全てを抱く風
イシュガルド・ランディングの石畳を踏みしめるのは、随分と久方振りだ。
以前この場に立ったのはルナバハムートの正体を解明するべくティアマットを訪ねようとしていたときで、ここで相棒たちと合流をしたのだったな……。
エスティニアンは飛空艇から降りると、思わぬ再会と初顔合わせによってこの場で繰り広げられた一連の騒動を思い出し、ひとり静かに苦笑をした。
ラザハンの星戦士団に稽古をつけるという、意義はあれど単調でもある日々をサベネア島で送っていたエスティニアンの元に、光の戦士から連絡が舞い込んだ。
聞けば、急ぎの用ではないが半日ほど付き合ってほしい、とのこと。
冒険者から待ち合わせの場として指定をされたのは、エスティニアン自身の家。
神殿騎士団から蒼の竜騎士に貸与されている邸宅だった。
イシュガルド・ランディングに降り立った当初から、冒険者の身に宿る竜の魔力は感じ取れなかった。
となれば彼女よりも自らが先に到着した状態となるため、家主の立場としては冷え切っている室内を少しでも暖めておかねばならない。
そのような結論に至ったエスティニアンは足早に歩を進めると、上層の一角にある自宅へとたどり着く。
屋敷に入り手早く照明を点け、暖炉の火起こしを終えて湯を沸かしながらひと息をついていると、そこに冒険者が到着した。
「わざわざここを指定して呼び出すとは、どういった風の吹き回しだ?」
「天の果てに新しい風が吹いたから、かしら」
大きめの箱を両手で大事そうに抱えた冒険者から笑顔で出された返事を聞いた途端、エスティニアンは目を見開いた。
「……ウルティマ・トゥーレに、何か変化が?」
その問いに頷いた冒険者はエスティニアンの側へ歩み寄ると、応接セットの卓上に箱を静かに置いてから、エスティニアンの対面に位置するソファーへと腰を下ろした。
「暁の血盟が解散した後に観測されたことなんだけど、ウルティマ・トゥーレに再現されていたアルファトロン文明の兵器製造機が、レムナントから放出されたエネルギー波を浴びたことで動き始めてしまっていてね」
「それは、竜星を滅ぼした機械文明……だったか?」
ウルティマ・トゥーレの道を拓くためにリア・ターラで仲間たちを見送ったことで、その先に再現されていたアルファトロン文明の検分をすることが叶わなかったエスティニアンは、帰還後に皆で報告書を作成した際に知らされた情報を記憶からたぐり寄せた。
「ええ。その機械はエネルギー波を「生きろ」という命令として受け取って動き出したの。兵器製造機にとって「生きる」ことは新しい兵器を作って侵略をし続けることだから、そのままにしておくとこちらに攻め込まれてしまう可能性が出てきちゃって」
出された茶を口にしながら、文字通り茶飲み話の体裁で極めて危機的な状況としか思えない内容をさらりと口にした冒険者を見て、エスティニアンは愕然となった。
「おい、それはどう考えてもまずい状況だろう。こんな所で呑気に茶をしばいてる場合か?」
ティーカップを傾けた状態でエスティニアンの驚愕の声を受け止めた冒険者は、左手を掲げることで制止の意思表示をして口に含んだ茶を飲み下すと、話を続ける。
「ごめん、お茶をいただくタイミングを間違えちゃった。その機械……スティグマ・フォーという名前なのだけど、それが動き始めたことにレポリットが気付いて、私が呼ばれて、アルファトロン文明の一人も加わって、色々な対策を講じたの。そして「生きる」意味の解釈を「滅亡した文明を再現して希望を抱いてもらう」という形に置き換えたから、スティグマ・フォーが兵器を作って侵略活動に邁進することは阻止できたわ」
固唾を飲んで冒険者の話を聞き込んでいたエスティニアンは、事の顛末を把握すると脱力し、ソファーの背もたれに身体を預けて天井を見上げながら大きなため息を吐いた。
「……つまりは凶悪極まりない能力を秘めた自我を持つ機械を屁理屈で丸め込んだ、と。ハイデリンの置き土産たちは、いとも簡単に俺たちの想像を超えてくれるな」
