マッドハッターズ!
お名前変換はこちらから
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【7.手伝いなんていりません】
「……なんだかなぁ」
鏡に映る自分を見て首をかしげてしまう。
帽子屋屋敷のメイド服に身を包んだ私。
正直この服を着ている自分は見慣れない。すごい違和感だ。
働かせてもらいたいと言ったのは自分だし、服がどうのこうのと言っていられないのはわかっているけど、
鏡に映る自分は何度見ても不思議な感じがしてしまう。
「もういいや。働こう! 働いて働いて働きまくってやる!!」
私はそう自分をい立たせて部屋を出た。
広い食堂。
今日はここが私の掃除場所だ。
テーブルを拭いたり、モップをかけたりと忙しく働き、残すは窓拭きのみとなった。
一緒に掃除をしていたメイドさんがだるそうに、でも笑顔で言う。
「あとは~私がやっておきますよ~」
「ううん、この間仕事を休んじゃったし私がやるよ」
雇い主命令のお茶会とはいえ、迷惑をかけちゃったからね。
「そうですか~? それなら~私は次の場所を~先にやってます~」
そう言って彼女は食堂を出て行った。
「……よし! やるか!」
メイドさんを見送って、私は気合を入れなおす。
1人になると、この場所が余計に広く感じた。
主に使用人さんやメイドさんのための食堂。
私もここで食事をしている。
美味しいし、種類も豊富だし、なんとなく落ち着くのだ。
ブラッドは私がここで食事するのが嫌みたい。
従業員用の場所に客が入るな、というのがその理由らしい。
一度「お客様用」というダイニングルームに通されて食事をしたことがあったけれど、あれは私にはとても馴染めなかった。
すべてが豪華すぎたのだ。
確かにものすごく豪華で美味しい食事が出てきたけれど、なんだか疲れてしまった。
というわけで、私は従業員用(というか構成員用?)の食堂に通っている。
当り前だけどブラッドはここには来ない。
別の場所で食べているらしい。良く知らない。
幹部用のダイニングルームがあるって聞いたことがあるけれど、エリオットはたまにやってきてはにんじん料理をメイドさんにリクエストしている。
良く来るのはディーとダム。
あの子達は従業員というよりも幹部側だと思うけれど、他の従業員に混じって食べていることが多い。
2人で楽しそうにやってきて、あーだこーだとメニューを決めて、ぱっと食べて去っていく。
もしかしたらそこまで食に執着がないのかもしれない。きっと遊びの方が大事なんだと思う。
「エリオットよりもあの子たちの方がたくさん食べるべきなのにねぇ」
育ちざかりなんだし、とまるで母親かのようにつぶやきながら
庭に面している窓を拭こうと近づいた時だった。
「名無しさん!遊ぼう!」
「遊ぼう遊ぼう!」
「わ!?」
ぴょこっという効果音がつきそうな感じで、双子が突然目の前に現れた。
近づいた窓からにゅっと双子が顔を出したのだ。
のけぞるようにびくりとしてしまったので、すぐそばの椅子に足をぶつけたくらいだ。
「びっくりしたぁ……」
「えへへ。不意打ち」
「大成功だね、兄弟」
可愛らしく笑う彼らは、いたずら成功!という様子でにこにこ楽しそうだ。
こういういたずらなら、微笑ましくていい。
「名無しさん、遊ぼうよ!」
「外に出ておいでよ」
窓の外から双子は可愛らしく笑ってそう言った。
いや、うん。可愛い。ものすごく可愛いし、素敵なお誘いなんだけどね?
「せっかくなんだけど、私ほら、見ての通り仕事中なの」
「え! 仕事中だったの!?」
「どう見てもそうでしょ(この服着てるんだし)」
「じゃあ仕事はそろそろ切り上げてさ、遊ぼう!」
「いやぁ、あなた達とは違って私サボる度胸はないのよ」
そこまで言って私ははたと気づいた。
「っていうかさ、ディーとダムも今仕事中のはずでしょ? こんな所にいていいの?」
「え~? 僕らは休憩時間だもん。ちゃんと休憩しないといい仕事ができないんだ」
「そうそう。それに、給料以上の働きなんてする気はないしね」
「……つまりサボリだよね? またエリオットに怒られるんじゃないの?」
ついこの間もサボったのなんだのってもめていた。
もめていたっていうか、撃ち合っていた。(物騒すぎる!)
