驚いたけれど、何よりも舞踏会の会場で剣を抜くなんてどうかしている。
「エース!こんな所で剣なんてやめてよ!?」
「なに言ってるんだよ名無しさん。だって俺、警備中の騎士だぜ?不審者がいたら即手を打たないと職務怠慢だってペーターさんに怒られちゃうぜ」
「そ、そうかもしれないけど、でもダメだよ!催しの間は争い事は禁止でしょ!?」
「争いじゃなくて、警備なんだけどなぁ」
「警備でもなんでも血で染まる舞踏会なんて絶対ダメ!!」
必死に説得する私に、エースはふぅっとため息をついた。
「せっかく助けてあげたのに、そっちの味方をするんだ?名無しさんって変わり者だよなぁ」
エースはそう言うと3人組に剣を向けたまま、もう片方の手をすっと上げた。
するとどこからともなく、お城の兵士が数名やってくる。
あっというまに3人組は兵士に取り押さえられた。
「とりあえず地下へ連行。陛下に報告したらあとは上からの指示通りに対処。ないとは思うけど万が一その人たちに恩赦が出たら俺に回してくれ」
「陛下が許しても俺は許せないからさ」と言って剣を収めながらエースは兵士に指示を出す。
あれこれやりとりをしている姿が珍しくて、結構恐ろしい内容を言っていることも大して気にならなかった。
話がまとまると3人組は兵士に連行され、その場には私とエースの2人だけになった。
「……」
「……」
しばらく黙りこむ私たち。
今起こった出来事がうまく飲み込めずぼんやりしていると、エースが「名無しさん?」と声をかけてきた。
はっと我に返る。
「……エースもちゃんと仕事するんだね」
「はははっ!何言ってるんだよ。俺は仕事熱心な騎士だぜ? サボったりなんかしないよ。職場にたどり着けないことはあるけどね」
やたらと爽やかにそう言われて、私は脱力した。
脱力したけれど彼が普段見せない姿を見たせいか、なんだかそわそわと落ち着かない。
そんな私をよそに、エースはいつも通りの爽やか口調でこう言った。
「それにしても、マークすべき要注意人物はやっぱり名無しさんだったね」
「要注意人物って……まるで私が危険人物みたいじゃない。違うでしょ」
「へぇ、口答えするつもりなんだ。今連れていかれそうになったのに。騎士に護衛される王道は嫌だって言ってたのは君なのにね?」
「……はいごめんなさい助けてくれてありがとうございます」
機嫌を損ねて絡まれたら面倒なので、私はだーっと謝罪の言葉を述べるとエースは満足そうに笑った。
「どういたしまして。でも、名無しさんのそばには俺がいた方がよさそうだね。要注意人物っていうか警備対象だからさ」
「え、別にわざわざそばにいなくも……」
「前科のある君に拒否権はないんだぜ、名無しさん。また危ない目に遭いたいの?」
「っ!?」
「警備責任者としては、何も起こらないようにしっかり名無しさんをマークしておかないと、ね?」
エースはもっともらしい言葉を並べて爽やかに笑う。
たった今彼に助けてもらった私は反論できない。
黙り込む私を見て、エースは続ける。
「それに今名無しさんを1人にしたくないなぁ。陛下よりも君の方がなにかと狙われていそうだしね」
「そんなわけないでしょ。私は命を狙われるような立場じゃないもん」
「うん、狙われてるのは命じゃなくて……」
と言って、エースは私をじっと見つめた。
言葉の続きを待っていたけれど、彼はふっと笑った。
「誰にも取られたくないから、俺が名無しさんのこと、ちゃーんと見張っておいてあげる」
囁くようにそう言って、エースは口元に小さく笑みを浮かべる。
「だから、今夜くらいは俺のそばで大人しくしててよ、名無しさん」
頭をポンとなでられて、私は一気にかーっと耳まで熱くなった。
とてつもない恥ずかしさに悶えていると、エースがくすくす笑った。
「舞踏会がすでに王道すぎるんだ。恥ずかしがる必要ないよ」