「ほんと、そうよね」
クスクスと笑い始めた冒険者を見て、エスティニアンも微かに笑みを浮かべる。
「でね。今はレポリットとオミクロン族……アルファトロン文明のヒトが協力をして、レムナントの真下に作ったカフェを運営してるのよ」
「カフェだと?」
今しがた脱力をしたばかりのエスティニアンは、全く想像の及ばなかった回答を受けて唖然とした表情になり、やっとのことで短く問い返した。
「レポリットの視点では何故だか、希望を伝える場という形でラストスタンドのイメージが固まっているみたいでね。そういう経緯で、カフェ計画が始まっちゃったの」
「ふむ……。カフェは希望を伝える場、か」
説明を聞きながら徐々に真顔となってゆき、最後には納得の一言をこぼしたエスティニアンを見た冒険者は、彼と入れ違いに驚きの表情を見せた。
「そこは不思議に思わなかった?」
首を傾げながら出された冒険者の質問に、エスティニアンは頷く。
「まあな。レポリットたちがオールド・シャーレアンをうろついていたのは魔導船の完成前で、技術者たちが行き詰まり思い悩んでいた時期だっただろう? その技術者たちに、あいつらがハイデリンから託された高度で多岐に亘る知識を、ここぞとばかりにばら撒いて回っていた。結果、ラストスタンドで新たな知識を交えて嬉々とした様子で語り合っていた技術者たちの姿をあいつらが目の当たりにしたであろうことは、想像に難くない。そのときの第一印象が、カフェの概念として固まったんじゃないか?」
「ああ、なるほど……」
目を丸くし、感嘆のため息とともに納得をした冒険者を見て、エスティニアンは口角を上げた。
「とにかく、そんな不思議な形ではあるけれど、カフェができたことでウルティマ・トゥーレは今、少しずつ変わっているのよ。メーティオンが「想いだけが真実となる世界」と言っていた通りにね」
「それが新しい風、か。わざわざ俺を呼び出してこうしているとなると、リア・ターラの竜たちにも変化が起きたんだな」
僅かながらに身を乗り出すことで圧をかけながら問うエスティニアンを見た冒険者は、微笑みを浮かべてから頷いた。
「ええ。私たちがカフェに招いた竜が、かつての竜星の風景を思い描くことができて、その想いがデュナミスを動かして、ほんの少しではあるけれど実際に景観を再現できたの」
「……そうか。あの場の竜たちが、絶望以外のことを思えるようになったと。何よりのことだ」
エスティニアンはゆっくりと目を閉じて微笑み、万感の思いを纏わせた言葉を口にした。
「でね。竜をカフェに招くにあたって新しく考えたメニューが、これなの。ここで……イシュガルドで、貴方に見てもらいたくて」
持参した箱を冒険者がテーブルの中心へと移動させて下部の四辺に施された留め具を外し、覆いとなっていた部分を持ち上げることで、その中身はエスティニアンの眼前で、トレイに載せられた一皿のスイーツとして露わとなった。
「ほう……。ソーム・アル・オ・マロンと似ているな」
驚きの響きを微かに帯びたエスティニアンの問いに、冒険者は頷いてから語り始めた。
「ええ。ソーム・アル・オ・マロンを参考にして出来上がったものだから、ドラゴンスター・オ・マロン、と名付けたわ。私たちが単に呼び掛けるだけでは、リア・ターラの竜の心を動かすことはできなくて。それなら竜のことは竜に訊ねればいいかもしれない、って流れになって、ヴィゾーヴニルに相談を持ち掛けたの。そのときにヴィゾーヴニルが聞かせてくれた話が……」
「ミドガルズオルムが幾度となく語って聞かせていた竜星の光景をニーズヘッグとフレースヴェルグが心に思い描き、それをアーテリスで探し求め飛び回った結果、ソーム・アルにたどり着いた、だな」
「えっ? 知っていたの? もしかしてイシュガルドでは有名な話だったりした?」
エスティニアンは目を丸くした冒険者を見て、静かに首を横に振った。
