マッドハッターズ!
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【14.夜のピクニック】
「あ、いたいた! 名無しさん~!!」
「名無しさん、探したよー!!」
「げっ!?」
ダダダダっと駆け寄ってくる赤と青の少年達に、思わず声が出た。
持っていたモップをぎゅっと握りしめたのも無意識だ。
ついこの間も廊下で押し倒されたのだ。
きゃいきゃいと子どもらしくではあるけれど、だからと言って何度もしていいことではない。
私は大急ぎで自分の前の廊下にモップをかけると、迫ってくる彼らに大声で言った。
「ディー、ダム! ワックスかけたばかりだから、今そこは通れません!!」
「え!?」
「えぇ!?」
キキキキー!という効果音が付きそうな感じで、彼らは急停止した。
「ワックスかけたばかりって……名無しさん、僕らが来るのに気づいてからかけなかった?」
「そうだよ、慌ててかけてた。名無しさん、ひどいよ」
「え、気のせいじゃない?」
しらばっくれてみた。
あぁ、私この屋敷に滞在するようになってから性格が悪くなってる気がする……。(住人に影響されたのかも)
恨めしげな2人の視線に気づかないふりをして、私はさらにモップをかけた。
「私いま仕事中なの。悪いけど遊べないよ」
先手必勝。
まず断った。
すぐに諦めるとは思えないけど、初めにちゃんと意思表示をしておく。
そうしないと、ディーとダムにずるずると引きずり回されて、戻れなくなりそうだから。
「ディーとダムも仕事中なんじゃないの?」
そう聞いてみると、彼らはにやりと笑った。
「へへ~。仕事中だよ!」
「そうそう。今まさに仕事中なんだよ僕達」
「それなら早く戻りなよ」
どうしてこんなに堂々とサボれるのかな、この子たち。
思わずため息をついた時だった。
「名無しさんを連れて行くのが、今の僕らの仕事なんだ」
「は?」
楽しそうに言うディーの言葉に、私はぴたりと止まった。
「名無しさん、ピクニックに行こう!」
「……ピクニック?」
ダムの言葉をそのまま繰り返す私。
「お弁当を持ってピクニック! 名無しさんを連れてこいってボスの命令なんだ」
「名無しさんも一緒に行くなんてすごく嬉しいなぁ~」
「え、でも……いま夜だよ?」
ころころ時間帯が変わるこの世界に、夜だからという理由など通じない。
それは知っているけど、これからピクニックに行くというのは抵抗がある。
「ボスが昼間っから出歩くわけないでしょ。夜のピクニックなんて楽しいじゃない」
「ほらほら、行くよ。僕達仕事は確実にこなすタイプなんだ」
どの口がそれを言うかとつっこもうとしたら、彼らはワックスのかかった廊下をひょいっと飛び越えてきた。
「!?」
いや、助走なしでその距離を飛び越えるとかって反則じゃないかな。(今さらだけど)
「さぁ、行こう! 名無しさん」
「一緒にお弁当を食べようね! ひよこウサギの隣りには行っちゃだめだよ」
そう言いながら、彼らは私の腕を掴んだ。
あぁ……強制連行か。しかもボス命令ならどうあがいても無理だ。
「たまにはいいよなー。夜にこうやって出歩くのも。しかもブラッドから提案してくれるなんて嬉しいぜ」
「公然と休憩できるなんて最高だよね」
「今も、給料計算に入ってるのかな?」
街を歩く私達。
エリオット、ディー、ダムは三者三様の理由でご機嫌のようだった。
そんな彼らの後ろから、私はのんびりついて行く。
実を言うと今ものすごく眠い。
一応ね、私は2時間帯続けて働いてきたんです。
そのまま休憩どころか、直でこの「夜のピクニック」に連れてこられてしまった。
メイド服から私服に着替える時間しかもらえなかった。(なぜなら双子が「早く行こう!」「すぐ行こう!」と大盛り上がりだったから)
あわただしいことこの上ない。
まぁ、楽しそうだしいいんだけど。
そう思いながら「ふわぁ~」とあくびをした時だった。
「眠そうだね、名無しさん」
いつの間にか前を歩いていたブラッドが隣りにいた。
見られた恥ずかしさと気まずさで、そのまま口元を押さえる。
「夜に寝るという君には、きつい時間帯かな?」
「仕事あけだからちょっと眠いだけだよ。大丈夫」
私は彼から視線を逸らす。
でも何が気まずいって、ブラッドに会うのが気まずいのだ。
かなり久しぶりに会った気がする。
キスされた時以来だ。
会いたくない、会ったらどうしよう、どんな顔で何を話せばいいんだろう?
