Rolanberry Field Forever
子どもたちをロランベリー・フィールドに送り届けて蒼天街を後にした二人は、リムサ・ロミンサから中央ラノシアに出ると東ラノシア方面へと向かい、ワインポートを経由して高地ラノシアへと辿り着いた。
「ほら、あそこにあるわ」
冒険者は街道の左脇を指差すと駆け出して茂みの前で膝をつき、その中から手探りでロランベリーの実を目の前に引き出した。
「ほう……。よほどここの環境に合っているのか、勝手に生えているわりに見事なものだ」
「そうね。霊災前のクルザス中央低地は、こんな感じの気候だったの?」
冒険者は質問をしながら摘み取ったばかりのロランベリーの実を一粒差し出し、それを受け取ったエスティニアンは即座に自らの口へと放り込む。
「ふむ……」
摘みたてのロランベリーを吟味したエスティニアンは、辺りを見回してから冒険者の質問に応じた。
「クルザス中央低地にはエバーレイクスという拠点があってな。その名の通りに湖が点在する、緑豊かな土地だった。水が豊富にあるという共通点が、この地にロランベリーが自生できた理由になるのだろうな」
「豊富な水……となると、かつてのモードゥナでロランベリーが実っていたのは、銀泪湖の畔か、あるいはタングル湿林あたりかもしれないわね」
「そうだな」
「ロランベリーの名前の由来は何なのかしら? クルザス中央低地には、そういう地名があるの?」
「いや、無いぞ」
「そっか。じゃ、例の畑を作った人がロランさん? ロランさんちのベリー」
「さすがに彼らの名までは知らんな。名といえば、さっきの嬢ちゃんの名は?」
「リセルよ」
「……ふむ。名まで似ているとは」
「似ている?」
「ああ。リセルの髪と瞳の色が、どことなくイゼルに似ていると思ってな。気の強そうなところも、か」
「そう言われてみれば……。まさかあの子、イゼルの妹さんだったりするのかしら」
「さあな? 迂闊に孤児の過去に触れると、先ほど俺がやらかしたようなことになりかねん。特に、元の家族に関わる事柄は、本人が語るようになるまでは静観するべきだ」
「そうね。イシュガルドでは未だイゼルの話題の扱いは……特に市民の間では、難しい点があるでしょうし」
様々な内容の雑談を交わしながら冒険者は次々とロランベリーを探し出しては摘み取り、一方のエスティニアンは、彼女の傍らに篭を差し出して摘み取った果実を受け取るという役割に徹する。
そうして篭に貯まったロランベリーを麻袋に入れるという作業を幾度も繰り返し、二人は十分すぎるほどの量のロランベリーを確保した。
「……うん。ロランベリー・フィールドに何人の子が住んでいるのかは知らないけど、これだけあれば多分、全員が生食をしても足りるでしょ」
「いや、この袋は8ポンズほどの手ごたえがある。生食だけでは無くならんだろうし、下にある実はおそらく潰れかけているだろう。ジャムにしておかねば無駄になってしまうぞ。事のついでに、ケーキも作ってやるのはどうだ?」
「ふふっ。誰かさんが迂闊に、ケーキの話をさせてしまったものね」
「チッ……」
エスティニアンは舌打ちをしながら視線を逸らしてこめかみを掻き、冒険者はその様子を見て容赦なく更に笑う。
「じゃ、それらの材料も調達してから戻りましょう」
「も? 他にも何かを買うつもりなのか?」
「そうよ」
エスティニアンの質問に短く応えた冒険者はポケットを探り小袋を取り出すと、それを開いて中身を覗かせた。
「果実の近くで種も見つけたから、ついでに集めておいたの。イシュガルドでは庭に畑を作ってロランベリーを育てるのは厳しいでしょうけど、室内でなら何とかなるかなと思って。あの子たちが手入れをすることで、学べるものもあるでしょうし」
「なるほど。では、プランターをいくつか調達したい、と」
「ええ。荷物が増えてしまうけど、荷物持ちはよろしくね?」
「そもそも俺の思い付きにお前を付き合わせたのだからな。そこはまぁ、当然だろう」
そう言いニヤリと笑うエスティニアンを冒険者は見上げ、そして満足げに微笑む。
「それじゃ、まずはリムサ・ロミンサに戻りましょう」
採集道具とロランベリーの種が納められた小袋を自らの荷へと片付けた冒険者は、エスティニアンが麻袋を担ぎ上げた様子を見届けると、彼を巻き込む形でテレポを詠唱した。
~ 完 ~