「いや。今の話は、俺が垣間見たニーズヘッグの記憶そのものだ。これまでずっとニーズヘッグの夢想である可能性を捨てきれずにいたんだが、同様の話をヴィゾーヴニルがフレースヴェルグから伝え聞いていたとなると、それが真実だったのだと判断をすることができるな」
エスティニアンの表情は口調と同様にとても穏やかなものとなっており、冒険者はその様子を目の当たりにしたことで、この地で新たな霊峰を探し求めた天竜の兄弟が、ソーム・アルをそれと定めた当時の歓びや安息といった感情を追体験させられたかのような想いに浸っていた。
「四人でドラヴァニアを旅していたときから、ドラゴン族は山に特別な思いを抱いているんだなって感じてはいたけど、それを今回の出来事で改めて思い知ることができたわ」
しみじみと語ってから再びティーカップに手を伸ばす冒険者の前で、エスティニアンは卓上にそびえる新作スイーツ、ドラゴンスター・オ・マロンを改めて見つめた。
「ソーム・アル・オ・マロンの内に練り込まれた、竜詩戦争時代のイシュガルド人の思惑を考えると、随分と奇妙な展開をしたものだと思ってしまうがな」
「でしょう? 竜との戦いに赴く軍勢を鼓舞する目的で霊峰を模ったものが、天の果てで嘆く竜の心を癒す手助けになるだなんて……。そしてスイーツを完成させたのが、竜星を攻略したときに景観を正確に記録していたオミクロン族だというところも、皮肉なものよね」
「まったくだ」
エスティニアンは苦笑しながら冒険者に同意をすると、自らの茶を一気に飲み干した。
「これを俺にここで見せたかった、という理由は、そういうことか」
「ええ。イシュガルド人の……今は人と竜との間を取り持っている、リア・ターラの竜たちに最初の風を贈ってくれた貴方に、まず知ってもらいたくて」
冒険者は笑顔で応じながら、ドラゴンスター・オ・マロンの載せられたトレイに先ほど外した覆いを被せて、再び持ち運べる体裁とした。
「あとね。これをヴィゾーヴニルにも見せに行きたいから、そちらもつきあって欲しいの」
以前この場に立ったのはルナバハムートの正体を解明するべくティアマットを訪ねようとしていたときで、ここで相棒たちと合流をしたのだったな……。
エスティニアンは飛空艇から降りると、思わぬ再会と初顔合わせによってこの場で繰り広げられた一連の騒動を思い出し、ひとり静かに苦笑をした。
ラザハンの星戦士団に稽古をつけるという、意義はあれど単調でもある日々をサベネア島で送っていたエスティニアンの元に、光の戦士から連絡が舞い込んだ。
聞けば、急ぎの用ではないが半日ほど付き合ってほしい、とのこと。
冒険者から待ち合わせの場として指定をされたのは、エスティニアン自身の家。
神殿騎士団から蒼の竜騎士に貸与されている邸宅だった。
イシュガルド・ランディングに降り立った当初から、冒険者の身に宿る竜の魔力は感じ取れなかった。
となれば彼女よりも自らが先に到着した状態となるため、家主の立場としては冷え切っている室内を少しでも暖めておかねばならない。
そのような結論に至ったエスティニアンは足早に歩を進めると、上層の一角にある自宅へとたどり着く。
屋敷に入り手早く照明を点け、暖炉の火起こしを終えて湯を沸かしながらひと息をついていると、そこに冒険者が到着した。
「わざわざここを指定して呼び出すとは、どういった風の吹き回しだ?」
「天の果てに新しい風が吹いたから、かしら」
大きめの箱を両手で大事そうに抱えた冒険者から笑顔で出された返事を聞いた途端、エスティニアンは目を見開いた。
「……ウルティマ・トゥーレに、何か変化が?」
その問いに頷いた冒険者はエスティニアンの側へ歩み寄ると、応接セットの卓上に箱を静かに置いてから、エスティニアンの対面に位置するソファーへと腰を下ろした。
「暁の血盟が解散した後に観測されたことなんだけど、ウルティマ・トゥーレに再現されていたアルファトロン文明の兵器製造機が、レムナントから放出されたエネルギー波を浴びたことで動き始めてしまっていてね」
