マッドハッターズ!
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【12.前科アリ】
「……眠れない」
ベッドに入ってからどれくらいの時間がたったのだろう。
まったく眠れず姿勢を変えてはゴロゴロとしていたが、いい加減苦痛になってきた。
私が眠れない理由はこの前のブラッドだ。
2,3時間帯くらい前にブラッドが私をバラ園に連れて行ってくれた。
エリオットすら知らないブラッドの秘密の場所。
そこでまさかあんな展開になるだなんて……。
私はこの間の出来事を思い出す。
『参戦初日から一歩リード、と言ったところか』
そう言って妖艶に笑ったブラッドの顔が浮かぶ。
思わず自分の唇に指先で触れた。
キスされたあの時あまりに突然すぎて、彼の顔を思いっきり見つめてしまった私。
今思ってもどきりとするが、その時ブラッドとばっちり目が合った。
わ!? と思ったら彼の瞳が楽しそうな色を浮かべて、一瞬だったけれど深い口づけをされた。
「うわっ! もー、なんなの!? ありえない!! 目を開けてるなんて悪趣味!!」
思わずそう叫んで枕に顔をうずめる。
……でも一番ありえないのは私だ。
なんで文句も言わず、ひっぱたくことすらせず、されるがままで帰ってきたんだろう。
「あー! もうわかんない。これからどういう顔でブラッドに会えばいいのかもわかんない」
ただ、あの時から今もずっとドキドキと心臓が落ち着かない。
「うぅ、ダメだ。やっぱり眠れない」
せっかくの夜なのに、私は寝つけなかった。
仕方なくベッドから抜け出すと、ホットココアでも飲もうとカーディガンを羽織って私は食堂へ向かった。
珍しく食堂には誰もいなかった。
夜とはいえ、時間がめちゃくちゃな世界なので、誰もが寝静まる時間帯というものはないに等しい。
「そういえば次の夜に仕事があるってエリオットが言ってたなぁ」
もしかしたら、みんなはエリオットと共に仕事(危険なやつ)に行ったのかもしれない。
いつもはのんびりだるだると掃除をしている同僚たちもマフィアの構成員。
本当に掃除だけをしているのは、この屋敷で私くらいのものだ。
私は静まり返った食堂の調理台でホットココアを入れると、その場で一口ココアをすすった。
調理台からがらんとした食堂を見渡す。
窓の外は明るい月と小さな星たち。
あたたかなカップを両手で包むようにして甘いココアを飲んでいると、なんだか少し落ち着いた。
「……からかわれてる?っていうか遊ばれてるのかな、私は」
最悪だなボス。今度会ったら殴ってやろう。そうしよう。
絶対怒っていいもん私の立場。
乙女漫画の主人公じゃあるまいし、のんきにときめいている場合じゃないぞ、これは。
あー、もうほんとに嫌だ。
「……はぁ」
思わずため息をついた時だった。
「どうしたんだ名無しさん、ため息なんてついて」
突然の声にびくりと体が跳ねる。
見ると入口にブラッドが立っていた。
「ぶ、ブラッド!?」
なんでここに!?
驚く私とは逆にいつも通りのだるだるな感じで、ブラッド(私を悩ます元凶)は食堂へ入ってきた。
「眠れないのか?」
私のラフな格好を見てブラッドはそう尋ねてきた。
彼はというと、帽子をかぶったいつもの姿。
眠れないのは誰のせいだと言ってやりたいけど、そんなこと言えない。
今度会ったら殴ってやろうなんて思っていたはずなのに、本物を目の前にするとそんなことはできない私。それどころかバラ園でのことを思い出してしまって、ブラッドを直視できない。
私は黙ったまま、ココアのカップに目を落とした。
何も答えない私に気を悪くした様子もなく、ブラッドは私の隣りにやってきた。
彼が従業員用の食堂、しかもキッチンに入ってくるなんて珍しい。
「甘そうな飲み物だ」
私のカップを覗き込んで、彼はそう言った。
「うん。ココア。ブラッドも飲む?」
紅茶党の彼は飲まないだろう。でも一応聞いておく。
「いや、私はいい」
ほらね。
予想通りの答えに、私はうなずいて再び自分の手元を見る。
そうじゃないと耐えられないのだ。
さっきからずっとブラッドの視線を感じている。
