マッドハッターズ!
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【10.君は悪魔?】
ブラッドの部屋でお茶の準備をしている私。
テーブルにティーポットやらカップやらその他諸々を並べる。
ブラッドはというと、仕事用の机からそんな私の様子をじっと見ている。
正直やりにくい。
ちらりと彼を見ると、ばちりと視線が合う。
……き、気まずい!
「……なんか緊張するんだけど」
「なにがだ?」
「そう見られるとね、大切なティーカップを落としたりするかもしれないよ」
脅しの意味を込めてそう言ってみる。
するとブラッドは楽しそうに笑った。
「私を意識してくれているということだろう? それならティーカップの1つや2つくらい落としてもらってかまわないよ」
むむ。なんか余裕発言だわ。
「……ティーポットも落としてやる」
「なんだ?」
「なんでもありません」
じろりと睨まれて、私は視線をそらす。
見られることに慣れてないので、緊張するのだ。
お茶に詳しくないから、扱い方に文句を言われそうな気もするし。
大体ね、1人で飲むならティーバッグでいいじゃん、なんて思うけどそんなこと絶対に言えない。
もうやだな、早くここから出て行こう。
セッティングを済ませ、私はブラッドを見る。
「準備できたよ」
「あぁ、すまないね」
彼はそう言って、立ち上がるとテーブルにやってくる。
「名無しさんも飲んでいくといい」
「せっかくだけど遠慮しておきます」
引き留められるかと思ったけど、「そうか」とあっさり引き下がるブラッド。
「それじゃあ私は失礼します」
調子を狂わされた気がしつつも、部屋を出ようとした時だった。
「名無しさん、門番達が君に何かしたらしいね」
「!?」
思わぬ言葉に私の足が止まった。
そっと振り返ってブラッドを見る。
彼は紅茶を蒸らすための砂時計を逆さに置きながら、こともなげに言う。
綺麗な銀色の砂がさらさらと落ち始めた。
「子どもとはいえ相手はあの2人。さすがの名無しさんも逃げきれなかったのかな」
「な、なんのことですか?」
とりあえずとぼけてみる私に、ブラッドは笑みを浮かべた。
「エリオットから聞いた。あいつが門番達を珍しく本気で叱りつけていた所を目撃したものでね」
「え、見たの?」
「あぁ。エリオットが仕事以外であそこまで怒るのは珍しいぞ。短気ではあるが、近頃はだいぶ丸くなったからな」
「そうなんだ」
「あいつは名無しさんのことが大切で仕方ないらしい」
「ただ単に心配症なんじゃないかなぁ?前にも言ったけど」
「だとすれば君限定だよ」
「……そう、ですか?」
淡々と話すブラッドに返す言葉がない。
だってなんと答えればいいのか。
しんと静まる部屋の中で、砂時計だけが動いているように思えた。
黙り込む私をすっと見て、ブラッドが口を開く。
「うちの部下達は君に骨抜きにされてしまっているよ。どうしてくれるんだ」
「どうしてくれると言われても……」
ん? これって私が叱られてるの?
困り果てる私に、ブラッドはふむ、とため息をついて砂時計に目をやった。つられて私も視線を移す。
あとわずかですべての砂が落ちる。
砂が吸い込まれていく様子をしばらく眺める私たち。
するすると最後の一粒が落ち、砂時計がからっぽになるとブラッドはまっすぐに私を見つめた。
「名無しさん。君は我が帽子屋ファミリーにとって、プラスにもマイナスにもなりうる存在だな」
そう言ったブラッドの目は、マフィアのボスの目だった。冷たい、狡猾な目。
ぞわりと悪寒が走り、慌てて否定する。
「いや、ちょっとまって!! 私そんな危険人物じゃないんですけど!」
「まぁ、君自身に自覚はないだろうな。だが、実際に幹部の人間が君に振り回されているんだよ。組織の上に立つ私としては、なかなかスリルのある状況だと思っているがね」
ブラッドはそう言いながら立ち上がると、私の目の前に立つ。
別に睨まれているわけでも、凄まれているわけでもないのに、ものすごい威圧感。
彼はじっと私を見つめている。
こういう時、ものすごく大きくていかつい人よりも、ブラッドみたいにすらりとして整った顔立ちの人の方が怖い気がする。
何を考えているのか、表情からは全く読めない。
すっと片手をあげたかと思うと、ブラッドはそのまま私の頬に触れた。
私は息をひそめて、ただ見つめるだけ。
「さて、どうしたものか……」
ブラッドの言葉がしんと静まり返った部屋に響くが、私は動けなかった。
ときめく、とかそういうんじゃなくて、恐怖で動けないのだ。
手袋をした彼の手は、布の感触だけで体温もなにも感じない。あるのはものすごい違和感だけだ。