「それは、竜星を滅ぼした機械文明……だったか?」
ウルティマ・トゥーレの道を拓くためにリア・ターラで仲間たちを見送ったことで、その先に再現されていたアルファトロン文明の検分をすることが叶わなかったエスティニアンは、帰還後に皆で報告書を作成した際に知らされた情報を記憶からたぐり寄せた。
「ええ。その機械はエネルギー波を「生きろ」という命令として受け取って動き出したの。兵器製造機にとって「生きる」ことは新しい兵器を作って侵略をし続けることだから、そのままにしておくとこちらに攻め込まれてしまう可能性が出てきちゃって」
出された茶を口にしながら、文字通り茶飲み話の体裁で極めて危機的な状況としか思えない内容をさらりと口にした冒険者を見て、エスティニアンは愕然となった。
「おい、それはどう考えてもまずい状況だろう。こんな所で呑気に茶をしばいてる場合か?」
ティーカップを傾けた状態でエスティニアンの驚愕の声を受け止めた冒険者は、左手を掲げることで制止の意思表示をして口に含んだ茶を飲み下すと、話を続ける。
「ごめん、お茶をいただくタイミングを間違えちゃった。その機械……スティグマ・フォーという名前なのだけど、それが動き始めたことにレポリットが気付いて、私が呼ばれて、アルファトロン文明の一人も加わって、色々な対策を講じたの。そして「生きる」意味の解釈を「滅亡した文明を再現して希望を抱いてもらう」という形に置き換えたから、スティグマ・フォーが兵器を作って侵略活動に邁進することは阻止できたわ」
固唾を飲んで冒険者の話を聞き込んでいたエスティニアンは、事の顛末を把握すると脱力し、ソファーの背もたれに身体を預けて天井を見上げながら大きなため息を吐いた。
「……つまりは凶悪極まりない能力を秘めた自我を持つ機械を屁理屈で丸め込んだ、と。ハイデリンの置き土産たちは、いとも簡単に俺たちの想像を超えてくれるな」
「ほんと、そうよね」
クスクスと笑い始めた冒険者を見て、エスティニアンも微かに笑みを浮かべる。
「でね。今はレポリットとオミクロン族……アルファトロン文明のヒトが協力をして、レムナントの真下に作ったカフェを運営してるのよ」
「カフェだと?」
今しがた脱力をしたばかりのエスティニアンは、全く想像の及ばなかった回答を受けて唖然とした表情になり、やっとのことで短く問い返した。
「レポリットの視点では何故だか、希望を伝える場という形でラストスタンドのイメージが固まっているみたいでね。そういう経緯で、カフェ計画が始まっちゃったの」
「ふむ……。カフェは希望を伝える場、か」
説明を聞きながら徐々に真顔となってゆき、最後には納得の一言をこぼしたエスティニアンを見た冒険者は、彼と入れ違いに驚きの表情を見せた。
「そこは不思議に思わなかった?」
首を傾げながら出された冒険者の質問に、エスティニアンは頷く。
「まあな。レポリットたちがオールド・シャーレアンをうろついていたのは魔導船の完成前で、技術者たちが行き詰まり思い悩んでいた時期だっただろう? その技術者たちに、あいつらがハイデリンから託された高度で多岐に亘る知識を、ここぞとばかりにばら撒いて回っていた。結果、ラストスタンドで新たな知識を交えて嬉々とした様子で語り合っていた技術者たちの姿をあいつらが目の当たりにしたであろうことは、想像に難くない。そのときの第一印象が、カフェの概念として固まったんじゃないか?」
「ああ、なるほど……」
目を丸くし、感嘆のため息とともに納得をした冒険者を見て、エスティニアンは口角を上げた。
「とにかく、そんな不思議な形ではあるけれど、カフェができたことでウルティマ・トゥーレは今、少しずつ変わっているのよ。メーティオンが「想いだけが真実となる世界」と言っていた通りにね」
「それが新しい風、か。わざわざ俺を呼び出してこうしているとなると、リア・ターラの竜たちにも変化が起きたんだな」
僅かながらに身を乗り出すことで圧をかけながら問うエスティニアンを見た冒険者は、微笑みを浮かべてから頷いた。
