ハイデリンの使徒

「もう逢うことは叶わないと思っていたから、この目で最後に顔を見ることができて嬉しいよ」

 遂に首都・アーモロートにまで直接災厄の影響が及び、ゾディアークの召喚が間近に迫った時。
 ヒュトロダエウスは、白いローブ姿で現れた親友との再会を果たした。
「エメトセルクから話を聞いても信じられなかったけど、その姿……。キミは本当に、十四人委員会を辞めてしまったのか。でも、アゼムの仮面は身に着けず持ち歩いている……。そっか。キミは、次のアゼムを探す旅に出るんだね」
「バレたか。やっぱりヒュトロダエウスには叶わないなぁ。そう解釈してもらって構わないよ」
 アゼムは驚いた後、寂しげに微笑みながらヒュトロダエウスの問いに頷く。
「ヒュトロダエウスは、その……ゾディアークに?」
 続けて申し訳なさそうな風情で出されたアゼムの問いかけにヒュトロダエウスは、おそらくは敢えてそうしたのだろう。いつも通りの飄々とした空気を纏いながら応じた。

「うん。幸いなことに生き残りはしたけど、世界がこうなってしまっては、もう創造物管理局の局長としてできる仕事は無いでしょ。そんな今のワタシにできることといえば、視ることだからね。これに関しては、誰にも負けない。エメトセルクは召喚者として外からゾディアークを支える。そしてワタシはゾディアークの目に成って、中から支えるんだ」

 アゼムは、事実として知っていた。
 ヒュトロダエウスがゾディアークの贄となることを。
 遠い未来で、アシエン・ファダニエルの手によって彼の魂がゾディアークごと滅せられてしまうことを。
 そして滅せられる直前に彼の魂がハイデリンの使徒との邂逅を果たし、その背を押していたことを。
 その事実のために自分は、ここで彼を見送らねばならないのだということを。

「ねえ、そんな顔しないでよ。うん、大丈夫。ゾディアークに成ったら、ワタシはこの星全体を視渡すことができるんだ。キミがどこで旅をしていても、ずっと見守っているからさ。だからキミは生き延びて……どこまでもキミの道を進むんだ」

 ──ああ……ヒュトロダエウスは、ここでも背を押してくれるのか。

 この涙の複雑さは、本質と真実を見抜く彼の目をもってしても見抜かれてはいまい。
 今はただ、別離を惜しむ親友からの手向けとして受け取ってもらえれば、それでいい。

 涙目のままアゼムはヒュトロダエウスを見つめ、そして微笑んだ。
「ありがとう。それじゃ、行ってくるよ」
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