「ひよこウサギは今仕事で出かけてるし平気だよ」
「邪魔者はいないし、僕達名無しさんと遊びたいよ」
「仕事が終わったら遊んであげるから、また後でね」
「えぇ~! 今が良いよ」
「今がいい今がいい!」
「無理だよ。私仕事しないと」
駄々をこねる2人に私はきっぱりと断りを入れる。
この2人にスキを見せたら、ズルズルと付き合うことになってしまうのだ。
私は彼らから離れると、その隣の窓を拭き始める。
「名無しさん」
「……」
「名無しさん~」
「…………」
良心が痛むけど、ここでぐっとこらえなきゃ!
私は返事をせずにせっせと窓を拭く。
静かになったのでちらりと見ると、彼らは顔を見合わせて何かうなずき合っていた。
「……じゃあわかったよ」
「仕方ないね」
私の決意が固いことを悟ったらしく、沈んだ声でそういう彼ら。
申し訳ないな、と思うけど仕方ない。
「ごめんね、また今度……」
遊ぼうねと言おうとした時だった。
「名無しさんが来てくれないなら、僕らがそっちへ行くよ」
そう言うが早いか、彼らはひょいっと窓を乗り越えて食堂に入ってきた。
「ちょっとここで休憩しよう」と言って、彼らはさっさと席に着く。
「え、ちょっと二人とも……!?」
なんて身軽なんだろうとか、座りだしちゃったよとか、色々な思いがぐるぐると浮かんで動揺する私。
「僕なにか飲みたいな」
「紅茶じゃないやつがいいよね」
彼らはそう言いながら、にこにこと頬杖をついて私を見ている。
可愛いけど……私は淹れないよ?
「……セルフサービスでお願いします」
「えー、そうなの?」
「名無しさんに美味しい飲み物を入れてほしいよ」
頬杖をついたままぶーぶー言う2人。
文句を言いたいのは私の方だ。
かわいこぶったってダメなんだからね。
私は黙々と窓拭きに専念する。
結局彼らは2人で色々と相談した結果、冷蔵庫から勝手に取り出したジュースを飲んでいる。
「名無しさんの仕事はいつ終わるの?」
「ここの掃除が終わったら、次は玄関掃除にいくの」
「えー! 働きすぎじゃないの? そんなの顔なしにやらせておけばいいじゃない」
「ダメだよ。こういう仕事をするっていう約束で私は働かせてもらってるんだから」
「労働条件をちょっと見直してもらった方がいいよ」
「そうだよ。ちゃんとそれに見合った給料をもらってるの?」
「大丈夫。むしろもらいすぎなくらいよ」
私は掃除も料理も何もかも、メイドさんたちとは違って素人だ。
それなのにお給料をきっちりと払ってくれるブラッド。申し訳ないので、一生懸命仕事をするしかない。
だからこそ、邪魔をしないでいただきたいのです。
「さ、あなた達もそろそろ仕事に戻りなよ」
ジュースを飲み干した彼らに私は、ダメ元でそう促す。
すると予想外の言葉が返ってきた。
「仕事かぁ……そうだね。仕事をしよう」
「え?(ほんとに!?)」
驚く私だったがしかし、彼らがそうあっさり仕事に戻ることなどあるわけがない。
「名無しさんの仕事を手伝うよ!」
「なんでも言ってね、名無しさん」
そう言って彼らはがたんと立ち上がると、つかつかと私の元へやってくる。
いいと言っているのに彼らは進んで「お手伝い」をしてくれた。
思った以上にしっかりとお手伝いをしてくれた2人。
しかし、これで終わるわけがない。
無事に窓を拭き終えたと思ったら、彼らはあっけらかんとこういった。
「名無しさん、僕達お手伝いしたからさ、何かお礼が欲しいな!」
「は?」
無理やり手伝ってきたくせに、なんと見返りを要求してきたのだ。
「一生懸命がんばったから、お礼が欲しいんだ」