あえて無視しているけれど、彼は私をじっと見つめているようだった。
「ブラッドは仕事じゃないの?」
沈黙に耐えかねて、私はそう尋ねる。
「仕事? あぁ、この時間帯はエリオットに任せてある」
「この時間帯っていうか、いつもエリオットに押し付けてない?」
「そんなことはないよ」
「そうかなぁ?」
あの人はいつも仕事をしている気がする。
ユリウスと違って、ちゃんとプライベートを楽しんでいそうだけど。
「名無しさんはやけにエリオットの肩を持つな」
「だってエリオットはよく仕事をしている印象があるのに、ブラッドはよく紅茶を飲んでばかりいる印象しかないんだもの」
「ま、正しい見方だろうな」
ブラッドは私の言葉を肯定する。
でも、本当は私だって気づいている。
ブラッドが何もしない人だったら、こんなに大きなお屋敷にはならないし、大きな組織にもならない。
彼は仕事をしていたり、何かに追われている姿を人に見せないだけなのだ。
それを思うと、この人の底知れなさというか凄さがわかる。
エリオットの言葉を借りるなら「ブラッドってほんっとにすげーんだぜ」っていうあれだ。
「なんだ?」
思わずブラッドを見ていたらしい私に、彼はいつもの調子で尋ねてくる。
「なんでもない」
慌ててブラッドから視線を外すが、なんだか気まずい。
取り繕うように私は、ほぼ空になったカップに口をつける。
何か話題を、と思った時、ほんの少しブラッドが腕を動かした。
彼にしてみれば他意はなかったようだが、私はびくりとして思わず彼から一歩離れていた。
……さすがに失礼だったかも、と内心焦る私。
すると、少し間を置いてからブラッドが口を開いた。
「私も名無しさんにはずいぶん警戒されているな」
くすくす笑うブラッド。
「まぁ、警戒するに越したことはないよ。この間のように、私が君にまた何かするかもしれないしね」
意地悪そうに笑ってそんなことを言いやがりました。
私はちらりと彼を睨みつけると、今度はきっちり2歩分ブラッドから距離を取った。やっぱり殴ってやろうかしらこの人。
そんな私の行動を、ブラッドは楽しそうに見ている。
「……ブラッドには前科があるからね」
言い訳のようにそう言うと
「賢明な行動だ」
と、納得したようにうなずいたブラッド。
しかしその直後、にやりと笑うのが見えた。
「だが、私には前科がありすぎてね。気にしたことがないんだ」
そんな言葉と共に、背後からふわりとブラッドの腕が回された。
3歩分の距離はあっさりとゼロになる。
「知らなかったのか?」
耳元でそう囁かれて、むっとしつつもドキリとしてしまう私。
もっと距離があったとしても、もっと私が警戒していたとしても無駄だろう。
ブラッド相手に私が敵う訳がない。
彼は私の手からココアのカップをそっと取り上げると、そのまま調理台に置いた。
ブラッドの存在を嫌と言うほど背中に感じ、私は身を固くした。
どうしていいかわからない。動けない。
「名無しさん」
名前を囁かれて、ますます私は動けなくなる。
「眠れないなら、相手をしようか?」
何の相手だと聞くほどウブではないけれど、うまいかわし方も返す言葉も思い浮かばなかった私は、必死に首を横に振る。
すると、後ろでブラッドがくすくすと笑うのがわかった。
「そういう反応を返されると困るな」
全然困ってなさそうな調子でそう言うと、彼は私のうなじにキスをする。体の右半分がぞくりとした。
なんだかこのままだとマズイ。
そう直感した私は彼の手から出る。
あっさりと出られたのは良かったけれど、その後が問題だった。
調理台とブラッドに挟まれて、私は逃げ場がなかったのだ。
「どいて」
私は目の前のブラッドに訴える。
しかし、私の声なんてまるで聞こえていないかのように、ブラッドは私の左腕を掴んだ。
「このまま名無しさんを帰すのは惜しいだろう」
彼はそう言って顔を近づける。
「いや、惜しいとかそういう話じゃなくてね……」
調理台に右手をついて後ろへ体を反らせるが、ブラッドは更に距離を縮めようとする。
あぁ、眠れないからココアを飲みに来ただけなのに、どうしてこんなことになるかな!? (良く考えてみたら全部ブラッドのせいだ!)
