【癒しの君】


疲れた。
なんだかどっと疲れてしまった。
ここ最近ずーっと休みなく働いていたし、あれこれと気を使う場面も多かった。

今私はブラッドと紅茶を飲んでいるのだけれど、頭も心もからっぽ状態。
ただぼんやりと目の前のブラッドを見る。
ティーカップのよく似合う人だ。ここまで似合う人はなかなかいない。
ただでさえ彼は見た目が良い。
疲れ果てている私にとって、今目の前にいるこの人は目の保養。何も考えずに見つめていたい対象だ。
このまま黙って紅茶を飲んでいてほしい。
普段の言動はともかく、今の彼は優雅で見ていて落ち着くのだ。
彼の外見の良さに癒される日がこようとは思いもしなかった。

そんなことを考えながら彼を眺めていたら、ふと視線がぶつかった。

「だいぶお疲れのようだね、名無しさん。ぼんやりしている」
「……うん。疲れた。がんばった」
「そこまで根を詰めることもないだろうに」

ブラッドは静かに笑みを浮かべてから優雅に紅茶をすする。
その仕草にうっかり見惚れてしまった。
本当はブラッドの言葉に反論したかったのに。
黙り込む私にブラッドは小さく微笑む。

「紅茶を飲めば元気になる。いくらでも付き合うよ、お嬢さん」
「……自分が飲みたいだけでしょ？」

なんだか恥ずかしくなって可愛げのないことを言ってしまった私に、ブラッドはふふっと笑う。

「そういうことにしておこうか」

意地悪をいう時の目で私を見るブラッド。
彼をただ見ていたい、という私の気持ちはたぶんバレている。
でも、もう取り繕う気力もない。疲れているのだ。

「だが名無しさん、あんまり見つめられると、紅茶どころじゃなくなるかもしれないよ」

そう言った彼の目がやたらと色っぽかったので、私は慌てて視線を逸らした。
ぼーっとしていた頭が一気に回り始める。
ドキドキしながら紅茶を一口含むと、ブラッドがくすくすと笑った。