#12
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「「…お話?」」
「はい…」
ノボリとクダリは疑問符を浮かべながら、一度互いの顔を見合わせた。
緊張している名無しの様子から、何かとても大切な話なのだということは伝わってくる。
ならばこちらも、きちんと真剣に向き合うべきだろう。
そう決めた2人は名無しと目線が近付くように同時に屈み込み、身体を強張らせる彼女に優しく声をかける。
「ゆっくりで大丈夫ですよ」
「名無しちゃんのタイミングで話して」
「は、はい…っ…」
名無しは、一旦気持ちを落ち着けようと己の胸に手を当てて深呼吸した。
そして、
「私…エモンガと、一緒にいたいですっ…!」
一生懸命に、声を振り絞った。
「昨日から、いっぱい考えてたんです…私はまだポケモンのことをよく知らないし、お2人にお世話になっている身だし…それなのに、私が一緒にいたいからって、気軽にエモンガをゲットしちゃって本当にいいのかな?って…私のワガママなんじゃないかな、って…でも、これが私の本心なんです」
最初は目をパチクリとさせたノボリとクダリだったが、名無しが精一杯、自分の想いを伝えようとしている姿を見て、次第に表情を和らげていく。
「ちゃんと、エモンガのこと大切にします。もっともっとポケモンのことも勉強します。だから…」
目の前の小さな少女がどうしたいのか、2人はもう充分にわかっていた。
それでも彼女の言葉を遮ることはせず、しっかりと最後まで、その想いに耳を傾けると決めた。
「エモンガの、こと…ゲットしても…いい、ですか…?」
そして、自身の想いをすべて言い切った名無しは再び俯いて、両目をギュッと閉じる。
小さな肩を震わせながら2人の返事を待っていると…
「「もちろん(でございます)!」」
「っ…!」
重なった明るい声に、弾かれたように目を開き、顔をあげる名無し。
ノボリもクダリも、まっすぐに名無しを見つめていて、その表情はとても穏やかに綻んでいた。
「名無しちゃんの気持ち、ちゃんと教えてくれて嬉しい」
「ありがとうございます。一生懸命なあなた様のお気持ち、しっかりとこの胸に届きました」
「ぼく達は、エモンガのゲットに大賛成!ワガママなんかじゃないよ!」
「わたくし達もできる限りのサポートは致します。ですから名無しさんは何も心配せず、ご自分のその想いを形にしてあげてくださいまし!」
「…お2人とも…」
勇気を振り絞って伝えたすべてを、受け入れてもらえた。緊張が解け、胸の奥から安堵と喜びが溢れてきてたまらなくなり、じわりと目頭を熱くさせる名無し。
しかし込み上げる涙はぐっと堪えて、代わりに彼女は満開の笑顔を咲かせた。
「っ…はい!ありがとうございます…!」
そして名無しはすぐにポケットから、小型化されたモンスターボールを取り出した。
手の平に収まるそれを見つめる瞳に、迷いはもうなかった。
モンスターボールを本来の大きさに戻したところで、名無しは2人に控えめな視線を送る。
「…あの…エモンガをゲットするところ、見ていてもらってもいいですか…?初めてなので、少し不安で…」
「もちろんでございます」
「ちゃんと見守ってる。安心して」
「ありがとうございます。じゃあ…」
両手でモンスターボールを握り締めて、名無しはエモンガに振り向いた。
『えもっ!』
すると元気良く鳴いたエモンガは、何を思ったのかポケモンセンターの出口へ向かって駆けていき、突然のその行動に名無しは目を丸くする。
「えっ?エモンガ?」
戸惑う名無し。エモンガは名無しの方を振り返りながら、自分についてこいと尻尾でアピールする。
意図がわからずに首を傾げながらも素直にそれに従うと、ポケモンセンターの外に出たところで、エモンガは足を止めて身体ごと名無しへと振り返った。
『えもえもっ!』
そして、さぁ来い!と言わんばかりに両手を広げて胸を張るエモンガ。