「いやいや、私がお願いしたならともかく、あなた達が勝手に始めたんでしょう」
「えぇ~? そういう言い方するの? 名無しさんって結構冷たいんだね」
あなた達が厚かましいんだと思うけど、と言ってやりたい。
「そういえば、そこにお菓子があったよ。それ食べなよ」
私がキッチンを指さすと、彼らは「うーん」「お菓子かぁ」と腕組みをする。
子どもなら喜んで受け取ってほしいところなんだけど……。
「なんかさ、食べ物な気分じゃないんだよね僕達」
「うん、ちょっと違うね。おなかがすいているわけじゃない」
「じゃあ何もないよ。何を望んでた訳?」
そう言って口をとがらせると、彼らの目がきらりと光った気がした。
あ、なんか嫌な予感。
私は彼らから目をそらし、後ずさりする。
「どうする兄弟? 名無しさんからは何もないんだって」
「仕方ないよね。じゃあ僕らが欲しい物をもらって行こう」
「そうだね、それしかないよね」
「……なんだか話がおかしいよ?」
お礼をもらう→お礼を奪うになってる感じが……
そんなツッコミを入れる私を見つめながら、双子はじりじりと迫ってきた。
「な、なに? なんですか?」
私は冷静を装って彼らを見る。でも、思いっきり逃げ腰。
そんな私をディーとダムは楽しそうに見る。
「僕達、名無しさんと遊びたいんだ」
「う、うん。だから仕事が終わったら遊ぶから……」
「それじゃあせっかく手伝ったのに、今すぐ遊べないってことでしょう?」
ディーの言葉に私が答えると、すぐにダムが言葉を紡ぐ。
なんかダムのしゃべり方がセクシー系になってる気が……。
「だって私はまだこの後にも仕事があるもの」
「だからね、それまで僕らがいい子で待っていられるようにさ……」
そう言って私の右肩にディーが手を伸ばしてきた。
いや、ちょっと待てと思って身を引こうとすると、左肩にダムの手がそっと置かれる。
私と彼らは、身長がそこまで変わらない。
私の方がほんの少し大きいけれど、こう2人を前にすると威圧感というか、どうしていいのかわからなくなる。
明らかに慌てている私に、彼らはくすくすと笑う。
「名無しさん、挙動不審」
「でも可愛いよね」
そう言いながら、私の頬にふれてくる2人。
近いよ、ちょっと近すぎだよこれは。
なんだかとにかくすごくマズイ状況ですよ!?
いい子でいられるように何を要求するつもりなのか。
私は目の前にいる2人を見つめる。
そっくりな顔(しかも可愛い)が目の前に並んでいるのはすごく不思議だわ、なんて思ってしまうのは混乱しているからなのかもしれない。
そう。私は窓を背に、思いっきり混乱していた。
目の前には楽しそうに笑う双子たち。
でも、さっきまでの彼らとは明らかに違う目で私を見ていた。
獲物を前にした時の意地悪そうな、残酷そうな目。
でもどこか妖艶な雰囲気を帯びていた。
なんで私はこの子たちにこんな目で見られているのだろう。どうしよう。
「僕らね、名無しさんがきてからすっごく楽しいんだ」
「うん、楽しい。ずっと一緒にいたいよ」
ディーとダムは静かな声でそう言って顔を寄せてきた。
しかし緊張なのか、ある種の恐怖なのか、体がどうしても動かない。
そんな私の様子を見て、ダムがくすりと笑うのがわかった。
「僕達だけのものになってほしいな」
そう囁いて彼は耳元にキスを落とす。
そういうやり方をどこで覚えてくるの、この子たち。
「ちょっと二人とも離して!」
「やだ」
ディーにあっさりと断られた。
なんとか逃れようとすると押さえ込みにはいられてしまった。(逆効果!)
