マッドハッターズ!
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【19.しるし】
天気がいいので、屋敷の庭にあるベンチに座り本を読みふける私。
この場所は木陰になっていて涼しくて気持ちがいい。
本はこの間ブラッドが貸してくれた本だ。
すごく面白いのであっというまに読み終わりそう。
と思っているのに、ふと気づくとページを繰る手が止まってしまう。
なぜか。
気づいたらブラッドのことを考えてしまっているからです。はい。
この本を貸してくれた時の状況から始まり、その後の告白シーンまで鮮明によみがえってしまうのだ。
そして頭を抱えたくなるほど恥ずかしくなって、読書中断。
この流れを何度繰り返しただろう。
「……全然進まない」
そうつぶやいた私は開いていた本で顔を覆う。本の匂い。
私とブラッドは想いが通じ合っている、らしい。
全く実感がわかない。
いや、だからといって恋人になった実感が欲しいというわけではない。
なんだか変な感じ、という一言に尽きる。
そのうち慣れるものなのかなぁ。
ブラッドと一緒にいる、ということが当たり前に思える日がくるのかなぁ。
「名無しさん、寝てるの?」
その声にはっと顔をあげると、心配そうに私を覗き込むディーとダムが立っていた。
「あ、起きてた」
彼らは顔を上げた私を見て、にこにこと笑う。
「ディー、ダム!」
「こんにちは、名無しさん」
「ここ、涼しいね。休憩にもってこいの場所だ」
2人はそう言いながら、私の隣りに腰を下ろした。
そして私の持っている本を覗き込む。
「何を読んでいるの?」
「ブラッドに借りた本だよ」
私の答えに、彼らの顔つきが急に変わった。
穏やかに笑っていたのに、つまらなそうな表情になる。
「ボスから借りた本?」
「うん。結構おもしろいけど……なに?」
彼らの様子を不審に思っていると、ダムが口を開いた。
「ねぇ名無しさん。名無しさんがボスの女になったってほんと?」
「え……」
予想外の質問に戸惑っていると、ディーがため息をついた。
「本当なんだ……名無しさんはボスのことが好きだったんだ」
「え、いやぁ、えーと……」
否定はしないけど、子どもからこんなにもはっきりと言われると返事に困る。
「名無しさんがボスのものだなんて最悪だね、兄弟」
「うんうん、最悪最低だよ。いくら僕らでもボスから名無しさんをもらうのは結構大変だよ。雇い主を殺しちゃったらお金がもらえないもんね」
「そうだね。それにボスがいなくなったらあの馬鹿ウサギがボスになるってことかもしれないよ。それだけは絶対に嫌だよね」
すごいことを話している彼らだが、テンションは低い。
会話に加わる気にもなれず絶句していると、二人は私に視線を移した。
びくりとしてしまう。
「な、なに?」
「ねぇ名無しさん。ボスの女なんてやめといた方がいいよ」
「そうだよ、大変だよ。やめた方がいい」
彼らはそう言ってじっと私を見つめる。
「紅茶ばっかり飲んでるし、夜にしか出歩かないし、仕事が忙しいからきっと遊んでもらえないよ」
「でも、僕らならたくさん名無しさんと遊んであげられるよ。昼でも夜でもいつでも一緒にいられるし、紅茶ばっかり飲まないよ」
ディーとダムは結構真剣な目でそう言った。
必死な彼らの様子に、なんだか少し和んでしまったのはなぜだろう。
「うん、ありがとう。わかってるよ、2人の言う通り、ブラッドと付き合うなんて絶対大変になるってこと」
「じゃあどうして?」
「どうしてって……言わなきゃだめ?」
好きだから、なんてこの子たちに言えるわけがない。恥ずかしすぎる。
彼らはじぃっと私を見つめていたが、同じタイミングでため息をつくと視線を外した。
「はぁ~あ。ボスってばいっつもいい所ばっかり持っていくんだもん。たまには子どもに譲るべきだと思わないか、兄弟」
「その通りだよ。ずるい大人だよね」
「譲る、譲らないの問題じゃないでしょ」
苦笑する私だったけれど、突然ディーがぽんと手を叩いた。
「でもさ、ボスって飽きっぽいし気分屋だから、もしかしたらすぐに飽きるかもしれないよ?」
「あ、そうだね。いつもの気まぐれかもしれない。もしそうならそれまで待っていればいいのか」
