双竜の冒険

「さすがは冒険者さんだす! こんな量の塩をすぐに用意できる人は、あんたの他にはカルザールさんくらいしかオラには思い当たらないだす!」
 大量の塩を抱えて1属時ほどでアキャーリへと戻った冒険者を、マトシャは称賛の言葉で迎えた。
「俺もどうなることかと思っていたが……。いったい、どこで仕入れてきたんだ?」
 商店で家庭用に小売りされている量の塩しか思い浮かべることのできなかったエスティニアンは、驚きの表情と声音で冒険者に問いかけた。
「私も、最初はどうしたものかと思ったんだけど」
 冒険者は、目の前で驚く二人に苦笑をしてから話を続けた。
「西ラノシアのハーフストーンという所にサハギン族が暮らしていてね。そこならいつも塩を扱っているから、沢山買い込んでも大丈夫だろうと思って。この量は、さすがに驚かれたけどもね」
「サハギン族というと、あれか。女王が偽神獣化してしまったという部族の……」
 エスティニアンの問いに冒険者が無言で頷く様子を見たマトシャは、その瞳を曇らせてから静かに目を伏せた。
「女王さまが獣になってしまっただなんて……。ほかの国でも、終末の騒動があったんだすな」
「ああ。サハギン族の終末騒動は、こいつが出向いて鎮めたのさ」
「なるほど。ならサハギン族はオラたちと同じで、返しても返しきれない恩をあんたに感じてるんだす。だから、突然の大量注文に応えてくれたのも当然だす」
 冒険者はエスティニアンとマトシャの言葉を、照れくさそうな表情を浮かべて受け止める。
「あちこちに首を突っ込んでいた甲斐があったというわけね。それはそうと、イカは塩漬けにしたらしばらく寝かせるのでしょう? そこまで済ませて、終わったら晩ごはんを食べにヒッポ便の拠点に行きましょう。マトシャには今日のお礼代わりにご馳走したいし、食事をしながら今後の作業についてを教えてほしいわ」
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