悩ましき思い出
『お待たせ! さっきは慌ただしい返事になっちゃってごめんなさい。今日はどうしたの?』
宣言通りに連絡を入れなおしてきた光の戦士からの通信音は、今度は彼女の声のみで構成されていた。
「慌ただしいどころか随分と混乱していたようにしか思えんが、大丈夫なのか?」
『大丈夫よ。参加も離脱も好きなタイミングでできる集まりだから』
「ふむ……ならばいいが。実は、こちらでお前に見極めてもらいたい件がある。不浄の三塔の上に居るので来てくれ」
ほどなくしてソーム・アルの山腹側からチョコボの羽音が聴こえ、振り向いたエスティニアンの前に黒チョコボに跨った暗黒騎士が現れた。
「なんだ? 今日は随分と重そうな得物を背負っているんだな」
「他のジョブの立ち回りも知っておくことが冒険者の嗜み、ってやつでね。さっきの集まりは鍛錬にちょうどいい場だったから、両手剣を使わせてもらっていたの」
薄く笑いながら放たれたエスティニアンの感想に、光の戦士は照れ笑いをしながら応じる。
「で、私に見極めろってのは何なのかしら?」
「最近現れたという奇妙な集団の正体について、だ」
エスティニアンはそう冒険者に言いながら、自らの肩越しに背後を親指で示した。
「……よし。ちょうど判りやすい場に現れてくれたな。邪竜の彫像付近を見てくれ」
眼下を見渡しながら暫しの沈黙をした後にエスティニアンから出された指示を受けて、冒険者は邪竜の彫像に注目をする。
そこでは戦闘が繰り広げられており、また、その戦闘に加わろうとする冒険者たちが方々から集まってくる。
それぞれが所持するマウントを使って飛来をするその様子はさながら、仕留められた獲物に群がる猛禽類のようだった。
「あれの正体を知りたいというのが、ヴィゾーヴニルからの依頼だ。塔の外で遊ぶ子竜があの集団に襲われやしないかという母竜たちの不安を解消するのが目的なんだが、竜たちでは調べがつかず、よりにもよって俺に話を持ち掛けてきやがった。しかし俺に冒険者の事情は分からんので、お前に訊くのが一番の早道だろうと思ったのさ」
そう言いながら肩を竦めてみせるエスティニアンの横で冒険者は、盛大にため息を吐いた後に彼を見上げて苦笑いをした。
「結論から言うと、子竜から近付かない限り危険は一切ないわ」
「遠目で見ただけで分かるのか?」
「ええ。だって、エスティニアンに呼ばれなければ、数属時後には私もあの中に飛び込んでいたから」
「……なんだと?」
話の展開についていけない、といった表情で固まったエスティニアンの前で冒険者は自らの荷の中から小袋を取り出すと、その中身を掌の上に出して見せた。
彼女の掌の上で転がった数個の金色に輝く小さな背の低い四角錐は、飾りボタンのようにも見える。
「何なんだ、それは?」
「これは「悩ましき記憶の一塊」という、戦いの記憶を留めた結晶なの。理屈は分からないのだけど、イシュガルドが管轄している多くの地域でこの類の結晶が、戦いの起きた場に出現するようになっていてね。あの集団も私も、この結晶を集めているのよ」
「なるほど。冒険者たちの目的が結晶の入手なのは分かったが、この地での戦闘でそれが拾えるのならば、たまたま見かけた子竜が戦闘を起こす手段として狩られる可能性が残りはしないか?」
「そこは絶対に大丈夫と断言できるわ。私たちは向こうから襲ってくるような厄介者……つまり、討伐依頼が出された対象に限定して戦っているのよ。そうすれば、討伐依頼の報酬も手に入れられるしね。ここだとドラゴン族の討伐依頼もあるけれど、その対象は竜詩戦争時代にニーズヘッグの咆哮を受けて正気を失ってしまった邪竜の眷属だから……」
彼らもファウネムみたいに助けてあげられたらいいんだけど……と、俯きながら言葉を付け足す冒険者の様子を見て、エスティニアンも瞳を曇らせる。
「塔に棲んでいる竜たちには申し訳ないけど、この騒動はしばらく続いてしまうわ。でも、近いうちに終息することは確実だから、それもヴィゾーヴニルへの報告に含めてあげて」
「ああ、分かった。しかし……」
エスティニアンはそこで語ることをやめ、何故かくつくつと笑い始めた。