初出/2020年10月12日 pixiv&Privatter
『第46回FF14光の戦士NLお題企画』の『果実』参加作品
「ほら、あそこにあるわ」
冒険者は街道の左脇を指差すと駆け出して茂みの前で膝をつき、その中から手探りでロランベリーの実を目の前に引き出した。
「ほう……。よほどここの環境に合っているのか、勝手に生えているわりに見事なものだ」
「そうね。霊災前のクルザス中央低地は、こんな感じの気候だったの?」
冒険者は質問をしながら摘み取ったばかりのロランベリーの実を一粒差し出し、それを受け取ったエスティニアンは即座に自らの口へと放り込む。
「ふむ……」
摘みたてのロランベリーを吟味したエスティニアンは、辺りを見回してから冒険者の質問に応じた。
「クルザス中央低地にはエバーレイクスという拠点があってな。その名の通りに湖が点在する、緑豊かな土地だった。水が豊富にあるという共通点が、この地にロランベリーが自生できた理由になるのだろうな」
「豊富な水……となると、かつてのモードゥナでロランベリーが実っていたのは、銀泪湖の畔か、あるいはタングル湿林あたりかもしれないわね」
「そうだな」
「ロランベリーの名前の由来は何なのかしら? クルザス中央低地には、そういう地名があるの?」
「いや、無いぞ」
「そっか。じゃ、例の畑を作った人がロランさん? ロランさんちのベリー」
「さすがに彼らの名までは知らんな。名といえば、さっきの嬢ちゃんの名は?」
「リセルよ」
「……ふむ。名まで似ているとは」
「似ている?」
「ああ。リセルの髪と瞳の色が、どことなくイゼルに似ていると思ってな。気の強そうなところも、か」
「そう言われてみれば……。まさかあの子、イゼルの妹さんだったりするのかしら」
「さあな? 迂闊に孤児の過去に触れると、先ほど俺がやらかしたようなことになりかねん。特に、元の家族に関わる事柄は、本人が語るようになるまでは静観するべきだ」
「そうね。イシュガルドでは未だイゼルの話題の扱いは……特に市民の間では、難しい点があるでしょうし」
様々な内容の雑談を交わしながら冒険者は次々とロランベリーを探し出しては摘み取り、一方のエスティニアンは、彼女の傍らに篭を差し出して摘み取った果実を受け取るという役割に徹する。
そうして篭に貯まったロランベリーを麻袋に入れるという作業を幾度も繰り返し、二人は十分すぎるほどの量のロランベリーを確保した。
「……うん。ロランベリー・フィールドに何人の子が住んでいるのかは知らないけど、これだけあれば多分、全員が生食をしても足りるでしょ」
「いや、この袋は8ポンズほどの手ごたえがある。生食だけでは無くならんだろうし、下にある実はおそらく潰れかけているだろう。ジャムにしておかねば無駄になってしまうぞ。事のついでに、ケーキも作ってやるのはどうだ?」
「ふふっ。誰かさんが迂闊に、ケーキの話をさせてしまったものね」
「チッ……」
エスティニアンは舌打ちをしながら視線を逸らしてこめかみを掻き、冒険者はその様子を見て容赦なく更に笑う。
「じゃ、それらの材料も調達してから戻りましょう」
「も? 他にも何かを買うつもりなのか?」
「そうよ」
エスティニアンの質問に短く応えた冒険者はポケットを探り小袋を取り出すと、それを開いて中身を覗かせた。
「果実の近くで種も見つけたから、ついでに集めておいたの。イシュガルドでは庭に畑を作ってロランベリーを育てるのは厳しいでしょうけど、室内でなら何とかなるかなと思って。あの子たちが手入れをすることで、学べるものもあるでしょうし」
「なるほど。では、プランターをいくつか調達したい、と」
「ええ。荷物が増えてしまうけど、荷物持ちはよろしくね?」
「そもそも俺の思い付きにお前を付き合わせたのだからな。そこはまぁ、当然だろう」
そう言いニヤリと笑うエスティニアンを冒険者は見上げ、そして満足げに微笑む。
「それじゃ、まずはリムサ・ロミンサに戻りましょう」
採集道具とロランベリーの種が納められた小袋を自らの荷へと片付けた冒険者は、エスティニアンが麻袋を担ぎ上げた様子を見届けると、彼を巻き込む形でテレポを詠唱した。
~ 完 ~
初出/2020年10月12日 pixiv&Privatter
『第46回FF14光の戦士NLお題企画』の『果実』参加作品