双竜の冒険
足を運んだ海底遺跡で二人は予定通り大型海洋生物たちに襲われ、それを返り討ちとすることで、一匹の大イカを確保することに成功した。
仕留めた大イカを海面まで運ぶことにさしたる苦労は無かったのだが、借りた漁船に持ち上げることまでは叶わず、漁網に納めて引く形で海岸まで移動をした。
「無事に戻ってこられて良かっただす……って、すんごい大物を獲ってきたんだすな!」
アキャーリの波打ち際に接岸させた漁船から冒険者が飛び降り、次いで飛び降りたエスティニアンが波打ち際で漁網を開いたことで露わとなった大イカの姿を目の当たりにしたマトシャが、驚愕の声を上げて二人を迎えた。
「ただいま、マトシャ。船を貸してくれてありがとう。今度は、あのイカを干物にする手順を教えてくれるかしら」
「その前に、コイツを乗せることのできる板が欲しいところだ。掴みどころが無く、このままでは担ぎ上げることすらできん」
波打ち際まで歩み寄ったマトシャは、エスティニアンの要望を受けて大イカの姿をじっくりと見渡し、しばらく考え込んでから応じた。
「作業場の床板を使えば、何とかなりそうだす。倉庫に予備の板があるから、それを持ってくるだす」
大イカはしばしの後、マトシャが倉庫から持ち出した数枚の床板を突貫で繋ぎ合わせた、すのこ状の台の上に乗せられた。
三人は、なんとか乗せることができたという状態の大イカを改めて見おろし、これをどうしたものかとそれぞれが思案をする。
とはいえ紅の竜騎士たちは水産物加工の知識など当然持ち合わせてはいないので、これからすることになるであろう作業を想像しつつ、その道の専門家であるマトシャの発言を待つ状態でもあった。
「干物にするイカは最初に内臓を取り除いて身をきれいに洗うんだすが、この大きさだと、そこまでの作業はこのまま波打ち際で済ませるべきだすな。解体はオラがやるので、あんたは海の水を汲んできて、汚れを流すときにかけてほしいだす」
「わかった。海水を汲む桶は、あそこに積まれているものを使えばいいのか?」
マトシャからの指示を受けたエスティニアンは、作業小屋の脇に積まれている桶を指して問う。
「桶は、あれでいいだすよ。そしてあんたには、オラたちがイカを洗ってる間に別のことをお願いするだす」
エスティニアンへの指示を出し終えたマトシャは、次に冒険者の側に向き直って話を続けた。
「イカの身をきれいにした後は、まず塩漬けにするんだす。でも、さすがにこの大きさのイカを覆い隠せる量の塩の蓄えはこの村に無いから、あんたには沢山の塩の調達をお願いするだす」
マトシャの口から平然と出された指示を受け止めた冒険者の表情は、途端に愕然としたものとなった。
「たっ、沢山となると、100ポンズくらいかしら」
「うーん……」
マトシャは改めて大イカを見ながらしばらく考え込み、今度は具体的な重量を提示した。
「足りなくなって塩漬けの作業が中断することは避けたいんだす。だから、130ポンズお願いするだす」
そんな二人の会話を余すところなく長耳で拾っていたエスティニアンは、作業小屋から波打ち際へと戻る途中で冒険者と同様に愕然となって立ち尽くし、彼の両手から砂浜へと落ちてしまった桶が、サクサクと立て続けに小さな音を立てた。
仕留めた大イカを海面まで運ぶことにさしたる苦労は無かったのだが、借りた漁船に持ち上げることまでは叶わず、漁網に納めて引く形で海岸まで移動をした。
「無事に戻ってこられて良かっただす……って、すんごい大物を獲ってきたんだすな!」
アキャーリの波打ち際に接岸させた漁船から冒険者が飛び降り、次いで飛び降りたエスティニアンが波打ち際で漁網を開いたことで露わとなった大イカの姿を目の当たりにしたマトシャが、驚愕の声を上げて二人を迎えた。
「ただいま、マトシャ。船を貸してくれてありがとう。今度は、あのイカを干物にする手順を教えてくれるかしら」
「その前に、コイツを乗せることのできる板が欲しいところだ。掴みどころが無く、このままでは担ぎ上げることすらできん」
波打ち際まで歩み寄ったマトシャは、エスティニアンの要望を受けて大イカの姿をじっくりと見渡し、しばらく考え込んでから応じた。
「作業場の床板を使えば、何とかなりそうだす。倉庫に予備の板があるから、それを持ってくるだす」
大イカはしばしの後、マトシャが倉庫から持ち出した数枚の床板を突貫で繋ぎ合わせた、すのこ状の台の上に乗せられた。
三人は、なんとか乗せることができたという状態の大イカを改めて見おろし、これをどうしたものかとそれぞれが思案をする。
とはいえ紅の竜騎士たちは水産物加工の知識など当然持ち合わせてはいないので、これからすることになるであろう作業を想像しつつ、その道の専門家であるマトシャの発言を待つ状態でもあった。
「干物にするイカは最初に内臓を取り除いて身をきれいに洗うんだすが、この大きさだと、そこまでの作業はこのまま波打ち際で済ませるべきだすな。解体はオラがやるので、あんたは海の水を汲んできて、汚れを流すときにかけてほしいだす」
「わかった。海水を汲む桶は、あそこに積まれているものを使えばいいのか?」
マトシャからの指示を受けたエスティニアンは、作業小屋の脇に積まれている桶を指して問う。
「桶は、あれでいいだすよ。そしてあんたには、オラたちがイカを洗ってる間に別のことをお願いするだす」
エスティニアンへの指示を出し終えたマトシャは、次に冒険者の側に向き直って話を続けた。
「イカの身をきれいにした後は、まず塩漬けにするんだす。でも、さすがにこの大きさのイカを覆い隠せる量の塩の蓄えはこの村に無いから、あんたには沢山の塩の調達をお願いするだす」
マトシャの口から平然と出された指示を受け止めた冒険者の表情は、途端に愕然としたものとなった。
「たっ、沢山となると、100ポンズくらいかしら」
「うーん……」
マトシャは改めて大イカを見ながらしばらく考え込み、今度は具体的な重量を提示した。
「足りなくなって塩漬けの作業が中断することは避けたいんだす。だから、130ポンズお願いするだす」
そんな二人の会話を余すところなく長耳で拾っていたエスティニアンは、作業小屋から波打ち際へと戻る途中で冒険者と同様に愕然となって立ち尽くし、彼の両手から砂浜へと落ちてしまった桶が、サクサクと立て続けに小さな音を立てた。