ダムも大きくうなずいてディーの言葉に賛同する。
ものすごく嫌なことを言い始めてるな、この子たち。
でも彼が私を飽きる可能性を否定できないのが悲しい。
「ボスの後っていうのは嫌だけど、飽きた所を僕らがもらう方が一番いい方法かもね」
「名無しさん、飽きられたら僕らがいるからね」
「そうだよ。だから安心して早く飽きられてね!」
「嫌なこと言わないでよ」
あり得る話だから余計に嫌だ。
ぐさりと突き刺さる彼らの言葉に文句を言ったときだった。
「残念だがしばらくは飽きそうにないぞ、お前達」
私と双子はびくりとして、その声の方を振り返る。
そこには、いつもの余裕たっぷりな表情で笑うブラッドがいつのまにか立っていた。
「と言うよりも、待っていても順番は回ってきそうもないな。名無しさんに関してはね」
そう言いながら、彼は近づいてくるとポンと私の肩に手を乗せた。
思わぬ当人の登場にドキドキしてしまう。
「ボス、ずるいよ! 僕らが先に名無しさんを好きだったのに」
「そうだよ、ボス」
「ふふふ。どちらが先か、なんて関係ないだろう。お前たちが今さらそんなことを言いだすとは思わなかったな。欲しい物は取る、それだけじゃないか」
楽しそうに笑うブラッドに何も言い返せないらしい双子。
しばらく唇を噛んでいたディーだったが、はっとしたように声を上げた。
「それなら名無しさんがボスに飽きちゃえばいいんだ」
「え、私が?」
突然の発言に目を丸くする私。
するとブラッドは私の横から顔を覗きこんだ。
「ほう、なるほど。名無しさんが私に飽きる……そういう可能性もあるな」
「な、何言ってんの」
私は肩に置かれた彼の手を振り払う。
仮にも恋人に言うセリフだろうか。
むっとする私を見て、ブラッドはにやりと笑う。
「だが名無しさんが私に飽きたとしても、私は君を手放すつもりはないよ」
「え」
「泣こうがわめこうが、君はもう私のものだ。離れることは許さない」
じっと見つめられてそんなことを言われた。
愛の告白にしてはときめかない物騒さ。
何も言えずにブラッドを見つめ返すことしかできない。
すると、彼はふっと笑ってから双子に視線を向けた。
「さ、お前達。もう仕事に戻りなさい。十分休憩しただろう」
双子は素直に立ち上がりつつも、文句をたらたら言い続ける。
「名無しさんがもらえないなら、休憩くらいたっぷり欲しいよね」
「そうだよ、名無しさんがもらえないなら給料を倍にして欲しい」
ぶつぶつ言いながら、ディーとダムは行ってしまった。
思わずため息をつくと、ブラッドは私の横に座った。
しばらく黙ったまま座っていた私達だが、ふいにブラッドが口を開いた。
「君は人気者で困るな」
「え?」
人気者って私が?(いや、ありえない)
「名無しさんが私のものだという印でもつけておきたい気分だよ」
「しるし?」
「そう、印。見ればすぐにわかる印だ」
彼はそう言って私の頬に触れた。
やたらと色っぽい雰囲気を醸し出してくるのですが、昼間に屋敷の庭園で何をするつもりですかね、この人は。
思わず身を引こうとする私の腕をブラッドが掴む。
「逃げなくてもいいだろう」
「逃げるよ。何考えてるの昼間っから!」
「別に。君の傍にいたいだけだよ。名無しさんこそ何をされると思ったのかな?」
ニヤニヤ笑うブラッド。本当にこの人、性格ねじ曲がってる。
「私から何かを奪うという奴はそうそういるものじゃない。私のものだとわかれば、誰も名無しさんに手出しはしない」
「……なんか怖いよ、発言が」
「素直な独占欲だよ。名無しさん、私は退屈が嫌いだが、自分のモノを奪われるのはもっと嫌いなんだ」
ブラッドはそう言いながら、指先で私の唇に触れた。
私は固まったまま彼を見る。
「君が考えた通り、印を今つけておこうか。しばらくは消えない印を」
「何考えてるの、ほんっとにセクハラ!!」
「ふふふ」
喚きながら距離を取った私に、ブラッドが楽しそうに笑う。
「それじゃあ次の夜が来たらつけてあげよう。夜のたびにつければ、ずっと消えない印になる」
「~~~~~!!」
冗談なのか本気なのか全くわからない。
夜が来るのが怖いような、そうでもないような、変な気持ち。
葛藤する私を見て、ブラッドがくすくすと笑う。