「ど……どうしたの?」
突然のその様子に驚いた冒険者が戸惑いながら問うと、彼はその後もしばらく笑い続けた後に話を続けた。
「いや、冒険者たちの行動を見てヴィゾーヴニルの受けた印象が、まるでテンパードのように思えたというものでな。話をされた時はまさかと思ったが、一時的とはいえ結晶の虜となっているのだから、その例えもあながち間違いではなかったと思ったのさ」
「うっ……。そう言われてしまうと、返す言葉が無いわ」
その言葉に冒険者はたじろいでから苦笑いをし、その様子を見たエスティニアンは更に容赦なく笑う。
エスティニアンがあまりに笑い続けるため正対することに耐えられなくなった冒険者は、彼に背を向けると苦し紛れに地上を見おろした。
晴れ渡った空の下で不浄の三塔からは高地ドラヴァニアを隅々まで見渡すことができ、そのことで冒険者の脳裏には途端に、この塔を目指して四人で歩んだ記憶が蘇ってきた。
「……あれから、随分と経ったわね」
ぽつりと一言をこぼした冒険者の、明らかに先ほどまでとは違う雰囲気を肌で感じ取ったエスティニアンは、笑うことをやめて彼女の後ろ姿を見直した。
「ああ、そうだな」
短く応じながら隣に立ち、共に地上を眺め始めたエスティニアンの横顔を見上げて冒険者は微笑むと、再びその視線を地上へと送る。
「クルザス西部高地からの洞窟を抜けて、初めてソーム・アルを見上げた時は、あまりの景観に言葉を失ったわ。ここに来るまでの道中も、あの時は大変だったけど、上から見るとまるで箱庭みたいで。こんなに短かったのかなって思えてくるから、なんだか不思議よね。それに……」
「それに?」
首を傾げながらエスティニアンが話の先を促すと、彼女はひとしきりクスクスと笑ってから話を続けた。
「あの時、あんなにヴィゾーヴニルに喧嘩を売りまくった貴方がヴィゾーヴニルの問題を解決するようになるとはね。世の中、何がどうなるかわからないなって思ったのよ」
~ 完 ~
初出/2020年12月28日 pixiv&Privatter
『第48回FF14光の戦士NLお題企画』の『思い出』参加作品
宣言通りに連絡を入れなおしてきた光の戦士からの通信音は、今度は彼女の声のみで構成されていた。
「慌ただしいどころか随分と混乱していたようにしか思えんが、大丈夫なのか?」
『大丈夫よ。参加も離脱も好きなタイミングでできる集まりだから』
「ふむ……ならばいいが。実は、こちらでお前に見極めてもらいたい件がある。不浄の三塔の上に居るので来てくれ」
ほどなくしてソーム・アルの山腹側からチョコボの羽音が聴こえ、振り向いたエスティニアンの前に黒チョコボに跨った暗黒騎士が現れた。
「なんだ? 今日は随分と重そうな得物を背負っているんだな」
「他のジョブの立ち回りも知っておくことが冒険者の嗜み、ってやつでね。さっきの集まりは鍛錬にちょうどいい場だったから、両手剣を使わせてもらっていたの」
薄く笑いながら放たれたエスティニアンの感想に、光の戦士は照れ笑いをしながら応じる。
「で、私に見極めろってのは何なのかしら?」
「最近現れたという奇妙な集団の正体について、だ」
エスティニアンはそう冒険者に言いながら、自らの肩越しに背後を親指で示した。
「……よし。ちょうど判りやすい場に現れてくれたな。邪竜の彫像付近を見てくれ」
眼下を見渡しながら暫しの沈黙をした後にエスティニアンから出された指示を受けて、冒険者は邪竜の彫像に注目をする。
そこでは戦闘が繰り広げられており、また、その戦闘に加わろうとする冒険者たちが方々から集まってくる。
それぞれが所持するマウントを使って飛来をするその様子はさながら、仕留められた獲物に群がる猛禽類のようだった。
「あれの正体を知りたいというのが、ヴィゾーヴニルからの依頼だ。塔の外で遊ぶ子竜があの集団に襲われやしないかという母竜たちの不安を解消するのが目的なんだが、竜たちでは調べがつかず、よりにもよって俺に話を持ち掛けてきやがった。しかし俺に冒険者の事情は分からんので、お前に訊くのが一番の早道だろうと思ったのさ」