そう言ってエースはうやうやしく私の手を取ると、そっとキスをした。
「お城の舞踏会」なんて単語、絵本や物語の中でしか使ったことがなかった。
そんな私が今まさに、その「お城の舞踏会」に参加している。
「すごい……私場違い……!」
お城暮らしにはだいぶ慣れたと思うけど、こうも全力でお城っぽいイベントをされると、かなり気おくれしてしまう。
アワアワしていたら、ポンと肩を叩かれた。
「名無しさん」
「!?」
振り向くと顔なじみの彼がいた。いつもとは違う、真っ白なスーツ。
「……エースだよねぇ?」
思わず顔をしかめる私に、彼も顔をしかめた。
「え、うん。俺だよ?」
「赤くないから一瞬わかんなかった」
「名無しさんは俺のこと色で認識してるの?ひどいなー」
彼はそう言って苦笑する。
「これからはもっとちゃーんと自己アピールをしていかないといけないな」
「え?」
「俺が何色を来ていようが、どんなことをしていようが、ちゃんと名無しさんには俺だってわかってほしいし」
彼はそう言ってじっと私を見た。
「とりあえずスキンシップとか、ボディタッチから始めてみるよ」
「いやいや、大丈夫!!うん、ちゃんとわかってるよ!!」
何をしようというのかぐっと距離を詰めてきたエースを慌てて制止しながら、私は言葉を続けた。
「大丈夫だよ、エースほど強烈な個性を持った人なんてそうそういないから、すぐにちゃんとわかるもん」
するとエースは一瞬ものすごく嬉しそうな顔をした。
珍しいなぁと思ってびっくりしたけれど、彼はすぐにいつもの笑顔になる。
「エースって赤い方が似合うね」
「そうかな?別にどっちだっていいんだけど……」
「うん、赤い方が似合う。っていうか見慣れてるからかなー?」
「名無しさんはそのドレスが似合うね。いつもと違っていい感じに露出があってえろ……痛っ!」
爽やかにセクハラ発言が飛び出そうだったので、とりあえずひじ鉄を入れておいた。
エースは腕をさすりながら「名無しさんってけっこう力強いよね」と言う。
「エース仕事は?会場の警備とかしないの?」
「うん、してるよ。今仕事中」
そう言ってにこにこ笑う彼の手にはどう見てもお酒のグラス。
「……そんなの飲んでて何かあったらすぐに動けるの?」
「警備なんて本当は必要ないんだ。だって、普段はうちともめている人たちが堂々と城に入っていい日なんだからさ」
「いや、だからこそ警備って必要なんじゃないの?」
「あぁ、言われてみれば確かにそういう考え方もあるなぁ。はははっ!気づかなかったぜ」
……この人が警備担当なんて本当に大丈夫なのだろうか?
なんだかちょっと心配になる。
「だったらお酒なんてもうやめて見回りでもしてきなよ。誰かが変なことしてたら困るでしょう?」
よくお城に追いかけっこにくる双子の門番を思い浮かべながら言うと、エースはうなずいた。
「そうだね。ちゃんと見張ってないと危ないかもね」
そう言いつつも全く動こうとしないエース。
首を傾げつつ「さっさと行けば?」と目で訴えてみると、エースはくすくすと笑った。
「ひどいなー名無しさん。そんな目で見ないでくれよ。ちゃーんと警備してるんだから、さ」
「してないでしょ。こんな所で飲んだくれてるだけじゃない」
顔をしかめる私をエースはじっと見つめた。
そして静かな声で言う。
「俺、今ちゃーんと仕事してるよ?」
なんだかドキリとして「は?」と聞き返してしまう。
するとエースはふっと笑った。
そして私に顔を寄せる。
「誰かが、名無しさんに変なことしないように、ちゃんと見張ってる」
ゆっくりとひとつひとつの言葉を区切りながら、エースは低い声でそう言った。
そして「だから君のそばにいるんじゃないか」と小さく笑う。
「なっ……!?」
思わず固まる私。
至近距離のエースは私の目を覗き込むようにしながら、体を近づける。
