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竜騎士たちの休息

「間違ったサウナの使い方だとは思うけど、ここで焚き火をするわけにもいかないから、これが妥協策ってところかしら」
「火の管理をせずとも温まってくれるのだから、むしろ焚き火を使うより楽かもしれんな」

 米酒を入れた酒器をサウナの片隅に適当な時間放置することで、二人はスノーソーク浴場の設備内で温めた米酒を用意することに成功した。
 そして他の利用者の往来を邪魔せぬ場にトレイを置き、そこに酒とスルメを並べてから湯に浸かると盃を傾け始めた。

「さっきの報告、ミドガルズオルムに届いているといいわね」
「……そうだな」
 様々な想いを内包させた形で一言を返したエスティニアンは、盃を干すと手酌で米酒を注ぎ足した。
「グ・ラハ・ティアとの問答では、お前が以前ティアマットと対話をした際にはミドガルズオルムの分体が伴っていたそうだが、その言い方だと今は違うのか?」
 エスティニアンの問いを受けた冒険者は、その表情を曇らせると、返す言葉を導き出す手助けを求めるかのように酒を口にした。
「……昔のように付いてきていたら、ティアマットの前で姿を現して直接語り合ったと思うわ」
「それもそうか。すまん、愚問だったな」
 詫びを口にしたエスティニアンに向けて、冒険者は寂しげに微笑みながら首を横に振る。

「もう随分と前のことなのだけど、オメガとの戦いの中で、私が身体を拘束された状態で殺されかけたことがあってね。与えられた短い時間の間に私の力では拘束を解けそうにないと思われたのか、あるいは、宿敵であるオメガへの強烈な意思表示だったのか……。とにかく、ミドガルズオルムが魔力で実体を構築する形で無理やり次元の狭間に干渉をしてきて、拘束殻を噛み砕いて助けてくれたの」

「お前とミドガルズオルムとの間に、そんなことが……」
 冒険者が静かに語った壮絶な過去に衝撃を受けたエスティニアンは盃を手から落としてしまい、慌てて浴槽の底からそれを拾い上げた。
「ふふっ、お風呂の中で良かったわね。床だったら、きっと割れていたわ」
「そうだな」
 すかさず茶化してきた冒険者に向けてエスティニアンは苦笑をして肩を竦めると、盃をすすぐべく浴槽の中央にある噴水へと向かい、そして戻ってきた。
 再び隣に座ったエスティニアンの盃に、冒険者が酒を注ぎなおす。

「あの時に「無茶をした」と言っていたから、それまで蓄えていた魔力の殆どを使ってしまったんだと思うの。でも、その少し後でオメガを倒した時、次元の狭間に取り残されそうになった私たちを助けに来てくれたフレースヴェルグが「微睡みながらも、あの方は、必ず世界を見守っておられる」と言っていたから、ミドガルズオルムは、これから星の命運を賭けて戦いに臨むことになる私たちを見守ってくれているわ」

「ティアマットと同様に……いや、それ以上に、ミドガルズオルムはハイデリンに恩義を感じているとみていいのだろうな」
「そうね。そのハイデリンが今どういう状態なのかが、気になるところではあるけど」
「クルルの言っていた、力に陰りがあるのか、今のお前に力を貸す気が無いのか、というやつか」
 その言葉に頷く冒険者をチラリとみた後、エスティニアンは暫しの間考え込んだ。
「ヤ・シュトラの調査結果を元に解釈すれば、前者の可能性が高そうではあるな」
「どちらにしても、あてにしてはいけないってことね」
「フン。神頼みなど、そもそもしたところで何の意味も無いものだぞ」
 鼻で笑いながら一蹴をし、手にしたスルメを噛みちぎって仏頂面で咀嚼し始めたエスティニアンを見た冒険者は、微笑みを浮かべながら自らの盃を傾ける。

「この星を潰されてしまっては、元も子もないからな。それを阻止するために俺たちは槍を振るう。なに、実に単純なことじゃないか。そうだろう、相棒?」

 そう言い切ったエスティニアンは、冒険者にニヤリと不敵な笑いを見せた後に夜空の星を見上げながら盃を傾けた。

    ~ 完 ~

   初出/2021年4月19日 pixiv
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