気まずさと恥ずかしさを隠そうと、彼の肩口を押したけれど、ますます楽しそうに笑われるだけだった。
天気がいいので、屋敷の庭にあるベンチに座り本を読みふける私。
この場所は木陰になっていて涼しくて気持ちがいい。
本はこの間ブラッドが貸してくれた本だ。
すごく面白いのであっというまに読み終わりそう。
と思っているのに、ふと気づくとページを繰る手が止まってしまう。
なぜか。
気づいたらブラッドのことを考えてしまっているからです。はい。
この本を貸してくれた時の状況から始まり、その後の告白シーンまで鮮明によみがえってしまうのだ。
そして頭を抱えたくなるほど恥ずかしくなって、読書中断。
この流れを何度繰り返しただろう。
「……全然進まない」
そうつぶやいた私は開いていた本で顔を覆う。本の匂い。
私とブラッドは想いが通じ合っている、らしい。
全く実感がわかない。
いや、だからといって恋人になった実感が欲しいというわけではない。
なんだか変な感じ、という一言に尽きる。
そのうち慣れるものなのかなぁ。
ブラッドと一緒にいる、ということが当たり前に思える日がくるのかなぁ。
「名無しさん、寝てるの?」
その声にはっと顔をあげると、心配そうに私を覗き込むディーとダムが立っていた。
「あ、起きてた」
彼らは顔を上げた私を見て、にこにこと笑う。
「ディー、ダム!」
「こんにちは、名無しさん」
「ここ、涼しいね。休憩にもってこいの場所だ」
2人はそう言いながら、私の隣りに腰を下ろした。
そして私の持っている本を覗き込む。
「何を読んでいるの?」
「ブラッドに借りた本だよ」
私の答えに、彼らの顔つきが急に変わった。
穏やかに笑っていたのに、つまらなそうな表情になる。
「ボスから借りた本?」
「うん。結構おもしろいけど……なに?」
彼らの様子を不審に思っていると、ダムが口を開いた。
「ねぇ名無しさん。名無しさんがボスの女になったってほんと?」
「え……」
予想外の質問に戸惑っていると、ディーがため息をついた。
「本当なんだ……名無しさんはボスのことが好きだったんだ」
「え、いやぁ、えーと……」
否定はしないけど、子どもからこんなにもはっきりと言われると返事に困る。
「名無しさんがボスのものだなんて最悪だね、兄弟」
「うんうん、最悪最低だよ。いくら僕らでもボスから名無しさんをもらうのは結構大変だよ。雇い主を殺しちゃったらお金がもらえないもんね」
「そうだね。それにボスがいなくなったらあの馬鹿ウサギがボスになるってことかもしれないよ。それだけは絶対に嫌だよね」
すごいことを話している彼らだが、テンションは低い。
会話に加わる気にもなれず絶句していると、二人は私に視線を移した。
びくりとしてしまう。
「な、なに?」
「ねぇ名無しさん。ボスの女なんてやめといた方がいいよ」
「そうだよ、大変だよ。やめた方がいい」
彼らはそう言ってじっと私を見つめる。
「紅茶ばっかり飲んでるし、夜にしか出歩かないし、仕事が忙しいからきっと遊んでもらえないよ」
「でも、僕らならたくさん名無しさんと遊んであげられるよ。昼でも夜でもいつでも一緒にいられるし、紅茶ばっかり飲まないよ」
ディーとダムは結構真剣な目でそう言った。
必死な彼らの様子に、なんだか少し和んでしまったのはなぜだろう。
「うん、ありがとう。わかってるよ、2人の言う通り、ブラッドと付き合うなんて絶対大変になるってこと」
「じゃあどうして?」
「どうしてって……言わなきゃだめ?」
好きだから、なんてこの子たちに言えるわけがない。恥ずかしすぎる。
彼らはじぃっと私を見つめていたが、同じタイミングでため息をつくと視線を外した。
「はぁ~あ。ボスってばいっつもいい所ばっかり持っていくんだもん。たまには子どもに譲るべきだと思わないか、兄弟」
「その通りだよ。ずるい大人だよね」
「譲る、譲らないの問題じゃないでしょ」
苦笑する私だったけれど、突然ディーがぽんと手を叩いた。
「でもさ、ボスって飽きっぽいし気分屋だから、もしかしたらすぐに飽きるかもしれないよ?」
「あ、そうだね。いつもの気まぐれかもしれない。もしそうならそれまで待っていればいいのか」
ダムも大きくうなずいてディーの言葉に賛同する。
ものすごく嫌なことを言い始めてるな、この子たち。
