短編
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【秘密の場所】
私は今、分かれ道の前で立ち尽くしていた。
右か左か。
見通しがよく、右の道と左の道はある程度先まで見渡すことができた。
だからこそ私は今迷っているのかもしれない。
右の道には奥の方に何やら見覚えのあるテントが張ってある。
……うん、エースだね。明らかに。
そして、左の道はなんだか賑やかで、赤と青のシルエットがちょこまかと動いている。
赤と青は急に黒服に変わったりもする。
……どう見てもディーとダムだね。うん。
さて、どちらが安全だろう?
私はふぅむと考えた。
右に行ったら、エースに見つかって何か不運に巻き込まれるかもしれない。
左に行ったら、双子に見つかって危険な遊びに巻き込まれるかもしれない。
「どっちも嫌だ」
私は仕方なく、道のない中央を進むことにした。
草の背が私と同じくらいあるので、うまく歩けば、見つからずに通れるだろう。
私は細心の注意を払って、そろそろと道なき道を進む。
ちらりと左右の様子を伺う。
私はまず双子の遊んでいる付近を通り過ぎた。
そして、エースのテントにもう少しで差し掛かる、という所まで来た時だった。
「つーかまえた♪」
「ぎゃ!?」
突然手を掴まれて、私は悲鳴を上げた。全く可愛げのない悲鳴。
そのうえ、驚きすぎて座り込んでしまった。
見ると双子がにこにこと私の手を掴んでいた。
小さな彼らの姿は草にすっぽり隠れていて全く気付かなかった。
「なにしてるの?名無しさん」
「かくれんぼ?」
彼らはワクワクした様子で私を見ていた。
あなた達に見つからないようにしてました、とも言えず、私は苦笑いを浮かべる。
「あ、もしかして、すぐそばに迷子騎士がいるから隠れてたんでしょ?」
「だよね、あいつに見つかったら面倒だもんね」
彼らはいつものようにきゃっきゃと話し始める。
「それならもうちょっとあっちに行った方がいいよ。ここは近すぎる」
「ほら、名無しさん行こう!」
彼らはそう言って私を引っ張るけれど……。
「ご、ごめん、ちょっと立てない」
「え?」
「さっきので驚きすぎちゃって……」
「えー、腰が抜けちゃったってやつ?」
「うわ、すごい。腰が抜けるってほんとにあるんだね。僕、初めてみたよ」
「僕も僕も」
変な感心の仕方をしないでほしい。
「しばらくすれば治るのかな?」
「でも、その前に迷子騎士に見つかったら面倒だから、向こうまで僕らが連れていってあげるよ」
「そうか、それがいいね」
「え? 連れて行くって」
不思議に思った時には、双子はすでに大人の姿になっていた。
「ほら、名無しさん。つかまって」
「僕らが連れて行ってあげるね」
「いやいや、ちょっと待って。あなた達、その姿で立ち上がったら、草から顔が出ちゃうよね?」
「え、あー、そっか。今立ち上がったら、丸見えだね……」
「どうしようか」
「じゃあ治るまでしばらくここにいるしかないね」
「……すみません」
「別にいいよ。ここで一緒に座ってるのも楽しそうだし」
「うんうん、なんだか秘密の場所って感じ」
彼らはそう言ってくすくす笑った。
確かに背の高い草に囲まれていると、秘密の場所っぽい。
空がいつもよりも高く見える。
座り込む私の両隣に座るディーとダム。
「秘密の場所っていいよね。なんかワクワクする」
「うんうん。絶対に他の奴らには教えたくないよね」
大人姿で子どもっぽいことを言う彼ら。
でも、秘密の場所のワクワク感はすごくよくわかる。実はなんだか私もワクワクしている。
小さい頃によくしていた「秘密基地ごっこ」を思い出す。
「こういう所って普通のことをしていてもすごく楽しいよね。なんだか特別な感じがしてくるの」
全然秘密じゃないようなことも「秘密の場所」で話すと、とたんにものすごい秘密に思えてくる。
小さい頃はそれが楽しくてドキドキしながら、いろんな話をした。
「名無しさんもこういうの好きなんだ?」
「うん、好きだよ。昔よくやったもの」
「そっか。なんか嬉しいな。僕らが好きなことを名無しさんも好きって言ってくれるなんて」
「うんうん、怒られない遊びって初めてかもね」
彼らはそう言ってにこにこ笑う。
言われてみればそうかもしれない。彼らの遊びの楽しさを心から共有できたことは初めてだ。
「なんかいいね。嬉しいし楽しい。それに2人に近づけた気がする」
ワクワクしながらそう言って2人を見ると、彼らは一瞬ふっと動きを止めた。
そして、ふわりと笑う。
珍しく優しい笑い方をする2人に思わずドキリとした。
「名無しさんのそういう所が好き」
「僕も。ちゃんと僕らのことを見てくれるから大好き」
静かな口調でそう言われて調子が狂う。なんだか照れる。
すると、彼らはそっと私に手を伸ばしてきた。
「秘密の場所だと、名無しさんのことがいつもよりももっと特別に見えるな」
「ものすごく特別だから、ものすごく大切にしなくちゃ」
そう言いながら、2人は顔を寄せる。
いつもよりも優しい笑みを浮かべている綺麗な顔に、ドキドキが止まらない。
「秘密の場所だから、誰にも見られないよ」
ディーがそう言うと、ダムがうなずいて私の手にキスをした。
一歩遅れてディーが私の唇にキスをする。
秘密の場所で、秘密のキス。
彼らも私の特別になる。
私は今、分かれ道の前で立ち尽くしていた。
右か左か。
見通しがよく、右の道と左の道はある程度先まで見渡すことができた。
だからこそ私は今迷っているのかもしれない。
右の道には奥の方に何やら見覚えのあるテントが張ってある。
……うん、エースだね。明らかに。
そして、左の道はなんだか賑やかで、赤と青のシルエットがちょこまかと動いている。
赤と青は急に黒服に変わったりもする。
……どう見てもディーとダムだね。うん。
さて、どちらが安全だろう?