頭が真っ白になり、どうしていいのかわからなくなる。
逃げ出したい衝動に駆られたその時だった。
「……なーんてね!」
ぱっと私から離れてエースがそう言った。
え?と思い彼を見ると、エースはいつもの笑顔。
「冗談だよ。ドキドキした?」
にこりと笑う彼に、私は一気に脱力した。
と同時に一気に恥ずかしさと気まずさが押し寄せる。
「あー!!!もう最低!人のことからかわないでくれる!?」
「うわ、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。舞踏会で騎士に護衛されるなんて王道でおもしろくない?」
「おもしろくない!そういうのいらない!!」
おもしろいとかじゃなくて、そういうからかわれ方はしたくない。
「はははっ!ごめんな。服装のせいか、なんだかいつもよりも名無しさんが可愛くってさ。つい困らせたくなっちゃったんだ」
「いや、もうそのセリフも絶対からかってるとしか思えない!!さっさと仕事に戻りなさい!!」
恥ずかしくて一気にそうまくしたてると、私はエースの体の向きをくるりとまわして、そのまま背中を押して会場の外へと向かわせる。
「ごめんごめん、悪かったよ。名無しさん、そんなに押さなくてもいいじゃないか」
「うるさい。早くどっか行って!!」
わめく私に、エースはからからと笑いながら会場を出て行った。
あー、恥ずかしい。最悪なからかわれ方だ。
顔が熱くて仕方がない。
エースを追い出してしばらくすると、今度は帽子屋ファミリーの皆さんに遭遇した。
ドレス効果なのかブラッドに口説かれ、エリオットに褒められ、双子に引きずり回されかけた。
全てを丁重に受け流し、疲れ果てた私は会場の隅の椅子に1人ぼんやりと座る。
「はー……結構疲れるイベントなんだなぁ」
踊ってもいないのに何でこんなにぐったりしてるんだろう私。
気疲れと言うほど気を使っていないけれど、いつもと違う状況に気を張っているのかもしれない。
「そろそろ部屋に戻ろうかなぁ」
そう思った時だった。
すっと目の前に影が落ちる。
視界に数名分の靴。
視線をあげると、まったく見覚えのない男の人3人が私を見下ろしていた。
「こんばんは、お嬢ちゃん。1人?」
「帽子屋の奴らと仲がいいんだねぇ?」
彼らは笑いながらそう言った。
これは危ない人だ。一瞬でそれがわかった。
口元は笑っているけれど目は全然笑っていないし、なによりも雰囲気が怖い。
私はその場を離れようと立ち上がりかけた。
すると、彼らのうちの一人が私の腕を掴む。
「ちょっと一緒に来てもらおうか」
「やっ……!!」
ぐいっと引っ張られかけた時、さらに別の手が背後から私の肩にとんと手をかける。
3人の他に、後ろからも囲まれていたのかと驚いた時だった。
「はぁーあ。困るなぁ。この子がうちの城の人間だってこと、知らないんだ?」
困るなぁというわりには、ものすごく爽やかな声色と口調。
姿を見なくてもわかる。
振り向きざまに私は彼の名前を叫んだ。
「エース!!」
「帽子屋さんに恨みがあるなら、そっちの関係者に手を出せばいいんじゃない?」
エースは後ろから私の肩を抱くようにしながらそう言った。
私の腕を掴んでいた3人組はぱっと私から距離を取る。
「女王陛下に言いつけちゃおうかな~」
「!!!」
エースの言葉にびくりとする3人組。
「あー、やっぱり困るよね?陛下のお気に入りに手を出したなんて知れたら、君たち首を刎ねられるだけじゃ済まなそうだし。
特別に陛下に黙っていてあげてもいいけど、でも……」
エースはそう言ってから、私の髪に頬を寄せる。
「俺のお気に入りに手を出したことは反省してもらわないと、ね」
私にぴたりと張り付いたまま、エースは3人組に剣を向けた。
固まる彼ら。そして私。
お気に入り発言にも驚いたけれど、何よりも舞踏会の会場で剣を抜くなんてどうかしている。
