ゴーストマリッジの人魚姫
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『オンボロ寮が見知らぬゴースト達に乗っ取られました。危ないから近付かないでね』
突然そんなメッセージがユウから送られてきて、名無しはスマホを見つめたまま、キョトンと小首を傾げた。
「…お兄様。私、今からユウさんの所に行ってきますね」
スマホで居場所を聞いた名無しは一緒にいた兄達と別れ、ユウ、グリムと合流し、学園長室へと赴いた。
そこで彼らから聞いた話によると、突然現れた白い帽子を被ったゴースト達に『ここは姫様の迎賓館だ』と訳のわからないことを言われ、力ずくでオンボロ寮から追い出されてしまったらしい。
「自分達も一応、抵抗はしたんだけど…」
「アイツら、倒しても倒しても現れてキリがなかったんだゾ!」
「まあ、そんな大変なことが…ごめんなさい、お力になれなくて。お怪我はしていませんか?」
「うん、大丈夫。むしろいなくてよかったよ。名無しを危ないめに合わせたくないから」
「ユウさん…ありがとうございます。ユウさんもグリムさんも、ご無事で本当によかったです」
見つめ合って微笑むユウと名無しだったが、
「姫様…ああ、なるほど!去年まであの館は無人でしたから放置していましたが…今年もまた、この季節がきたんですねぇ」
そんな声が聞こえてきて、2人は揃ってクロウリーを見る。
ユウ達から事情を聞いて、すぐに思い当たる節があったクロウリーの話によれば、オンボロ寮を乗っ取ったゴースト達は、"花嫁ゴースト"の家臣達だという。
花嫁ゴーストとは、遥か昔に滅びた国のお姫様で、夢を叶える為に毎年この季節になると、ツイステッドワンダーランドへやってくるそうだ。
その夢とは、【素敵な王子様と結婚すること】。
つまりゴースト達は毎年、お姫様の理想の花婿を探しにやって来て、その際、この世で活動する拠点として使われていたのがオンボロ寮だったらしい。
「ずっと王子様を探し続けているなんて、そのお姫様はとてもロマンチストなのですね」
「名無しも王子様に憧れがあったりするの?」
ユウが何気なく尋ねると、名無しはニコニコしたまま「いえ、特には」と首を振った。
「私のまわりには、もう素敵な方がたくさんいらっしゃいますから」
「確かに男子校だから、まわりは男だらけだね(素敵かどうかは置いておくとして)」
「あら、性別は問いませんよ。お兄様たちはもちろんですが、アズールさんも生徒の皆さんも先生方も、ゴーストさんや妖精さん、肖像画の方々も…皆さん素敵です。もちろん、ユウさんも」
「あ、ありがとう」
「ふふ」
「照れているユウさんも可愛らしいです」と楽しそうに笑う名無し。
ユウは更に気恥ずかしくなって、困ったような苦笑いを浮かべた。
「名無し、オレ様は!?」
「もちろん、グリムさんもとっても素敵です」
「へへん!当然なんだゾ!オマエは見る目があるから、特別にオレ様をナデナデさせてやる」
「まあ、ありがとうございます♪」
嬉しそうに胸を張るグリムの頭を、名無しはニコニコしながら優しく撫でる。
ユウは「(ただグリムが撫でられたかっただけじゃ…)」と思ったが、ゴースト達と戦ってくれたグリムの頑張りに免じて、このツッコミは心の中にしまっておくことにした。
「ま、仮に名無しくんの言うように素敵な者が私以外にいたとしても、花婿は見つからないでしょうがね」
「今さりげなく、"私以外に"って言いました?」
しかし、クロウリーには容赦なく突っ込むユウだった。
そんなツッコミをクロウリーは完璧にスルーし、続けて、花嫁ゴーストの【理想の王子様】の条件を教えてくれた。
クロウリー曰く、
180cm以上の高身長。
贅肉のついていないスリムなボディ。
清潔感溢れる美肌に、切れ長の瞳。
チャーミングな笑顔。
キューティクルが光り輝く髪。
思わずキスしたくなる印象的な唇。
などの条件をすべて兼ね備えた、超ハンサム男子。
それが、花嫁ゴーストの【理想の王子様】らしい。
「ね?彼女のお眼鏡に叶う男性など、世界中どこを探してもいるわけがないんです」
ははは!と笑うクロウリー。確かに、とユウとグリムは頷く。
「とんでもなく理想が高い…」
「そりゃあ見つからない筈だゾ…」
そして、ニッコリ笑って聞いていた名無しはというと、
「すみません、少し失礼します」
そう断りを入れ、急にポケットからスッとスマホを取り出すと、ニッコリとした笑顔は微動だにさせないまま、彼女はスマホの画面に指を滑らせはじめた。
目で追えないほどのスピードで。
「…ところで、そのお姫様やゴーストさん達はいつまでいらっしゃるんでしょうか?オンボロ寮が奪われたままだとユウさんもグリムさんも困ってしまいますし、私も悲しいです」
そして再びスマホをポケットにしまうと、何事もなかったかのように話を戻す名無し。
あまりにも一瞬の出来事で呆気に取られるユウ達だったが、名無しが先程の行動に触れることはなかった。
いつも被害はオンボロ寮だけで、ゴースト達も数日で諦めていなくなる。だから2、3日、友達の所にでも居候しておいてほしい。
クロウリーは、ユウ達にそう言った。