私はふぅむと考えた。
右に行ったら、エースに見つかって何か不運に巻き込まれるかもしれない。
左に行ったら、双子に見つかって危険な遊びに巻き込まれるかもしれない。
「どっちも嫌だ」
私は仕方なく、道のない中央を進むことにした。
草の背が私と同じくらいあるので、うまく歩けば、見つからずに通れるだろう。
私は細心の注意を払って、そろそろと道なき道を進む。
ちらりと左右の様子を伺う。
私はまず双子の遊んでいる付近を通り過ぎた。
そして、エースのテントにもう少しで差し掛かる、という所まで来た時だった。
「つーかまえた♪」
「ぎゃ!?」
突然手を掴まれて、私は悲鳴を上げた。全く可愛げのない悲鳴。
そのうえ、驚きすぎて座り込んでしまった。
見ると双子がにこにこと私の手を掴んでいた。
小さな彼らの姿は草にすっぽり隠れていて全く気付かなかった。
「なにしてるの?名無しさん」
「かくれんぼ?」
彼らはワクワクした様子で私を見ていた。
あなた達に見つからないようにしてました、とも言えず、私は苦笑いを浮かべる。
「あ、もしかして、すぐそばに迷子騎士がいるから隠れてたんでしょ?」
「だよね、あいつに見つかったら面倒だもんね」
彼らはいつものようにきゃっきゃと話し始める。
「それならもうちょっとあっちに行った方がいいよ。ここは近すぎる」
「ほら、名無しさん行こう!」
彼らはそう言って私を引っ張るけれど……。
「ご、ごめん、ちょっと立てない」
「え?」
「さっきので驚きすぎちゃって……」
「えー、腰が抜けちゃったってやつ?」
「うわ、すごい。腰が抜けるってほんとにあるんだね。僕、初めてみたよ」
「僕も僕も」
変な感心の仕方をしないでほしい。
「しばらくすれば治るのかな?」
「でも、その前に迷子騎士に見つかったら面倒だから、向こうまで僕らが連れていってあげるよ」
「そうか、それがいいね」
「え? 連れて行くって」
不思議に思った時には、双子はすでに大人の姿になっていた。
「ほら、名無しさん。つかまって」
「僕らが連れて行ってあげるね」
「いやいや、ちょっと待って。あなた達、その姿で立ち上がったら、草から顔が出ちゃうよね?」
「え、あー、そっか。今立ち上がったら、丸見えだね……」
「どうしようか」
「じゃあ治るまでしばらくここにいるしかないね」
「……すみません」
「別にいいよ。ここで一緒に座ってるのも楽しそうだし」
「うんうん、なんだか秘密の場所って感じ」
彼らはそう言ってくすくす笑った。
確かに背の高い草に囲まれていると、秘密の場所っぽい。
空がいつもよりも高く見える。
座り込む私の両隣に座るディーとダム。
「秘密の場所っていいよね。なんかワクワクする」
「うんうん。絶対に他の奴らには教えたくないよね」
大人姿で子どもっぽいことを言う彼ら。
でも、秘密の場所のワクワク感はすごくよくわかる。実はなんだか私もワクワクしている。
小さい頃によくしていた「秘密基地ごっこ」を思い出す。
「こういう所って普通のことをしていてもすごく楽しいよね。なんだか特別な感じがしてくるの」
全然秘密じゃないようなことも「秘密の場所」で話すと、とたんにものすごい秘密に思えてくる。
小さい頃はそれが楽しくてドキドキしながら、いろんな話をした。
「名無しさんもこういうの好きなんだ?」
「うん、好きだよ。昔よくやったもの」
「そっか。なんか嬉しいな。僕らが好きなことを名無しさんも好きって言ってくれるなんて」
「うんうん、怒られない遊びって初めてかもね」
彼らはそう言ってにこにこ笑う。
言われてみればそうかもしれない。彼らの遊びの楽しさを心から共有できたことは初めてだ。
「なんかいいね。嬉しいし楽しい。それに2人に近づけた気がする」
ワクワクしながらそう言って2人を見ると、彼らは一瞬ふっと動きを止めた。
そして、ふわりと笑う。
珍しく優しい笑い方をする2人に思わずドキリとした。
「名無しさんのそういう所が好き」
「僕も。ちゃんと僕らのことを見てくれるから大好き」
静かな口調でそう言われて調子が狂う。なんだか照れる。
すると、彼らはそっと私に手を伸ばしてきた。
「秘密の場所だと、名無しさんのことがいつもよりももっと特別に見えるな」
「ものすごく特別だから、ものすごく大切にしなくちゃ」
そう言いながら、2人は顔を寄せる。
いつもよりも優しい笑みを浮かべている綺麗な顔に、ドキドキが止まらない。
「秘密の場所だから、誰にも見られないよ」
ディーがそう言うと、ダムがうなずいて私の手にキスをした。
一歩遅れてディーが私の唇にキスをする。
秘密の場所で、秘密のキス。
彼らも私の特別になる。