組織の№2であるエリオットと、ブラッディツインズの異名を持つディーとダムは、ブラッドにとって優秀な部下。
その部下の働きがブラッドの思うようにならなかったり、争いを始めたとなると組織は崩れる。
ブラッドの言うように、エリオット達が私なんかに振り回される状況だとするならば、ブラッドはスパッと私を切り捨てるだろう。
なにせこの人は組織のボスだ。
組織を脅かすものは排除するに決まっている。
つまり……私は今、最大のピンチに立たされているのだと思う。
私は目の前の男を見る。
いつものだるだるな彼はそこにはいなかった。
胸の内を明かすことなど絶対にない冷たい目で私を見ている。
本当はこういう目をする人なんだ、と今さら実感してしまった。
「……私、出て行った方がいいの?」
喉がからからになっている自分に驚きながら、私はそういった。
表情を全く変えずに「出て行く?」と聞き返すブラッド。
「邪魔になるなら……私出て行くよ?」
すると彼はふふふと笑った。
「今更出て行っても状況が変わるとは思えないぞ。それどころか次の滞在先と全面戦争だな。それに、私が大人しく君をこの屋敷から出すと思うのか?」
「え?」
「名無しさんを手放すつもりなど私にはないよ。君がいるとおもしろいからね」
「……おもしろい」
その評価をどう受け取っていいのか疑問なんですけど。
「あぁ、おもしろいよ。まさか君のように可愛らしい小さなお嬢さんが、私たちにここまでの影響力を与えるとはね」
そう言ってブラッドが私を抱きしめてきた。
驚く私に、彼はぼそりとつぶやいた。
「私にとって君は天使か、悪魔か……どっちだろうね?」
純粋に疑問を口にしただけのような言い方。
私は彼の胸を押し返して、彼との距離を少し作ると、とりあえず答えを述べてみる。
「私はただの居候ですけど」
「ふふふ。ただの居候に組織を崩されるかもしれないなんて、おもしろいじゃないか」
彼は楽しそうに私を見ながらそう言った。
『おもしろければ何でもいい』というブラッドの気質を、この時ほどありがたいと思ったことはない。
今すぐに私をどうこうする、というつもりはないようなのでとりあえずは安心だ。
「私は君を気に入っている。勝手に出て行くことなど許さないよ、名無しさん」
いつものだるだる口調だったけれど、有無を言わせないブラッドの言葉。
私の背中に腕が回されているこの至近距離で聞くにしては、全く優しさのない言い方だわと思う。
「それから、勝手に手を出されることも許さない」
「……はい?」
思わず聞き返すと、ブラッドは急に声のトーンを落として顔を近づけた。
「門番達に先を越されたのはおもしろくない。そろそろ私も参戦しようか」
「しなくていいです」
耳元でささやかれた言葉を否定しつつ彼の胸を押し返すが、びくともしない。
突然お色気仕様にならないでほしい。
焦る私の耳元でブラッドがくすくすと笑うのがわかった。
……あぁ、またからかわれた感じ?
「なんかあったら大声を出せってエリオットが言ってた。出すよ?」
「そうやって許可を取ろうとする時点で、私に分があるな。大して嫌ではないんだろう?」
「うわ~、自意識過剰」
でも完敗だ。
なんかもういいや。
どうせこの人は私をからかっているだけなんだし。
そう思って抵抗をやめた私に、ブラッドが不思議そうな顔をして私を覗き込んだ。
「急に大人しくなったな」
「こうやって、からかわれているうちが花とでも思うことにするわ」
「それは心外だね。からかっているつもりなんてないのだが」
「嘘ばっかり。顔がね笑ってるのよ、顔が」
「こういう顔なんだ」
「うそうそ! すっごい嘘だよ、それ。さっきと全然違うもん」
むっとして言う私に、ブラッドはにやにやと笑う。
「本当に名無しさんはおもしろいな」
「私はおもしろくない!」
からかわれたり、振り回されたり、もう散々。
負かされっぱなしなんて癪だけど、口では絶対に敵わないだろう。
そう思った時に、ふとブラッドの胸のリボンが目に映った。
その瞬間「えい!」と彼の胸に頭突きを入れていた私。(これくらいなら可愛い反抗ってものだよね)
彼の胸のリボンが私のおでこを受け止める。
「威勢のいいお嬢さんだ」
楽しそうな声が頭の上から聞こえてきた。
悪かったわね、と反論しようとすると彼はそのまま私の頭をなでる。
「君は悪魔かもしれないな」
不穏な言葉とは裏腹に、私をなでる手は優しかった。
ブラッドの部屋でお茶の準備をしている私。
テーブルにティーポットやらカップやらその他諸々を並べる。
ブラッドはというと、仕事用の机からそんな私の様子をじっと見ている。
正直やりにくい。
ちらりと彼を見ると、ばちりと視線が合う。
……き、気まずい!