そんなことばっかり考えて日々を過ごしていた私。
実際、こうしてブラッドに会ってみると彼はいつも通りだった。
私が考えすぎていただけなのかな?
やっぱりからかわれてたとか?
だとすれば最悪だ、このひと。
私はちらりと彼を見る。
まっすぐに前だけを見て歩いているブラッドは、なんだかいつもより身軽に見えた。だるだる~っとした感じがいつもより薄いというか。
「ブラッドは機嫌がよさそうだね」
「あぁ、夜だからな」
そう言って、彼は私を見ずにすっと空を見上げた。
「!」
私は思わず固まった。
何気ない彼の行動だったけれど、ゆっくりと絶妙な角度で夜空を見あげたその動作は、まるで計算されたかのように美しかった。
月明りと街の明かりに照らされて、私にはその横顔がものすごく綺麗に見えた。
夜が似合うひと。
なぜかドキドキとし始める鼓動を押さえつつ、私はぼんやりとブラッドを見る。
そんな私をよそに、ブラッドはさっさと前を向くとぶつぶつと文句を言い始めた。
「夜のピクニックに、オレンジの物体をエリオットがたっぷり持ってきたらしい。名無しさん、よければ君も食べるといい。仕事あけなら空腹だろう?」
いや、闇夜に紛れて処分してもいいか、などとお弁当の中身を気にしているらしい彼。
ただ文句を言っていても、どれだけくだらないことを気にしていても、今のブラッドの魅力が損なわれることはなかった。
これは夜のせいだからなんだろう。
私は自分に言い聞かせた。
そうじゃないと困る。
「あ、いたいた! 名無しさん~!!」
「名無しさん、探したよー!!」
「げっ!?」
ダダダダっと駆け寄ってくる赤と青の少年達に、思わず声が出た。
持っていたモップをぎゅっと握りしめたのも無意識だ。
ついこの間も廊下で押し倒されたのだ。
きゃいきゃいと子どもらしくではあるけれど、だからと言って何度もしていいことではない。
私は大急ぎで自分の前の廊下にモップをかけると、迫ってくる彼らに大声で言った。
「ディー、ダム! ワックスかけたばかりだから、今そこは通れません!!」
「え!?」
「えぇ!?」
キキキキー!という効果音が付きそうな感じで、彼らは急停止した。
「ワックスかけたばかりって……名無しさん、僕らが来るのに気づいてからかけなかった?」
「そうだよ、慌ててかけてた。名無しさん、ひどいよ」
「え、気のせいじゃない?」
しらばっくれてみた。
あぁ、私この屋敷に滞在するようになってから性格が悪くなってる気がする……。(住人に影響されたのかも)
恨めしげな2人の視線に気づかないふりをして、私はさらにモップをかけた。
「私いま仕事中なの。悪いけど遊べないよ」
先手必勝。
まず断った。
すぐに諦めるとは思えないけど、初めにちゃんと意思表示をしておく。
そうしないと、ディーとダムにずるずると引きずり回されて、戻れなくなりそうだから。
「ディーとダムも仕事中なんじゃないの?」
そう聞いてみると、彼らはにやりと笑った。
「へへ~。仕事中だよ!」
「そうそう。今まさに仕事中なんだよ僕達」
「それなら早く戻りなよ」
どうしてこんなに堂々とサボれるのかな、この子たち。
思わずため息をついた時だった。
「名無しさんを連れて行くのが、今の僕らの仕事なんだ」
「は?」
楽しそうに言うディーの言葉に、私はぴたりと止まった。
「名無しさん、ピクニックに行こう!」
「……ピクニック?」
ダムの言葉をそのまま繰り返す私。
「お弁当を持ってピクニック! 名無しさんを連れてこいってボスの命令なんだ」
「名無しさんも一緒に行くなんてすごく嬉しいなぁ~」
「え、でも……いま夜だよ?」