「ブラッド、困るってば!」
彼の胸を押し返そうと手をつく。
するとブラッドは楽しそうに、でも色っぽい表情でこう言った。
「こうやって名無しさんを困らせるのは楽しいよ」
悪趣味。
それに、そんな表情は反則。
しかし反論の言葉はすべて、キスに飲まれてしまった。
「……眠れない」
ベッドに入ってからどれくらいの時間がたったのだろう。
まったく眠れず姿勢を変えてはゴロゴロとしていたが、いい加減苦痛になってきた。
私が眠れない理由はこの前のブラッドだ。
2,3時間帯くらい前にブラッドが私をバラ園に連れて行ってくれた。
エリオットすら知らないブラッドの秘密の場所。
そこでまさかあんな展開になるだなんて……。
私はこの間の出来事を思い出す。
『参戦初日から一歩リード、と言ったところか』
そう言って妖艶に笑ったブラッドの顔が浮かぶ。
思わず自分の唇に指先で触れた。
キスされたあの時あまりに突然すぎて、彼の顔を思いっきり見つめてしまった私。
今思ってもどきりとするが、その時ブラッドとばっちり目が合った。
わ!? と思ったら彼の瞳が楽しそうな色を浮かべて、一瞬だったけれど深い口づけをされた。
「うわっ! もー、なんなの!? ありえない!! 目を開けてるなんて悪趣味!!」
思わずそう叫んで枕に顔をうずめる。
……でも一番ありえないのは私だ。
なんで文句も言わず、ひっぱたくことすらせず、されるがままで帰ってきたんだろう。
「あー! もうわかんない。これからどういう顔でブラッドに会えばいいのかもわかんない」
ただ、あの時から今もずっとドキドキと心臓が落ち着かない。
「うぅ、ダメだ。やっぱり眠れない」
せっかくの夜なのに、私は寝つけなかった。
仕方なくベッドから抜け出すと、ホットココアでも飲もうとカーディガンを羽織って私は食堂へ向かった。
珍しく食堂には誰もいなかった。
夜とはいえ、時間がめちゃくちゃな世界なので、誰もが寝静まる時間帯というものはないに等しい。
「そういえば次の夜に仕事があるってエリオットが言ってたなぁ」
もしかしたら、みんなはエリオットと共に仕事(危険なやつ)に行ったのかもしれない。
いつもはのんびりだるだると掃除をしている同僚たちもマフィアの構成員。
本当に掃除だけをしているのは、この屋敷で私くらいのものだ。
私は静まり返った食堂の調理台でホットココアを入れると、その場で一口ココアをすすった。
調理台からがらんとした食堂を見渡す。
窓の外は明るい月と小さな星たち。
あたたかなカップを両手で包むようにして甘いココアを飲んでいると、なんだか少し落ち着いた。
「……からかわれてる?っていうか遊ばれてるのかな、私は」
最悪だなボス。今度会ったら殴ってやろう。そうしよう。
絶対怒っていいもん私の立場。
乙女漫画の主人公じゃあるまいし、のんきにときめいている場合じゃないぞ、これは。
あー、もうほんとに嫌だ。
「……はぁ」
思わずため息をついた時だった。
「どうしたんだ名無しさん、ため息なんてついて」
突然の声にびくりと体が跳ねる。
見ると入口にブラッドが立っていた。
「ぶ、ブラッド!?」
なんでここに!?
驚く私とは逆にいつも通りのだるだるな感じで、ブラッド(私を悩ます元凶)は食堂へ入ってきた。
「眠れないのか?」
私のラフな格好を見てブラッドはそう尋ねてきた。
彼はというと、帽子をかぶったいつもの姿。
眠れないのは誰のせいだと言ってやりたいけど、そんなこと言えない。
今度会ったら殴ってやろうなんて思っていたはずなのに、本物を目の前にするとそんなことはできない私。それどころかバラ園でのことを思い出してしまって、ブラッドを直視できない。
私は黙ったまま、ココアのカップに目を落とした。
何も答えない私に気を悪くした様子もなく、ブラッドは私の隣りにやってきた。
彼が従業員用の食堂、しかもキッチンに入ってくるなんて珍しい。
「甘そうな飲み物だ」
私のカップを覗き込んで、彼はそう言った。
「うん。ココア。ブラッドも飲む?」
紅茶党の彼は飲まないだろう。でも一応聞いておく。
「いや、私はいい」
ほらね。
予想通りの答えに、私はうなずいて再び自分の手元を見る。
そうじゃないと耐えられないのだ。
さっきからずっとブラッドの視線を感じている。
あえて無視しているけれど、彼は私をじっと見つめているようだった。
「ブラッドは仕事じゃないの?」
