ひと夏の作戦
「舞いを披露しろ、だと?」
「ええ。何故だか私のことを「噂の舞手」だなんて言ったりもしてるのよ。専属の踊り子さんと一緒に踊れだなんて……。踊り子じゃない私に、無茶振りもいいところだわ」
ほどなくしてエスティニアンの元へと戻ってきた冒険者は、困惑の表情で彼に事の次第を余すところなく打ち明けた。
先ほどエスティニアンが懸念をした通り、冒険者に対してゲゲルジュは我が儘な注文をよこしてきたのだった。
「遠巻きに見られるならまだしも、今回は目の前で踊れということだから、色々な意味で恥ずかしくて……」
「遠巻きならば構わんのか」
「目の前じゃなければ見られているかどうかが私には分からない状態だから、たとえ見られていたとしても我慢できる、って感じね」
俯きながら話を続ける冒険者の前で、エスティニアンは深々と溜め息を吐く。
「で。その恥ずかしい依頼を破棄するという選択肢は、お前には無いわけだな?」
「うっ……」
エスティニアンに核心を突かれた形となった冒険者は、短く呻いた後に驚きと戸惑いを混在させた表情をして半歩後ずさり、その体勢のままで固まった。
「……いや、違うか。破棄の選択肢はあるが、お前はそれをあえて選択はしない。そうだな?」
「……ええと……その……はい……その通り、で……」
ようやく硬直の解けた冒険者は、今度は赤面と苦笑をしながら肩を竦め、そして目を泳がせて口ごもりながら頷く。
「全く、お前という奴は……。しかし、その依頼内容だと、視線だけならばどうにかすることはできるな」
「えっ?」
話が想定外の展開となったことで、冒険者は再び驚きの表情となった。
「依頼内容には「来場者の中から共に踊る有志を募れ」というものもあるだろう。ならば、その「有志」の中に俺が含まれたとしても、何ら問題は無いはずだ。そして大勢で踊るのだろうから、お前が俺の真後ろで常に踊れば、スケベジジイの視線を遮ることだけはできるぞ」
「そっ、それはありがたいけど、でも……」
「何か問題があるのか?」
「だってエスティニアンは、こういうことって苦手でしょう? なのに無理をして盾になってもらうだなんて……平気なの?」
困惑の表情と口調で応じる冒険者を見たエスティニアンは、後頭部を掻きながら眉間に皺を寄せる。
「確かに、苦手な部類ではあるがな」
「やっぱり無理させる形になるじゃないの。それじゃ申し訳なさすぎるわ」
「しかし、あのジジイの下心まみれな視線にお前を晒すことは、それ以上に我慢がならんのだ。お前に新作の水着を諦めさせる選択肢が無いとなれば、この場は俺が一肌脱ぐしかあるまい」
思いもよらぬ提案を受けて未だ困惑の表情を解けずにいる冒険者に向けて、エスティニアンは話を続けた。
「いいか、相棒。そもそも俺が今回ここに来ている目的こそが、それなんだ」
冒険者はエスティニアンの話を聞き終えた瞬間、再度その身を硬直させると、直後に驚きで目を見開いて彼を見上げる。
「じゃあ、偶然ここに居たわけではなくて、私が紅蓮祭に来るのを待っていた……?」
「そういうことだ」
エスティニアンは大きく頷きながら断言し、事の次第をようやく把握した冒険者がその表情を綻ばせた様子を見届けると口角を上げた。
「今年の紅蓮祭でお前にあのジジイから何が降りかかるか判るまでは立案のしようが無かったが、これでようやく方針が決まったぞ。あとは作戦を実行するのみだ」
「ええ。何故だか私のことを「噂の舞手」だなんて言ったりもしてるのよ。専属の踊り子さんと一緒に踊れだなんて……。踊り子じゃない私に、無茶振りもいいところだわ」
ほどなくしてエスティニアンの元へと戻ってきた冒険者は、困惑の表情で彼に事の次第を余すところなく打ち明けた。
先ほどエスティニアンが懸念をした通り、冒険者に対してゲゲルジュは我が儘な注文をよこしてきたのだった。
「遠巻きに見られるならまだしも、今回は目の前で踊れということだから、色々な意味で恥ずかしくて……」
「遠巻きならば構わんのか」
「目の前じゃなければ見られているかどうかが私には分からない状態だから、たとえ見られていたとしても我慢できる、って感じね」
俯きながら話を続ける冒険者の前で、エスティニアンは深々と溜め息を吐く。
「で。その恥ずかしい依頼を破棄するという選択肢は、お前には無いわけだな?」
「うっ……」
エスティニアンに核心を突かれた形となった冒険者は、短く呻いた後に驚きと戸惑いを混在させた表情をして半歩後ずさり、その体勢のままで固まった。
「……いや、違うか。破棄の選択肢はあるが、お前はそれをあえて選択はしない。そうだな?」
「……ええと……その……はい……その通り、で……」
ようやく硬直の解けた冒険者は、今度は赤面と苦笑をしながら肩を竦め、そして目を泳がせて口ごもりながら頷く。
「全く、お前という奴は……。しかし、その依頼内容だと、視線だけならばどうにかすることはできるな」
「えっ?」
話が想定外の展開となったことで、冒険者は再び驚きの表情となった。
「依頼内容には「来場者の中から共に踊る有志を募れ」というものもあるだろう。ならば、その「有志」の中に俺が含まれたとしても、何ら問題は無いはずだ。そして大勢で踊るのだろうから、お前が俺の真後ろで常に踊れば、スケベジジイの視線を遮ることだけはできるぞ」
「そっ、それはありがたいけど、でも……」
「何か問題があるのか?」
「だってエスティニアンは、こういうことって苦手でしょう? なのに無理をして盾になってもらうだなんて……平気なの?」
困惑の表情と口調で応じる冒険者を見たエスティニアンは、後頭部を掻きながら眉間に皺を寄せる。
「確かに、苦手な部類ではあるがな」
「やっぱり無理させる形になるじゃないの。それじゃ申し訳なさすぎるわ」
「しかし、あのジジイの下心まみれな視線にお前を晒すことは、それ以上に我慢がならんのだ。お前に新作の水着を諦めさせる選択肢が無いとなれば、この場は俺が一肌脱ぐしかあるまい」
思いもよらぬ提案を受けて未だ困惑の表情を解けずにいる冒険者に向けて、エスティニアンは話を続けた。
「いいか、相棒。そもそも俺が今回ここに来ている目的こそが、それなんだ」
冒険者はエスティニアンの話を聞き終えた瞬間、再度その身を硬直させると、直後に驚きで目を見開いて彼を見上げる。
「じゃあ、偶然ここに居たわけではなくて、私が紅蓮祭に来るのを待っていた……?」
「そういうことだ」
エスティニアンは大きく頷きながら断言し、事の次第をようやく把握した冒険者がその表情を綻ばせた様子を見届けると口角を上げた。
「今年の紅蓮祭でお前にあのジジイから何が降りかかるか判るまでは立案のしようが無かったが、これでようやく方針が決まったぞ。あとは作戦を実行するのみだ」