ころころ時間帯が変わるこの世界に、夜だからという理由など通じない。
それは知っているけど、これからピクニックに行くというのは抵抗がある。
「ボスが昼間っから出歩くわけないでしょ。夜のピクニックなんて楽しいじゃない」
「ほらほら、行くよ。僕達仕事は確実にこなすタイプなんだ」
どの口がそれを言うかとつっこもうとしたら、彼らはワックスのかかった廊下をひょいっと飛び越えてきた。
「!?」
いや、助走なしでその距離を飛び越えるとかって反則じゃないかな。(今さらだけど)
「さぁ、行こう! 名無しさん」
「一緒にお弁当を食べようね! ひよこウサギの隣りには行っちゃだめだよ」
そう言いながら、彼らは私の腕を掴んだ。
あぁ……強制連行か。しかもボス命令ならどうあがいても無理だ。
「たまにはいいよなー。夜にこうやって出歩くのも。しかもブラッドから提案してくれるなんて嬉しいぜ」
「公然と休憩できるなんて最高だよね」
「今も、給料計算に入ってるのかな?」
街を歩く私達。
エリオット、ディー、ダムは三者三様の理由でご機嫌のようだった。
そんな彼らの後ろから、私はのんびりついて行く。
実を言うと今ものすごく眠い。
一応ね、私は2時間帯続けて働いてきたんです。
そのまま休憩どころか、直でこの「夜のピクニック」に連れてこられてしまった。
メイド服から私服に着替える時間しかもらえなかった。(なぜなら双子が「早く行こう!」「すぐ行こう!」と大盛り上がりだったから)
あわただしいことこの上ない。
まぁ、楽しそうだしいいんだけど。
そう思いながら「ふわぁ~」とあくびをした時だった。
「眠そうだね、名無しさん」
いつの間にか前を歩いていたブラッドが隣りにいた。
見られた恥ずかしさと気まずさで、そのまま口元を押さえる。
「夜に寝るという君には、きつい時間帯かな?」
「仕事あけだからちょっと眠いだけだよ。大丈夫」
私は彼から視線を逸らす。
でも何が気まずいって、ブラッドに会うのが気まずいのだ。
かなり久しぶりに会った気がする。
キスされた時以来だ。
会いたくない、会ったらどうしよう、どんな顔で何を話せばいいんだろう?
そんなことばっかり考えて日々を過ごしていた私。
実際、こうしてブラッドに会ってみると彼はいつも通りだった。
私が考えすぎていただけなのかな?
やっぱりからかわれてたとか?
だとすれば最悪だ、このひと。
私はちらりと彼を見る。
まっすぐに前だけを見て歩いているブラッドは、なんだかいつもより身軽に見えた。だるだる~っとした感じがいつもより薄いというか。
「ブラッドは機嫌がよさそうだね」
「あぁ、夜だからな」
そう言って、彼は私を見ずにすっと空を見上げた。
「!」
私は思わず固まった。
何気ない彼の行動だったけれど、ゆっくりと絶妙な角度で夜空を見あげたその動作は、まるで計算されたかのように美しかった。
月明りと街の明かりに照らされて、私にはその横顔がものすごく綺麗に見えた。
夜が似合うひと。
なぜかドキドキとし始める鼓動を押さえつつ、私はぼんやりとブラッドを見る。
そんな私をよそに、ブラッドはさっさと前を向くとぶつぶつと文句を言い始めた。
「夜のピクニックに、オレンジの物体をエリオットがたっぷり持ってきたらしい。名無しさん、よければ君も食べるといい。仕事あけなら空腹だろう?」
いや、闇夜に紛れて処分してもいいか、などとお弁当の中身を気にしているらしい彼。
ただ文句を言っていても、どれだけくだらないことを気にしていても、今のブラッドの魅力が損なわれることはなかった。
これは夜のせいだからなんだろう。
私は自分に言い聞かせた。
そうじゃないと困る。