でも彼が私を飽きる可能性を否定できないのが悲しい。
「ボスの後っていうのは嫌だけど、飽きた所を僕らがもらう方が一番いい方法かもね」
「名無しさん、飽きられたら僕らがいるからね」
「そうだよ。だから安心して早く飽きられてね!」
「嫌なこと言わないでよ」
あり得る話だから余計に嫌だ。
ぐさりと突き刺さる彼らの言葉に文句を言ったときだった。
「残念だがしばらくは飽きそうにないぞ、お前達」
私と双子はびくりとして、その声の方を振り返る。
そこには、いつもの余裕たっぷりな表情で笑うブラッドがいつのまにか立っていた。
「と言うよりも、待っていても順番は回ってきそうもないな。名無しさんに関してはね」
そう言いながら、彼は近づいてくるとポンと私の肩に手を乗せた。
思わぬ当人の登場にドキドキしてしまう。
「ボス、ずるいよ! 僕らが先に名無しさんを好きだったのに」
「そうだよ、ボス」
「ふふふ。どちらが先か、なんて関係ないだろう。お前たちが今さらそんなことを言いだすとは思わなかったな。欲しい物は取る、それだけじゃないか」
楽しそうに笑うブラッドに何も言い返せないらしい双子。
しばらく唇を噛んでいたディーだったが、はっとしたように声を上げた。
「それなら名無しさんがボスに飽きちゃえばいいんだ」
「え、私が?」
突然の発言に目を丸くする私。
するとブラッドは私の横から顔を覗きこんだ。
「ほう、なるほど。名無しさんが私に飽きる……そういう可能性もあるな」
「な、何言ってんの」
私は肩に置かれた彼の手を振り払う。
仮にも恋人に言うセリフだろうか。
むっとする私を見て、ブラッドはにやりと笑う。
「だが名無しさんが私に飽きたとしても、私は君を手放すつもりはないよ」
「え」
「泣こうがわめこうが、君はもう私のものだ。離れることは許さない」
じっと見つめられてそんなことを言われた。
愛の告白にしてはときめかない物騒さ。
何も言えずにブラッドを見つめ返すことしかできない。
すると、彼はふっと笑ってから双子に視線を向けた。
「さ、お前達。もう仕事に戻りなさい。十分休憩しただろう」
双子は素直に立ち上がりつつも、文句をたらたら言い続ける。
「名無しさんがもらえないなら、休憩くらいたっぷり欲しいよね」
「そうだよ、名無しさんがもらえないなら給料を倍にして欲しい」
ぶつぶつ言いながら、ディーとダムは行ってしまった。
思わずため息をつくと、ブラッドは私の横に座った。
しばらく黙ったまま座っていた私達だが、ふいにブラッドが口を開いた。
「君は人気者で困るな」
「え?」
人気者って私が?(いや、ありえない)
「名無しさんが私のものだという印でもつけておきたい気分だよ」
「しるし?」
「そう、印。見ればすぐにわかる印だ」
彼はそう言って私の頬に触れた。
やたらと色っぽい雰囲気を醸し出してくるのですが、昼間に屋敷の庭園で何をするつもりですかね、この人は。
思わず身を引こうとする私の腕をブラッドが掴む。
「逃げなくてもいいだろう」
「逃げるよ。何考えてるの昼間っから!」
「別に。君の傍にいたいだけだよ。名無しさんこそ何をされると思ったのかな?」
ニヤニヤ笑うブラッド。本当にこの人、性格ねじ曲がってる。
「私から何かを奪うという奴はそうそういるものじゃない。私のものだとわかれば、誰も名無しさんに手出しはしない」
「……なんか怖いよ、発言が」
「素直な独占欲だよ。名無しさん、私は退屈が嫌いだが、自分のモノを奪われるのはもっと嫌いなんだ」
ブラッドはそう言いながら、指先で私の唇に触れた。
私は固まったまま彼を見る。
「君が考えた通り、印を今つけておこうか。しばらくは消えない印を」
「何考えてるの、ほんっとにセクハラ!!」
「ふふふ」
喚きながら距離を取った私に、ブラッドが楽しそうに笑う。
「それじゃあ次の夜が来たらつけてあげよう。夜のたびにつければ、ずっと消えない印になる」
「~~~~~!!」
冗談なのか本気なのか全くわからない。
夜が来るのが怖いような、そうでもないような、変な気持ち。
葛藤する私を見て、ブラッドがくすくすと笑う。
気まずさと恥ずかしさを隠そうと、彼の肩口を押したけれど、ますます楽しそうに笑われるだけだった。