名無しの後ろから「なるほど」と声がした。
「恐らくですが、エモンガは今まで野生で生きていらっしゃったので、トレーナーがポケモンを捕まえるところを見たことがあるのでしょう」
「普通はモンスターボールをポケモンに投げてゲットする。だから、障害物のない外に出たのかも。その方が投げやすいから」
ノボリとクダリの言葉に、名無しも「なるほど…」と納得して頷いた。
それから少しだけ心配そうに呟く。
「…今更かもしれませんが…ぶつけちゃって、痛くないでしょうか?」
「大丈夫。ポケモンって、ぼく達が思うよりすっごい頑丈」
「モンスターボールは、ポケモンにぶつけても怪我をしないよう考えて設計されております。それでも心配でしたら、上空に向かって軽く投げてみては如何でしょうか?少し弧を描くようにして、威力を下げるのでございます」
クダリが勇気づけて、ノボリがアドバイスをする。
名無しは一度ギュッとモンスターボールを握り締める両手に力を込めてから、頷いた。
「わ、わかりました…やってみます…!」
エモンガをまっすぐ見つめる名無し。キラキラと期待に瞳を輝かせて、その時を待つエモンガ。
少しの間、街の喧騒が遠くなり、その場はしんと静まり返った。
「えいっ…!」
そして、意を決した名無しがついに腕を振りかぶり、モンスターボールを放つ。
エモンガの頭よりも上の方を目掛けて投げられたそれは、緩やかなカーブを描きながら目標に向かっていき…
『えもえもっ!』
結局、自然に落ちきるよりも前に、待ちきれずに地面を蹴ってジャンプしたエモンガの頭が、自らモンスターボールにぶつかっていった。
その衝撃を受けて開いたボールから光が放たれ、エモンガの身体を中へと吸い込んでいく。
コロン、と軽い音を立てて地面に落ちたそれは、一度だけ微かに揺れた後、カチリッ、と小気味良い音を立てた。
「…入っ、た…?」
「おめでとう、名無しちゃん!」
「ひゃっ…」
名無しがパチパチと目を瞬かせていると、突然クダリがその小さな身体を抱き上げてクルクルと回り出した。
回る景色と満面の笑顔を浮かべるクダリに、放心状態の名無しはされるがままになっている。
「クダリ!名無しさんが目を回してしまわれます!」
「あっ、ごめん!嬉しくて、つい」
少し慌てたノボリの声に、ハッと我に返るクダリ。
すぐに足を止めて優しく名無しを地面におろすと、「大丈夫?」と心配そうに顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫です。少しビックリしましたけど、おかげで目が覚めました」
苦笑を浮かべる名無し。ノボリはそんな彼女に静かに近付くと、小さな背中にそっと手を添えた。
「さぁ、エモンガを迎えに行ってあげてくださいまし」
「は、はい…」
ノボリを見上げて、コクンと頷きを返した名無しは改めて、先程までエモンガがいた場所を見る。
そこにエモンガの姿はない。代わりに、落ちているモンスターボールが微動だにせず、名無しを待っていた。
モンスターボールのもとへ歩いていき、足元のそれを両手で大切そうに拾いあげる名無し。
じっと見つめた後、もう一度ボールを宙へ放つと、
『えもっ♪』
元気の良い鳴き声と共に、エモンガが飛び出す。
その勢いのまま自分の胸に飛び込んでくるエモンガを、名無しは少し焦りながらもしっかりと受け止めた。
「わっ…!ふふ…エモンガ、ありがとう。これからよろしくね」
『えもっ!』
笑って頬を寄せ合う1人と1匹を、ノボリとクダリは穏やかな表情で見つめていた。
そしてポケモンセンターの窓の向こうでも、コッソリと見守っていたジョーイとタブンネ、そしてショップ店員が、顔を見合わせて微笑んでいるのだった。
「名無しさんはご立派でございますね。ご自分でしっかりと考え、答えを導き出せてしまうとは。大変ブラボー!でございます!」
「うんうん。名無しちゃん、とってもすごい!とってもえらい!」
「そ、そんなことは…」