「エース!こんな所で剣なんてやめてよ!?」
「なに言ってるんだよ名無しさん。だって俺、警備中の騎士だぜ?不審者がいたら即手を打たないと職務怠慢だってペーターさんに怒られちゃうぜ」
「そ、そうかもしれないけど、でもダメだよ!催しの間は争い事は禁止でしょ!?」
「争いじゃなくて、警備なんだけどなぁ」
「警備でもなんでも血で染まる舞踏会なんて絶対ダメ!!」
必死に説得する私に、エースはふぅっとため息をついた。
「せっかく助けてあげたのに、そっちの味方をするんだ?名無しさんって変わり者だよなぁ」
エースはそう言うと3人組に剣を向けたまま、もう片方の手をすっと上げた。
するとどこからともなく、お城の兵士が数名やってくる。
あっというまに3人組は兵士に取り押さえられた。
「とりあえず地下へ連行。陛下に報告したらあとは上からの指示通りに対処。ないとは思うけど万が一その人たちに恩赦が出たら俺に回してくれ」
「陛下が許しても俺は許せないからさ」と言って剣を収めながらエースは兵士に指示を出す。
あれこれやりとりをしている姿が珍しくて、結構恐ろしい内容を言っていることも大して気にならなかった。
話がまとまると3人組は兵士に連行され、その場には私とエースの2人だけになった。
「……」
「……」
しばらく黙りこむ私たち。
今起こった出来事がうまく飲み込めずぼんやりしていると、エースが「名無しさん?」と声をかけてきた。
はっと我に返る。
「……エースもちゃんと仕事するんだね」
「はははっ!何言ってるんだよ。俺は仕事熱心な騎士だぜ? サボったりなんかしないよ。職場にたどり着けないことはあるけどね」
やたらと爽やかにそう言われて、私は脱力した。
脱力したけれど彼が普段見せない姿を見たせいか、なんだかそわそわと落ち着かない。
そんな私をよそに、エースはいつも通りの爽やか口調でこう言った。
「それにしても、マークすべき要注意人物はやっぱり名無しさんだったね」
「要注意人物って……まるで私が危険人物みたいじゃない。違うでしょ」
「へぇ、口答えするつもりなんだ。今連れていかれそうになったのに。騎士に護衛される王道は嫌だって言ってたのは君なのにね?」
「……はいごめんなさい助けてくれてありがとうございます」
機嫌を損ねて絡まれたら面倒なので、私はだーっと謝罪の言葉を述べるとエースは満足そうに笑った。
「どういたしまして。でも、名無しさんのそばには俺がいた方がよさそうだね。要注意人物っていうか警備対象だからさ」
「え、別にわざわざそばにいなくも……」
「前科のある君に拒否権はないんだぜ、名無しさん。また危ない目に遭いたいの?」
「っ!?」
「警備責任者としては、何も起こらないようにしっかり名無しさんをマークしておかないと、ね?」
エースはもっともらしい言葉を並べて爽やかに笑う。
たった今彼に助けてもらった私は反論できない。
黙り込む私を見て、エースは続ける。
「それに今名無しさんを1人にしたくないなぁ。陛下よりも君の方がなにかと狙われていそうだしね」
「そんなわけないでしょ。私は命を狙われるような立場じゃないもん」
「うん、狙われてるのは命じゃなくて……」
と言って、エースは私をじっと見つめた。
言葉の続きを待っていたけれど、彼はふっと笑った。
「誰にも取られたくないから、俺が名無しさんのこと、ちゃーんと見張っておいてあげる」
囁くようにそう言って、エースは口元に小さく笑みを浮かべる。
「だから、今夜くらいは俺のそばで大人しくしててよ、名無しさん」
頭をポンとなでられて、私は一気にかーっと耳まで熱くなった。
とてつもない恥ずかしさに悶えていると、エースがくすくす笑った。
「舞踏会がすでに王道すぎるんだ。恥ずかしがる必要ないよ」
そう言ってエースはうやうやしく私の手を取ると、そっとキスをした。