「……なんか緊張するんだけど」
「なにがだ?」
「そう見られるとね、大切なティーカップを落としたりするかもしれないよ」
脅しの意味を込めてそう言ってみる。
するとブラッドは楽しそうに笑った。
「私を意識してくれているということだろう? それならティーカップの1つや2つくらい落としてもらってかまわないよ」
むむ。なんか余裕発言だわ。
「……ティーポットも落としてやる」
「なんだ?」
「なんでもありません」
じろりと睨まれて、私は視線をそらす。
見られることに慣れてないので、緊張するのだ。
お茶に詳しくないから、扱い方に文句を言われそうな気もするし。
大体ね、1人で飲むならティーバッグでいいじゃん、なんて思うけどそんなこと絶対に言えない。
もうやだな、早くここから出て行こう。
セッティングを済ませ、私はブラッドを見る。
「準備できたよ」
「あぁ、すまないね」
彼はそう言って、立ち上がるとテーブルにやってくる。
「名無しさんも飲んでいくといい」
「せっかくだけど遠慮しておきます」
引き留められるかと思ったけど、「そうか」とあっさり引き下がるブラッド。
「それじゃあ私は失礼します」
調子を狂わされた気がしつつも、部屋を出ようとした時だった。
「名無しさん、門番達が君に何かしたらしいね」
「!?」
思わぬ言葉に私の足が止まった。
そっと振り返ってブラッドを見る。
彼は紅茶を蒸らすための砂時計を逆さに置きながら、こともなげに言う。
綺麗な銀色の砂がさらさらと落ち始めた。
「子どもとはいえ相手はあの2人。さすがの名無しさんも逃げきれなかったのかな」
「な、なんのことですか?」
とりあえずとぼけてみる私に、ブラッドは笑みを浮かべた。
「エリオットから聞いた。あいつが門番達を珍しく本気で叱りつけていた所を目撃したものでね」
「え、見たの?」
「あぁ。エリオットが仕事以外であそこまで怒るのは珍しいぞ。短気ではあるが、近頃はだいぶ丸くなったからな」
「そうなんだ」
「あいつは名無しさんのことが大切で仕方ないらしい」
「ただ単に心配症なんじゃないかなぁ?前にも言ったけど」
「だとすれば君限定だよ」
「……そう、ですか?」
淡々と話すブラッドに返す言葉がない。
だってなんと答えればいいのか。
しんと静まる部屋の中で、砂時計だけが動いているように思えた。
黙り込む私をすっと見て、ブラッドが口を開く。
「うちの部下達は君に骨抜きにされてしまっているよ。どうしてくれるんだ」
「どうしてくれると言われても……」
ん? これって私が叱られてるの?
困り果てる私に、ブラッドはふむ、とため息をついて砂時計に目をやった。つられて私も視線を移す。
あとわずかですべての砂が落ちる。
砂が吸い込まれていく様子をしばらく眺める私たち。
するすると最後の一粒が落ち、砂時計がからっぽになるとブラッドはまっすぐに私を見つめた。
「名無しさん。君は我が帽子屋ファミリーにとって、プラスにもマイナスにもなりうる存在だな」
そう言ったブラッドの目は、マフィアのボスの目だった。冷たい、狡猾な目。
ぞわりと悪寒が走り、慌てて否定する。
「いや、ちょっとまって!! 私そんな危険人物じゃないんですけど!」
「まぁ、君自身に自覚はないだろうな。だが、実際に幹部の人間が君に振り回されているんだよ。組織の上に立つ私としては、なかなかスリルのある状況だと思っているがね」
ブラッドはそう言いながら立ち上がると、私の目の前に立つ。
別に睨まれているわけでも、凄まれているわけでもないのに、ものすごい威圧感。
彼はじっと私を見つめている。
こういう時、ものすごく大きくていかつい人よりも、ブラッドみたいにすらりとして整った顔立ちの人の方が怖い気がする。
何を考えているのか、表情からは全く読めない。
すっと片手をあげたかと思うと、ブラッドはそのまま私の頬に触れた。
私は息をひそめて、ただ見つめるだけ。
「さて、どうしたものか……」
ブラッドの言葉がしんと静まり返った部屋に響くが、私は動けなかった。
ときめく、とかそういうんじゃなくて、恐怖で動けないのだ。
手袋をした彼の手は、布の感触だけで体温もなにも感じない。あるのはものすごい違和感だけだ。
組織の№2であるエリオットと、ブラッディツインズの異名を持つディーとダムは、ブラッドにとって優秀な部下。