そう言いながら肩を竦めてみせるエスティニアンの横で冒険者は、盛大にため息を吐いた後に彼を見上げて苦笑いをした。
「結論から言うと、子竜から近付かない限り危険は一切ないわ」
「遠目で見ただけで分かるのか?」
「ええ。だって、エスティニアンに呼ばれなければ、数属時後には私もあの中に飛び込んでいたから」
「……なんだと?」
話の展開についていけない、といった表情で固まったエスティニアンの前で冒険者は自らの荷の中から小袋を取り出すと、その中身を掌の上に出して見せた。
彼女の掌の上で転がった数個の金色に輝く小さな背の低い四角錐は、飾りボタンのようにも見える。
「何なんだ、それは?」
「これは「悩ましき記憶の一塊」という、戦いの記憶を留めた結晶なの。理屈は分からないのだけど、イシュガルドが管轄している多くの地域でこの類の結晶が、戦いの起きた場に出現するようになっていてね。あの集団も私も、この結晶を集めているのよ」
「なるほど。冒険者たちの目的が結晶の入手なのは分かったが、この地での戦闘でそれが拾えるのならば、たまたま見かけた子竜が戦闘を起こす手段として狩られる可能性が残りはしないか?」
「そこは絶対に大丈夫と断言できるわ。私たちは向こうから襲ってくるような厄介者……つまり、討伐依頼が出された対象に限定して戦っているのよ。そうすれば、討伐依頼の報酬も手に入れられるしね。ここだとドラゴン族の討伐依頼もあるけれど、その対象は竜詩戦争時代にニーズヘッグの咆哮を受けて正気を失ってしまった邪竜の眷属だから……」
彼らもファウネムみたいに助けてあげられたらいいんだけど……と、俯きながら言葉を付け足す冒険者の様子を見て、エスティニアンも瞳を曇らせる。
「塔に棲んでいる竜たちには申し訳ないけど、この騒動はしばらく続いてしまうわ。でも、近いうちに終息することは確実だから、それもヴィゾーヴニルへの報告に含めてあげて」
「ああ、分かった。しかし……」
エスティニアンはそこで語ることをやめ、何故かくつくつと笑い始めた。
「ど……どうしたの?」
突然のその様子に驚いた冒険者が戸惑いながら問うと、彼はその後もしばらく笑い続けた後に話を続けた。
「いや、冒険者たちの行動を見てヴィゾーヴニルの受けた印象が、まるでテンパードのように思えたというものでな。話をされた時はまさかと思ったが、一時的とはいえ結晶の虜となっているのだから、その例えもあながち間違いではなかったと思ったのさ」
「うっ……。そう言われてしまうと、返す言葉が無いわ」
その言葉に冒険者はたじろいでから苦笑いをし、その様子を見たエスティニアンは更に容赦なく笑う。
エスティニアンがあまりに笑い続けるため正対することに耐えられなくなった冒険者は、彼に背を向けると苦し紛れに地上を見おろした。
晴れ渡った空の下で不浄の三塔からは高地ドラヴァニアを隅々まで見渡すことができ、そのことで冒険者の脳裏には途端に、この塔を目指して四人で歩んだ記憶が蘇ってきた。
「……あれから、随分と経ったわね」
ぽつりと一言をこぼした冒険者の、明らかに先ほどまでとは違う雰囲気を肌で感じ取ったエスティニアンは、笑うことをやめて彼女の後ろ姿を見直した。
「ああ、そうだな」
短く応じながら隣に立ち、共に地上を眺め始めたエスティニアンの横顔を見上げて冒険者は微笑むと、再びその視線を地上へと送る。
「クルザス西部高地からの洞窟を抜けて、初めてソーム・アルを見上げた時は、あまりの景観に言葉を失ったわ。ここに来るまでの道中も、あの時は大変だったけど、上から見るとまるで箱庭みたいで。こんなに短かったのかなって思えてくるから、なんだか不思議よね。それに……」
「それに?」
首を傾げながらエスティニアンが話の先を促すと、彼女はひとしきりクスクスと笑ってから話を続けた。
「あの時、あんなにヴィゾーヴニルに喧嘩を売りまくった貴方がヴィゾーヴニルの問題を解決するようになるとはね。世の中、何がどうなるかわからないなって思ったのよ」
~ 完 ~
初出/2020年12月28日 pixiv&Privatter
『第48回FF14光の戦士NLお題企画』の『思い出』参加作品