竜騎士のお悩み相談

 東西貿易の重要拠点として名高い交易都市ラザハンの一角に店を構えるメリードズメイハネは、内装だけでなく、店内で披露されている音楽や舞踏、提供される飲食物、その全てが極彩色と言い切っても良いほどに彩り豊かだ。
 客の大半を占めるのは、貿易従事者。
 つまり商船の運航を生業とし、長い航海で単調かつ簡素な日々を過ごしてきた人々である。
 そのような者たちが久方振りに大地を踏みしめて盛大な休息を取る場であるため、長期間に亘る船上生活で乾ききってしまった身心を潤し、次の港へ至るまでの英気を養ってもらうべく、彼らに求められるであろうものの大半を店という形の坩堝に放り込んでいるのだ。
 そこから醸し出される独特の雰囲気は、ある意味で一種の錬金術と解釈をしてもよいのかもしれない。

 建物の外周──数段の階段を上がったテラス部分の最奥にある客席は、店の呼びものを目で楽しむという点においては、その他の客席と比較をすると明らかに敬遠される位置だろう。
 ステージを観ようとすると袖の位置からの視点となるため、舞踏を繰り広げている踊り子たちの姿を辛うじて伺えはするものの、客席との間には大きな柱と観葉植物があり、それらが視界のかなりの領域を占めてしまうからだ。
 しかしステージを気にしないのであれば、最奥であるがゆえに人の往来が他の客席よりも格段に少なく、落ち着いて飲食ができる場となる。
 加えて、座る位置によっては背後を取られることを防ぎやすく、また、有事の際には容易に屋外へ……。

 と、注文した品を受け取るべくカウンターで待ちながら最奥の席へと視線を送り、そこまでを考えた冒険者は、脳裏に蘇ってしまった一件で危うく噴き出しそうになってしまい、懸命にそれを堪えた。
 サベネア島全体が有事となることは自然災害が発生してしまう他にはほぼなさそうだが、冒険者の視線の先にいる、ゆったりとした姿で佇む人物……エスティニアンがラザハンに逗留し続けていることで、彼にとって有事となり得る事態はいつ発生しても不思議ではないだろう、などと考えてしまったことが、冒険者が噴き出しそうになった原因だ。

「お待たせ致しました。余った食材は戴いてしまって、本当によろしいのですか?」
「ええ、もちろん! 突然の無理な注文を引き受けて下さってありがとうございます」
 冒険者は満面に笑みを浮かべて店主のメリードに礼を述べた後、配膳用のトレイに乗せられた二種類の料理と二杯の蒸留酒を受け取る。
「あなた様方からのご注文とあらば、何なりと、一同で万難を排して承ります。今後とも、どうぞご贔屓にお願い致しますね」
 そしてトレイを持つと、メリードの言葉に送られながら最奥の席へと向かった。
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