その部下の働きがブラッドの思うようにならなかったり、争いを始めたとなると組織は崩れる。
ブラッドの言うように、エリオット達が私なんかに振り回される状況だとするならば、ブラッドはスパッと私を切り捨てるだろう。
なにせこの人は組織のボスだ。
組織を脅かすものは排除するに決まっている。
つまり……私は今、最大のピンチに立たされているのだと思う。
私は目の前の男を見る。
いつものだるだるな彼はそこにはいなかった。
胸の内を明かすことなど絶対にない冷たい目で私を見ている。
本当はこういう目をする人なんだ、と今さら実感してしまった。
「……私、出て行った方がいいの?」
喉がからからになっている自分に驚きながら、私はそういった。
表情を全く変えずに「出て行く?」と聞き返すブラッド。
「邪魔になるなら……私出て行くよ?」
すると彼はふふふと笑った。
「今更出て行っても状況が変わるとは思えないぞ。それどころか次の滞在先と全面戦争だな。それに、私が大人しく君をこの屋敷から出すと思うのか?」
「え?」
「名無しさんを手放すつもりなど私にはないよ。君がいるとおもしろいからね」
「……おもしろい」
その評価をどう受け取っていいのか疑問なんですけど。
「あぁ、おもしろいよ。まさか君のように可愛らしい小さなお嬢さんが、私たちにここまでの影響力を与えるとはね」
そう言ってブラッドが私を抱きしめてきた。
驚く私に、彼はぼそりとつぶやいた。
「私にとって君は天使か、悪魔か……どっちだろうね?」
純粋に疑問を口にしただけのような言い方。
私は彼の胸を押し返して、彼との距離を少し作ると、とりあえず答えを述べてみる。
「私はただの居候ですけど」
「ふふふ。ただの居候に組織を崩されるかもしれないなんて、おもしろいじゃないか」
彼は楽しそうに私を見ながらそう言った。
『おもしろければ何でもいい』というブラッドの気質を、この時ほどありがたいと思ったことはない。
今すぐに私をどうこうする、というつもりはないようなのでとりあえずは安心だ。
「私は君を気に入っている。勝手に出て行くことなど許さないよ、名無しさん」
いつものだるだる口調だったけれど、有無を言わせないブラッドの言葉。
私の背中に腕が回されているこの至近距離で聞くにしては、全く優しさのない言い方だわと思う。
「それから、勝手に手を出されることも許さない」
「……はい?」
思わず聞き返すと、ブラッドは急に声のトーンを落として顔を近づけた。
「門番達に先を越されたのはおもしろくない。そろそろ私も参戦しようか」
「しなくていいです」
耳元でささやかれた言葉を否定しつつ彼の胸を押し返すが、びくともしない。
突然お色気仕様にならないでほしい。
焦る私の耳元でブラッドがくすくすと笑うのがわかった。
……あぁ、またからかわれた感じ?
「なんかあったら大声を出せってエリオットが言ってた。出すよ?」
「そうやって許可を取ろうとする時点で、私に分があるな。大して嫌ではないんだろう?」
「うわ~、自意識過剰」
でも完敗だ。
なんかもういいや。
どうせこの人は私をからかっているだけなんだし。
そう思って抵抗をやめた私に、ブラッドが不思議そうな顔をして私を覗き込んだ。
「急に大人しくなったな」
「こうやって、からかわれているうちが花とでも思うことにするわ」
「それは心外だね。からかっているつもりなんてないのだが」
「嘘ばっかり。顔がね笑ってるのよ、顔が」
「こういう顔なんだ」
「うそうそ! すっごい嘘だよ、それ。さっきと全然違うもん」
むっとして言う私に、ブラッドはにやにやと笑う。
「本当に名無しさんはおもしろいな」
「私はおもしろくない!」
からかわれたり、振り回されたり、もう散々。
負かされっぱなしなんて癪だけど、口では絶対に敵わないだろう。
そう思った時に、ふとブラッドの胸のリボンが目に映った。
その瞬間「えい!」と彼の胸に頭突きを入れていた私。(これくらいなら可愛い反抗ってものだよね)
彼の胸のリボンが私のおでこを受け止める。
「威勢のいいお嬢さんだ」
楽しそうな声が頭の上から聞こえてきた。
悪かったわね、と反論しようとすると彼はそのまま私の頭をなでる。
「君は悪魔かもしれないな」
不穏な言葉とは裏腹に、私をなでる手は優しかった。