私と似たような体格のくせに、彼らの力はやっぱり強いようで、全く腕が振りほどけない。
「大人しくしてよ、名無しさん。僕らは名無しさんを困らせたいわけじゃないんだ」
「でも私すごく困ってるよ。だから離して」
「名無しさんのこと大好きなんだ」
そう言ってまっすぐに私を見てくる2人。
なんと答えていいのかわからない。
しばらく見つめあう私たち。
離れてくださいね、という意味を込めて私は彼らを見つめていたが、それは通じなかったらしい。
「僕達だけの名無しさんになって」
そんな言葉とともに彼らの顔が近づいた。
「……なんだかなぁ」
鏡に映る自分を見て首をかしげてしまう。
帽子屋屋敷のメイド服に身を包んだ私。
正直この服を着ている自分は見慣れない。すごい違和感だ。
働かせてもらいたいと言ったのは自分だし、服がどうのこうのと言っていられないのはわかっているけど、
鏡に映る自分は何度見ても不思議な感じがしてしまう。
「もういいや。働こう! 働いて働いて働きまくってやる!!」
私はそう自分をい立たせて部屋を出た。
広い食堂。
今日はここが私の掃除場所だ。
テーブルを拭いたり、モップをかけたりと忙しく働き、残すは窓拭きのみとなった。
一緒に掃除をしていたメイドさんがだるそうに、でも笑顔で言う。
「あとは~私がやっておきますよ~」
「ううん、この間仕事を休んじゃったし私がやるよ」
雇い主命令のお茶会とはいえ、迷惑をかけちゃったからね。
「そうですか~? それなら~私は次の場所を~先にやってます~」
そう言って彼女は食堂を出て行った。
「……よし! やるか!」
メイドさんを見送って、私は気合を入れなおす。
1人になると、この場所が余計に広く感じた。
主に使用人さんやメイドさんのための食堂。
私もここで食事をしている。
美味しいし、種類も豊富だし、なんとなく落ち着くのだ。
ブラッドは私がここで食事するのが嫌みたい。
従業員用の場所に客が入るな、というのがその理由らしい。
一度「お客様用」というダイニングルームに通されて食事をしたことがあったけれど、あれは私にはとても馴染めなかった。
すべてが豪華すぎたのだ。
確かにものすごく豪華で美味しい食事が出てきたけれど、なんだか疲れてしまった。
というわけで、私は従業員用(というか構成員用?)の食堂に通っている。
当り前だけどブラッドはここには来ない。
別の場所で食べているらしい。良く知らない。
幹部用のダイニングルームがあるって聞いたことがあるけれど、エリオットはたまにやってきてはにんじん料理をメイドさんにリクエストしている。
良く来るのはディーとダム。
あの子達は従業員というよりも幹部側だと思うけれど、他の従業員に混じって食べていることが多い。
2人で楽しそうにやってきて、あーだこーだとメニューを決めて、ぱっと食べて去っていく。
もしかしたらそこまで食に執着がないのかもしれない。きっと遊びの方が大事なんだと思う。
「エリオットよりもあの子たちの方がたくさん食べるべきなのにねぇ」
育ちざかりなんだし、とまるで母親かのようにつぶやきながら
庭に面している窓を拭こうと近づいた時だった。
「名無しさん!遊ぼう!」
「遊ぼう遊ぼう!」
「わ!?」
ぴょこっという効果音がつきそうな感じで、双子が突然目の前に現れた。
近づいた窓からにゅっと双子が顔を出したのだ。
のけぞるようにびくりとしてしまったので、すぐそばの椅子に足をぶつけたくらいだ。
「びっくりしたぁ……」
「えへへ。不意打ち」
「大成功だね、兄弟」
可愛らしく笑う彼らは、いたずら成功!という様子でにこにこ楽しそうだ。
こういういたずらなら、微笑ましくていい。
「名無しさん、遊ぼうよ!」
「外に出ておいでよ」
窓の外から双子は可愛らしく笑ってそう言った。
いや、うん。可愛い。ものすごく可愛いし、素敵なお誘いなんだけどね?
「せっかくなんだけど、私ほら、見ての通り仕事中なの」
「え! 仕事中だったの!?」
「どう見てもそうでしょ(この服着てるんだし)」
「じゃあ仕事はそろそろ切り上げてさ、遊ぼう!」
「いやぁ、あなた達とは違って私サボる度胸はないのよ」
そこまで言って私ははたと気づいた。
「っていうかさ、ディーとダムも今仕事中のはずでしょ? こんな所にいていいの?」
「え~? 僕らは休憩時間だもん。ちゃんと休憩しないといい仕事ができないんだ」
「そうそう。それに、給料以上の働きなんてする気はないしね」
「……つまりサボリだよね? またエリオットに怒られるんじゃないの?」
ついこの間もサボったのなんだのってもめていた。
もめていたっていうか、撃ち合っていた。(物騒すぎる!)