沈黙に耐えかねて、私はそう尋ねる。
「仕事? あぁ、この時間帯はエリオットに任せてある」
「この時間帯っていうか、いつもエリオットに押し付けてない?」
「そんなことはないよ」
「そうかなぁ?」
あの人はいつも仕事をしている気がする。
ユリウスと違って、ちゃんとプライベートを楽しんでいそうだけど。
「名無しさんはやけにエリオットの肩を持つな」
「だってエリオットはよく仕事をしている印象があるのに、ブラッドはよく紅茶を飲んでばかりいる印象しかないんだもの」
「ま、正しい見方だろうな」
ブラッドは私の言葉を肯定する。
でも、本当は私だって気づいている。
ブラッドが何もしない人だったら、こんなに大きなお屋敷にはならないし、大きな組織にもならない。
彼は仕事をしていたり、何かに追われている姿を人に見せないだけなのだ。
それを思うと、この人の底知れなさというか凄さがわかる。
エリオットの言葉を借りるなら「ブラッドってほんっとにすげーんだぜ」っていうあれだ。
「なんだ?」
思わずブラッドを見ていたらしい私に、彼はいつもの調子で尋ねてくる。
「なんでもない」
慌ててブラッドから視線を外すが、なんだか気まずい。
取り繕うように私は、ほぼ空になったカップに口をつける。
何か話題を、と思った時、ほんの少しブラッドが腕を動かした。
彼にしてみれば他意はなかったようだが、私はびくりとして思わず彼から一歩離れていた。
……さすがに失礼だったかも、と内心焦る私。
すると、少し間を置いてからブラッドが口を開いた。
「私も名無しさんにはずいぶん警戒されているな」
くすくす笑うブラッド。
「まぁ、警戒するに越したことはないよ。この間のように、私が君にまた何かするかもしれないしね」
意地悪そうに笑ってそんなことを言いやがりました。
私はちらりと彼を睨みつけると、今度はきっちり2歩分ブラッドから距離を取った。やっぱり殴ってやろうかしらこの人。
そんな私の行動を、ブラッドは楽しそうに見ている。
「……ブラッドには前科があるからね」
言い訳のようにそう言うと
「賢明な行動だ」
と、納得したようにうなずいたブラッド。
しかしその直後、にやりと笑うのが見えた。
「だが、私には前科がありすぎてね。気にしたことがないんだ」
そんな言葉と共に、背後からふわりとブラッドの腕が回された。
3歩分の距離はあっさりとゼロになる。
「知らなかったのか?」
耳元でそう囁かれて、むっとしつつもドキリとしてしまう私。
もっと距離があったとしても、もっと私が警戒していたとしても無駄だろう。
ブラッド相手に私が敵う訳がない。
彼は私の手からココアのカップをそっと取り上げると、そのまま調理台に置いた。
ブラッドの存在を嫌と言うほど背中に感じ、私は身を固くした。
どうしていいかわからない。動けない。
「名無しさん」
名前を囁かれて、ますます私は動けなくなる。
「眠れないなら、相手をしようか?」
何の相手だと聞くほどウブではないけれど、うまいかわし方も返す言葉も思い浮かばなかった私は、必死に首を横に振る。
すると、後ろでブラッドがくすくすと笑うのがわかった。
「そういう反応を返されると困るな」
全然困ってなさそうな調子でそう言うと、彼は私のうなじにキスをする。体の右半分がぞくりとした。
なんだかこのままだとマズイ。
そう直感した私は彼の手から出る。
あっさりと出られたのは良かったけれど、その後が問題だった。
調理台とブラッドに挟まれて、私は逃げ場がなかったのだ。
「どいて」
私は目の前のブラッドに訴える。
しかし、私の声なんてまるで聞こえていないかのように、ブラッドは私の左腕を掴んだ。
「このまま名無しさんを帰すのは惜しいだろう」
彼はそう言って顔を近づける。
「いや、惜しいとかそういう話じゃなくてね……」
調理台に右手をついて後ろへ体を反らせるが、ブラッドは更に距離を縮めようとする。
あぁ、眠れないからココアを飲みに来ただけなのに、どうしてこんなことになるかな!? (良く考えてみたら全部ブラッドのせいだ!)
「ブラッド、困るってば!」
彼の胸を押し返そうと手をつく。
するとブラッドは楽しそうに、でも色っぽい表情でこう言った。
「こうやって名無しさんを困らせるのは楽しいよ」
悪趣味。
それに、そんな表情は反則。
しかし反論の言葉はすべて、キスに飲まれてしまった。