武人たちの精彩
星を救う使命を全うして、最果ての地から帰還を果たした暁の血盟が解散したという情報を世界中の誰もが知るところとなった時分。
太守ヴリトラ直々の招きでラザハンに滞在をし続けていたエスティニアンの日常に、ようやく変化が生じた。
それは、星戦士団に稽古をつけてやってほしい、という極めて簡潔な形での依頼が、ヴリトラから舞い込んだことによるものだった。
終末の災厄によりアーテリス全体が存亡の危機に曝されるという事態は解消されたものの、以後も世界各地では残滓とでも言うべき状態で散発的に偽神獣の事件が発生しており、獣化してしまった者の魂がそれぞれの地の勇士によって鎮められたという情報は、その都度各国の盟主たちが発信と共有をしていた。
それらは当然、ラザハン太守の耳にも入れられている。
上空を覆う天脈が他国のそれよりも薄かったという地理的な悪条件により、ラザハンを擁するサベネア島全域が終末の災厄始まりの地となってしまったことは不幸極まりなかったが、そのときの過酷な経験は現在、この地の守護を務める星戦士団が偽神獣に対処する戦法を、他のどの国の軍事組織よりも熟知していることの礎となっていた。
そんな星戦士団を更に鍛え上げることができるのは、終末の災厄でサベネア島の空が燃えていた時に彼らの前で戦う姿を見せ続けた、暁の血盟のメンバーをおいて他ならない。
今後、他国で偽神獣事件が発生して救援の要請がラザハンに寄せられた場合、即座に星戦士団の精鋭を派遣できるように備えておきたいのだろう。
そのためにこそ自分はラザハンへと招聘され、そして現在こうなっているのだ。
エスティニアンはヴリトラからの依頼を、そのように解釈していた。
太守の賓客として散々もてなされたことを代償として過酷な任務を押し付けられてしまうのではなかろうかという、待機をしている中で懸念をしていた形ではなかったものの、その依頼を了承した直後、エスティニアンは拍子抜けすると同時に別の問題に直面した。
竜騎士団在籍時代を振り返ってみればドラゴン族との戦いで最前線へと赴く日々の繰り返しで、エスティニアン自身が後進の指導に携わったことなど一切無かったからだ。
そんな彼の心境をヴリトラが敏感に感じ取ることができたのは、長年にわたりサベネア島の人々を見守り続けてきたことにより鍛え上げられた観察眼によるものか。
エスティニアンが微かな困惑の様相を浮かべながら二の句を継ぐよりも前に、ヴリトラは一言を添えた。
星戦士団を束ねるナブディーンという男は気さくな人柄なので、そう身構える必要はない。
まずは雑談から始めてみれば良いのではなかろうか、と。
手始めに雑談を、などと、ヴリトラは随分と気楽に言ってくれたものだ。
初対面の人物にそんな切り口で接触を試みることこそ、自らの最も苦手とするところなのだが……と、エスティニアンは苦笑した。
しかし依頼を引き受けた以上、事態を拗らせることなく依頼内容を先に進めなければならない。
あれこれと考えあぐねて思考を一回りさせた結果、いっそそのような小細工をするよりも先方にこちらの性分を把握してもらっておいた方が簡単で、なおかつ先々の都合が良いだろうという結論に至ったエスティニアンは、ヴリトラの助言そのものを雑談の話題とすることでナブディーンとの対面を果たした。
結果、ナブディーンは豪快な高笑いをした後に星戦士団員たちへとエスティニアンを紹介し、一通りの質疑応答を経てから、元蒼の竜騎士による戦闘技術指南の日々が始まったのだった。
いざ関わってみれば、ナブディーンは実に小気味良い男だということがすぐにわかった。
任務に対して常に実直で、部下たちからの信頼は厚く、市井における評判もすこぶる良い。
常日頃の言葉遣いを若干粗野だと受け取る者もいるだろうが、この国の主要産業を担っている漁師や石工といった威勢のいい連中と関わる際には、それが絶妙な形で潤滑剤の役割を果たすようだ。
そんな諸々が彼の持ち味であり、また、好感度の決め手となっているようにも思える。
アイメリクや光の戦士、アルフィノ、ガイウスとの第一印象とは異なっていたが、熱く、馬鹿正直でまっすぐなところは、彼らと共通している印象がある。
エスティニアンの視点でのナブディーンの人となりは、指南役として星戦士団と関わる日々を送ることで、そのように固まっていった。