「では、オクタヴィネル寮に来ませんか?私、アズールさんとお兄様たちにお願いしてみます」
パチンと両手を合わせた名無しがユウとグリムに提案する。その瞳はキラキラと輝いていた。
「ユウさんとグリムさんなら、きっと歓迎してもらえますよ。私も、いつもお世話になっている分、精一杯おもてなしさせていただきます♪」
ウキウキと声を弾ませる名無し。「お泊まり会だと思えば、数日なんてあっという間ですね♪」と何だか楽しそうだ。
しかしユウ達が返事をしようとした矢先、突如として響き渡った扉を開く音により、それは遮られた。
「学園長ー!」
開かれた扉から慌てた様子で入ってきたのは、イグニハイド寮のオルトだった。
クロウリーがどうしたのかと尋ねると、彼はとても深刻な顔で、ほとんど叫ぶような声で告げた。
「兄さんが…ゴーストに、さらわれちゃった!」
『えええっ!?』
驚く一同に、オルトは昨晩の学園の監視カメラ映像を再生して見せる。学園のセキュリティシステムをハッキングして得た物らしくクロウリーは怒っていたが、それどころではないオルトはスルーした。
映像には、ブツブツと呟きながらメインストリートを足早に歩くイデアの姿が映っていた。そんな彼のもとに、突然、件の花嫁ゴーストが現れる。叫び声を上げるイデア。映像は、そこで途切れてしまった。
耳障りなノイズが響く中、クロウリーはわなわなと震えながら叫ぶ。
「あぁ、なんてことだ…ついに花嫁ゴーストが理想の花婿を見つけてしまったようです!」
イデアは全然王子様なんてガラじゃない、とグリムは否定する。
しかし改めて【理想の王子様】の条件を思い返していくと、言いようによっては、当てはまっていると言えなくもなかった。
オルトに至っては、「僕の兄さんはどこからどう見てもかっこいい。ゴーストめ、なんて見る目が確かなんだ!」と心底納得して悔しげに顔を顰めている。
納得いかないグリムはスッキリしない顔をしていたが、とにもかくにも、イデアがさらわれたのは紛れもない事実である。
「(イデアさんがお姫様の【理想の王子様】ということは、もう他の人は花婿候補にはならないということですよね…少し安心しました)でも、これではもうオンボロ寮だけの被害で済む問題ではなくなりましたね…」
名無しは内心安堵しながらも、さらわれてしまったイデアの身を案じて困ったように眉を下げる。
彼女の言葉通り、これから被害はオンボロ寮だけにとどまらない大騒動へと発展していくことになるのだった。
急に騒がしくなった廊下に気付いて一同が学園長室を出てみると、外は大騒ぎになっていた。
大量のゴースト達が、花嫁ゴーストの結婚式を挙げる為に本校舎へ押しかけてきたのだ。
エース、デュース、リリア、セベクの4人と共に、倒しても倒してもキリがないゴースト達を振り切って運動場に避難した一同は、そこで他の教室から避難してきた生徒達とも合流を果たす。
どうやら既に本校舎全体が、ゴースト達に占拠されてしまったようだ。
「アズールさん」
「名無し、監督生さんと一緒だったんですね」
「はい。あの、お兄様たちは?」
「僕はリドルさんと一緒にカリムさんに勉強を教えていたので」
「そうですか…お2人とも、ゴーストさんに見つかっていなければいいのですが…。でもアズールさんがご無事でよかったです」
「それはこちらの台詞です。まったく…あなたは日に日に厄介ごとに巻き込まれやすくなっていて、気が気じゃありません」
「そうでしょうか…?」
「(無自覚だから余計に困るんですよ…)」
運動場にはアズール、リドル、カリムの他にもヴィル、ルーク、エペル、ケイト、レオナが集まっていた。
オルトは彼らにも、こうなってしまった経緯を説明する。
最初こそ皆、笑い話として受け取っていたのだが、そんな彼らにクロウリーは酷く深刻な様子で、"ゴーストと結婚する"ことがどういうことなのかを話して聞かせた。
ゴーストとの結婚は、『死者と永遠に連れ添う』という契約を結ぶこと。
つまり、このままではさらわれたイデアは魂を抜かれ、あの世へ連れて行かれてしまうのだ。
「そんなのだめ!お願い学園長。兄さんを助けて!」
「もちろんです」
必死に懇願するオルトに頷くクロウリー。
彼は生徒達が仲間を助ける為に一致団結すると思っていたようだが、一致したのは仲間意識ではなく、拒絶の意思だった。
いくら深刻な問題でも、イデアは友達でも何でもない赤の他人。助ける義理はない。そう突っぱねられてしまう。
イデアの普段から人を寄せ付けない態度が、ここへきて仇となってしまった。
「オルトくん…」
「やめなさい、名無し」
それでも、名無しは皆から突き放されて落ち込むオルトを気遣って声をかけようとしたのだが、アズールがそれを制止した。
「アズールさん、でも…」
「ジェイドとフロイドに心配をかけたくはないでしょう」
「…。」
兄達の名前を出されて、名無しは言葉を詰まらせる。
オルトにとってそうであるように、名無しにとっても自分の兄達が一番大切なのだ。
オルトの力にはなってあげたいし、イデアのことも放っておけないが、アズールに言われた通り、兄達に心配はかけたくない。
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