「ええ。私たちがカフェに招いた竜が、かつての竜星の風景を思い描くことができて、その想いがデュナミスを動かして、ほんの少しではあるけれど実際に景観を再現できたの」
「……そうか。あの場の竜たちが、絶望以外のことを思えるようになったと。何よりのことだ」
エスティニアンはゆっくりと目を閉じて微笑み、万感の思いを纏わせた言葉を口にした。
「でね。竜をカフェに招くにあたって新しく考えたメニューが、これなの。ここで……イシュガルドで、貴方に見てもらいたくて」
持参した箱を冒険者がテーブルの中心へと移動させて下部の四辺に施された留め具を外し、覆いとなっていた部分を持ち上げることで、その中身はエスティニアンの眼前で、トレイに載せられた一皿のスイーツとして露わとなった。
「ほう……。ソーム・アル・オ・マロンと似ているな」
驚きの響きを微かに帯びたエスティニアンの問いに、冒険者は頷いてから語り始めた。
「ええ。ソーム・アル・オ・マロンを参考にして出来上がったものだから、ドラゴンスター・オ・マロン、と名付けたわ。私たちが単に呼び掛けるだけでは、リア・ターラの竜の心を動かすことはできなくて。それなら竜のことは竜に訊ねればいいかもしれない、って流れになって、ヴィゾーヴニルに相談を持ち掛けたの。そのときにヴィゾーヴニルが聞かせてくれた話が……」
「ミドガルズオルムが幾度となく語って聞かせていた竜星の光景をニーズヘッグとフレースヴェルグが心に思い描き、それをアーテリスで探し求め飛び回った結果、ソーム・アルにたどり着いた、だな」
「えっ? 知っていたの? もしかしてイシュガルドでは有名な話だったりした?」
エスティニアンは目を丸くした冒険者を見て、静かに首を横に振った。
「いや。今の話は、俺が垣間見たニーズヘッグの記憶そのものだ。これまでずっとニーズヘッグの夢想である可能性を捨てきれずにいたんだが、同様の話をヴィゾーヴニルがフレースヴェルグから伝え聞いていたとなると、それが真実だったのだと判断をすることができるな」
エスティニアンの表情は口調と同様にとても穏やかなものとなっており、冒険者はその様子を目の当たりにしたことで、この地で新たな霊峰を探し求めた天竜の兄弟が、ソーム・アルをそれと定めた当時の歓びや安息といった感情を追体験させられたかのような想いに浸っていた。
「四人でドラヴァニアを旅していたときから、ドラゴン族は山に特別な思いを抱いているんだなって感じてはいたけど、それを今回の出来事で改めて思い知ることができたわ」
しみじみと語ってから再びティーカップに手を伸ばす冒険者の前で、エスティニアンは卓上にそびえる新作スイーツ、ドラゴンスター・オ・マロンを改めて見つめた。
「ソーム・アル・オ・マロンの内に練り込まれた、竜詩戦争時代のイシュガルド人の思惑を考えると、随分と奇妙な展開をしたものだと思ってしまうがな」
「でしょう? 竜との戦いに赴く軍勢を鼓舞する目的で霊峰を模ったものが、天の果てで嘆く竜の心を癒す手助けになるだなんて……。そしてスイーツを完成させたのが、竜星を攻略したときに景観を正確に記録していたオミクロン族だというところも、皮肉なものよね」
「まったくだ」
エスティニアンは苦笑しながら冒険者に同意をすると、自らの茶を一気に飲み干した。
「これを俺にここで見せたかった、という理由は、そういうことか」
「ええ。イシュガルド人の……今は人と竜との間を取り持っている、リア・ターラの竜たちに最初の風を贈ってくれた貴方に、まず知ってもらいたくて」
冒険者は笑顔で応じながら、ドラゴンスター・オ・マロンの載せられたトレイに先ほど外した覆いを被せて、再び持ち運べる体裁とした。
「あとね。これをヴィゾーヴニルにも見せに行きたいから、そちらもつきあって欲しいの」
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