太守ヴリトラ直々の招きでラザハンに滞在をし続けていたエスティニアンの日常に、ようやく変化が生じた。
それは、星戦士団に稽古をつけてやってほしい、という極めて簡潔な形での依頼が、ヴリトラから舞い込んだことによるものだった。
終末の災厄によりアーテリス全体が存亡の危機に曝されるという事態は解消されたものの、以後も世界各地では残滓とでも言うべき状態で散発的に偽神獣の事件が発生しており、獣化してしまった者の魂がそれぞれの地の勇士によって鎮められたという情報は、その都度各国の盟主たちが発信と共有をしていた。
それらは当然、ラザハン太守の耳にも入れられている。
上空を覆う天脈が他国のそれよりも薄かったという地理的な悪条件により、ラザハンを擁するサベネア島全域が終末の災厄始まりの地となってしまったことは不幸極まりなかったが、そのときの過酷な経験は現在、この地の守護を務める星戦士団が偽神獣に対処する戦法を、他のどの国の軍事組織よりも熟知していることの礎となっていた。
そんな星戦士団を更に鍛え上げることができるのは、終末の災厄でサベネア島の空が燃えていた時に彼らの前で戦う姿を見せ続けた、暁の血盟のメンバーをおいて他ならない。
今後、他国で偽神獣事件が発生して救援の要請がラザハンに寄せられた場合、即座に星戦士団の精鋭を派遣できるように備えておきたいのだろう。
そのためにこそ自分はラザハンへと招聘され、そして現在こうなっているのだ。
エスティニアンはヴリトラからの依頼を、そのように解釈していた。
太守の賓客として散々もてなされたことを代償として過酷な任務を押し付けられてしまうのではなかろうかという、待機をしている中で懸念をしていた形ではなかったものの、その依頼を了承した直後、エスティニアンは拍子抜けすると同時に別の問題に直面した。
竜騎士団在籍時代を振り返ってみればドラゴン族との戦いで最前線へと赴く日々の繰り返しで、エスティニアン自身が後進の指導に携わったことなど一切無かったからだ。
そんな彼の心境をヴリトラが敏感に感じ取ることができたのは、長年にわたりサベネア島の人々を見守り続けてきたことにより鍛え上げられた観察眼によるものか。
エスティニアンが微かな困惑の様相を浮かべながら二の句を継ぐよりも前に、ヴリトラは一言を添えた。
星戦士団を束ねるナブディーンという男は気さくな人柄なので、そう身構える必要はない。
まずは雑談から始めてみれば良いのではなかろうか、と。
手始めに雑談を、などと、ヴリトラは随分と気楽に言ってくれたものだ。
初対面の人物にそんな切り口で接触を試みることこそ、自らの最も苦手とするところなのだが……と、エスティニアンは苦笑した。
しかし依頼を引き受けた以上、事態を拗らせることなく依頼内容を先に進めなければならない。
あれこれと考えあぐねて思考を一回りさせた結果、いっそそのような小細工をするよりも先方にこちらの性分を把握してもらっておいた方が簡単で、なおかつ先々の都合が良いだろうという結論に至ったエスティニアンは、ヴリトラの助言そのものを雑談の話題とすることでナブディーンとの対面を果たした。
結果、ナブディーンは豪快な高笑いをした後に星戦士団員たちへとエスティニアンを紹介し、一通りの質疑応答を経てから、元蒼の竜騎士による戦闘技術指南の日々が始まったのだった。
いざ関わってみれば、ナブディーンは実に小気味良い男だということがすぐにわかった。
任務に対して常に実直で、部下たちからの信頼は厚く、市井における評判もすこぶる良い。
常日頃の言葉遣いを若干粗野だと受け取る者もいるだろうが、この国の主要産業を担っている漁師や石工といった威勢のいい連中と関わる際には、それが絶妙な形で潤滑剤の役割を果たすようだ。
そんな諸々が彼の持ち味であり、また、好感度の決め手となっているようにも思える。
アイメリクや光の戦士、アルフィノ、ガイウスとの第一印象とは異なっていたが、熱く、馬鹿正直でまっすぐなところは、彼らと共通している印象がある。
エスティニアンの視点でのナブディーンの人となりは、指南役として星戦士団と関わる日々を送ることで、そのように固まっていった。
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