「ひよこウサギは今仕事で出かけてるし平気だよ」
「邪魔者はいないし、僕達名無しさんと遊びたいよ」
「仕事が終わったら遊んであげるから、また後でね」
「えぇ~! 今が良いよ」
「今がいい今がいい!」
「無理だよ。私仕事しないと」
駄々をこねる2人に私はきっぱりと断りを入れる。
この2人にスキを見せたら、ズルズルと付き合うことになってしまうのだ。
私は彼らから離れると、その隣の窓を拭き始める。
「名無しさん」
「……」
「名無しさん~」
「…………」
良心が痛むけど、ここでぐっとこらえなきゃ!
私は返事をせずにせっせと窓を拭く。
静かになったのでちらりと見ると、彼らは顔を見合わせて何かうなずき合っていた。
「……じゃあわかったよ」
「仕方ないね」
私の決意が固いことを悟ったらしく、沈んだ声でそういう彼ら。
申し訳ないな、と思うけど仕方ない。
「ごめんね、また今度……」
遊ぼうねと言おうとした時だった。
「名無しさんが来てくれないなら、僕らがそっちへ行くよ」
そう言うが早いか、彼らはひょいっと窓を乗り越えて食堂に入ってきた。
「ちょっとここで休憩しよう」と言って、彼らはさっさと席に着く。
「え、ちょっと二人とも……!?」
なんて身軽なんだろうとか、座りだしちゃったよとか、色々な思いがぐるぐると浮かんで動揺する私。
「僕なにか飲みたいな」
「紅茶じゃないやつがいいよね」
彼らはそう言いながら、にこにこと頬杖をついて私を見ている。
可愛いけど……私は淹れないよ?
「……セルフサービスでお願いします」
「えー、そうなの?」
「名無しさんに美味しい飲み物を入れてほしいよ」
頬杖をついたままぶーぶー言う2人。
文句を言いたいのは私の方だ。
かわいこぶったってダメなんだからね。
私は黙々と窓拭きに専念する。
結局彼らは2人で色々と相談した結果、冷蔵庫から勝手に取り出したジュースを飲んでいる。
「名無しさんの仕事はいつ終わるの?」
「ここの掃除が終わったら、次は玄関掃除にいくの」
「えー! 働きすぎじゃないの? そんなの顔なしにやらせておけばいいじゃない」
「ダメだよ。こういう仕事をするっていう約束で私は働かせてもらってるんだから」
「労働条件をちょっと見直してもらった方がいいよ」
「そうだよ。ちゃんとそれに見合った給料をもらってるの?」
「大丈夫。むしろもらいすぎなくらいよ」
私は掃除も料理も何もかも、メイドさんたちとは違って素人だ。
それなのにお給料をきっちりと払ってくれるブラッド。申し訳ないので、一生懸命仕事をするしかない。
だからこそ、邪魔をしないでいただきたいのです。
「さ、あなた達もそろそろ仕事に戻りなよ」
ジュースを飲み干した彼らに私は、ダメ元でそう促す。
すると予想外の言葉が返ってきた。
「仕事かぁ……そうだね。仕事をしよう」
「え?(ほんとに!?)」
驚く私だったがしかし、彼らがそうあっさり仕事に戻ることなどあるわけがない。
「名無しさんの仕事を手伝うよ!」
「なんでも言ってね、名無しさん」
そう言って彼らはがたんと立ち上がると、つかつかと私の元へやってくる。
いいと言っているのに彼らは進んで「お手伝い」をしてくれた。
思った以上にしっかりとお手伝いをしてくれた2人。
しかし、これで終わるわけがない。
無事に窓を拭き終えたと思ったら、彼らはあっけらかんとこういった。
「名無しさん、僕達お手伝いしたからさ、何かお礼が欲しいな!」
「は?」
無理やり手伝ってきたくせに、なんと見返りを要求してきたのだ。
「一生懸命がんばったから、お礼が欲しいんだ」
「いやいや、私がお願いしたならともかく、あなた達が勝手に始めたんでしょう」
「えぇ~? そういう言い方するの? 名無しさんって結構冷たいんだね」
あなた達が厚かましいんだと思うけど、と言ってやりたい。
「そういえば、そこにお菓子があったよ。それ食べなよ」