ポケモンセンターからの帰り道。テンション高く名無しを褒めちぎるノボリとクダリに対し、当の本人はというと恥ずかしそうに肩を竦めて小さくなっていた。
「私は全然、すごくなんかないです。自分だけじゃ決意できなくて、悩んでばかりで…でも、そんな私にエモンガの気持ちを教えてくれた人がいたから…」
「エモンガの気持ちを教えてくれた人?」
「はい。名前を聞くのは忘れちゃったんですけど…すごいんです、その人。ポケモンの言葉がわかるんです…!」
名無しは観覧車での青年とのやり取りを思い出し、途端にキラキラと目を輝かせはじめる。
「名乗っていないのに私の名前を当てちゃって…訊いたら、『エモンガが教えてくれた』って。他にもエモンガの言っていることをたくさん教えてもらったんです。エモンガの気持ちを知ることができたから、そのおかげで私、勇気を出すことができたんです」
こんなにも興奮気味に話す名無しを見るのは、ノボリもクダリも初めてだった。
これほどまでに彼女の心を動かした存在に興味が沸き、すごい人がいるものだと、最初こそ感心しながら彼女の話に耳を傾けていたのだが、
「…また会いたいなぁ、お兄さん…」
ポツリと呟いた名無しは頬を上気させて遠くを見つめていて、そんな姿を目にした2人は無意識のうちに、心をざわめかせていた。
「…お兄さん、なんだ?」
「ポケモンセンターに来られたトレーナー様でしょうか?」
「あ、いえ、ポケモンセンターじゃなくて…エモンガとお散歩に出てたら、観覧車の所で…あ、そうだ、観覧車、今日から再開したみたいなんです。そこで、お兄さんに声をかけられて、突然手を引かれて観覧車に乗せられて…」
「「知らない人と観覧車にッ!?」」
「えっ?あ、は、はい…」
突然、ノボリとクダリが素っ頓狂な声をあげたことに名無しはビックリして目をパチパチさせた。
感心とは別の感情から余計にその人物に興味を抱いていた2人は、先程の名無しの衝撃発言に暫し絶句し、思わずその歩みを止めてしまう。
「(知らない人と、観覧車。しかもその相手は、お兄さん)」
「(名無しさんはその方に大変良い感情を抱いているご様子…しかし、結果はどうあれ、それはあまりにも…)」
「あの…?」
立ち止まり、固まってしまった2人に名無しは不思議そうに首を傾けた。
一体どうしたのだろう?と疑問符を浮かべながら2人を交互に見つめていると、
「…名無しさん。詳しいお話は、帰宅してから改めて聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「すっごい大事な話になると思うから、ちゃんと聞いておきたい。それと、ぼく達からも、とーっても大事なお話がある」
「は、はい…わかりました…?」
名無しは未だ気付かない。
己の無用心さと警戒心の薄さを、自ら2人に明かしてしまったということに。
そうして帰宅後、事の顛末をすべて話した名無しは青ざめた2人から目一杯心配され、かつての親代わりからも口酸っぱく言われていたことを、改めて教えられることになるのだった。
『知らない人には?』
『ついて行きません…』
『人目がない場所では?』
『2人きりにならないようにします…』
『うん、オッケー』
『わかっていただけて何よりでございます』
『今回は良い人だったからよかった。けど、 皆が皆そうじゃない』
『何かあってからでは遅いのでございます。どうか今のわたくしどもの言葉を覚えていてくださいまし』
『口うるさく言ってごめんね。でもぼく達、名無しちゃんのこと、とっても大切だから』
『ごめんなさい…これからは気をつけます…(そうだった…お兄さんが良い人で、すっかり忘れてた…ちゃんと反省しなきゃ…)』
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R7.05
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