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彼の娯楽と彼女の娯楽

『仕事が夕刻までの約束なので、その後でならば逢える』

 リンクパールの向こう側でエスティニアンの相棒たる光の戦士は、確かにそう言った。
 今は請け負った仕事をしている真っ最中なのだ、と、いつになく忙し気な口調で。

「遊んでいるのかと思いきや、冒険者が遊戯施設で仕事とはな」
 溺れた海豚亭でカウンターの片隅に陣を構えたエスティニアンは、通信が切られたリンクパールに視線を落とし、そこに表示された彼女の現在地が確かにゴールドソーサーであることを認めると、ため息を吐きながら一人ごちた。
 リンクパールを懐に納めて茶を口にしながら、傍らに置いた麻袋にちらりと視線を落とす。
 つい先ほどエスティニアンの荷物の一員となったその麻袋には、様々な食材がアイスシャードと共に詰め込まれていた。


 ──遡ること、一刻ほど。
 鍛冶師ギルドを訪れてギルドマスターのブリサエルに指南を乞うたエスティニアンは、その対価として提示をされた、レッドルースター農場宛の農具の運搬を引き受けた。
 そして無事に農具の納品を果たした復路で、今度は農場からリムサ・ロミンサのレストラン「ビスマルク」へ向けて新鮮な食材各種を届ける荷運び人に道中の護衛を依頼され、その報酬として食材各種を渡されたのだった。
 これが、彼の元に突如として食材が転がり込んできた経緯である。

 手元にあるのは、高級レストランに納められたものと同じ食材。
 これをどうしたものか……と、考える間もなくエスティニアンは、冒険者へと連絡を入れたのだった。

 突然連絡を入れるのだから待たされることはもとより覚悟の上だったが、通信を始める前にリンクパールの機能で彼女がゴールドソーサーに居ることを知ったエスティニアンは、そこで遊んでいるのならばさほどの待ち時間は生じないだろうという、至極勝手な予想をしてしまった。
 その都合の良すぎる予想はあえなく外れて無駄に感情を浮き沈みさせてしまったのだが、夕刻以降に合流するという約束を取り付けることだけはできたので、ひとまず彼は胸を撫で下ろす。
 しかし慌ただしく通信を切られてしまったことで待ち合わせの場所を決めることまではできず、そして夕刻までは三属時以上もある。

 このような状況を、東方では確か「帯に短し襷に長し」と形容するのだったか……。
 などという極めてどうでもよい思考を脳裏に巡らせたエスティニアンは、直後に茶を飲み干してカップをカウンターへと置くと、瞼を伏せて微かに口角を上げる。

 いっそのこと、ゴールドソーサーで待てば良い。
 仕事をしている相棒の様子を眺めてみるのも一興ではないか。

 そう結論を出し席を立ったエスティニアンは、麻袋を担ぎ上げるとクロウズリフトに乗り、リムサ・ロミンサ・ランディングへと向かった。
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