私がキッチンを指さすと、彼らは「うーん」「お菓子かぁ」と腕組みをする。
子どもなら喜んで受け取ってほしいところなんだけど……。
「なんかさ、食べ物な気分じゃないんだよね僕達」
「うん、ちょっと違うね。おなかがすいているわけじゃない」
「じゃあ何もないよ。何を望んでた訳?」
そう言って口をとがらせると、彼らの目がきらりと光った気がした。
あ、なんか嫌な予感。
私は彼らから目をそらし、後ずさりする。
「どうする兄弟? 名無しさんからは何もないんだって」
「仕方ないよね。じゃあ僕らが欲しい物をもらって行こう」
「そうだね、それしかないよね」
「……なんだか話がおかしいよ?」
お礼をもらう→お礼を奪うになってる感じが……
そんなツッコミを入れる私を見つめながら、双子はじりじりと迫ってきた。
「な、なに? なんですか?」
私は冷静を装って彼らを見る。でも、思いっきり逃げ腰。
そんな私をディーとダムは楽しそうに見る。
「僕達、名無しさんと遊びたいんだ」
「う、うん。だから仕事が終わったら遊ぶから……」
「それじゃあせっかく手伝ったのに、今すぐ遊べないってことでしょう?」
ディーの言葉に私が答えると、すぐにダムが言葉を紡ぐ。
なんかダムのしゃべり方がセクシー系になってる気が……。
「だって私はまだこの後にも仕事があるもの」
「だからね、それまで僕らがいい子で待っていられるようにさ……」
そう言って私の右肩にディーが手を伸ばしてきた。
いや、ちょっと待てと思って身を引こうとすると、左肩にダムの手がそっと置かれる。
私と彼らは、身長がそこまで変わらない。
私の方がほんの少し大きいけれど、こう2人を前にすると威圧感というか、どうしていいのかわからなくなる。
明らかに慌てている私に、彼らはくすくすと笑う。
「名無しさん、挙動不審」
「でも可愛いよね」
そう言いながら、私の頬にふれてくる2人。
近いよ、ちょっと近すぎだよこれは。
なんだかとにかくすごくマズイ状況ですよ!?
いい子でいられるように何を要求するつもりなのか。
私は目の前にいる2人を見つめる。
そっくりな顔(しかも可愛い)が目の前に並んでいるのはすごく不思議だわ、なんて思ってしまうのは混乱しているからなのかもしれない。
そう。私は窓を背に、思いっきり混乱していた。
目の前には楽しそうに笑う双子たち。
でも、さっきまでの彼らとは明らかに違う目で私を見ていた。
獲物を前にした時の意地悪そうな、残酷そうな目。
でもどこか妖艶な雰囲気を帯びていた。
なんで私はこの子たちにこんな目で見られているのだろう。どうしよう。
「僕らね、名無しさんがきてからすっごく楽しいんだ」
「うん、楽しい。ずっと一緒にいたいよ」
ディーとダムは静かな声でそう言って顔を寄せてきた。
しかし緊張なのか、ある種の恐怖なのか、体がどうしても動かない。
そんな私の様子を見て、ダムがくすりと笑うのがわかった。
「僕達だけのものになってほしいな」
そう囁いて彼は耳元にキスを落とす。
そういうやり方をどこで覚えてくるの、この子たち。
「ちょっと二人とも離して!」
「やだ」
ディーにあっさりと断られた。
なんとか逃れようとすると押さえ込みにはいられてしまった。(逆効果!)
私と似たような体格のくせに、彼らの力はやっぱり強いようで、全く腕が振りほどけない。
「大人しくしてよ、名無しさん。僕らは名無しさんを困らせたいわけじゃないんだ」
「でも私すごく困ってるよ。だから離して」
「名無しさんのこと大好きなんだ」
そう言ってまっすぐに私を見てくる2人。
なんと答えていいのかわからない。
しばらく見つめあう私たち。
離れてくださいね、という意味を込めて私は彼らを見つめていたが、それは通じなかったらしい。
「僕達だけの名無しさんになって」
そんな言葉とともに彼らの顔が近づいた。